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CFNM

CFNMや露出についての萌える体験をコピペしました(^^;)

2024-04

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野風呂

そこからは、あらかじめ予約しておいたレンタカーに乗り換えます。
正直なところ・・・
そういうことをするにあたっての感覚的なものが、まったく戻っていませんでした。

(到着してから考えればいい)

ハンドルを握りながら、はやる気持ちを戒めます。

(ぜったいに無理したらだめ)
(とにかく慎重に)

おそらく、実際に経験したことのある人にしか理解できないでしょう。
日本での露出行為なんて、まぎれもなくリスクと隣り合わせの『危ない賭け』でしかありません。

(だいじょうぶなの?)

今でもそんなことが私にできるのかどうか・・・
本当のことを言えば、もうあまり自信はありませんでした。

長い長いドライブの末、そのひなびた温泉地が近づいてきます。
途中から山道に分け入って・・・
やがて、見覚えのある温泉旅館がひとつふたつと目に入ってきました。
玄関の横に、『そば』とのぼりが立っているのに気がつきます。

(ちょうどいい)

目的地までは、もうあと2~3分で到着というところでした。
その前に、ここで昼食をとっておこうと決めます。
旅館の駐車場に、車をとめました。

(懐かしいな)

お食事処と書いてある暖簾をくぐって中に入ります。
お客さんは、私以外に2人組のおじさんたちがいるだけでした。

注文したおそばが来るまでの時間を使って、ちょっとスマホで調べものをします。
手もとの画面を見ていると・・・
不意にそのおじさんたちに声をかけられました。
唐突だったので『えっ』と思いながら、そちらに顔を向けます。

「ひとりですか?」
「ここにお泊りの方ではないですよね?」

その2人組のおじさんたちは、多少ほろ酔い加減のようでした。
テーブルの上には、もう食べ終わったおそばの器とビールの瓶が並んでいます。

「ご旅行ですか?」

人のいいおじさんたちでした。
アルコールでいい気分になったまま、隣に居合わせた女性とのコミュニケーションを楽しみたがっているんだというのがわかります。

突然のことでしたが、別に嫌な感じはありませんでした。
気軽な時間つぶしのつもりで、おしゃべり相手になってあげます。

「○○○でしょう?」
「ええ、わかりますか?」

「○○○○ですか?」
「はい、あまり詳しくないですけど」

とりとめのない会話を交わしていくうちに・・・
ずっと心の中にわだかまっていた何かが、氷解していくような感覚になりました。
ここ最近の私は、
(自分でも気づかないうちに)
周りに心を閉ざして、どこかで無意識に人との関わりを遠ざけるようになっていたのかもしれません。

会話を重ねていきながら、すーっと肩の力が抜けていくのを感じていました。

「○○ですよねー」
「私もそう思いました」

出てきたおそばを食べながら、
「美味しい」
「このあたりは、水が〇〇だからね」
見ず知らずのおじさんたちに心を開くことで、すごく気持ちが軽くなっていくのを実感している自分がいます。

「よかったら一杯どうですか」

鷲鼻のおじさんが、私のコップにビール瓶の先を向けてくれます。
『車なので』と、さすがにそれは断りました。

「このへんは、〇〇も名産なんですよ」
「へーえ、そうなんですか」

げじげじまゆげのおじさんのほうは、
「僕たちは昼から飲めるってだけで嬉しい人間だから」
美味しそうにおそばをすする私を見ながら、ビールを飲んではしゃいでいます。

ふたりとも、50代後半ぐらいの人たちでした。
ひとりでふらっと現れた『この女』に、だんだんと興味がわいてきたようです。
どうしてこんなところにと問われて、私は答えました。

「温泉が好きなんです」
「この先の『○○の湯』というところを訪ねてみようと思って」

意外にも、反応がありました。
おじさんたち2人が、互いに『ぱっ』と目を見合わせています。
そして、
「いや、僕たちも行こうと思ってたんですよ」
「今からちょうど、なあ」
偶然だなあという顔をしています。

見抜けない私ではありません。
なんとなく、とっさに話を合わせてきたという印象を受けていました。
思わず、
(なにかあるの?)
一瞬、猜疑的な気持ちがよぎります。

まゆげさんが、
「よかったら、ご一緒しませんか」
私を誘いながら、子どもみたいに目を輝かせていました。

「ぜひ、ぜひ」

悪意はまったく感じられません。
でも、油断しませんでした。

(ぜひって言われても。。。)

私は、今でも自分の外見の容姿にだけは自信を持っています。
決して自惚れているつもりはありません。
そりゃあ、20代の若い子に比べれば肌の張りは多少劣るかもしれないけど・・・

それでも、はっきり感じ取っていました。

(私が、美人だからでしょう?)
(だから、一緒に行きたいんでしょ?)

予想外の展開になって、まだ戸惑っている私がいました。
警戒心を緩めることはありません。

(どうしよう。。。)

すぐには返事をせずに、
「行かれたことあるんですか?」
相手の反応を見ながら、おじさんたちの本心を探ります。

と同時に・・・
したたかに心の中で計算をはじめている自分もいました。

私がこの地にやって来たのは、久々にあの興奮を味わいたかったからに他なりません。

(誰かにお風呂を覗かれながら・・・)
(何も気づいていない恥ずかしい女になりきる・・・)

そのために、かつて何度となく足を運んだのがこの先にある野天温泉でした。

(うまくいけば)
(この人たちを利用できる?)

見た目は楚々としていても、内心は計算高い私です。
演技していました。
笑顔をつくりながら、
「もう、このすぐ近くなんですよね?」
あたかも初めて訪ねて来たかのように装ってみせます。

「僕らは、昨日も行きましたよ」
「けっこう気に入っちゃって」

(いかにも気の良さそうな人たちだけど。。。)

ほとんど人のいないような渓谷の温泉に行こうとしているのです。
途中で豹変でもされようものなら厄介でした。

なおも会話を続けながら、慎重に人柄を見極めます。

少し不安そうな表情で、
「まさか、○○の湯って混浴とかじゃないですよね?」
わざと、そんな男性の下心を刺激しそうなことを聞いてみました。
もちろん、実際には違うと私は知っています。

「あはは・・・ちがうちがう」
「残念ながら、男女別ですよ」

ビールで顔が真っ赤になっている鷲鼻さんが、陽気に答えてくれました。

ちょっとあからさまなぐらいに、
「いっしょなのは、お風呂に入る前までですよね?」
自分が身持ちの堅い女であることを、しっかりとアピールしておきます。

(だいじょうぶだ)

だんだんと確信を得ていました。
これこれで、こんなふうになっている野天風呂ですよ・・・
まゆげさんが〇〇湯の概況について丁寧に説明してくれます。

(悪い人たちじゃない)

しかも・・・
この流れなら、
(もしかしたら)
それこそ私に都合のいい展開にも持ち込むことができるかもしれません。

「じゃあ一緒に行きます」
「連れていってください」

おそばを食べ終えるのに合わせて、OKしてみせました。

「よっしゃ」
「そうこなくっちゃ」

おじさんたちは、この旅館の宿泊客とのことでした。
いちど荷物を取りに部屋に戻ると言っています。
現地の駐車場で待ち合わせることにして、私は先にお店を出ました。

(いい流れかもしれないな)

車に乗りこみます。
エンジンをかけてスタートさせました。

ものの数百メートル走ったところで、その目立たない駐車場が見えてきます。
いちばん奥の位置にとめました。
後部座席からトートバッグを出して、車から降ります。

(この場所・・・懐かしい・・・)
(この土の匂い・・・)

サイドミラーに近づいて、自分の顔を映しました。

(だいじょうぶ)
(私には、この『見た目』がある)

このあいだの帽子を拾ってくれた高校生にとっては、おばさんかもしれないけど・・・
あの人たちにとっては、まだまだ若くて『美人』なこの女・・・

不思議なもので、みるみる自信がわきあがってきます。

うまく説明できないけれど・・・
晴れ晴れしい気持ちでした。
会社勤めをしていたころの、毎日頑張っていたあの頃の自分を思い出します。

(きっとチャンスはある)
(私なら、なんとかできるはず)

昔の感覚が『ぱあっ』とよみがえってきているのを感じました。

おじさんたちが来るのを待ちながら、頭をフル回転させて考えます。
さりげなく誘導する必要がありました。
決して怪しまれないように、私の思うような展開に持っていかなければなりません。

(まずは、演技だ)
(真面目なタイプを演じよう。。。)

やがて、向こうからおじさんたちの姿が現れました。
ふたりとも中年太りのからだを揺するようにしながら、こっちに歩いてきます。
私はにっこりと手を振ってあげました。

「お待たせしましたー」
「いえ、ぜんぜんです」

駐車場の奥のところから、森の歩道がはじまります。
鷲鼻さんを先頭に、
「こっちですよ」
3人で野天温泉に向かって歩きだしました。

「混んでますかねえ?」

「いやあ、そんなことないと思いますよ」
「たぶん貸し切り状態じゃないかなあ」

もう、お互いにすっかり打ち解けた雰囲気です。

いろいろ世間話をしながら、森の歩道を進んでいきました。

「〇〇の〇〇温泉って知ってます?」
「あー、行ったことあるな」

「私、あそこの〇〇〇とか大好きなんですよ」

鷲鼻さんも、まゆげさんも・・・
屈託のない笑顔を振りまいてみせる私に、嬉しそうな顔をしています。
自意識過剰なんかじゃありません。
私には、ちゃんとわかるのです。

(ねえ、この私に・・・)
(ちょっと、ときめいてるんでしょ?)

同時に、すごく苦しくなりました。

(それなのにこの人たちに覗かれる??)
(恥ずかしすぎて、ぜったい無理だ)

親しげな雰囲気になればなるほど・・・
反比例するように、どんどんハードルが高くなっていくのを強く感じます。

その後も、3人で歩きながら自然と会話が弾んでいました。

「俺、〇〇のとき〇〇〇だったんですよ」
「えー、そうなんですか?」

そのうちに仕事や生い立ちの話になってきます。

「えー、私ですか?」

ここからが私の真骨頂でした。
もちろん、本当のことなんて言うわけがありません。
CAだと嘘をつきました。

「CA?」
「スチュワーデスさんなの?」

食いつくように私の顔を覗きこんできたのは、まゆげさんです。
私をみつめて、
「すごいじゃないですか」
ますます興味津々の表情になっています。

「いえ、そんなことないんですけど」

照れたようにはにかんでみせると、鷲鼻さんも話に乗ってきました。

「〇〇〇?」

私は、本当に悪い女です。
軽くうなずきながら、
「でも・・・」
すらすらと嘘に嘘を重ねている自分がいました。

「もう29ですし」
「はやくいい人をみつけて、身を引きたいんですけどね」

さらっと年齢も偽りながら、
「あれっ、水の音がする」
急に立ち止まったりして、さりげなく話をそらしていきます。

「この下に、川が流れてるからね」
「もうすぐ着きますよ」

ふたりとも、

・・・へえー、CAさんか。
・・・どうりでキレイな顔してるわけだ。

露骨にそんな表情になっていました。
私は、まったく意に介していないふりをしています。

ときおり歩みをゆるめて、
「だいじょうぶですか?」
このふたりをやさしく気遣ってあげました。
肥満体のせいで、さっきから息が上がりかけているおじさんたち・・・
私だけが、ひょいひょいと歩けている感じです。

(もっと私の顔を見て)
(高嶺の花だと、もっと見惚れて)

「けっこう、でこぼこ道ですねえ」

なりきって演技をしている自分が快感でした。
良心の呵責を覚えながらも、
(べつに迷惑をかけてるわけじゃない)
人を騙していることの罪悪感に、どきどき興奮してしまいます。

「もうすぐですよ」

そう言いながら、先頭を歩く鷲鼻さんがこちらを振り向きました。
前髪の生え際のところに、枯れ葉のようなものがくっついています。

「あ、待って」

チャンスでした。
足をとめた相手に、『すっ』とにじり寄ります。
そして、
「葉っぱが・・・」
おもむろに鷲鼻さんの顔に手を伸ばしました。

一瞬、見つめ合うような距離感になりながら・・
そっとゴミを摘み取ってあげます。

「ありがとう」

このちょっとした振る舞いが、効果てきめんでした。
鷲鼻さんの表情が、でれっと弛んでいます。

「ごめんなさい、くっついてたから」

私は自然体を装いました。
その物腰は、あくまでも真面目な女そのものです。

(完全に、こっちのペースだ)

やがて『〇〇湯→』という朽ち果てた木の表示が見えてきました。
この歩道からそれるように、下へと降りていく階段道が続いています。

3人で、急こう配の階段道を下っていきました。

「あぶないから気をつけて」

崖を沿うような感じでカーブしていくと、いきなり眼下に野天風呂の景色が広がります。
立ち止まって、
「わあっ、すごい」
渓流沿いの岩風呂を見おろしていました。
人の姿はどこにもありません。

「あ、あ、でも」
「これって外からまる見えなんじゃないですか?」

困惑したようにつぶやいてみせます。

「大丈夫ですよ、こっちは男湯だから」
「女湯は、ほら、あそこの・・・わかる?」

指さされたほうに目を向けました。

「女湯は見えないようになってるから」
「ぜんぜん心配ないよ」

お上品そうなキャラクターを印象づけながら・・・
なおも戸惑っているふりをします。

「もし覗きとかいたら」
「私、本当にそういうの嫌なんです」

不安そうな顔をしました。
きょろきょろと、何度も対岸の川沿いに目を走らせます。

じゅうぶんでした。
これだけ警戒心が強い素振りを見せつけておけば・・・
そんな『私』を覗き見ることができたとき、この人たちの興奮はきっと倍増するはずです。

(こんなに、ガードの固そうな女だよ)

そう・・・
私は、このおじさんたちを喜ばせてあげたい気持ちでいっぱいでした。
すっかり仲いい感じになったこのふたり・・・

(ねえ、もし女湯を覗けちゃうとしたら)
(どうする?)

