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旅行
長年勤めてきた会社を、年度末で退社することになりました。
2月中に引き継ぎも終わらせて、3月は、たまりにたまった有給休暇をまるまる消化させてもらっています。
以前からいつかやってみたいと思っていた、写真撮影を目的とした海外ひとり旅に行ってきました。
正直、まだまだ下手くそなのですが・・・
風景や植物の写真を撮りに出かけるのが、ここ数年の私の新しい趣味です。
具体的な地名を記すのはやめておきますが、日本からは、飛行機でほんの数時間・・・
時差もわずかしかないその地へと、私は降り立ちました。
旅行会社のツアーなどとは違う、まったくの自由旅行です。
ずっとひとりぼっちでしたが、楽しくて仕方ありませんでした。
念願の〇〇にも足を運ぶことができ、その風景に感動しながら懸命にシャッターを切ったことも、私にとっては貴重な経験になったとしか言いようがありません。
宿泊場所だけは、あらかじめ予約してありました。
食事も、なるべく現地の人たちが行くようなお店ばかりを選んで、『ひとり旅』の空気感を味わいます。
もともと親日家の人たちが多いとされているだけあって、危ないことなど何もありませんでした。
思えば、こんなに自由を感じることができたのは、学生のとき以来かもしれません。
私なんか、たいして能力があるわけでもないのに・・・
20歳のときに就職してからというもの、ずっと自分のなすべき仕事の重圧に追い立てられるだけの日々を過ごしてきたような気がします。
それだけに、旅行をしながら・・・
そういったストレスから解放されている自分に幸せを感じつつ、あちこちで写真撮影を楽しむことができました。
毎日移動と撮影と宿泊を繰り返しながら、ひとり旅も終盤を迎えつつありました。
この日に泊ったのは、ロッジが並んでいるようなスタイルの宿泊施設です。
個々のバンガロー(?)の中は、ベッドと戸棚と簡易テーブルだけ・・・
トイレはありますが、お風呂は付いていません。
お風呂は、専用のお風呂建物があって、皆が共同でそこを利用するかたちでした。
予約したときからわかっていたことですから、別に驚きはありません。
いちおう温泉で、水着を着用したうえでの男女混浴の施設でした。
近くの簡易食堂のようなところで夕食を済ませてあった私は、早々にお風呂に入ることにしました。
旅行も何日か続いてくると、シャワーだけではなく足を伸ばしてお湯につかることのできるお風呂というのが嬉しくてなりません。
自分のバンガローを出て、お風呂ロッジ(?)に向かいます。
建物の中に入ると、まずそこはロッカールームのような脱衣場所になっていました。
たまたま無人でしたが・・・
ガラス戸の奥にある浴室のほうからは、確かに人の気配が伝わってきます。
このロッカールームは男女共用ですが、壁際には着替え用の個別ブースのような空間が並んでいました。
そのドアのひとつを開けて、中に入ります。
服を脱いで、上下セパレートの水着に着替えました。
(温泉か。。。)
妙に緊張しました。
混浴とはいっても水着着用です。
プールにでも来たような気持ちでいればいいはずなのですが・・・
男の人ともいっしょに『お風呂に入る』ということを意識しすぎてしまって、なんだか気持ちが落ち着きません。
ブースから出て、服をロッカーにしまいました。
自分がいま、たったひとりで外国にいるのだということに重圧を感じてしまいます。
(どきどきどき)
浴室へと続く、ガラス戸を開けました。
一瞬・・・
中にいた人たち全員が、入ってきた私に視線を注ぎます。
が、それも束の間のことで、すぐにまた皆それぞれ自分たちのおしゃべりに戻っている感じでした。
桶のようなものがあったので、水着姿のまま、いちおう『かけ湯』をします。
そして、湯船の中に入りました。
先客は、全部で6人いました。
老年のご夫婦と、私と同世代ぐらいのカップル(夫婦?)・・・
そして、20歳前後ぐらいの男の子2人組です。
宿泊者専用のお風呂ロッジですから、おそらくは皆どれかのバンガローに泊っている夫婦や友人同士のはずでした。
(ふうー)
のんびり肩までつかります。
雰囲気は、日本でいうところの温泉旅館の浴場に近い感じでした。
ただし、広さはあまりありません。
(よかった)
(緊張するほどのものでもない)
周りの人たちの容姿も日本人といっしょなので、私もすぐに慣れていきます。
お湯は、わりとぬるめでした。
換気用の大窓が、外側に大きく開いています。
しばらく、くつろいでいると・・・