「大丈夫そうですね」

ようやく安心したような顔で、微笑みを取り戻してみせます。

階段道を下りきりました。
いま降り立ったこの川べりのお風呂が男湯です。
そして、あっちに見える古びた木戸の向こうが女湯の入口でした。

山の谷間の素晴らしい景色が目の前に広がっています。
渓流のせせらぎと遠くの鳥の声が、私たちを迎え入れてくれていました。

「すごく素敵」

ロケーションに感激しているふりをします。

「いいところですねえ・・・」

野天風呂ならではの開放感に、
「これなら誰かに見られたって気にならないでしょ?」
まゆげさんが、わざとらしく私のことをからかってきました。

「やめてくださいよ」

もちろん相手に悪気がないことぐらいわかります。
でも、私は・・・
(この人、セクハラするタイプだな)
このおじさんの本性を垣間見たような気がしました。

「あなた、スタイルもすらっとしてるもんね」

ムキになった口調で、
「そういうの本当にやめてください」
あからさまに嫌そうな顔をします。
そのうえで、
「私、泣いちゃいますよ」
拗ねた子どものように口を尖らせて、ふたりの笑いを誘いました。

「ごめんごめん」
「冗談ですよ」

おじさんたちが、にこにこ見ています。

「でも、来てよかったぁ」
「こんな素敵な温泉、初めてです」

景色に目を奪われているふりをしながら、しみじみとつぶやいてみせました。

そして、
「それじゃあ、どうも」
にこやかに会釈を交わして、ふたりから離れます。

自分だけ男湯スペースの真ん中を突っ切っていきました。
木戸を開けて、ひとりで中に入ります。
石垣のような部分を折り返すと、そこが女湯でした。
私以外には誰もいません。

(また来ちゃったよ)

岩場の真ん中に湯だまりがあるだけの、こじんまりした空間でした。
正面に見える渓流が、キラキラと太陽を反射しています。
何もかもが、昔のままでした。

(変わらないなあ)

手近な岩の上に、トートバッグを置きます。
外からの目隠しになるよう、左右に立てかけられている『すだれ』も以前のままでした。

「今日も貸し切りだぞ、貸し切り」
「最高だな、ここは」

男湯との間をさえぎる大きな岩山の向こうから、まゆげさんの喚く声が聞こえてきます。

感慨にひたっている時間はありませんでした。
スニーカーを脱いで、裸足になります。
片方のすだれに歩み寄りました。
何もしなくても、もともと古くて隙間だらけになっているようなすだれです。
適当な位置で、竹束(?)のあいだに指を突っ込みました。
ところどころ上下に偏らせて、いくつか自然な感じの『覗き穴』をつくっておきます。
日差しの向きも、確認済みでした。

(これならいうことない)

この野天風呂は、川べりの地面から1.5mぐらいの高さのところにあります。
野天スペースのへりにあたる部分はコンクリートでできていて、それがそのまま護岸のような感じのつくりになっていました。
たいした高さではありませんから、その気になれば簡単に下に降りることができます。
地面に接している土台みたいな幅のところは、そのまま男湯のほうまでつながっていました。

(どきどきどき)

もちろん、すべては承知のうえです。
舞台は完璧に整っていました。

気持ちに勢いがあるうちじゃないと・・・
たちまち躊躇いが生じて足がすくんでしまうことを、誰よりも私自身がよく知っています。

(よし、やろう)

「ガタっ」

裸足のまま再び木戸を開けて、男湯スペースに戻りました。
おじさんたちの目が、『ぱっ』とこちらに向きます。

「あの・・・」
「ちょっと伺いたいんですけど」

ふたりとも、すでにお湯につかっていました。
持ち込んだらしい缶ビールを開けて、もう乾杯していた様子です。

「こういうところって」
「シャンプーとか石鹸とかはダメなんですよね?」

あたりまえのことを尋ねながら、はじっこのコンクリート部分に歩み寄りました。
ちょっと身を乗り出すようにして・・・
女湯のほうを『さりげなく』確認している姿を、ふたりに印象づけます。

「まあねえ」
「洗い場とかないからねえ」

2本目の缶ビールを取ろうと、まゆげさんがお湯の中から立ち上がりました。
ぼろんとぶら下がったお〇んちんが、まる見えになります。

「きゃっ」

とっさに演技していました。

あたふたした素振りで、
「ちょっと、ちょっと見えてますから」
目のやり場に困ったかのように、両手で自分の顔を覆ってみせます。

「ちゃんと隠してくださいよう」

そんな私の様子を面白がるように、
「えっ、なに?」
わざとらしくぶらぶらさせたままでいる、まゆげのおじさん・・・

「ちょっとお」

おそらく本当に顔が真っ赤になっていたはずでした。
鷲鼻さんも、そんな私を見て笑っています。

恥ずかしそうに、
「もぉお、ヤぁだぁ」
そのまま女湯のほうへと踵を返してみせました。

木戸を入って、中からきちんと閉めます。
完璧でした。
内心、興奮を抑えられません。
あんなふうにからかわれることになるとは思っていませんでしたが、
(いいぞ、いいぞ)
むしろ100点満点の展開でした。

その場にとどまったまま、戸の隙間からおじさんたちを覗きます。
ふたりとも、愉快そうに笑っているのが見えました。
声までは届いてきませんが、
(なんか言ってる)
私には、その会話の内容がはっきりと聞こえてくるかのようです。

・・・あんなキレイな子に、〇〇〇〇見られちゃったよ!
・・・見たかよ、あの子真っ赤になってたぞ!!

(にやにやしちゃって)

それとは対照的に・・・
私の演じている『この女』の、なんて真面目なことか・・・

(これぐらいテンションを上げさせてやらないと)
(『覗き』までしようって気が起こるはずない)

それが、私の読みでした。
いつでも動きだせるように、その場でぱぱっと全裸になってしまいます。

本当に悪い人間は、この『私』でした。
あのふたりのことを、
(すっかり騙されてる)
最初から利用する相手としか見なしていなかったのですから。

脱いだ服を腕の中に抱えて、
(どきどきどき)
そのまま木戸の隙間から男湯のふたりの様子を覗き続けました。

(気づけ・・・気づけ・・・)

美味しそうにビールを飲みながら、楽しそうにげらげら笑っています。
その直後には・・・

(よしっ)

まゆげさんが、男湯スペースのはじっこに立っていました。
さっき私が気にしてみせていたほうに向かって・・・
上半身を乗り出すようにしています。

(どきどきどき)

例の『すだれ』が目に入ったはずでした。
それが目隠しになって、もちろん女湯スペースそのものは見えません。
でも、
(気づいたはず)
下の土台に降りてしまえば・・・
そのすだれの前までは、わりと簡単に行けてしまうことを・・・

(どきどきどき)

まゆげさんが振り向いて声をかけています。
鷲鼻さんもお湯から出ました。
コンクリート部分に並んでそちらに目をやっています。
一瞬の間がありました。
ふたりで何やら囁き合っている感じです。

(降りろ・・・降りろ・・・)

まさにここが分かれ道でした。
心の中で、
(下に降りろ・・・)
一生懸命おじさんたちに念(?)を送ります。

まゆげさんが、
(あっ、あ・・・)
足もとに両手をつくのが見えました。
太ったからだを反転させるようにして、のっそりと下の土台部分に降りようとしています。

(あああっ、来る・・・)

鷲鼻さんもいっしょでした。
まゆげさんの隣で、同じように後に続こうとしています。
そこまで見届けて、
(イヤぁっ、イヤっ・・・)
私のテンションは最高潮に達しようとしていました。

(覗きに来るっ)

急いで石垣を折り返します。
抱えていた服をトートの横に置いて、湯だまりに飛び込みました。

一転して・・・
今度は完全に矛盾した心情に、激しく胸をかきむしられます。

(イヤっ、私・・・)
(とても耐えられない)

肩までお湯につかったまま、正面の景色を『ぼーっ』と眺めました。
目の焦点をずらす感じにして、すだれを視界の片隅に入れます。

(いやん、来ちゃう)
(誰か助けて)

と同時に、
(あ・・・)
すぐそこに浮かび上がった頭2つのシルエット・・・

緊張しすぎて、喉まで心臓がせり上がってきそうでした。

(あ、ああ・・・)

すだれの裏に、おじさんたちがいます。
もともと隙間だらけの古いものでした。
あの人たちの背後から日差しが照りつけていますから、それとなくわかるのです。

(あああ・・・そこにいる・・・)

もちろん、こちら側からは一切見えてないふりをしました。

(恥ずかしい)
(・・・恥ずかしいよ)

私との距離は3mとありません。
息苦しいほどの重圧に押しつぶされそうです。

(ああ、やっぱり私・・・)
(無理かも・・・無理だ・・・)

覗いたおじさんたちも驚いたことでしょう。
さっきのあの子が、こんなにも『目の前』でお湯につかっているのです。
それほどの近さでした。
まさか、女湯スペースがこれほど狭いとは思ってもいなかったに違いありません。

(落ち着いて)

必死に自分に言い聞かせました。

(このために来たんでしょ?)
(ちゃんと思いどおりになってるじゃない)

肩に入っていた力を抜きます。
大きく息を吐きますが、
(あああ、だめだ)
どうしてもプレッシャーをはねのけることができません。

頭の中を空っぽにして、そこにいるふたりのことを意識の外に追い出しました。
遠くの山々を眺めながら、
(ああ、なんていい景色・・・)
のんびりとお湯の気持ちよさを堪能しているふりをします。

(ああ、無理・・・)

5分ほどそうやっていたでしょうか。
やはり、以前のような感覚の私には戻ることができません。

(やっぱり無理)

熱さにのぼせていました。
ひとたびお湯から出ようものなら、どこにも隠れ場所などありません。

(この人たちに見られるなんて)
(私、恥ずかしくて耐えられない)

泣きそうになりました。
でも、もうのぼせて限界です。

(きゃあああ)

心の中で悲鳴をあげていました。
お湯の中から、
「ざばっ」
いちど立ち上がって、そのまま湯だまりのふちに腰かけます。

(イヤあ、見ないで)

演技するしかありませんでした。
必死に自然体を装おうとしている私がいます。

(見ないでえ)

覗かせてやりました。
おっぱいまる出しのまま・・・
何も知らずにくつろいでいる『この女』の幸せそうな姿を。
この人たちにとってこの子は、
(いかにも楚々とした、しとやか美人・・・)
男に見られているとも知らずに、ひとりっきりの時間を満喫しています。

(さっきまで面と向かって)
(ずっとしゃべっていた相手なのに)

屈辱感でいっぱいでした。
渓流の景色に目をやっているふりをする私・・・
湯だまりのふちに腰かけたまま、
(すぐそこにいるのに)
彼らの前で乳首を隠すこともできません。

(私は悪くない)
(悪いのは、覗く人たちのほう)

懸命にそう思い込もうとしても、
(やっぱり、恥ずかしい)
とてもじゃないですが、もう耐えられませんでした。

(なんで私が)
(こんな人たちのために)

再び『じゃぼん』と、お湯の中にからだを沈めます。

(ひいいい)

まともにすだれのほうを向くことができませんでした。
おじさんたちには背をむけるかたちでお湯につかっています。
そして、
(もう無理・・・もう無理・・・)
はっきりと思い知らされていました。

(私はもう・・・)
(昔みたいにはなれない)

それを完全に悟ってしまった今、
(助けて、誰かたすけて・・・)
私に、もうこの場にいられるだけの気丈さはありません。

(恥ずかしいよ)
(もうイヤだ)

ふたりに顔を見られないようにしながら、涙ぐんでいました。
限界を感じて、自尊心が悲鳴をあげてしまっています。

(だれか助けて)
(わたし、何も着てないよう)

そして、ひたすらにおのれの愚かさを噛みしめていました。
悪いのは、おじさんたちじゃない・・・
この状況を演出してしまったのは、ほかでもない私自身なのですから。

(こんなことして)
(馬鹿すぎる・・・)

帰ろうにも帰れませんでした。
お湯につかったまま、なるべく見られずにすみそうな方法を懸命に考えます。

のぼせたら、おじさんたちに背をむける側で湯だまりのふちに腰かけて・・・
ふたりが去ってくれるのを待ちながら、またお湯につかる・・・

ただただ、その繰り返しで時間を稼いでいました。
地べたの割れ目から短い雑草が1本だけ伸びていて、小さい花を咲かせています。
その白い花の健気さを目にして、また涙ぐみそうになりました。

(私って)
(なんて弱いんだ。。。)

さっきからもう20分近くそのすだれの裏に張り付いているのです。
おじさんたちだって、とっくにくたびれているはずでした。

(戻ってください)
(お願い、もう男湯に戻って)

それなのに・・・
一向に、その場から離れてくれる気配のないふたり・・・

(帰ってくれるわけがない)
(多少は見られてもしかたない)

半ば、諦めの境地でした。

だったらもう・・・
のぼせ切ってしまう前に、はやく・・・帰ろう・・・

「ざばっ」

立ち上がっていました。
湯だまりから出て、すっぽんぽんのままトートバッグを置いた岩に歩み寄ります。

(なるべく手早くからだを拭いて)
(そうしたら、さっさと服を着て)

そう思ったのに、そう思ったのに・・・

(イヤああ)

おじさんたちに大サービスしている、もうひとりの自分がいました。
その場で『すっ』と棒立ちになってみせています。

全身から湯気を立たせたまま、
「う、ぅーん」
両方の腕を真上に突き上げながら、大きく伸びをしていました。
肩をぶるぶる震わせて・・・
からだから、『ふうっ』と力を抜きます。
真っ裸のまま、あらためて景色に見とれているふりをしました。
ふたりの前でのんびり立ちつくして・・・
この『お堅い』女の、股の割れ目がおじさんたちに見えてしまっています。

(やめてやめて)
(はやく服を着てよぉ)

スポーツタオルで軽くからだを拭いてから、ボディクリームを手に取りました。
パンツもはかずに、
(やめてってばぁ)
大胆にも全身にクリームを塗っていく私・・・
人一倍警戒心の強い『この女』の、無防備な姿をふたりに眺めさせてあげます。

(ねえねえ、おじさんたち)
(にやにやしてるの?)

あくまでも自然体を装いました。
右の足を上げて、ほどよい高さの岩上に置きます。
その無造作な格好のまま、ふくらはぎにクリームを伸ばしていきました。
何も知らないこの女は、
(もうイヤぁ)
まさか男性に覗かれているなんて夢にも思っていません。
そして・・・

(ああ、だめだ・・・)

自分自身を客観的な視点から観ているような、不思議な感覚に陥っていきました。
自分で演じている『この女』に対して、どんどん意地悪な気持ちになっていく私がいます。

トートの中からスマホを取り出しました。
カメラを起動して、
(いやん、いやん)
すだれの真正面に行く私・・・
真っ直ぐふたりに向き合うように、ガニ股でしゃがみこみます。

もはや、頭の中は真っ白でした。
どこかへ意識が遠のいていくかのように、すーっと『無』の心境になっていきます。

地べたから生えたあの雑草にスマホを向けて、にこにこしてみせました。
楽しげな表情で、
「ピッ、カシャッ」
その小さな花を何枚も写真に収めます。
少しでもいいアングルで撮ろうと・・・
片ひざをつきながら、
「ピッ、カシャッ」
はしたなく内股が開いてしまっているこの女・・・

どういうわけか、奇妙なぐらいに意識がフラットのままでした。
急速に冷めきっていく気持ちをよそに、表面上は撮影に夢中のふりを続けます。

(もういい)
(好きなだけ見て)

逆向きからも写そうとする感じで、花の反対側にまわりこみました。
すだれに背を向けて、
(まゆげさん、どんな気持ち?)
この容姿端麗なCAのしゃがんだお尻を、目の前で拝ませてやります。

そのまま地べたに両ひざをつきました。
わずか1m後ろには、おじさんたちの目・・・

両ひざ立ちのまま、
「ピッ、カシャッ」
思いっきり前かがみの格好になって、小さな白い花にレンズを向けます。
彼らを喜ばせてあげようと思う一心でした。
おじさんたちの眼前で、無防備なお尻を後ろに突き出してあげます。
地面についた両ひざを『がばっ』と左右に開きました。
さらにローアングルから狙おうと、
(鷲鼻さん、どんな眺め?)
体勢を低くして、這いつくばるようにスマホを構えてみせる私・・・

「ピッ、カシャッ」

ふたりとも、かぶりつくように見ているはずでした。
29歳のCAが、目の前で股ぐらを披露してくれています。
何も知らずに、
「ピッ、カシャッ」
もろ股間に男の視線を浴びている、かわいそうすぎる女・・・
でも、私の感情は完全に冷めていました。

「ピッ、カシャッ」

何事もなかったかのように立ち上がります。
潮時でした。
にこにこしたまま、トートのところに戻ります。

慌てることなく、ゆっくり服を着ていきました。

(じゅうぶん見たでしょ?)
(今のうちに自分たちのお風呂に戻って)

ペットボトルのお茶を飲んだりして、さりげなく時間の余裕をつくってあげます。
すだれから、おじさんたちのシルエットが消えました。

まるで呆けたかのように、一切の感情が『無』というか・・・
自分でも不思議なぐらいに気持ちが淡々としています。
身なりを整えて、
(そろそろ戻ったころか)
そっと石垣をまわりました。

「ガタッ」

木戸を開けると、ぱっとおじさんたちに目が合います。

ふたりとも、何食わぬ顔をしてお湯につかっていました。
臆することなく、近づいていく私・・・
最高の微笑みをつくって、鷲鼻さんに話しかけます。

「いいお湯でしたぁ」

自分たちの『覗き』が、まったくバレていなかったと確信できたのでしょう。
遠慮のない視線で、じろじろ私の顔をみつめてきます。

「もう帰るんですか?」

目線を落とすと、
(うわっ)
その鷲鼻さんのお〇んちんが・・・
思いっきり上を向いているのが、揺らぐお湯の中に見えました。

(もしかして私を思い出しながら)
(あとでオナニーしたりするの?)

何の罪もない表情で、しっかり目と目を合わせてあげます。
まゆげさんにも視線を向けて、にこやかに微笑んでみせました。

「はい、このあと」
「〇〇ってところにも行ってみたいんで」

ふたりに別れを告げて、その場をあとにします。
ひとりで階段道を上っていきました。

途中で振り返るように見おろすと、おじさんたちがまっすぐ私を見ています。
軽く手を振りました。
反射的に手を振り返してくれるまゆげさん・・・
やがてふたりの姿が見えなくなります。

(さよなら、おじさん)

虚しさでいっぱいでした。
途中から自分でも気づいていたのです。
昔のようにドキドキな気持ちの私には、やっぱり戻れないんだということを。

(こんなはずじゃなかった)

・・・恥ずかしさに興奮する?
というよりも、
私自身の感情なんて、途中からどこかへ飛んでしまっていた・・・
快感なんて、まったくない・・・

あのふたりは、さぞかし満足してくれたことでしょう。
でも・・・私は、心の中が空っぽでした。

やるせなくてたまりません。
ひとりぼっちで駐車場にたどり着いて、車に乗りこみます。
すぐにスタートさせました。
この近くにある、もうひとつの思い出の場所・・・
水遊びにはもってこいの、こちらも何度か行ったことがある『沢』に向けて。

(なんのために)
(こんなに、はるばると・・・)

うつろな気持ちでした。
寂寥感が襲ってきて、自己嫌悪に陥りそうです。

(もっと、もっと)
(胸がときめくかと思っていたのに)

さっきの旅館の前を通過して、その先から国道へ向かうのとは逆の方向へ入っていきます。
林道の中を走りながら、慎重にハンドルを握りました。

いくつもの分岐を進んで・・・
最終的に、行きどまりのちょっと広くなった場所に出ます。
車をとめました。
ボストンバッグを開けて、持っていくものをトートに移します。

デジタル一眼のカメラと、三脚・・・
そして、水着・・・

森の中の細道を数分歩いていくと、少しずつ水の音が聞こえてきました。
2つめの目的地にしていた『沢』が目の前に開けます。

(ここも、以前と何も変わらない)

待ちました。
誰かが現れたら・・・
そのときにここでやろうと思って組み立てていたイメージは、完璧に頭の中にできあがっています。

でも、来ませんでした。
小一時間待ちましたが、誰も現れてくれません。

(なんだよ)

違う意味で泣きそうでした。
私は・・・私は・・・
せっかく早朝から、わざわざ新幹線に乗ってやって来たのに。

(こんなにいい女が)
(待ち構えてあげてるんだよ!?)

スカートを捲り上げて、パンツの中に手を突っ込みました。
悔しさに任せて、その場でオナニーします。

・・・が、それもだめでした。
気持ちが昂ぶっていかないので、まったく快感を得ることができません。

(もう嫌)
(何もかもイヤ)

あまりの虚しさに、うずくまってしまう私でした。

どれぐらいその場にいたでしょうか。
何のあてもなく、ぽつんと沢のほとりで佇んでいました。

もうどうにもなりません。
悔しいけれど、帰るしかありませんでした。
トートバッグを肩にかけて、三脚を持ちます。

あまりの徒労感に、がっくりと疲れ切っていました。
河原から、森の細道のほうへと足を向けます。
・・・と、まさにそのときでした。

(うそ・・・)

帰ろうとした私と、ちょうど入れ替わるように・・・
男の人がひとり現れたのです。

なんというタイミングの悪さでしょう。

(しまった)
(あと5分待っておけば)

小さく会釈されました。
躊躇っているうちに、そのまますれ違ってしまいます。

(あ、あ・・・)

何もできませんでした。
思わず振り返って、その人を観察してしまいます。

大学生ぐらいの若い男の子でした。
見た目だけの印象なら、かなり真面目そうな雰囲気です。
と思っているうちに・・・
あっという間でした。
川の流れの前まで行った彼が、『何もないな』という感じでもう引き返してきています。

(あ・・・)
(あ、あっ・・・)

私は、固まったようにその場から動けずにいました。
カメラの三脚を持ったまま立ちつくしている私に、男の子が怪訝そうな目を向けてきます。

気後れしてしまって震えそうでした。
でも、勇気を振り絞って・・・
「あの、すみません」
ついに声をかけてしまいます。

一瞬『えっ?』という顔をされました。
でも、
「なんですか?」
足をとめてくれます。
その戸惑い声を耳にして、私は少し安心していました。
思ったよりも、おとなしそうな印象の子です。

「あの、えっと・・・」
「ごめんなさい、突然」

次の言葉がなかなか浮かんでこなくて、私のほうもどぎまぎです。

(いま持っているのは)
(とりあえず、このカメラ・・・)

「すみません、おひとりですか?」

頷いた彼に向って、なんとか言葉を繋いでいました。

「あの、もしお時間があったら」
「写真を撮るの、手伝ってもらえませんか?」

「あ、いいですよ」

いわゆる『ちょっと1枚シャッター押してください』のお願いをされたと勘違したようです。
わりとあっさり、簡単にOKしてもらえました。

計画していたのとは、ぜんぜん違う流れです。
もう、あらかじめ考えてきていたそのイメージ通りに持っていくことは不可能でした。
でもせっかく掴みかけたチャンス・・・
このまま帰るなんてまっぴらです。

「本当に、お時間だいじょうぶですか?」

「すみません」
「ありがとうございます」

直感がありました。
私には、わかるのです。
このやり取りだけで、もうすでに相手の心を『ぐっ』と自分に引き寄せたということが。

「ええと、あの」
「じゃあ・・・」

指さしながら、
「あのあたりでいいですか?」
川べりのほうへと、ふたりで歩いていきます。

「私、毎年1回、誕生日が近くなると」
「セルフポートを撮ってるんです、記念みたいな感じで」

平然と嘘をついている私がいました。

「なんか、撮ろうとしたら」
「カメラのセルフタイマーが壊れちゃったみたいで」

ここまできたら、完全に行き当たりばったりです。
こっちを見た彼が、
「誕生日?」
私に歳を聞きたそうな感じでした。

「来週で、27になるんです」
「あなたは?」

嘘に嘘を重ねているうちに、私が『もうひとりの自分』になっていきます。
心の中は、この子の人柄を見極めることに必死でした。

(だいじょうぶ)
(乱暴するような人じゃない)

むしろ、かなり真面目なタイプだということが相手の挙動から伝わってきています。
さっきまで物怖じしていた自分が嘘のようでした。
おしゃべりをしながら、
「ですよね、私もそうです」
少しずつ相手に親近感を植えつけていきます。

(若く見られる顔でよかった)
(ぜんぜんバレてない)

彼は、20歳の大学生とのことでした。
何よりも幸運なのは・・・
それこそ手に取るようにわかるのです。
この人が、ものすごく内気な性格の男の子だということが。

「経済の勉強って、難しいんでしょう?」

短大に通っていたころの自分を思い出していました。
なんとなくオーバーラップするものを感じます。
人見知りする性格のせいで、異性と話すだけでも緊張していたあのころの私・・・

(この子なら)
(絶対に大丈夫・・・)

おしゃべりを続けながら、上流側に数十メートル歩きました。
川べりの岩場で、地面に荷物を置きます。
これなら、三脚は必要ありませんでした。
トートの中からデジカメを取り出します。
けっこう本格的なカメラが出てきたことに、彼がちょっと驚いていました。

相手にカメラを持たせてしまって、
「ここをまわすと・・・合いますから・・・」
「あとは、押すだけです」
基本操作を簡単にレクチャーします。
手と手が触れあっていることに、明らかに緊張している『内気』な男の子・・・
彼のどきどきが、私には痛いほどにわかりました。

「じゃあ、試しにあの岩を」

そんな『内気くん』の後ろから、背中を抱くように両腕をまわす私・・・
男の子の指に手を添えるようにして、いっしょにカメラを持ちます。

私の顔の前に、彼の耳がありました。
ファインダー代わりの液晶画面をふたりでみつめます。

「そう・・・合わせて・・・」

内気くんのどきどきが伝わってきていました。
シャッターを押して、
「キシャっ、キシャっ、キシャっ」
どうでもいいような岩を試し撮りします。

「オッケー!」

にこにこしてみせました。
彼から離れて、川べりの前に立ちます。
そして、
(うわ)
けっこう衝撃を受けました。
ぱっと見ただけでも・・・
内気くんのズボンの『前』がぱんぱんに膨らんでいるのがわかります。

(たったあれだけで)
(この子、そんなふうになるんだ。。。)

気づかないふりをしてあげて、
「適当に、いっぱい撮ってください」
彼の前で、モデルのような立ちポーズを決めました。

「キシャっ・・・キシャっ・・・」

シャッターを押す音が聞こえています。
少しずつポーズを変えながら、カメラの前で格好つけてみせました。

「なるべくポートレートっぽく」
「こっち側からも、お願いします」

一転、今度は女の子っぽく笑顔を浮かべて・・・
ちょっと可愛らしくポーズをします。

(こんなの照れちゃう)

「キシャっ、キシャっ、キシャっ」

一生懸命に撮ってくれていました。
勇気を出して、
「んーっ」
レンズに向かって思いっきりキス顔をしてみせる私・・・
そのまま静止してみせます。

(ううう、恥ずかしい)

「キシャっ」

すぐさま、
「キシャっ、キシャっ、キシャっ」
真正面から表情を狙ってくる彼・・・

羞恥の気持ちでいっぱいでした。
男性にこんな顔を披露している自分が、死ぬほど恥ずかしくなってきます。
お風呂を覗かれるのとも、またまったく違う興奮でした。
撮ってもらうという名目で・・・
キスの顔をしたまま、
(ああ、だめだ)
こんなにも平静を装っている自分・・・

(もっと、もっと。。。)

切り替えるように、すっとお澄まし顔をつくります。

「キシャっ・・・」

慣れてきたのか、
「もうちょっと左に寄ってください」
内気くんも、ようやく自分から口を開くようになってくれました。
背景とのかねあいを考えて、手で向きを指し示してくれます。

「なんか人に撮ってもらうのって」
「緊張しちゃうな」

ただ写真を撮られているだけなのに、
(あああ、気持ちいい)
このシチュエーションに興奮がとまりませんでした。

「キシャっ、キシャっ、キシャっ」

うまいこと言いくるめて、ヌードを撮ってもらえばいいじゃないか。
もし読んでいてそう思う人がいるとすれば、それはかなりの妄想脳だというものです。
目の前にいるのは現実の人間でした。
実際の流れの中において、そんな展開は絶対にありえません。
でも・・・

(トートには)
(・・・水着も入ってる)

言えるわけがありませんでした。
そんなことを本当に口にするのは、あまりにもハードルが高すぎます。

「毎年ここで撮ってるんですか?」

「場所はいつもちがうけど」
「でも、なるべく景色のいいところでって思ってて」

なんとなく、
(この子はたぶん)
まだ女性経験が少ないんだろうな・・・
そんな気がしていました。

「キシャっ、キシャっ、キシャっ」

(どきどきどき)
(どきどきどき)

ごめんね、次・・・
・・・水着も、いいかな?

どうしても、その一言が切り出せません。

(もうこれ以上は引っ張れない)

諦めました。
これが私のメンタルの限界です。
最後に、もういちど格好つけてポーズしました。
真剣な顔で、凛とした表情を向ける私・・・

「キシャっ、キシャっ、キシャっ」

内心、恥ずかしくてたまりませんでした。
相手は20歳の男の子です。

(ああ、でも・・・)
(すごくどきどきする・・・)

未練がないと言えば嘘でした。
だけど、やはり現実的に・・・
どう考えても、ここからさらなる展開に持っていくことは不可能です。

「ありがとうございました」
「すみません、付き合わせちゃって」

にこにこ微笑みながら、カメラを受け取りました。

「うまく撮れてるといいんですけど」

内気くんが、口ごもりながら話しかけてきます。
彼の『気持ち』を感じました。
目の前にいるお姉さん・・・
このキレイな女の人と、なんとかもっとお近づきになりたいのです。

(もう恥ずかしい)
(早く逃げたい)

一瞬、それとなく気まずさが漂う感じがしました。
その微妙な空気感が嫌で、さっさと荷物をまとめます。

「それじゃあ、私」
「ちょっとこのあたりの風景も撮っていきたいんで」

笑顔でさよならを告げました。
内気くんを置き去りにして、ひとりで上流側へと歩きはじめます。

「どうも」

その寂しそうな表情が印象的でした。
ときどきこっちを振り返りながら、もとの下流側に向かっていきます。
そして、森の細道へと消えていきました。
その後ろ姿を最後まで見送って、妙に『ほっ』とする私・・・

(すごいな、私)
(あんなにすらすら嘘をつくなんて)

初対面の男の子に声かけて・・・
カメラマンになってもらっちゃったよ・・・

(緊張したけど)
(楽しかった)

そして・・・
さほど間を置かずして、今度はこみ上げるような後悔が襲ってきます。

(でも・・・もったいない)

内気そうなあの子の目を思い出していました。
自分の性格は、自分がいちばんよくわかっています。
あのときあの状況から、あれ以上の勇気を出せる『私』ではありません。
でも、いま思えば・・・

(岩陰で水着になろうとして)
(それを、さりげなく覗かせるとか?)

もしかして、いくらでもやりようがあったんじゃないか・・・

(奇跡的に訪れたチャンスだったのに)
(どうして、もっと頭を使わなかったんだ)

冷静に考えれば、無茶しなかった自分をほめたい気持ちもありました。
だけど、やっぱり・・・
(もったいなかった)
関東からはるばる長い旅路をやって来たことを思うと、後悔してもしきれません。

(もう少しここで)
(次のチャンスを待つ?)

そんなことしたって、どうせ無駄だとわかっていました。
ますます悔しさに苛まされることになるのが目に見えています。

(しょうがないよ)
(あれが精一杯だもん)

それが現実というものでした。
帰ろうと決めて、トートバッグと三脚を持ちます。

(そうだよな)
(そうそう思い通りになんかならないよ)

河原から、森の細道へと入りました。
疲れ切ってしまって、やけに荷物を重く感じてしまいます。
全身から汗が噴き出していました。
日差しの強さが、どんどん疲労感を加速させます。

(でも、楽しかった)

ただ写真を撮ってもらっただけだけど・・・
あの瞬間は、確かに『非日常』の興奮を味わうことができていた私でした。
どこの誰ともわからない、初対面の男の子。
レンズを向けてもらいながら格好つけてみせる自分が、内心ものすごく恥ずかしかったのを思い出します。

(なんかもう)
(くたびれちゃったよ)

私のレンタカーが見えてきました。
本来、そこは駐車場でもなんでもありません。
林道の突き当たりのスペースに、私が勝手に車をとめているだけです。
完全に森の中でした。

(疲れた。。。)

これからまた長時間運転しなきゃいけないことが億劫でなりません。
車のドアを開けながら、
(あ・・・)
かなり離れた先にとまっているスクーターに気づきました。
その近くに腰かけていた内気くんが『さっ』と立ち上がっているのが目に入ります。

(あの子だ)

どきっとしました。
反射的に、まだ気づいていないふりをしてしまっている自分がいます。

(こっち見てる)
(なんでいるの?)