ご年配夫婦の男性のほうの方が、
「〇△×〇△×」
〇〇語で、にこやかに私に話しかけてきました。
ちょっと戸惑いましたが、
「〇□×△(私は、〇〇語はわからないです)」
ガイドブックで覚えた数少ない会話例を思い出しながら、たどたどしく返します。
男性は『おっ』とした表情を見せましたが、
「ニホンノカタデスカ?」
今度は日本語で話しかけてきてくれます。
その、わりと流暢な発音に驚きつつも嬉しい気持ちになりました。
「はい」
思わず私も笑顔になって、おしゃべりに応じます。
「日本語、お上手ですね」
奥様も、かなり日本語をペラペラに話せる方でした。
3人で会話を弾ませながら、お湯の中でリラックスします。
10分ぐらいそんな時間を過ごしたでしょうか。
ご夫婦は『そろそろ出よう』という感じになってきて、
「デハ、イイ旅ヲ」
ふたりでお風呂をあがっていきました。
(本当は、人見知りの私なのに)
旅先で、赤の他人とコミュニケートすることの心地よさ・・・
お湯につかったまま、その楽しさの余韻にひたります。
そのうち今度は男の子2人組が、
「Hi」
私に話しかけてきました。
彼らは日本語がわかりませんでしたので、お互いにカタコトの英語でおしゃべりをしてみます。
あっちにいるカップルの男性のほう・・・
私は、その彼の視線を感じていました。
これでも、外見の容姿にだけは多少の自信がある私です。
幾度となく、こちらにチラチラ目線が飛んできていました。
おしゃべりをしている私たちのことを、うらやましそうに見ているのが伝わってきます。
そして・・・
いっしょにいる女性のほうは、明らかに不機嫌そうな表情をしていました。
(嫌な感じ。。。)
彼氏が私のほうを見てるからって、ヤキモチを妬かれるような筋合いじゃないのに。
そろそろのぼせてきていました。
お湯からあがります。
日本のような、洗い場みたいな設備はありませんでした。
代わりに、カプセルタイプのような円柱体のシャワーブースが2つ並んでいます。
両方とも空いていました。
左側のブースの扉を開けて、中に入ります。
この中では、シャンプーやボディーソープを使用することが可能でした。
戸を閉めて水着を脱ぎます。
全身を洗いました。
(やっぱり旅行っていいな)
(ひとり旅って、私の性格に合ってるのかも)
明日の予定を頭に思い浮かべながら、気分よくシャワーのお湯を浴びます。
扉の接合部のゴムパッキンが劣化して取れてしまっているのに気づきました。
でも、まあ別に関係ありません。
再び、水着をつけました。
シャワーブースから出ます。
さっきの男の子2人組は、もういなくなっていました。
残っているのは、あのカップルだけです。
内気そうな彼が、私のことをチラチラ見ていました。
性格のキツそうな彼女さんのほうが、
「〇△×□〇△」
不機嫌そうに男性に文句を言っています。
(関わりたくない)
だいたい察していました。
あの男性は、『自分も旅行中の日本人に話しかけてみたい』と思っている・・・
でも彼女のほうは、私が『女』だからそれを快く思わない・・・
(ケンカならあっちでやって)
(私を巻き込まないで)
再び湯船に入った私に、彼女さんの視線が突き刺さります。
目障りに思われているんだということが、ひしひしと伝わってきていました。
こんなことを正直に書けば、それこそ自分の性格の悪さをつまびらかにしてしまうようなものですが・・・
あの女性の心の中には、自分の彼がずっと見ている私の『容姿』に対する嫉妬の気持ちも少なからずあったはずです。
私とは同世代ぐらいの女の人・・・
客観的に言えば、あの彼女さんは『おチビ』で『おでぶ』な・・・
太ったタヌキみたいな顔をした女性でした。
(だからって)
私には関係ないじゃない。
(私は何もしてないでしょ)
(そんな露骨に睨まないでよ)
そういう国民性なのでしょうか。
自分の感情をストレートに顔に出してくる女性・・・
何もわかっていないふりをすることで、やり過ごそうとしていました。
こんなところで嫌な思いをするのは、ごめんです。
(出よう)
すっかり居心地が悪くなってしまった私は、もうあがろうと思いました。
ちょうどそのタイミングで、
「○△□×、〇△×□」
「□〇△×△」
あっちの2人のほうが、先にお湯から立ち上がります。
帰るようでした。
内心、ほっとしている私がいます。
私の前を横切りながら、最後まで未練がましく視線を送ってくる彼氏さん・・・
そして、彼女さんが・・・
私を横目で睨みながら、
「〇〇〇〇」
いっしょに浴室から出ていきます。
(えっ!?)