うまく説明できませんが、なんだか無性にイラッとしました。

(いまさら、なに?)
(またあの気まずい空気はイヤだ)

あの男の子は、なにひとつ悪くないのですが・・・
とにかく腹が立ってきます。
身勝手なのは私のほうだという自覚はありました。
でも、理屈ではないのです。
この状況が、もはやストレスでしかありませんでした。

(来るなよ)
(もう来なくていいって)

向こうから、とぼとぼと彼が歩いてきています。

何か話したいことがあるのか・・・
それとも、連絡先の交換でもしたいのか・・・

気持ちが爆発しそうになりました。
いずれにしろ、私のことを待っていたのは間違いありません。

(やってやる)

どうせ、二度と会うことのない相手でした。
次の瞬間には、嘘のようにアドレナリン(?)が脳内に満ちあふれてきます。

(かまうもんか)
(やってやる)

相手のほうにまっすぐ背を向けて、車の傍らに立っていました。
彼に気づいていないふりを続けながら、後部座席に荷物を積みこみます。

運転席のドアを開けっぱなしにしたまま・・・

(かまうもんか)
(どう思われようと)

着ていたカットソーを、おなかから捲り上げました。
きょろきょろと周囲を気にしてみせるお姉さん・・・
真後ろにだけは『たまたま』首がまわりきっていません。

周りは、ただの雑木林でした。
内気くんとの距離は、まだけっこうあるはずです。

(あんたのせいだ)
(また現れたりするから)

上半身ブラ姿になって、そのままスカートも脱ぎました。
まとめて助手席のシートに放り込みます。

(どきどきどき)

私の行動にびっくりしているはずでした。
後ろを振り向きたい衝動にかられますが、ぐっと我慢します。

(ふざけんな)
(これも脱いでやる)

ブラを外して、ぽいっと車内に投げ込みました。
身につけているのはパンツとスニーカーだけ、という格好になって・・・
そのまま車に乗りこみます。

「カチャッ」

ドアをロックしながら、
(いるっ)
一瞬だけ内気くんの姿を視界のすみに捉えていました。
まだ20メートルぐらいあるでしょうか。
そんな彼の存在に、まだこのお姉さんはまったく気づいていません。

(どきどきどき)

閉めきっていた車内には、むっとするような熱気がこもっていました。
エンジンをかけて、運転席のウインドウを2cmぐらい下ろします。
すぐに、またエンジンを切りました。
フロントガラスの向こうから、陽射しがまぶしく顔に照りつけています。

(そうだ)

頭の中で、ひらめきました。
からだを捻って後部座席に手を伸ばします。

(これであの子も)
(簡単に近づいて来られる)

ボストンバッグからスカーフを引っ張り出しました。
その様子が、まだ向こうにいる内気くんにも見えるように・・・
まるで目隠しするみたいに、顔の上半分を覆って結わえます。

(やってやる)
(あの子の前で)

邪魔者が現れる心配はありませんでした。

(だいじょうぶ)
(ちゃんとドアのロックもしてある)

自分の胸を撫でまわしながら・・・
死ぬほどの緊張感の中、その瞬間を待ち構えます。

(どきどきどき)

待つまでもありませんでした。
いきなりサイドウインドウに張りついた、内気くんの『顔』・・・

(ひっ)

もしガラスがなければ、がばっと手が届くほどの近さです。
思いっきり車内を覗き込まれていました。

(ひいいん)

運転席に座ったまま、無心でおっぱいを撫でているお姉さん・・・
まぶしさ除けに巻いた目隠しのせいで、彼の気配には気づいていません。

(これはやばいぞ)
(恥ずかしすぎる)

本当は、ちゃんと見えていました。
とっさに使ったこのサマースカーフは、生地がメッシュ状の薄いものです。
重なり合った網目の隙から、透かすように見ることができていました。
内気くんが驚愕の表情で・・・
でも、食い入るように車内の私を覗いています。

(信じられる?)
(さっきのお姉さんだよ)

そのお姉さんのおっぱいが、至近距離で見放題でした。
まさかと思うようなこんなキレイな人が・・・
誰もいない森の中、ひと目を忍んでオナニーをはじめています。
口を半開きにして吐息を漏らしました。
男の子の目の前で、
(イヤあん、見ないで)
たいして大きくもない自分の胸を、愛おしむように揉みまわします。

(そんなにじろじろ)
(恥ずかしいよう)

と、そのとき・・・
内気くんが『すっ』と、窓の向こうからスマホを向けてきました。
ガラス越しに、私のことを撮ろうとしています。
どきっとしましたが、
(かまうもんか)
いまさら遠慮なんかしませんでした。
どうせ顔は半分隠れているのです。
何も知らないふりをして、そっと乳首をつまんでみせました。

「んっ・・・はぁっ・・・」

さっき、わざと窓の上端を空けておいたのです。
聞こえないはずがありません。
このお姉さんの、なまめかしい息づかいが。
乳首をいじりながら、みっともないぐらいに鼻息を荒くします。

(あああ。。。感じちゃう)

窓の外で、スマホがゆっくり横に移動していました。
写真ではなく、動画で撮られているんだとわかります。
どっちだろうと同じことでした。

背中をくねらせながら、ちょっと腰を浮かせる感じでパンツをずり下ろします。

ぼとっぼとっ・・・と、スニーカーを脱ぎ捨てました。
パンツも脱いで、全裸になった私・・・
お行儀悪く、
(ひいいん)
ダッシュボードの上に両足を載せてしまいます。
股のあいだに手を持っていきました。

(恥ずかしすぎて)
(・・・死んじゃう)

男の子がそわそわしています。
脚を上げたからだの角度が深くて、肝心なところは見えていないようでした。
サイドウインドウにへばりついて・・・
懸命に、私の指先の動きを見おろそうとしています。

知ったことではありませんでした。

誰もいない森の奥で、どっぷり自分ひとりの世界にひたっている女・・・
すぐ横に人がいるなんて、夢にも思っていません。

(泣いちゃいそう)

極上の背徳感に、痺れるような興奮を覚えていました。
恥部を弄りながら、
(あっ・・あっ・・あっ・・)
快感を誘うデリケートな部分を、指の先端で探っていきます。

(ああん、イヤぁ)
(・・・男が見てるのに)

時間をかけて、じっくりとオナニーにふけりました。
片方の手では乳首をこねまわしながら、
「はぁっ・・はぁっ・・・」
必死に喘ぎをかみ殺します。
覗いている内気くんの顔が、ガラスを隔てたすぐ真横にありました。
その後ろめたさが、最高に快感です。
ヘッドレストに後頭部を預けて、首をのけ反らせました。
自分の顔のすぐ横には、男の子のいやらしい表情・・・
彼の目の前で、
「ぁっぁっ・・・ぁっ」
はしたなく鼻の穴を膨らませてみせます。

(あああ、最高。。。)

ぬるぬるでした。
じっくりじっくり、自身の陰部を指先で追い詰めていきます。
恥も外聞もなく、
「ぁっ、ぁっ、ぁっ」
気持ちを天まで昇らせていく私・・・

(もうだめ)
(イっちゃう)

絶頂が迫ってきていました。
自虐的な気持ちが抑えられません。

(あああん)

腰かけていたシートの上から、ずるずるとからだを沈めていきました。
手探りで、レバーに手を伸ばします。
運転席を、
「ガチャッ」
フラット近くまで後ろに倒しました。

「ガタン」

ほぼ仰向けの状態です。
ダッシュボードに放り出していた両脚を、宙に浮かせたまま胸もとまで引き寄せました。
ひざを折り畳むような感じにして、
(ひいいいん)
からだを小っちゃく丸める私・・・
まるで、オムツを替えてもらう赤ちゃんみたいな格好になります。

見おろしている彼の、もろに目線の下でした。
内気くんが、私の恥ずかしいところを直視しています。
泣きそうに興奮しました。
お尻の穴まで『こんにちは』した、あられもない格好のまま・・・
一心不乱に、クリにあてた指先を震わせます。

「ぁん・・・ぁぁん・・・」

我慢できずに喘ぎをもらしていました。
自尊心と葛藤しながら、
「ぁっ・・・あぁん・・・ぁっ」
なるべく可愛らしい声で悶えまくります。
恥ずかしくてたまりませんでした。
いま私は、他人にこんな姿を見られています。

(イヤっ、イヤっ)

ものすごい勢いでピークが押し寄せてきていました。
はばかることなく、
「ああん・・イヤあ・・・」
さらに指先を細かく震わせます。
そして・・・
(あああああああ)
私は、絶頂の瞬間を迎えていました。

「あっ、あっ・・・ああ!!」

からだが、びくびくびくっと痙攣します。
自分で自分を抱きしめるかのように・・・
からだを丸めたまま、ぎゅっと両方の太ももを抱え込みました。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

幾重にも寄せる快感と、完全にとろけてしまった脳・・・
心地よい疲労と満足感に、すべてがふわーっと満たされていきます・・・

動けませんでした。
ぎゅうっとからだを小さくして、
「はあ、はあ、はあ、はあ」
絶頂感の余韻にひたります。

じっと見おろしている男の子と・・・
その手には、たぶんずっと録画状態のスマホ・・・

力尽きていました。
自分でも、
(もう追い払わなきゃ)
ちゃんと頭ではわかっているのに・・・
鉛のようにからだが重たくなって、完全に脱力してしまっています。
抱え込んでいた太ももを放しました。
狭い運転席のシートの上で、放心したようにからだを投げ出します。

「はあ、はあ、はあ」

幸せでした。
もう、
(好きにして)
何もできないほどぐったりしている自分がいます。
でも、でも・・・

(終わりにしなきゃ)

急速に羞恥心が湧きあがってきていました。
さりげなく隠すように手であそこを覆います。
手のひらの膨らみが、敏感な部分に当たって・・・
自分の意思とは関係なく、
(ばかっ、馬鹿っ)
またびくびくっとしてしまうからだ・・・

(イヤっ、もうイヤ)

いまだそこにいる彼の目の前で、忸怩たる思いでした。
屈辱感にまみれながら、
「ぁっ・・ぁっ・・ぁっ」
そのまま2回目をはじめてしまいます。

まるで、生き恥をさらしているような気持ちでした。
男の子に見守られながら、
「ぁぁっ・・ぁっ・・ぁっ」
2度目のオナニーをしている私がいます。
内気くんが、にやにやしていました。

「ああん。。。」

恥をしのんで、引き絞るような声を漏らします。
あそこを弄りながら、
「だめえ、だめえイっちゃう・・・」
ひとりで悶えてみせました。
コンソールボックスに左足を突っぱねて、からだをよじらせます。

「いやあ、だめえ、だめえ」

今度は、すぐでした。
あっという間に絶頂が迫ってきます。
目隠しをしたまま、スカーフの中で泣いていました。

(だって、だって・・・)
(目の前で見てるよ)

内気くんが、にやにや見おろしています。

「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」

(イっちゃう・・・イっちゃう、見ないで)
(見ないでえ)

そして、
「ぁぁぁっ!」
再び、私は果てました。

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」

からだのどこにも力が入らず、燃え尽きた私・・・
神経がすり減って、
(だめ、もうだめ)
もはや演技を続けることも困難です。

(ごめんなさい、帰って)
(お願い、もう帰って)

まともに考えることもできませんでした。
いつまでもスマホを向けている男の子に対して、いまさら都合のいい言葉などみつかりません。
いきなり『ばっ』と首を起こして、
「誰っ!?」
切羽詰まった声を放ちます。
次の瞬間には・・・

「きゃっ、キヤァァああああ!!!」

森をつんざくような大きな声で、すさまじい悲鳴をあげる私・・・

猛ダッシュで、彼が逃げていきました。
ものすごい速さで後ろ姿が遠ざかっていきます。
私は、顔に巻いていたスカーフを取りました。

(びっくりさせてごめん)
(こうするしかないの)

やがて聞こえてくる、スクーターの甲高いエンジン音・・・
そのまま、はるか彼方へと消えていきます。

(私みたいな女は)
(ろくな人生を送れないんだろうな)

再び、ぽつんと孤独になる私・・・
でも満足でした。


(PS)あと少しだけ続きます。

汗だくでした。
手早く後始末を済ませて、服を着ます。
車を出していました。
もう、精も根も尽き果てています。

(帰らなきゃ)

事故をおこさないよう気をつけながら、林道を走ります。
もとの野天温泉に戻ろうとしていました。
もう時間がありません。
でも・・・
どうしても汗を流してから帰りたかったのです。

旅館の前を通過して、駐車場に到着しました。
さっきと同じく、いちばん奥のところに車をとめます。

(あ・・・)

自転車が何台もとまっていました。
別に、今となってはもう関係ありません。
さっさとからだを流して、早く帰途につくまでのことです。

(疲れちゃった)

最低限のものだけトートバッグに詰めて、車を降りました。
森の歩道をひとりで歩いていきます。

(鷲鼻さん・・・まゆげさん・・・)
(内気くん・・・)

考えてみれば、不思議な感じがしました。
何の縁もない人たちなのに・・・
こんなに続けざまに・・・

(きっと今、3人とも)
(私のこと思い浮かべてるだろうな)

日差しに汗が止まりませんでした。
とにかく、もう時間がありません。

例の階段道を下っていきました。
視界が開けると、やっぱり先客がいます。

(あれ?)

若い人たちでした。
男の子2人と、女の子1人がいっしょに男湯につかっているのが見えます。

階段道を下りきって、男湯スペースに降り立ちました。

高校生ぐらいの感じでした。
さっき自転車がとまっていましたから、地元の子たちなのでしょう。
まるでプールにでも来ているかのように、3人とも水着をつけてお湯につかっています。

(お風呂だよ?)
(なにやってんだよ)

ちょっとイラッとしましたが、構っている暇はありません。

怒られるとでも思ったのでしょうか。
みんな警戒した顔で私を見ていました。

見て見ぬふりをして、にこにこと男湯スペースを通り抜けます。

(知ったことじゃない)

急がないと、帰りつくのが夜遅くなってしまいます。
それよりなにより、もう私はへとへとでした。

木戸を開けて中に入ろうと・・・(ん?)・・・中から男の子の声が聞こえてきます。
石垣をまわりこむと、
(あっ)
そこにいた2人が、現れた私を見て固まっていました。
やはり水着をつけた男の子と女の子が、仲良くお風呂に入っています。

(こっちもかよ)

イライライラっとしました。

(急いでるのに)
(私が注意しなきゃいけないの?)

瞬間的に、頭の中がスパークします。
ちょっと羨ましいというか、
(なんだよ、おまえたち)
私にはない青春の1コマを見せつけられているような嫉妬心もありました。
大人げないのもわかっていますが、またも無性に腹が立ってきます。

(かまうもんか)

昔、この温泉で外国人のふりをしたときのことが・・・
なぜか瞬時に頭をよぎります。
とっさに、
「Oh, desculpe」
にこにこ顔をつくっていました。
そのまま引き返してしまいます。

(やってやる)

男3人、女2人・・・
リスクがないわけじゃありません。
でも、いわゆる不良っぽい子たちではありませんでした。

木戸から男湯スペースに出て、最初の3人のほうに戻ります。
ニコニコと、
「Olá」「Tudo bem?」
陽気に挨拶を投げかけました。
おそらく耳にしたこともないであろう言語に、高校生たちが顔を見合わせています。

(どきどきどき)

適当な岩の上に、トートを置きました。
そのまま服を脱ぎはじめます。

(かまうもんか)
(ここはお風呂なんだから)

戸惑い顔を向けられていました。
カットソーとスカートを脱いで、下着姿になった私・・・
男の子たちの表情が固まっています。
躊躇いはありませんでした。

(あんたたちが)
(女湯まで占拠するからだ)

ブラを外して、胸をさらけ出します。
まる出しにしたおっぱいに、彼らの目が釘付けになっていました。

(ひいいん)

女の子がびっくりしています。
やめさせてくれようと、
「Here・・・here is」
いちおう英語で話しかけてくれようとしていました。

何もわかっていないふりをして、パンツもするっと下ろします。

(イヤああぁ)

真っ裸になっていました。
言葉を失ったまま、男の子たちが呆然と見ています。
その彼らの顔を見て、死ぬほど興奮しました。

「here is・・・this side spa・・・This is for men」

カタコト英語の女の子に・・・
不思議そうな顔で、
「Eu não sei do que você está falando」
素っ裸のまま立ちつくしてみせます。
その間も、舐めまわすような視線を私に浴びせてくる男の子たち・・・

(ひいん、だめえ)
(ひいいい)

強烈でした。
あまりの恥ずかしさに、胃がきゅうっと締め付けられます。
あっけらかんとした表情で、
(いやん、いやん)
思春期真っ盛りの男の子に近づいていくお姉さん・・・

(きゃあああ)

私も、ざぶっとお湯に入りました。
彼らが露骨に興奮しているのがわかります。
その様子にいたたまれなくなったのか、
「もう、イヤあだぁ」
女の子が立ち上がって、お湯から出ていました。
そのまま、逃げるように女湯スペースのほうへと駆け込んでいきます。

(どきどきどき)

「ガイジン?ガイジン?」
「やべえだろ、これ」

(どきどきどき)

怖くはありませんでした。
肩までお湯につかって、
「Sinto me bem」
陽気にニコニコしてみせます。

「まっぱだぞ、超すげえ」
「こ、こんにちは」

挨拶されましたが、言葉が通じていないふりをしました。
私の顔をじろじろ見ながら、ふたりでひそひそ言っています。

「なに人だろ?」
「日系のガイジンかな」

あっちに行った女の子から聞きつけたのでしょう。
入れ替わるように、向こうにいた男の子が女湯スペースの木戸を開けて出てきます。
お風呂に入っている私を見て、
『うおっ』
そんなふうに目を丸くしていました。
嬉々とした表情で、彼もお湯に入ってきます。

(ひいいいん)

まさに羞恥の極みでした。
男子高校生3人といっしょにお湯につかっています。
しかも、全裸なのは私ひとりだけ・・・

「ぜんぜん言葉が通じねーよ」
「ガイジンみたいだぜ」

私は、野天風呂を満喫しているように見せていました。
陽気なキャラを装って、
「Belo cenário!」
気分よさげに終始ニコニコしています。

お湯につかったまま、くるっとからだを反転させました。
彼らに後ろを向いた状態から・・・
両手を伸ばして、湯だまりのふちの上に載せます。

「ざぼん、ざぼん」

少しだけ、バタ足をしてみせました。
まるで子どもみたいに、露天の開放感を味わっているふりをしてみせます。
緩慢な動きで、
「じゃぼん、じゃぼん」
2度3度とお湯のしぶきをあげていました。
そうかと思えば・・・

(どきどきどき)

湯面に腰を持ち上げて、ぷかっぷかっとお尻を浮かせます。
男の子たちの囁き声が、耳に届いてきていました。

「見えそう、やべえ」
「ま〇こ見える」

心臓のどきどきがとまりません。
まさに、非日常の興奮そのものを味わっていました。
わざとらしくならない程度に、
「ざぶっ、ざぶっ」
きわどい部分をチラつかせてあげます。
そして、

「ざばっ」

お湯から立ち上がりました。
少しのぼせたかのように、そのまま岩風呂のふちに腰かけます。

(だめぇ)

ここぞとばかりに浴びせられる、容赦のない視線・・・

(ひいっ、ひいいっ)
(耐えられない)

3人とも、いやらしさ全開の目をしていました。
そのまま素っ裸で向き合っている自分に、涙が出そうです。

「小っちぇえおっぱいだな」
「てか、貧乳すぎるだろ」

あまりの屈辱に、頭がどうにかなりそうでした。

(そんなふうに言わないで)

「でも見ろよ、乳首の(ヒソヒソヒソ)・・・」
「ほんとだ(ヒソヒソヒソ)・・・」

高校生に自分の胸を品評されながら・・・
その言葉のひとつひとつにプライドをえぐられている私がいます。

「横顔、えろいけどな」
「がっかりおっぱいだよな」

耳まで『かーっ』と熱くなりました。
何もわからないふりをして、なおも彼らの囁きに聞き入ります。

「25歳ぐらいかな」
「もう少し上だろ?」

真ん中の子が、
「もうちょっと脚ひらけよ」
にやにや顔で、いちばん興奮していました。

「ま〇こ、ま〇こ」
「ちょうど俺んとこから見えてんだよ」

そんな彼に、
「O que aconteceu?」
微笑みながらも、きょとんとした目を向けてみせます。

「やべえ、この人」
「俺のこと、みつめちゃってるよ」

通じ合えないふりをしました。
私は、わからないという顔をするだけです。
あたかも野天の温泉を満喫しているかのように、ニコニコしてみせました。

「なんか、超カワイイんだけど」
「やべえ、ま〇こ見えてるし」

(もうだめ、もうだめ)
(耐えられない)

外見は、なんら日本人と変わらないこの女の人・・・
通じなくても関係ないかのように、
「Estou feliz que vocês está?」
自然体のまま、にこやかに話しかけてあげます。

「ぜんぜんわかんねえ」
「英語もだめみたいだぞ」

死にそうなほど興奮している自分がいました。
からだをひねるようにして、後ろの渓流に目をやります。

適当に一点を指し示しながら、
「que é aquilo?」
おもむろに立ち上がりました。
くるっと彼らに背を向けて、岩風呂のふちに両手をつきます。

(ああん、だめえ)

もういちど同じあたりを指さしてみせました。
顔だけ振り向いて、
「É constrangedor」
男の子たちに話しかけます。

「Que vês?」
「Tirar o fôlego, não é?」

言葉の意味もわからないくせに、
「イエース、イエース」
ここぞとばかりに私の真後ろに詰め寄ってくる男子3人・・・

気持ちが倒錯していくような感覚で、昔の自分を思い出していました。

高校時代、陸上にうちこんでいたあのころ・・・
男の子と話すだけでも緊張してだめだった内気な私・・・
そんな私が、

(いやんいやん)
(高校生の前でなんて)

お湯の中に立ったまま、上半身を護岸のコンクリートに乗り出してしまいます。
しきりに、
「Vistas bonitas」
渓流の向こうを指さしてみせました。

「うわ、まる見え」
「おま〇こ(ヒソヒソヒソ)・・・」

(ひいいん)

まる出しのお尻を彼らに向けたまま、泣きそうになるのを必死にこらえます。

(嫌あぁん)
(見ないで、見ないで。。。)

「(ヒソヒソヒソ)・・・」
「(ヒソヒソ)・・・」

(恥ずかしいよぉ。。。)

振り返って、再びじゃぼんとお湯に身を沈めた私・・・
ものすごい屈辱でした。
目の前に、
(ひいいいいん)
私を見ながらニヤつく顔が並んでいます。

「Muito envergonhado」
「Eu quero voltar」

間を保つことができず、すぐに立ち上がって岩風呂からあがっていました。
トートからスポーツタオルを取り出して、からだを拭きます。

(ああん、もうだめ)
(そんな目で見ないで)

お湯の中から、3人が『じーっ』とヌードの私を見上げていました。
とにかく必死に自分の目に焼きつけているという感じです。

頑張って、最後まで明るいキャラを通しました。
股間を隠すこともなく、
「É verdade, eu sou japonesa」
一糸まとわぬ姿のままで、にこにこと話しかけてあげます。
ちょっと卑屈な気持ちになっていました。

(どうせ私なんて)
(いつもひとりぼっち。。。)

神奈川に帰ったら、また職探しの地味な生活です。

パンツもはかずに、全裸のままボディクリームを塗ってみせました。
無造作に足幅を開いているお姉さんを前に、男の子たちがにやにやしています。

(私なんて)
(誰も心配してくれる人がいない)

さりげなく後ろ向きになって、手のひらにクリームを足しました。
屈託ない声色で、
「Por favor, não olhe」
どこまでも陽気なふりを続けてみせます。

(ああああ、もうダメえ)

すぐ後ろから『見上げている』彼らの目の前で、思いっきり前かがみになりました。
こんなにキレイな女の人が・・・
お尻の穴までまる見えにしたまま、
「Por favor, olhe para o buraco nas nádegas」
無頓着な感じで自分の脚にクリームを伸ばしていきます。

(ひいいん、恥ずかしい。。。)
(そんなとこ見ないで)

さっき真ん中にいたあの子が、
「ざばっ」
いきなりお湯からあがって近づいてきました。
心の中で、瞬時に緊張が走ります。

「O que?」

にやにや顔を隠しきれていない彼でした。
身振りを交えて、
「ヘルプ、ユー」
クリームを塗ってくれるような仕草をしてきます。

「Não, obrigada」

きっぱりと断りました。
親切心で言ってくれているのではないことぐらい、私にだってわかります。
その代わりに、
(どきどきどき)
大仰に両腕を開いて、歩み寄っていく私・・・

「Obrigada」

ハグしてあげました。
すっぽんぽんのまま、相手のからだに『ぎゅうっ』と抱きついてあげます。
左右の頬に、ちゅっちゅっとしてやって・・・
「Deus o abençôe」
ニコニコ顔で彼から離れました。

手早く服を身につけて、トートバッグを持ちます。

「Tchau tchau」

その場をあとにしました。
階段道を上がりながらも、胸の鼓動の激しさが尋常ではありません。
出会ってから、わずか10分か15分限りの出来事・・・

(危ない・・・危ない・・・)
(さすがに無茶しすぎ)

どきどき興奮したまま、駐車場の車へと戻る私でした。


(PS)
あまり上達しなかったので、私の話し言葉はかなりメチャメチャなはずです。
彼らの会話も、実際にはかなり方言と訛りが出ていて、ここに書いたような標準語ではありません。

もしかしたら、あとでちょっとお願いごとを書かせていただくかもしれません。
長文に最後までお付き合いいただいて、ありがとうございました。


お湯につかったまま、タイミングをはかっていました。
すだれ1枚を隔てた向こうには、卑劣な覗きの男たち・・・

(まだだ、まだ・・・)
(もう少し時間をおいてから)

胸のどきどきを抑えられません。
まさに、非日常の空間に身を置いているような気分でした。

(わたしは・・・わたしは・・・)

あくまでも、覗かれている『被害者』の立場です。
この子は、まったく悪くありません。
何の罪もない表情で、遠くの景色に目をやってみせて・・・

(ねえねえ、鼻の下が伸びっぱなし?)
(どんなふうにからだを拭いてみせてほしい?)

と・・・

(あっ・・・)

一瞬、失敗を犯してしまった自分がいました。
すーっと視線を横にずらしたとき・・・
すだれごしとはいえ、向こう側と『目が合ってしまった』ような気がしたのです。
もちろん、勘違いのはずでした。
そんなことは物理的に絶対ありえません。

でも・・・本当に勘違い?
・・・焦燥がわきあがって、ものすごい胸騒ぎがしてきます。

(まずい?・・・まずった?)

瞬時に、すべての自信をなくしていました。
このまま気づかないふりを続けていいものか、すごく不安になります。

(えっ、えっ、どうする)
(どうしよう)

終わらせるしかありませんでした。

すだれのほうに向けて、
「誰っ!?」
鬼気迫った声を投げつけます。

(しょうがない)
(もう、ここまでだ)

仕方ありませんでした。
悲鳴をあげることで彼らを追い払って・・・
私自身も、泡を食ったように服を着て逃げ出す・・・
もうそれしか落としどころがありません。

やむを得ない流れでした。
人の気配を察知して、不審感でいっぱいになっているかのような顔をします。

演技していました。

「ざばっ」

お湯からあがって、
「誰かいるんですか・・・?」
おどおどした素振りですだれに近づきます。

(どきどきどき)

身を乗り出すように裏側を見ると・・・護岸の下に彼らがいました。

ふたりと完全に目が合います。
すかさず、
「きゃあああーっ!!」
渓谷中に響くような絶叫をあげるこの女・・・

(さよなら)

演技を貫いたままで・・・
自分のからだを隠すようにして、その場に小さくうずくまってみせる『私』でした。
だって、私は思い込んでいたのです。

「きゃっ、きゃああー!!」

悲鳴をあげれば『覗きがバレてしまった』と慌てふためいて・・・
彼らは一目散に逃げていくものだと。
なのに、
(えっ、えっ)
その場で間が抜けたように、私と視線が合ってしまったままでいるふたり。

1秒・・・2秒・・・
時間がとまったような感じになります。
私のほうこそ困惑していました。

「きゃああああー!」

もういちど悲鳴を浴びせかけます。
後ずさりして、
「じゃぶん」
湯だまりに飛び込んでいました。

「ぼくたち、怪しい者じゃないです」

おかっぱヘアーのほうの男が、開き直ったようにへらへらとしています。
悪意のある目でした。
すだれの陰から堂々と姿を現して、
「きゃあっ、きゃあっ」
お湯に身を沈めている私のことを見ています。

「よかったら混浴しませんか、と思って」

もうひとりのチビ男もいっしょでした。
ひょいっと、護岸の下からあがってこようとしています。

(嘘、うそっ)

本気で『まずい』と思いました。
ここは、それこそ『超』がつくほどのド田舎です。
渓谷の狭間にひっそりとたたずむ、無人の野天風呂でした。
過去にも、ここの温泉で嫌な思いをしたことがないわけじゃありません。
身の危険に直面しているのを感じました。
でも、
(あああ、こうなっちゃうのか・・・)
そのわりには、さほど慌てていない自分がいます。

「えっ、えっ、えっ」

焦った『ふり』をしながらも・・・
逃げ出す手立てを考えようと、頭がフル回転していました。

「ちょっとっ、なんですか!」
「ここ女湯ですよっ!!」

「そんなのどこにも書いてないじゃーん」

腰に巻いていたタオルを外して、いっしょのお湯に入ってくるふたり・・・

「じゃぶっ」
「・・ざぶっ」

女湯は、男湯の岩風呂のように大きくありません。
大人が3人も入ったら手足も伸ばせないような、小さな『湯だまり』です。

「イヤあイヤあ、なんなの」
「あっち行って!」

男ふたりに左右を挟まれながら、懸命に身を縮こませていました。
2本の腕だけで、必死にからだを隠します。
逃げようがありませんでした。
透明のお湯の中に揺らぐ私のからだを見ようと、ふたりが密着してきます。
・・・悪意たっぷりにニヤニヤしながら。

(ああ、あ・・・)

絶体絶命でした。
いつ襲われたっておかしくない状況です。
それなのに・・・
本当に、私には・・・こんな一面があったのでしょうか。
こんな状況にもかかわらず、内心死ぬほど興奮している自分がいます。

(ひいん、恥ずかしい。。。)

恐怖はありませんでした。
いや、本当はあるはずなのに・・・

(見ないで、見ないでえ)

こんなに嫌がっているのに、無理やり混浴させられている『かわいそうな女』がここにいます。
必死に前を隠しながら、
(ひいん、変態。。。)
自分の胸を押さえていました。
おかっぱ男が、私の耳もとで囁きます。

「ねえねえ、名前なんて言うの?」

問いかけを無視して、
「あっち行って」
泣きそうにうつむいていました。

危ないシチュエーションだとわかっているのに、真っ裸の自分に興奮しています。
チビ男が、意地悪そうに鼻の下を伸ばしていました。

(いやあん、恥ずかしい)
(あっち行ってえ)

「どっから来たの?」
「かわいいって言われるでしょ?」

お湯から出るに出られず・・・
身をすくめたまま、必死に手でからだを隠している『この女』・・・

相手に何も言い返すことができません。
そんな、どこまでも気の弱い『内気な女』になりきりました。

「ねえねえ、ダンスが趣味なの?」

はっと顔をあげて、当惑の表情を浮かべてみせます。
ずっと覗かれていたんだと、いま気づいたかのように・・・
「ぇ・・ぇ・・ぇ」
ショックに動揺してみせて・・・

「じゃあ、肩こるでしょ?」

露骨にニヤニヤされていました。
おかっぱ男が、
「マッサージしてあげるよ」
いきなり『すっ』と私の肩にふれてきます。

「イヤっ!」

次の瞬間には・・・
腕といい、脚といい、お湯の中でからだじゅうを揉みまわされていました。
とっさにどれかの手を掴んでも、
「イヤっ、痴漢!」
他の何本もの手が、私の胸をさわってきます。
あからさまに嫌がってみせますが、チビ男に思いっきりおっぱいを揉まれていました。
振り払っても振り払っても、太もものあいだにまで手が割り込んできます。
4本の腕には抵抗できませんでした。
何度も股間をなぞられながら、
(ふざけんな・・・ふざけんな・・・)
何も言えずに、目にいっぱいの涙を浮かべている自分がいます。