けっこうショックでした。
私は、何も悪いことをしたわけじゃないのに・・・
(『〇〇〇〇』って!?)
そして、かなりカチンときていました。
(ふざけんな)
あの人は最後、私の前を通りながら・・・
確かにひとこと、
「ugly」
そう吐き捨てて行ったのです。
腹が立ちました。
なぜか無性に・・・無性に、許せない気持ちになります。
(こっちは、何も気づかないふりをしてあげてたのに)
(睨まれても、我慢してあげたのに)
この感情に説明をつけることはできません。
とにかく頭にきていました。
やり場のない憤りを・・・お湯の中で、ひとり噛みしめます。
(ブスは、あなたのほうでしょ!)
私の性格の悪さが全開になっていました。
(あんたの彼が、どんなに私を見たからって)
(そんなの私の知ったことじゃない!)
怒りにまかせて、お湯の中から出ます。
いちど感情をコントロールして、表情をつくりました。
何もわかっていない『楚々とした日本人』の顔になりきります。
(見てろよ、あの女)
ガラス戸に手を伸ばして、浴室から出ました。
ロッカールームにいた彼氏さんが『ぱっ』とこっちを見て、目が合います。
私は、社交辞令的に・・・
軽く会釈だけしてみせました。
彼は、すでに着替え終わっていて、はじっこで手持ち無沙汰に立っています。
あの女は・・・
(いない)
まだ着替え中のようでした。
ドアの閉じている個別ブースがひとつ見えます。
頭の中で、
(男がいるよ・・男がそこにいる・・・)
自身の羞恥心を、一気に煽り立てました。
(こんな男の人の前で)
(イヤだよう)
表面上は、お風呂あがりらしいリラックスしているふりを演技します。
(ああん、こっち見てる)
自分のロッカーの前に立って・・・
そのまま『その場』で、おもむろに上の水着を取りました。
(ひいい)
彼の目が、私の胸に釘付けになっています。
私は、まったく意に介していないという感じで自然体を装ってみせました。
まる出しにしたおっぱいを露わにしたまま・・・
開いたロッカーの扉の上に、脱いだ水着をかけます。
(ああん、見てるよう)
興奮していました。
見ず知らずの男が、すぐそこに立っているのです。
中からタオルを取り出して、髪をもしゃもしゃ拭きました。
ふと、視線を感じたかのように彼のほうに目をやります。
ニヤけた表情がそこにありました。
まさか、ブースに入らず、この場所でそのまま脱ぐなんて・・・
相手の顔には、まるでそう書いてあるかのようです。
(ばかっ)
(そんなにニヤニヤしないで)
私は『ん?』と、不思議そうな顔をしてみせました。
温泉の脱衣所で、はだかになるのは普通のこと・・・
あたかも、それが当たりまえの感覚になっているかのような『日本の女』を演じます。
(恥ずかしいぃ)
きょとんとしながらも・・・
相手の目を見ながら、戸惑いの微笑みを返してあげる私・・・
(あなたの彼女なんかより)
(100倍キレイな女でしょ?)
タオルをロッカーの扉にかけました。
彼が、思いっきり私を見ています。
その目の前で、
(イヤぁ)
(恥ずかしすぎる)
普通のことのように下の水着に手を伸ばしました。
躊躇う素振りを見せることもなく、ふくらはぎまで下ろします。
下半身もまる出しでした。
強烈な視線を感じながら、水着から足首を抜きます。
(イヤあ、嫌ぁ)
一糸まとわぬ全裸でした。
じろじろ見ている男の前で、素っ裸になっている自分がいます。
(ああああ、泣きそう)
ひざが、がくがくになりそうでした。
なんとか必死に演技を続けます。
さっき脱いだ、上のほうの水着も手に持って・・・
すっぽんぽんのまま、彼の前を通りました。
舐めるような視線で、からだを見られているのがわかります。
(あああ、もうだめえ)
浴室へのガラス戸を開けました。
腕だけを中に伸ばして、濡れた水着をしぼります。
もう、頭の中が真っ白になりそうでした。
(どんな気分?)