「やめて、やめて」

半ば、諦めの境地でした。
さわられるのは、心底イヤな私です。
それなのに、
(あああ、自業自得だ)
あっさり観念してしまっている自分がいます。
嵐が過ぎるのを、じっと待つしかありませんでした。
うなだれたまま、身動きもできずにいるこの女・・・
泣きそうな声で、
「痴漢・・・痴漢・・・」
つぶやくのがやっとです。

「そうでーす」

おかっぱ男が調子に乗っていました。
おちゃらけながら、
「ぼくたち、痴っ漢でーす」
無抵抗な私を背中から羽交い締め(?)みたいにしてきます。

「きゃっ!」

ほどこうとするも、びくともしませんでした。
私の両脇を抱えたまま、
「きゃぁっ」
そのまま強引に立ち上がろうとするおかっぱ男・・・

「きゃあっ、きゃぁぁあっ」

ふりほどこうと抵抗しますが、
「ざばっ、ざばざばっ」
お湯の中から、無理やり引き立たされてしまいます。

(ひいいいん)

最高に興奮しました。
すっぽんぽんのまま、どこも隠すことができません。
チビ男の目の前で、
「イヤぁ、見ないで」
からだをよじって恥ずかしがる私・・・
おかっぱ男に後ろからがっちり抱え込まれたまま、両腕を下ろさせてもらえません。
つま先立ちになるぐらい、からだをのけ反らさせられて・・・

「イヤあ・・・」
「・・恥ずかしいぃ・・・」

無防備そのものでした。
チビ男が、私の股間を凝視しています。
涙声で、
「放して、放してよう」
必死に左右の太ももを重ね合わせようとする、この女・・・
そんな自分が“最高”に快感でした。
男に見られているのに、脚を閉じることができません。

(ひいん、見ないでえ。。。)
(変態・・・変態・・・)

そして次の瞬間には・・・“最低”な気分を味わっていました。
そのチビ男が、私の股に顔を埋めてこようとします。

正直、このあたりからの記憶はそれほど鮮明ではありません。
なす術もなく痴漢されていました。
羽交い締めされたまま、
「やめて、やめて」
がっくりと抗う気力を奪われていく私・・・

(私、このまま)
(最後まで犯られちゃうのかもしれないな)

そんなこと自分には起こらない・・・
ずっとそう思ってきながらも、
(いつか、こんなことになるときが来るって『わかってた』・・・)
すでに現実感もなく、どこか他人事のような気持ちでした。
昔だって、いつもリスクはひしひし感じていたのです。
しょうがないというか、
(10代の小娘じゃあるまいし)
長年こんなことを続けてきていた以上、なんとなく覚悟はできていたのかもしれません。

背後からの力がゆるみました。
おかっぱ男が、そのまま後ろから左右の胸を鷲づかみしてきます。
感触を楽しむように、
(こいつ、弄びやがって・・・)
私のおっぱいで遊んでいる、このブサイクな男・・・
悔しくて涙が出ました。

(ヤラレてたまるか)

自分でもよくわかりません。
からだが勝手に動いていました。
力の限りに、
(ばっかやろー!)
彼のからだを後ろに押している自分がいます。
勢いのまま、相手をぺたんと湯だまりのふちに尻もちをつかせていました。

(ふざけんな)

次の瞬間には・・・
覆いかぶさるように、おかっぱ男の唇を奪っていた私・・・

同時に、相手のお〇んちんを手で掴んでいました。
ぶちゅぶちゅとキスしてやりながら、握りしめたものを素早く上下します。
ものの数秒でした。
あっというまに果てたおかっぱ男・・・
そのまま呆然となっています。

(たしか昔)
(誰かが言ってた)

驚いているチビ男のほうを向きました。
反り立ったものを握ってやると、信じられないという顔になっています。

(この変態ヤロー)

キスを浴びせてやりながら、右手でそれを摩りあげました。
私も、もう完全に開き直っています。
誰かの手が、がさつに私のお尻を撫でまわしていました。
鷲づかみに尻の割れ目をなぞられますが・・・
そんなの無視して、
(さわりたきゃ、さわれよ)
目の前の男の唇を、激しくむさぼります。

(こんな美人だぞ)
(キスされて夢みたいだろ?)

チビ男も、すぐに果てていました。
振り向きざま、
(ブサイク野郎・・・)
間髪入れずに、またおかっぱ男のを握ります。

もはや身動きもせず、私にお〇んちんを委ねてしまっているこの痴漢男・・・

(誰かが言ってた)
(イカせちゃえば萎えるって)

明らかに、1回目より衰えているのがわかりました。
かまわず一気に擦りあげます。

(私だって)
(このあいだまで結婚してたんだから)

微妙なさじ加減で、小刻みに手を上下してやりました。
うっとりしているのが伝わってきます。
すかさずキスしてやると・・・
ぐっ、ぐっ・・・という感じの顔になっていきました。
再び、私の手の中で果てています。

さっきまでの勢いが嘘のようでした。
ふたりとも、茫然自失といった表情になっています。

潮目が変わった感じがしたこの瞬間を、私は見逃しませんでした。
今しかありません。
氷のような目で、冷たく言い放ちました。

「通報しますから」

ぎょっとした顔になるおかっぱ男・・・
明らかに動揺した感じになっています。

本当にそうするつもりはありませんでしたが、自分の身を守るためでした。
怒りに満ちた表情で、
「許しませんから」
ふたりに憤懣やるかたない視線を向けます。

ふたりが逃げ出そうとしていました。
彼らも必死だったのでしょう。
おかっぱ男が、私にとびかかってきていました。
腕を掴んできたので、
「きゃあっ」
それを懸命に振りほどこうとします。

そのとき・・・

私は、信じがたい光景を目にしていました。
まるでスローモーションでも見ているかのように・・・

(ああっ・・・)

チビ男が、私のトートバッグを持って・・・
さらに、脱ぎ重ねておいた私の服もぜんぶ抱えて・・・

石垣をまわって男湯のほうへ逃げていきます。

そして私は、
「きゃっ」
自分だけ湯だまりの中に突き落とされていました。

「ざぼん!!」

おかっぱ男も、チビ男の後を追うように消えていきます。

(イヤっ)
(待って!!)

声が出ませんでした。
ざばざばとお湯から立ち上がって、湯だまりから出ます。
私も石垣をまわりこみました。
開けっ放しになっていた木戸から、男湯スペースへ・・・

(嫌っ、そんな・・・)

とても追いつけるような距離ではありません。
もう、ふたりとも階段道を駆け上がりはじめていました。

アイツら自身の服と荷物はもちろん・・・
私の服までいっしょに持って・・・

全裸の男ふたりが、一目散に逃げていきます。

(嘘・・・)

呆然と見送ることしかできませんでした。
痴漢たちの後ろ姿が、あっというまに階段道のカーブへと消えていきます。

(嘘・・・嘘・・・)

ただただ、呆然としていました。
いつまでたっても事態を受け止めることができません。
とにかく、ショックでした。

(そんな、そんな・・・)
(ぜんぶ持っていかれた・・・)

このあたりの場面からは、また記憶が鮮明に残っています。

恐怖と不安が一気に押し寄せてきていました。
貧血を起こしたかと思うぐらい、歩きながら足もとがぐらぐら揺らぎます。
放心状態のまま、とりあえず女湯スペースに戻っていました。

(嘘・・・嘘・・・)
(こんなの、嘘・・・)

頭の中がものすごく混乱したまま・・・
なぜか、意思とは関係なくからだが動いています。

湯だまりの前にひざまずいていました。
木桶でお湯をすくって、入念に自分の手を流します。
奴らが私の手の中で果てたときのべとべとを、何度もお湯で流していました。

(はだかのままで・・・)
(こんなところに・・・)

状況は理解できています。
でも、頭の中で未だに現実を受け止めきれていませんでした。
この世が終わったような気持ちとでも例えたら、少しは焦燥感が伝わるでしょうか。

(どうしよう・・・どうしよう・・・)

衝撃というか、自分の状況がショックでした。
過去にだって幾度となく窮地に陥ったことがなかったわけじゃありません。
その都度、なんとか切り抜けてきた『私』でした。
でも、そんなの・・・思えば、ただ運がよかったというだけのことです。

今度という今度は、奈落の底に突き落とされたような心境でした。
だめだ、
(泣く・・・)
不安がこみあげて、嗚咽をこらえることができません。

(どうしたらいいの)

荷物も服も、すべて盗まれてしまいました。
残っているのは・・・
横の岩に置いておいたタオル1枚と、スニーカーだけ。

(どうしたらいいんだよ)

絶望感でいっぱいでした。
ここは・・・こんなにも山奥にある、渓谷の温泉です。


たったひとりで取り残されてしまった私・・・

・・・助けを呼ぶ?

(でも、誰に?)
(どうやって?)

考えがまとまらないまま、お湯をくみ上げていました。
頭が空っぽになってしまった状態で・・・
あのふたりが地べたに飛び散らせた汚いものを、ざばざばーっと流している自分がいます。
はだかのまま、女湯スペースで途方にくれていました。

(とにかく最後まで襲われずにはすんだ)

もはやネガティブなのかポジティブなのかさえも、わかりません。

(荷物は、もういい)

とりあえず、トートの中には最低限のものしか入れてきてありませんでした。
盗まれたとはいえ、あの中には身元が知れるものや貴重品はありません。
そして・・・

(車のキーは、ちゃんと置いてきてある・・・)
(予備の服も一揃い、車の中にある・・・)

徐々に、冷静になってきていました。
とりあえず車まで戻ることができれば、自力でなんとかなる・・・

(そうすれば)
(何事もなかったかのように帰れる)

またしても途方にくれていました。
このまま全裸で駐車場まで戻るなんて、できるはずがありません。
でも・・・
(やるしかない)
・・・涙が出そうでした。

あとになって考えてみれば・・・
そのまま他の入浴客が来るのをひたすら待つという選択肢もあったのかもしれません。
現れたその人に事情を話して、助けてもらうという手もあったはずでした。

なぜなのかは、わかりません。
このときの私には、その発想がまったくありませんでした。
追い詰められてしまって、とにかく必死です。
なんとか切り抜けなきゃという一心でした。

素足にスニーカーをはきます。

(誰にもみつからずに)
(車まで戻るしかない)

岩に置いてあったタオルを取りました。
バスタオル代わりに持ってきていた、スポーツタオルです。
たいして大きくはありません。

腰に巻いて結わえました。
せいぜい、ひざ上まで隠れる程度しかない短さです。

(これだけ)
(たったのこれだけ)

あまりに心細くて、ひざががくがく震えそうでした。

(こんなの)
(はだかなのといっしょ)

幸いにも利用者の多い温泉ではありません。
とはいえ、駐車場まで戻る途中で・・・
誰かに鉢合わせしないとは言い切れませんでした。

(行くしかない)

木戸から出て、男湯スペースを突っ切ります。

(みつからずに行くしかない)

心臓がどうにかなりそうでした。
耳の裏あたりまで響いてくるような感覚で、鼓動がどきどきしています。
すでに『生きた心地』がしていませんでした。
階段道を上りはじめます。
登りながら、崖に沿うようにカーブしていく階段道・・・

(もしそこの先から)
(いきなり誰かが現れたら・・・)

考えるだけで、まともに息ができませんでした。
口で呼吸をしながら、おそるおそる登っていきます。

(どきどきどき)

誰もいませんでした。
ほっとしながら、なぜかNさんの顔を思い浮かべます。
あの人とサヨナラしたあと、まっすぐ実家に向かっておけば・・・
こんなことにならなかったのに・・・

(なんでまた来ちゃったんだ)
(馬鹿だ、私・・・)

後悔でいっぱいでした。
調子に乗って戻ってきてしまった自分の愚かさをひらすら呪います。

(どきどきどき)

階段道を上がりきりました。
森の歩道に出る1歩手前で、立ち止まります。
そのまま、少し様子をみました。

(どきどきどき)
(どきどきどき)

自分ひとりだけが、この場に立っています。
人の気配はありませんでした。
ここを『左』にまっすぐ進めば、やがて駐車場に行きつくことになります。
でも、完全に足がすくんでいました。
どうしても勇気を出すことができない私がいます。

(無理・・・無理・・・)

ここから先のほとんどは・・・
片側は山の斜面で、もう片側は崖のような感じになっている細い歩道でした。
途中でまったく逃げ場のない1本道です。

のんびり歩けば10分ぐらいですから・・・
走っていけば、数分でしょうか・・・

(こんな格好で)
(とてもいけない)

来ないときは1時間待ってたって誰も来ないような野天温泉ですが・・・
だからといって、いまこの瞬間に人が歩いて来ていないなんて言い切れませんでした。

やっぱりやめてお風呂のところに戻るなら、ここがラストチャンスです。
でも、戻ったって・・・
それで活路が開けるわけではありませんでした。

(行くしかない)
(きっと大丈夫、誰にも会わない)

ここからは、運を天に任せるしかありません。
勇気をふりしぼりました。
震える足で、最初の1歩を踏み出しかけます。
が、
(あっ!!)
反射的に、森の歩道を『右』へと駆け出していた私・・・

(やばい、やばい、やばいっ!!)

確かに、人の気配を感じていました。
10メートルも行ったところで、すぐに脇の木のかげに隠れます。

(どきどきどきどきどき)
(どきどきどきどきどき)

行こうとしていた方向から、やはり人が歩いて来ていました。

(こんなところでみつかったら)
(言い訳できない)

中高年の男性たちです。
3人でした。
死にそうな気持ちで息を潜めたまま、必死に気配を消します。

(どきどきどきどきどき)

「看板出てるぞ」
「ここ下りてけばいいのか?」

(どきどきどきどきどき)

わいわい言いながら、階段道を下っていく気配がしていました。
なんとか無事にやりすごせそうです。

(どきどきどきどき)
(どきどきどきどき)

心底、怖くなっていました。
さっき、もし躊躇わずにそのまま進んでしまっていたなら・・・
この格好のままで、あの人たちに出くわしてしまっていたはずです。

(こんな格好で)
(・・・全裸も同然の、こんな格好で)

躊躇う気持ちが、私をその場に踏みとどまらせていました。
今から行って、また同じことが起こらないとは言い切れないのです。

(どきどきどきどき)
(どきどきどきどき)

それでも行くしかありませんでした。
あのおじさんたちが下りて行ったことで、むしろ退路も断たれてしまったような状況です。
もう、お風呂に戻ることも不可能でした。
本当に泣きそうで泣きそうで・・・恐怖に涙があふれてくるのを必死にこらえます。

(どきどきどき)
(どきどきどき)

覚悟を決めました。
行くしかない・・・やはり行くしかないのです。

(おねがい)
(誰にも会わさせないで)

木のかげからそっと出ました。
なかなか不安に打ち勝つことができず、どうしても足がすくみます。

(行こう)

・・・なるべく早足で。
・・・誰にも会わないよう、なるべく短い時間で。

恐る恐る踏み出したスニーカーが、地面でパチ、パチっと枝葉を鳴らしました。
そんな小さな音さえも、私の心臓を縮みあがらせます。
もう、祈るしかありませんでした。
やっと勇気をふりしぼった『私』・・・なのに・・・

そのときです。

(ひっ!)