まだブースの中で着替えている、あの女の顔を思い浮かべます。
(いま、あんたの男は)
(私のはだかを見ることに夢中になってるよ)
ロッカーの前に戻ろうと、振り向きます。
歩いていきながら、また彼と目が合ってしまいました。
相手の目線が、ヘアーもまる出しの私の股間に『すっ』と落ちるのがわかります。
(恥ずかしい)
私は、特に意識していないというふりをしました。
相手としゃべるつもりもありません。
(嬉しくてしょうがないでしょ?)
(こんな美人が、真っ裸なんだもん)
再びタオルを手に取りました。
冴えない『あの女』の彼氏が、すぐそこから私を眺めています。
(イヤあん)
まるで、私のはだかを『鑑賞』しているかのような、ねちっこい視線でした。
私は、気にも留めていないふりを続けます。
さりげなく、彼のほうに背を向けました。
スリムにきゅっと切れ上がった、私のお尻を眺めさせてあげます。
時間は、ほとんどないはずでした。
少し背中を丸め気味にして、首を前に傾けます。
頭からバサッと髪を垂らしました。
タオルで包み込むようにしながら、もういちど丁寧に髪を拭きます。
(どきどきどき)
興奮がとまりませんでした。
私は痩せていて、あまり贅肉のない体型です。
こうして、ちょっと前かがみになっただけで・・・
(イヤあん、恥ずかしい)
もともと開き気味のお尻から、肛門が見えているのは確実でした。
(見ないでぇ)
(そんなとこ、見ないでぇ)
あくまでも、淡々と・・・
しとやかな手つきで髪をケアするこの女・・・
(ああ、わたし)
(こんな男のまえで)
お尻の穴をまる見えにしたまま・・・
無垢な女を演じている自分が、快感でなりません。
(もうだめ)
(泣いちゃいそう)
姿勢を戻して、無造作に髪を束ねます。
そのとき、
「バタッ」
個別ブースのドアが開きました。
あの女が出てきて、真っ裸の私にぎょっとしています。
(驚いてる)
相手の心理を、一瞬にして読み切っている自分がいました。
私は、
「Hi」
何の罪もないような表情で、彼女に微笑みを向けます。
「〇×□△〇、〇〇×□・・・」
タヌキ女がとげとげしい声で、彼氏に何かを言っていました。
私のほうにも、
「×□〇□、△〇×・・・」
毒づくような口調で、何かつぶやいています。
(やってやる)
何を怒られているのかわからないと・・・
びっくりした感じで、困惑の顔をつくります。
そして、つんとしてみせました。
わけがわからないというふうに、そっぽを向いてからだを拭く私・・・
せわしなく自分の荷物を持って、
「△□〇□××〇・・・」
タヌキ女が『早く行くよ』とばかりに、彼氏のことを急かしていました。
自分の彼が・・・
いつまでも私のはだかにチラチラ目をやっているのが、癪でたまらないといった様子です。
(私に、ブスなんて言うからじゃない)
(どっちがuglyだよ)
私の中で、プライドがばちばちと火花を放っていました。
ひとりマイペースに、ロッカー前でからだを拭いている演技を続けます。
(ああん、彼氏さん)
(その女を嫉妬させてやって)
すべて計算ずくでした。
自然体を装いながらも、絶妙のタイミングで・・・
かなり前かがみになって、脚を拭きます。
(あ・・あ・・・)
後ろから、もろに『あそこ』がまる見えになる格好でした。
帰ろうとするタヌキ女が、出口のあるこちら側へと歩いてきます。
その彼女に、ついてくるようにして・・・
(あ、あぁぁ・・・)
私の真後ろを、彼が『ゆーっくり』と通りすぎていきました。
きっと、間違いなく・・・
私の恥部を、その目にばっちり焼きつけながら・・・
そして、ふたりが建物から出ていきます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
姿勢を戻しました。
心臓が破裂しそうになっています。
ひとりぼっちになって服を着ながら、興奮に頭がくらくらしてくる私でした。
2月中に引き継ぎも終わらせて、3月は、たまりにたまった有給休暇をまるまる消化させてもらっています。
以前からいつかやってみたいと思っていた、写真撮影を目的とした海外ひとり旅に行ってきました。
正直、まだまだ下手くそなのですが・・・
風景や植物の写真を撮りに出かけるのが、ここ数年の私の新しい趣味です。
具体的な地名を記すのはやめておきますが、日本からは、飛行機でほんの数時間・・・
時差もわずかしかないその地へと、私は降り立ちました。
旅行会社のツアーなどとは違う、まったくの自由旅行です。
ずっとひとりぼっちでしたが、楽しくて仕方ありませんでした。
念願の〇〇にも足を運ぶことができ、その風景に感動しながら懸命にシャッターを切ったことも、私にとっては貴重な経験になったとしか言いようがありません。
宿泊場所だけは、あらかじめ予約してありました。
食事も、なるべく現地の人たちが行くようなお店ばかりを選んで、『ひとり旅』の空気感を味わいます。
もともと親日家の人たちが多いとされているだけあって、危ないことなど何もありませんでした。
思えば、こんなに自由を感じることができたのは、学生のとき以来かもしれません。
私なんか、たいして能力があるわけでもないのに・・・
20歳のときに就職してからというもの、ずっと自分のなすべき仕事の重圧に追い立てられるだけの日々を過ごしてきたような気がします。
それだけに、旅行をしながら・・・
そういったストレスから解放されている自分に幸せを感じつつ、あちこちで写真撮影を楽しむことができました。
毎日移動と撮影と宿泊を繰り返しながら、ひとり旅も終盤を迎えつつありました。
この日に泊ったのは、ロッジが並んでいるようなスタイルの宿泊施設です。
個々のバンガロー(?)の中は、ベッドと戸棚と簡易テーブルだけ・・・
トイレはありますが、お風呂は付いていません。
お風呂は、専用のお風呂建物があって、皆が共同でそこを利用するかたちでした。
予約したときからわかっていたことですから、別に驚きはありません。
いちおう温泉で、水着を着用したうえでの男女混浴の施設でした。
近くの簡易食堂のようなところで夕食を済ませてあった私は、早々にお風呂に入ることにしました。
旅行も何日か続いてくると、シャワーだけではなく足を伸ばしてお湯につかることのできるお風呂というのが嬉しくてなりません。
自分のバンガローを出て、お風呂ロッジ(?)に向かいます。
建物の中に入ると、まずそこはロッカールームのような脱衣場所になっていました。
たまたま無人でしたが・・・
ガラス戸の奥にある浴室のほうからは、確かに人の気配が伝わってきます。
このロッカールームは男女共用ですが、壁際には着替え用の個別ブースのような空間が並んでいました。
そのドアのひとつを開けて、中に入ります。
服を脱いで、上下セパレートの水着に着替えました。
(温泉か。。。)
妙に緊張しました。
混浴とはいっても水着着用です。
プールにでも来たような気持ちでいればいいはずなのですが・・・
男の人ともいっしょに『お風呂に入る』ということを意識しすぎてしまって、なんだか気持ちが落ち着きません。
ブースから出て、服をロッカーにしまいました。
自分がいま、たったひとりで外国にいるのだということに重圧を感じてしまいます。
(どきどきどき)
浴室へと続く、ガラス戸を開けました。
一瞬・・・
中にいた人たち全員が、入ってきた私に視線を注ぎます。
が、それも束の間のことで、すぐにまた皆それぞれ自分たちのおしゃべりに戻っている感じでした。
桶のようなものがあったので、水着姿のまま、いちおう『かけ湯』をします。
そして、湯船の中に入りました。
先客は、全部で6人いました。
老年のご夫婦と、私と同世代ぐらいのカップル(夫婦?)・・・
そして、20歳前後ぐらいの男の子2人組です。
宿泊者専用のお風呂ロッジですから、おそらくは皆どれかのバンガローに泊っている夫婦や友人同士のはずでした。
(ふうー)
のんびり肩までつかります。
雰囲気は、日本でいうところの温泉旅館の浴場に近い感じでした。
ただし、広さはあまりありません。
(よかった)
(緊張するほどのものでもない)
周りの人たちの容姿も日本人といっしょなので、私もすぐに慣れていきます。
お湯は、わりとぬるめでした。
換気用の大窓が、外側に大きく開いています。
しばらく、くつろいでいると・・・
ご年配夫婦の男性のほうの方が、
「〇△×〇△×」
〇〇語で、にこやかに私に話しかけてきました。
ちょっと戸惑いましたが、
「〇□×△(私は、〇〇語はわからないです)」
ガイドブックで覚えた数少ない会話例を思い出しながら、たどたどしく返します。