お風呂に下っていったはずのおじさんたちが、いきなり階段道のところから出てきました。
思いっきり目と目が合って、
(ひいいっ)
ビタッと、からだが硬直してしまいます。

「ほうら、な」
「おかしいと思った」

(そんな・・・)

悪夢を見ているかのようでした。
慌てて自分の立場を取り繕おうとしている自分がいます。

「ちがうんです、ちがうんです」

両手で胸を隠したまま、泣きそうに言い訳をしていました。
腰が抜けそうになってしまって、後ずさりすることすらできません。

「お風呂で」
「服を、盗られちゃって」

(ひいい、見ないで)

全員、50~60代ぐらいの感じでした。
あまりにも無防備な私の姿に、3人とも目を丸くしています。

「へええ」
「すごい格好だね」

その下品な口ぶりに、すーっと血の気が引く思いでした。
同情してくれるというよりは、むしろ嬉々として面白がっているような感じです。

(最悪だ・・・)
(こんな最悪なことってあるの・・・)

見た目『美人』なこの容姿が、相手を興奮させているようでした。
必死に両手で胸もとを押さえている私に、ものすごい視線を浴びせてきています。

(助けてくれないの?)
(こんなに困ってみせているのに)

「大変だったね、お姉さん」

またしても絶体絶命でした。
親切なのは言葉だけで、
「もう大丈夫、安心だから」
明らかに、この手がずれておっぱいが露わになってしまうことに期待している目・・・
上着を貸そうと申し出てくれる様子もありません。

「ちがうんです」
「わたし、本当に服を盗られて」

信じてもらえている気がしませんでした。
いえ・・・哀れな私の言い分を、おそらく信じてくれてはいるのです。
わかったうえで、
(いやぁ、あっち行って)
半裸の私をじろじろ見ながら鼻の下を伸ばしているオヤジたち・・・

「そりゃあ、大変だ」
「悪いやつがいるねえ」

視線に遠慮がありませんでした。
タオルを腰に巻いているだけで、いまにも泣きそうになっている私です。
なかでも、左にいるメガネオヤジが要注意でした。
目つきが露骨にいやらしすぎます。

(こいつらもかよ)
(ちっくしょう)

「あれっ、だいじょうぶ?」
「ほどけそうだよ?」

いきなりでした。
まるでスカートめくりするみたいに・・・
メガネオヤジが、
「きゃっ!」
私の『腰のタオル』を、ふざけて後ろからめくろうとしてきます。

「何するんですかっ!?」

とっさに振り払っていました。
一瞬露わになってしまった胸を、慌ててまた手で隠しますが・・・
メガネオヤジが、してやったりの表情になっています。

「イヤっ」

(信じられない)
(こんなことする人、いるの!?)

そして、同時に興奮していました。
あまりの恥ずかしさに、顔をうつむけずにはいられません。

(こんな状況なのに・・・)
(・・こんな状況なのに・・・)

からかうように、
「ちゃんと結ばなきゃ」
しつこくタオルに手を伸ばしてこようとするメガネオヤジ・・・

「きゃっ!」

すその部分を掴まれていました。
引っ張られそうになって、
「イヤっ、やめてっ」
めくらめれまいと『両手』で必死に押さえます。

「お姉さん、おっぱい見えてんぞ!」

頭に、かーっと血が昇りました。
あとのふたりも、やんややんやの感じで囃したてています。

「ほら、ちゃんと隠さんと!」
「がんばれ、がんばれ」

泣きそうな顔で、
「いやあ、いやあ、意地悪・・・」
胸をまる出しにさせられたまま、懸命に股間のところでタオルを押さえていました。
ついには腰からも外れて、完全にはだけてしまいます。
タオルを剥ぎ取られていました。

「おおーっ!」

そのまま相手にタオルを奪われてしまいそうになりますが・・・
私も、
「きゃああああ!!」
意地でも手から離しません。

「うおぅ」
「すげえ!」

くつ以外は、すっぽんぽんでした。
取り囲まれたまま、オヤジたちに見られまくっています。

「返してくださいっ」

力では敵いませんでした。
綱引きとまではいいませんが、もうそれに近い状態でタオルを引っ張られています。
このタオルだけは奪われるわけにはいきませんでした。
両手で掴んだままなので、からだを隠すことができません。

「お姉さん、けつ!けつ!」

引きずられるように、
「ざざっ、ざざざっ・・・」
スニーカーの底が・・・1歩、2歩と地面を滑ります。

計算していました。
いや・・・計算なんかしていません。

(ひいいん、もっと見て)
(意地悪に囃し立てて)

両脚を開いて踏ん張りました。
太ももの筋肉を張ったまま、非力な女になりきります。
へっぴり腰を突き出して・・・
「返してっ・・返してっ・・・」
引きずられないよう踏みとどまろうとしてみせました。

(こんなオヤジに・・・こんなオヤジに・・・)

「べっぴんさん、○○○見えとんぞ!」

背後のオヤジたちから、嘲笑のような言葉を浴びせられます。

「イヤあっ、イヤあ」

痩せたお尻を全開にして、がむしゃらに引っ張り返すふりをしました。
ギャラリーのふたりを真後ろに従えたまま・・・
涙声で、
「返して、いじわる」
屈辱に顔を歪めてみせます。

(もうだめ、泣いちゃう)

さすがにかわいそうだと思ったのか、メガネオヤジがタオルから手を離してくれました。

その瞬間、もう駆け出している自分がいます。
森の歩道を全力で突っ走っていました。

(いやん、いやん)

しばらく行って振り返りましたが、ひとりも追ってきていません。
心臓が破裂しそうでした。
行く先を見渡しながら、ようやくタオルを腰に巻きます。

「はあ、はあ、はあ・・・」

足がぐらぐらしました。
木の根のようなものにつまずきかけて、肝を冷やします。
それでも走り続けました。

(お願い)
(もう誰もいないで)

息を切らしながらも、
「はあ、はあ、はあ・・・」
半裸で森の歩道をひた走りました。
幸い、誰とも鉢合わせするようなことはありません。

(お願い・・・お願い・・・)

駐車場まであと100mぐらいのところまで来ました。
このあたりから崖はなくなって、左右は森林のようになります。

「はあ、はあ、はあ」

その木々の中へと分け入りました。
もういちど、腰のタオルをしっかり結わえ直します。

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」

歩道からではなく、森の中を抜けるようにゆっくり駐車場に近づいていきました。
足首にまとわりついてくる植物を踏み散らしながら・・・
人の気配に、全神経を研ぎ澄ませます。

(どきどきどき)

やがて、木々のあいだから駐車場が見えてきました。
私のレンタカーが目に入ります。

(よしっ、誰もいない)

おかっぱ男たちの車は、いなくなっていました。
あちらにとまっている白いセダンは、さっきのオヤジたちのものでしょう。
森のはじっこのギリギリのところまで進んで、慎重に様子を窺います。

(誰もいない)
(大丈夫・・・今なら誰もいない・・・)

静寂でした。
聞こえてくるのは、鳥の声・・・
木々のざわめき・・・
と思えば、

「ブオオオオ・・・」

けたたましい排気音が近づいてきて、そのまま1台の車が目の前の道を通過していきます。

(どきどきどきどき)

再び静けさが戻りました。
・・・耳に入るのは、森の音だけ。

(誰もいない・・・大丈夫・・・・・・)

森から飛び出しました。
自分の車のもとまで、一気に走ります。

「はあっ、はあっ、はあっ」

周囲に、私の服が散乱していました。
おかっぱ男たちが捨てていったのでしょう。
トートも落ちていました。
それらには目もくれず・・・
車体の、ある部分に隠していたキーを外します。

(誰も来ないで)
(誰も来ないで)

「はあ、はあ、はあ、はあ」

トランクを開けました。
ボストンバッグの中から、予備の服を掻きだします。

(誰も来てない)
(はやく・・はやく・・・)

下着もつけずに、一瞬でハーフパンツをはいていました。
かぶるようにニットセーターを着ます。
ほっとして・・・
がくがくがくと、ひざから脱力していました。

(どきどきどきどき)
(どきどきどきどき)

助かった・・・
・・助かった・・・

このときの私は、もう完全に抜け殻状態です。
でも、いつまでもこの場にとどまりたくはありませんでした。
焦りながらも、なんとか身なりを整えます。

(ちっくしょ)

ばら撒かれていた自分の服を拾い集めて・・・

(あいつら・・・)

それから車をスタートさせていました。
放心状態というか、このタイミングになってぼろぼろと涙がとまらない私・・・

(どきどきどきどき)
(どきどきどきどき)

しばらく行ったところで、車をとめている『私』がいます。
みじめな気持ちのまま、ずっと頭の中が真っ白でした。
このときに至っては・・・
もう何も考えることができずに、ただぼけーっとしていた感じです。

(わたし・・・)
(切り抜けたんだな)

おぼろげにそう思いました。

(ここまで危なかったのは初めてだけど)
(でも、いまはこうしてここにいる)

からだがガタガタ震えてきます。
気持ちを落ち着かせようと、無意識に口にしていたチョコレート・・・
その甘さに、ほっと安堵感を覚える私でした。


(PS)
長文にお付き合いいただいてありがとうございました。
思った以上に時間がかかってしまいましたが、ようやく最後まで書き終えました。
あれからもう半月ぐらい・・・
一部を除いて、記憶はまだかなり強烈なままです。

書こうと決めたそのときから、自身の心情の部分もなるべくつまびらかに綴っていこうと考えていました。
私の性格の悪さがわかってしまうようなくだりもふくめて・・・
自分なりに、心のうちまですべて正直に吐露して書いたつもりです。
これで私のことを嫌いになる人が増えたとしても、それならそれで別にかまいません。
もし批判したければ、お好きなだけどうぞ。

リスクについては、人から言われるまでもありません。
読んでくださった誰よりも、昔から私自身がいちばん身に染みて理解していることです。
それらもすべて併せのんだうえで、こうして書いて投稿した次第ですから・・・
あらたまっての忠告等はご無用です。
また、私のことをご心配くださるようなコメントも一切不要です。
そういう感じの流れになるのなら、私はここにはもう二度と投稿をしません。

私にとっては本当にショッキングな1日だったのですが・・・
おかげさまで、書き終えたことによって自分なりにだいぶん気持ちの整理もついた気がします。
くどいようですが、私はいたって元気ですので本当にご心配いただく必要はありません。
毎日元気にしています。

最後に、Nさんへ。
前半部分を読んで、かなりの衝撃をお受けになられたのではないかと思います。
いろいろとすみません。
ありがとうございました。

温泉

Nさんと別れた私は、もとの温泉地に向けて車を運転していました。

(Nさん、喜んでくれたかな)

山の中の国道をひた走りながら、
(真相を知ったらショックかなあ)
あの人に対して自分がやったことについて、それなりに罪悪感がないわけではありません。
いつも、他人を利用してばかりいる私・・・

(でも・・・)
(あの人も嬉しそうにしてた)

あの人は、私の『ファン』・・・
自分なんかにそんな存在がいること自体が不思議な感覚でした。
私なんて、本当に何の取り柄もないつまらない人間なのに。
二度とお会いすることはないですが、
(良い思い出になってくれてたらいいな)
車を運転しながらも、そんなふうに願ってやまない気持ちの『私』です。

林道に入りました。
以前から私の投稿を読んでくださっている方たちの中には・・・
私がお手軽にちょくちょくこの野天温泉を訪れているようにお思いの人もいるようですが、とんでもありません。
ここは○○県のはるか山の中です。
私の住んでいる関東からは、とてつもなく遠い田舎にありました。
そうそう気軽に来られるような場所ではありません。
でも・・・今夜は、ここの隣の県にある私の実家に帰ることにしてありました。
まだ、多少は時間があります。
このまま帰るのは、もったいないというものでした。

(それにしても腹が立つ)

迷惑な『A』のことが頭をよぎって、ちょっとだけイラっとしている自分がいます。

(相手選びに失敗しなかったら)
(愛媛でも、きっとうまくいったはずだったのに)

あのときはあのときで、自分なりに綿密なプランを組み立てていた私でした。

(まあ、しょうがない)
(もう忘れよう)

私には、今がある・・・
大好きな『あの場所』が、また近づいてきてる・・・

(お願い・・・誰かいて・・・)
(こっそり覗かせてあげるから)

さっきNさんとおそばを食べた、お食事処のある旅館・・・
そしてまた同じく1軒、2軒と小さな旅館の前を通過していきます。

野天風呂への入口につながる駐車場が見えてきました。
すでに車が1台とまっています。
ナンバープレートを見ると、このあたりのものではありませんでした。

(どうする?)

行ってみなければ何もはじまりません。
どことなく、すべて吹っ切れたような気持ちでした。

最低限の荷物だけをトートバッグに詰めて、車を降ります。
スマホとデジカメは・・・
ちょっと迷いましたが、持っていくのはやめておきました。
万一紛失でもしようものなら、さっきNさんに撮られた写真を他人に見られかねません。
車のキーも、いつものように『ある場所』に隠しました。

森林の中へと入っていきます。
なんだか不思議な感じでした。
ほんの数時間前には、Nさんといっしょに歩いたこの場所・・・
今の私は、もうひとりぼっちです。

(ごめんね、Nさん)
(わたし、ひとりのほうが何でもできるの)

森の歩道をすすんだ先の途中から、横の階段道を下りていきました。
崖に沿うような急こう配を曲がっていくと、男湯スペースが見えてきます。

(誰かいる)

男性が2人、岩風呂につかっているのが見えました。
たぶん、私と同世代ぐらいの人たちです。
私が階段道に現れると同時に、彼らも私の存在にすぐ気づいたようでした。
じっとこっちを見上げているのがわかります。

階段道を下りきりました。
男湯スペースの中を突っ切るように、ふたりに近づいていきます。
ずっと見られていました。
・・・そう、じろじろと不自然なぐらいに。

(どきどきどき)

現われた私のことを、この人たちは『観察』するような目で見ています。
はっきりと予感のようなものを覚えていました。

私はにこっと、
「こんにちは」
かたちだけの挨拶をします。
にこっと・・・と言うよりは、ニヤッと・・・
彼らも『こんにちは』と挨拶を返してきました。
ひとりが、無意識に護岸のコンクリートのほうにちらっと目をやっています。

(知ってるな)

もし私が、ここに初めて来た『普通』の女だったら・・・
何も気づくことはなかったでしょう。
でも、私にはお見通しでした。

(この人たちは)
(女湯を覗けることを知ってる)

そのコンクリート部分から下におりれば、護岸に沿って女湯のすだれ前まで行くことが可能です。
この男たちは、それを知っているということでした。

駐車場にとまっていた車は県外ナンバーでしたから、知っていてわざわざここに訪ねて来ている可能性も捨てきれません。
もしかしたら、この温泉での覗きの常習者なのかもしれない・・・
それ目的でここに来た奴らなのかもしれない・・・
経験上(?)、瞬時にそう感じていました。

ぱっと見、ちょっと目を引く容姿の私です。
もしそうなら、彼らにとっては願ってもないターゲットが訪ねて来た状況のはずでした。

(こんな美人じゃ)
(もう覗かずにいられないでしょ?)

無垢なふりをして、
「あの・・・」
その場に立ち止まります。

私は、まったく動じていませんでした。

「〇〇の湯って、ここですよね?」

わざとこちらから話しかけてみます。
もう片方の男性が、
「そうですよ」
近づいてきた私をまじまじと見ながら返事をしてくれました。
その細かい挙動のひとつひとつを、注意深く観察します。

目線の動き・・・
口もとのゆるみ・・・

「すみません、ありがとうございます」

私は、木戸に向かって歩きだしました。
ふたりとも、舐めるような目で私のことを見ています。

(間違いない)
(こいつら『覗き』だ)

大チャンスだと思いました。
まったく焦ることなく、
(だいじょうぶ)
完全に冷静さを保ったままの自分がいます。

(私が木戸を抜けると同時に・・・)
(あのふたりは、すぐさま護岸の下に降りようとするはず)

こんなの自慢できることではないですが、やはり私のほうが一枚上手でした。
この先の彼らの行動を、すっかり読むことができています。

「ガタッ」

木戸を開けて、中に入りました。
再びしっかり閉めた私は、その場にとどまります。
木戸の隙間から、そっとあのふたりの様子を窺いました。

案の定、
「ざばざばっ」
ふたりともお湯の中から立ち上がって、急いで腰にタオルを巻いています。

どう説明したらいいのかわかりませんが・・・
私は、『余裕』でした。
彼らの印象は、あまり良いとはいえません。
でも、女を襲ってくるほどの奴らという感じでもありませんでした。

(なんて馬鹿な男たち)
(バレバレだとも知らないで)

むしろ相手の男たちを手玉に取ってやっているような感覚で、ふたりの行動を観察します。

(こんなにいい女が現れちゃって)
(居ても立ってもいられないでしょ?)