男性は『おっ』とした表情を見せましたが、
「ニホンノカタデスカ?」
今度は日本語で話しかけてきてくれます。
その、わりと流暢な発音に驚きつつも嬉しい気持ちになりました。
「はい」
思わず私も笑顔になって、おしゃべりに応じます。
「日本語、お上手ですね」
奥様も、かなり日本語をペラペラに話せる方でした。
3人で会話を弾ませながら、お湯の中でリラックスします。
10分ぐらいそんな時間を過ごしたでしょうか。
ご夫婦は『そろそろ出よう』という感じになってきて、
「デハ、イイ旅ヲ」
ふたりでお風呂をあがっていきました。
(本当は、人見知りの私なのに)
旅先で、赤の他人とコミュニケートすることの心地よさ・・・
お湯につかったまま、その楽しさの余韻にひたります。
そのうち今度は男の子2人組が、
「Hi」
私に話しかけてきました。
彼らは日本語がわかりませんでしたので、お互いにカタコトの英語でおしゃべりをしてみます。
あっちにいるカップルの男性のほう・・・
私は、その彼の視線を感じていました。
これでも、外見の容姿にだけは多少の自信がある私です。
幾度となく、こちらにチラチラ目線が飛んできていました。
おしゃべりをしている私たちのことを、うらやましそうに見ているのが伝わってきます。
そして・・・
いっしょにいる女性のほうは、明らかに不機嫌そうな表情をしていました。
(嫌な感じ。。。)
彼氏が私のほうを見てるからって、ヤキモチを妬かれるような筋合いじゃないのに。
そろそろのぼせてきていました。
お湯からあがります。
日本のような、洗い場みたいな設備はありませんでした。
代わりに、カプセルタイプのような円柱体のシャワーブースが2つ並んでいます。
両方とも空いていました。
左側のブースの扉を開けて、中に入ります。
この中では、シャンプーやボディーソープを使用することが可能でした。
戸を閉めて水着を脱ぎます。
全身を洗いました。
(やっぱり旅行っていいな)
(ひとり旅って、私の性格に合ってるのかも)
明日の予定を頭に思い浮かべながら、気分よくシャワーのお湯を浴びます。
扉の接合部のゴムパッキンが劣化して取れてしまっているのに気づきました。
でも、まあ別に関係ありません。
再び、水着をつけました。
シャワーブースから出ます。
さっきの男の子2人組は、もういなくなっていました。
残っているのは、あのカップルだけです。
内気そうな彼が、私のことをチラチラ見ていました。
性格のキツそうな彼女さんのほうが、
「〇△×□〇△」
不機嫌そうに男性に文句を言っています。
(関わりたくない)
だいたい察していました。
あの男性は、『自分も旅行中の日本人に話しかけてみたい』と思っている・・・
でも彼女のほうは、私が『女』だからそれを快く思わない・・・
(ケンカならあっちでやって)
(私を巻き込まないで)
再び湯船に入った私に、彼女さんの視線が突き刺さります。
目障りに思われているんだということが、ひしひしと伝わってきていました。
こんなことを正直に書けば、それこそ自分の性格の悪さをつまびらかにしてしまうようなものですが・・・
あの女性の心の中には、自分の彼がずっと見ている私の『容姿』に対する嫉妬の気持ちも少なからずあったはずです。
私とは同世代ぐらいの女の人・・・
客観的に言えば、あの彼女さんは『おチビ』で『おでぶ』な・・・
太ったタヌキみたいな顔をした女性でした。
(だからって)
私には関係ないじゃない。
(私は何もしてないでしょ)
(そんな露骨に睨まないでよ)
そういう国民性なのでしょうか。
自分の感情をストレートに顔に出してくる女性・・・
何もわかっていないふりをすることで、やり過ごそうとしていました。
こんなところで嫌な思いをするのは、ごめんです。
(出よう)
すっかり居心地が悪くなってしまった私は、もうあがろうと思いました。
ちょうどそのタイミングで、
「○△□×、〇△×□」
「□〇△×△」
あっちの2人のほうが、先にお湯から立ち上がります。
帰るようでした。
内心、ほっとしている私がいます。
私の前を横切りながら、最後まで未練がましく視線を送ってくる彼氏さん・・・
そして、彼女さんが・・・
私を横目で睨みながら、
「〇〇〇〇」
いっしょに浴室から出ていきます。
(えっ!?)
けっこうショックでした。
私は、何も悪いことをしたわけじゃないのに・・・
(『〇〇〇〇』って!?)
そして、かなりカチンときていました。
(ふざけんな)
あの人は最後、私の前を通りながら・・・
確かにひとこと、
「ugly」
そう吐き捨てて行ったのです。
腹が立ちました。
なぜか無性に・・・無性に、許せない気持ちになります。
(こっちは、何も気づかないふりをしてあげてたのに)
(睨まれても、我慢してあげたのに)
この感情に説明をつけることはできません。
とにかく頭にきていました。
やり場のない憤りを・・・お湯の中で、ひとり噛みしめます。
(ブスは、あなたのほうでしょ!)
私の性格の悪さが全開になっていました。
(あんたの彼が、どんなに私を見たからって)
(そんなの私の知ったことじゃない!)
怒りにまかせて、お湯の中から出ます。
いちど感情をコントロールして、表情をつくりました。
何もわかっていない『楚々とした日本人』の顔になりきります。
(見てろよ、あの女)
ガラス戸に手を伸ばして、浴室から出ました。
ロッカールームにいた彼氏さんが『ぱっ』とこっちを見て、目が合います。
私は、社交辞令的に・・・
軽く会釈だけしてみせました。
彼は、すでに着替え終わっていて、はじっこで手持ち無沙汰に立っています。
あの女は・・・
(いない)
まだ着替え中のようでした。
ドアの閉じている個別ブースがひとつ見えます。
頭の中で、
(男がいるよ・・男がそこにいる・・・)
自身の羞恥心を、一気に煽り立てました。
(こんな男の人の前で)
(イヤだよう)
表面上は、お風呂あがりらしいリラックスしているふりを演技します。
(ああん、こっち見てる)
自分のロッカーの前に立って・・・
そのまま『その場』で、おもむろに上の水着を取りました。
(ひいい)
彼の目が、私の胸に釘付けになっています。
私は、まったく意に介していないという感じで自然体を装ってみせました。
まる出しにしたおっぱいを露わにしたまま・・・
開いたロッカーの扉の上に、脱いだ水着をかけます。
(ああん、見てるよう)
興奮していました。
見ず知らずの男が、すぐそこに立っているのです。
中からタオルを取り出して、髪をもしゃもしゃ拭きました。
ふと、視線を感じたかのように彼のほうに目をやります。
ニヤけた表情がそこにありました。
まさか、ブースに入らず、この場所でそのまま脱ぐなんて・・・
相手の顔には、まるでそう書いてあるかのようです。
(ばかっ)
(そんなにニヤニヤしないで)
私は『ん?』と、不思議そうな顔をしてみせました。
温泉の脱衣所で、はだかになるのは普通のこと・・・
あたかも、それが当たりまえの感覚になっているかのような『日本の女』を演じます。
(恥ずかしいぃ)
きょとんとしながらも・・・
相手の目を見ながら、戸惑いの微笑みを返してあげる私・・・
(あなたの彼女なんかより)
(100倍キレイな女でしょ?)
タオルをロッカーの扉にかけました。
彼が、思いっきり私を見ています。
その目の前で、
(イヤぁ)
(恥ずかしすぎる)
普通のことのように下の水着に手を伸ばしました。
躊躇う素振りを見せることもなく、ふくらはぎまで下ろします。
下半身もまる出しでした。
強烈な視線を感じながら、水着から足首を抜きます。
(イヤあ、嫌ぁ)
一糸まとわぬ全裸でした。
じろじろ見ている男の前で、素っ裸になっている自分がいます。
(ああああ、泣きそう)
ひざが、がくがくになりそうでした。
なんとか必死に演技を続けます。
さっき脱いだ、上のほうの水着も手に持って・・・
すっぽんぽんのまま、彼の前を通りました。
舐めるような視線で、からだを見られているのがわかります。
(あああ、もうだめえ)
浴室へのガラス戸を開けました。
腕だけを中に伸ばして、濡れた水着をしぼります。
もう、頭の中が真っ白になりそうでした。
(どんな気分?)
まだブースの中で着替えている、あの女の顔を思い浮かべます。
(いま、あんたの男は)
(私のはだかを見ることに夢中になってるよ)
ロッカーの前に戻ろうと、振り向きます。
歩いていきながら、また彼と目が合ってしまいました。
相手の目線が、ヘアーもまる出しの私の股間に『すっ』と落ちるのがわかります。
(恥ずかしい)
私は、特に意識していないというふりをしました。
相手としゃべるつもりもありません。
(嬉しくてしょうがないでしょ?)
(こんな美人が、真っ裸なんだもん)
再びタオルを手に取りました。
冴えない『あの女』の彼氏が、すぐそこから私を眺めています。
(イヤあん)
まるで、私のはだかを『鑑賞』しているかのような、ねちっこい視線でした。
私は、気にも留めていないふりを続けます。
さりげなく、彼のほうに背を向けました。
スリムにきゅっと切れ上がった、私のお尻を眺めさせてあげます。
時間は、ほとんどないはずでした。
少し背中を丸め気味にして、首を前に傾けます。
頭からバサッと髪を垂らしました。
タオルで包み込むようにしながら、もういちど丁寧に髪を拭きます。
(どきどきどき)
興奮がとまりませんでした。
私は痩せていて、あまり贅肉のない体型です。
こうして、ちょっと前かがみになっただけで・・・
(イヤあん、恥ずかしい)
もともと開き気味のお尻から、肛門が見えているのは確実でした。
(見ないでぇ)
(そんなとこ、見ないでぇ)
あくまでも、淡々と・・・
しとやかな手つきで髪をケアするこの女・・・
(ああ、わたし)
(こんな男のまえで)
お尻の穴をまる見えにしたまま・・・
無垢な女を演じている自分が、快感でなりません。
(もうだめ)
(泣いちゃいそう)
姿勢を戻して、無造作に髪を束ねます。
そのとき、
「バタッ」
個別ブースのドアが開きました。
あの女が出てきて、真っ裸の私にぎょっとしています。
(驚いてる)
相手の心理を、一瞬にして読み切っている自分がいました。
私は、
「Hi」
何の罪もないような表情で、彼女に微笑みを向けます。
「〇×□△〇、〇〇×□・・・」
タヌキ女がとげとげしい声で、彼氏に何かを言っていました。
私のほうにも、
「×□〇□、△〇×・・・」
毒づくような口調で、何かつぶやいています。
(やってやる)
何を怒られているのかわからないと・・・
びっくりした感じで、困惑の顔をつくります。
そして、つんとしてみせました。
わけがわからないというふうに、そっぽを向いてからだを拭く私・・・
せわしなく自分の荷物を持って、
「△□〇□××〇・・・」
タヌキ女が『早く行くよ』とばかりに、彼氏のことを急かしていました。
自分の彼が・・・
いつまでも私のはだかにチラチラ目をやっているのが、癪でたまらないといった様子です。
(私に、ブスなんて言うからじゃない)
(どっちがuglyだよ)
私の中で、プライドがばちばちと火花を放っていました。
ひとりマイペースに、ロッカー前でからだを拭いている演技を続けます。
(ああん、彼氏さん)
(その女を嫉妬させてやって)
すべて計算ずくでした。
自然体を装いながらも、絶妙のタイミングで・・・
かなり前かがみになって、脚を拭きます。
(あ・・あ・・・)
後ろから、もろに『あそこ』がまる見えになる格好でした。
帰ろうとするタヌキ女が、出口のあるこちら側へと歩いてきます。
その彼女に、ついてくるようにして・・・
(あ、あぁぁ・・・)
私の真後ろを、彼が『ゆーっくり』と通りすぎていきました。
きっと、間違いなく・・・
私の恥部を、その目にばっちり焼きつけながら・・・
そして、ふたりが建物から出ていきます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
姿勢を戻しました。
心臓が破裂しそうになっています。
ひとりぼっちになって服を着ながら、興奮に頭がくらくらしてくる私でした。