注目していました。
彼らがスマホやカメラを手にするようなら、即座に見切りをつけて帰るまでです。
でも、
(よしっ)
手ぶらのまま、コンクリート部分から護岸の下に降りていく彼ら・・・
私は、石垣をまわりこんで女湯スペースに行きました。

(もし、Nさんがいるときに)
(彼らが来てたらどうなってたかな)

ふとそんなことを思いましたが、いまそれを考えたって意味はありません。

スニーカーを脱ぎながら、気持ちの昂ぶりを感じていました。
あのふたり、
(どきどきだろうな)
あれだけ私の顔をじろじろ見ていたのです。
内心では『絶好のカモが現れた』と、ニヤけていたに違いありませんでした。
手近な岩の上にトートを置いて、靴下を脱ぎます。

(来たっ)

パーカーを脱いでいるときに、すだれの隙間がかすかに明暗しました。
もともと女湯スペースを外の視線から遮るために立てかけられている『すだれ』です。
でも、古くて隙間だらけのものでした。
近づいて顔を寄せれば、中の女湯を覗き放題です。
何度もここを使っている私には、そこに人がいるのがはっきりわかりました。

(ああん、だめだめ)
(脱いじゃだめえ)

ジーンズを下ろしながら、わざと自虐的な気持ちを煽っていきます。
何も気づいていないふりをしていました。

(男たちがそこにいるよ)
(それなのに・・・)

何も知らない覗きの被害者になりきりながら、あたりまえのようにブラを外します。
胸を出して、
(ひいん、だめえ)
素知らぬ顔をしてみせる自分に興奮しました。

(イヤあん、見ないで)
(恥ずかしい)

おっぱいをまる見えにしたまま、もったいぶるように時間を稼ぎます。
トートバッグからタオルを取り出して、丁寧にたたみ直してから隣の岩に置きました。

(ああん、覗かれてる。。。)

見られているとわかっていて・・・
そのまま、
(だめえ、だめ)
パンツに手をかけます。

(これを脱いだら)
(脱いだら・・・)

するするっと下ろしました。
こんな『美人』が、あっという間に真っ裸です。

(ひいいいん)

責められるべきは、そこに隠れて覗いている彼らのほうでした。
アンダーヘアもまる出しに、
(いやん、いやあん)
奴らの目の前でかけ湯をするこの女・・・
私は、なにも悪くありません。

「じゃぼん」

湯だまりに入りました。
どっぷり肩までつかります。

(あああん、近いよ)
(恥ずかしい)

最高でした。
前回ここを訪ねて来たときの、鷲鼻さんとまゆげさん・・・
あのときとは全然ちがいます。
どう思われようとかまいませんでした。
今そこにいる彼らふたりに対して、特別な思い入れなどありません。

(気づかないふり)
(慎重に、慎重に・・・)

私の顔をじっくり眺めさせました。
お湯につかったまま、
「ふうーっ」
ほっとしたように息をつきます。
いま自分たちがどれほどキレイな女のお風呂を覗くことができているのか・・・
そこにいるふたりに幸運を噛みしめさせてやりました。

(見てる・・・見てるよう)

文句なしのシチュエーションです。
出来すぎなぐらいの気がしなくもありませんでした。
でも・・・
だめなときはダメでも、実際こういう『いいとき』もあるのです。
彼らのことなんて知ったことではありませんでした。
私は、自分がドキドキできさえすればいい・・・

「ふうーぅ」

懸命に葛藤の気持ちと闘います。
すだれとの距離は、3mぐらい・・・
お湯から出れば、全裸のまま隠れ場所はありません。
温泉を満喫しているかのように、景色にみとれているふりをしていました。
いざとなると、
(ああ、やめて)
どうしても勇気がでないのはいつものことです。

(ねえねえ)
(そんなに女のはだかが見たいの?)

恥ずかしくてたまりませんでした。
彼らはきっと、私がお湯から出るのを『いまかいまか』と待っているはずです。

(ねえねえ)
(『この子』のはだかが見たい?)

焦らしてやりました。
お上品な顔つきで、
「ふうーう」
のんびりくつろいでみせます。

(イヤあん、そこにいる)
(恥ずかしくてお湯からあがれない)

自然体を意識しました。
さりげなく演技をはじめている『私』がいます。
肩までお湯につかったまま、小さく口を動かしました。
すっかりリラックスしているかのように、
「・・breaking・・、・・you・・・、・・stree・・」
鼻歌を口ずさみます。

(自然体で・・・)

気持ちよさそうに『ぼーっ』とした顔のまま・・・
声にもならないような微かな声で、メロディーを口にしてみせていました。

「・・it・・、・・ness・・me・、・・・・」

鼻歌を続けながら・・・

腕を湯面から持ち上げて、
「じゃばっ、じゃばっ」
なんとなく、なにかの振り付けをなぞっている感じを出します。

(どきどきどき)

私が頭に思い浮かべていたのは・・・
向こうで暮らしていたときに、ちょっとだけかじったジャズダンス・・・

(むりだ、むりだ・・・)
(思った以上に恥ずかしすぎる)

「ふーうっ」

ふと、急に『真顔』になってみせました。
ひょいと横のスペースを見ます。

思いたったかのように・・・
そのまま『ざばっ』と、お湯から出る私・・・

(ひいいい)

確かめることはできなくても、はっきりとすだれからの視線を感じていました。
すっぽんぽんのまま、
(ひいん、ひいいん)
彼らの前で『気をつけ』するように棒立ちになります。

(見ないでえ)

恥ずかしすぎて死ぬかと思いました。
いかにも『ダンス教室に通いはじめ』みたいな女になりきって・・・
両足を揃えたまま、
「one,・・two,・・three,・・」
かかとを上げ下げしてリズムを取ります。

(ああん、おっぱいイヤあ)

習いたての振り付けを確認しているかのように、上下左右に腕をふりかざしました。
そんな私の表情は、お上品そのものです。
思いだし思いだしという感じで・・・
たどたどしく、
「・・just・・・all・・・」
全裸のまま彼らの前で全身をくねらせてみせます。

(こんなの、)
(恥ずかしい。。。)

ものすごい興奮でした。
一部始終の行いを男に見られています。
貧弱な胸を弾ませて、
「らら、らら、らら」
おぼつかないながらも、下手くそなりに振り付けをたどっているふりをしました。
ときどき『間違えた』という感じでニコニコしてみせては・・・
ひとりで照れた表情を浮かべて、ぎこちなくステップを踏みなおします。

「two・・three・・」

目の前に広がる美しい景色と・・・
そんな場所に自分ひとりしかいないという開放感・・・

素っ裸のまま、男たちの前で赤っ恥をかき続けてやりました。
何度も脚をクロスさせて、
「・・just・・、・・cause・・・」
鼻歌まじりにターンを踏みます。
何も気づいていない女になりきって、楽しそうに振り付けを反復するふりをしていました。

「if・・・、soft・・」

そうかと思えば、きゅっと『お澄まし顔』をする私・・・
メロディをふんふん口ずさみながら、たどたどしく左右に腰をくねらせます。

(もうだめ。。。)
(死んじゃう。。。)

動きをとめて、大きく息をつきました。

鼻の下を伸ばしながら、ニヤニヤ見物しているに違いない男たち・・・
まさに特等席に陣取っている気分で、この女の振る舞いを眺めているはずです。

(覗かれてるなんて知ったら)
(この子、きっとショックで泣いちゃうよ?)

その彼らが見ている前で、堂々と仁王立ちになりました。
股の割れ目を手で隠すこともなく、
「うっうー・・・」
気持ちよさそうに、立ったまま全身でぐーっと『伸び』をします。
からだをぶるぶる震わせて・・・
「ふうう」
大きく息を吐きながら、脱力しました。

(見てよ、この無垢な顔。。。)
(ぜんぜんあなたたちのことに気づいてない)

すらりとその場に立ちつくしたまま・・・
火照ったからだを冷ますかのように、渓谷の風にあたってみせています。

ふと・・・
顔も知らない、あの『A』のことが脳裏をよぎりました。

(あんたなんか一生目にすることのない)
(この女のお風呂姿・・・)

自分で演じているこの『お上品』な女に、さらに追い打ちをかけてやります。
山のほうを眺める感じで、すだれに背を向けました。
そして・・・
立ち止まったまま、すとんと目線を足もとに落としてみせます。

(覗き男たちめ)

(おまえらなんか)
(これでも見て喜んでろ)

剥がれかけたペディキュアを気にする素振りをしました。
思いっきり前かがみになって・・・

(ひいいいん)

彼らの眼前で、この女の『肛門』をまる見えにしてやります。

(ほら、見ろよ)
(こんな美人の尻の穴だぞ)

たちまち自尊心が悲鳴をあげますが・・・
そんな様子は、おくびにも出しませんでした。

(あとでオナニーするんだろ?)
(私を思い出しながら)

『A』にあてつけてやるような気持ちで、覗き男たちに大サービスしてやります。
さりげなく、
(この子のあそこも見ていいよ)
左右の足幅を開いてみせました。
自然体のふりをして、『恥部』をまる見えにしてあげます。

(ほらほら、こんなにキレイな子の)
(ばっちり見られて嬉しいでしょ?)

前かがみのまま、のんびりとペディキュアの足指をなぞってみせていました。
悔しがる『A』を想像しながら、
(ひいいん。。。ひいいいい。。。)
背後に向けた恥ずかしすぎるこの格好・・・
あくまでも私は、何も気づいていない『楚々』とした女です。

(ひいん、もうだめ)

何食わぬ顔をして、
「じゃぼん」
もとのお湯の中に戻りました。

(どきどきどき)
(どきどきどき)

興奮しすぎて、頭に血がのぼってしまっています。

(どきどきどき)

油断するわけにはいきませんでした。
とにかく、最後まで『何も知らない女』を貫き通さなければなりません。

(どきどきどき)

まだ、ふたりともそこにいました。
なかなか心臓のどきどきがおさまってくれません。

(顔を見ないで)
(恥ずかしすぎる)

何も気づいていないふりをして・・・
自然体を装っている私・・・

(見ないでってば)
(恥ずかしいよ)

そして・・・
最後にもういちど味わおうと思いました。

(めいっぱい自分の羞恥心を煽りながら)
(タオルで大胆にからだを拭こう)

そんなイメージを膨らませます。

Aさん・・・
(あなたじゃなくて残念だったね)
こんな『覗き男たち』でさえ、私のことを見放題なのに。

Nさんだって言ってくれてた・・・
『白くて細くて、おめめぱっちり』な、私・・・

(恥ずかしい)
(恥ずかしいよう。。。)

邪魔する者はどこにもいませんでした。
誰かに迷惑をかけているわけでもありません。

Nさん

新幹線を降りて、レンタカーに乗り換えました。
行き先は、例の野天温泉です。

今朝は日の出前から起きて、始発電車に乗ってきた私・・・
いつにも増して緊張していました。
今回ばかりは、これまでと勝手が違うからです。
自分で運転するレンタカーで温泉地へと向かう途中、○○県の〇〇市でNさんと待ち合わせをしていました。
その待ち合わせ場所が近づいてきています。

Nさんは、以前に私がここで協力者を求めたときにメールをくださった方です。
道すがら途中で合流するのにあたって、ちょうどいい地域にお住いの男性でした。
打ち合わせのメールを何度もやり取りしていく中で、いろいろと私の考える条件を満たしているように思えた人です。

でも、まだこの時点で完全に信用していたわけではありませんでした。
メールでのやりとりなんて、いくらでもうわべを取り繕うことができます。
それだけで人柄まで完全に見極めることは不可能でした。

待ち合わせ場所は、Nさんの住所からほど近い『道の駅』の駐車場です。
私は用意周到に安全策をとっていました。
あらかじめメールで写真も受け取っていましたので、私のほうは相手の顔を知っています。
そして、個人情報に関するようなこともある程度まで伝えてもらっていました。
一方、Nさんは・・・
メールアドレス以外には、私のことを何も知りません。

ナビによると、まもなくその『道の駅』に到着するはずでした。
待ち合わせ時間まで、まだ40分近く余裕があります。

(あれか)

駐車場に車を入れました。
とりあえず、コーヒーでも飲みながら待つことにしようと決めます。

建物の中に入ると、
(あ・・・)
そこにはもうNさんが来ていました。
待合所で、見るからに緊張した面持ちをしています。

(まだこんなに早いのに)
(もう来ちゃってるんだ)

雰囲気としては、ごくごく普通の男性でした。
教えてもらっていたとおりなら、年齢は57歳・・・
こうして見ているぶんには、すごく真面目そうな印象の人です。

(よかった)
(まずは、大丈夫そう)

どきどきしながら、そっと近づいていきました。
顔をあげたNさん・・・

「こんにちは、恭子です」
「Nさんですか?」

私のほうから、声をかけました。
目を丸くして、
「恭子さん、ですか?」
まるで幽霊でも見るみたいに、唖然と私をみつめています。

「初めまして」

こちらがびっくりするぐらいに感激してくれていました。
ずっと年上の男性なのに、
「本当に、こうしてご本人に会えるなんて」
こんなにも感動してもらって、不思議な感覚を味わっている自分がいます。

(私なんか)
(べつにたいした者じゃないのに)

挨拶もそこそこに、とりあえず車に移りました。
私が運転席、Nさんが助手席です。
エンジンをかける前に、やることをやっておかねばなりませんでした。

「早速ですが、免許いいですか?」

事前の打ち合わせの段階から、あらかじめいくつか約束してもらっていたことがあります。
すべて承知していただいたうえで、今日のお手伝いを引き受けてもらっていました。
Nさんの運転免許証を、私のスマホで写真に撮らせてもらいます。

私のことを100%信頼してもらっていることの証でした。
同時に、私にとっては保険のようなものです。

さらに、これはわざと『抜き打ち』のかたちにして・・・

「あと、ごめんなさい」
「念のため、いいですか?」

Nさんのスマホを預からせてもらいました。
私の知らないうちに撮られたり録音されたりということがないようにするためです。
同時に、突然の指示に対して相手がどう反応するのかを試させてもらっていました。

「はい、わかりました」

嫌な顔ひとつせず、ちゃんと私の言うことに従ってくれます。

「すみません」
「最後にお返ししますので」

お互いにまだ緊張した感じのまま、車をスタートさせました。
Nさんに対する印象は、決して悪くありません。
おしゃべりをしていくうちに、少しずつ打ち解けていくことができました。
ずっと私の大ファンだったとおっしゃってくださるNさんは・・・
私といっしょにドライブしながら、
「本物の恭子さんだ」
とにかくしきりに感激してくれています。

「本当にこんなに素敵な方だとは思ってなかったです」
「白くて細くて、おめめぱっちりで・・・」

「そうですか?・・・ありがとうございます」

わりといい雰囲気でした。
目的地までは、けっこう長いドライブです。
Nさんが私を信頼してくれているのはわかりますが、それでも私はまだ完全に心を許しているわけではありませんでした。
なにせ、さっき会ったばかりの人です。
私が、日常とは違う『もうひとりの自分』を持っているのと同じように・・・
表裏のない人間なんているはずがないからです。

ドライブしながら、話のタネは尽きませんでした。
過去に投稿した体験談の裏話など、Nさんは興味津々で耳を傾けてくれます。
私もいろいろなことに関する率直な感想を尋ねていました。
男性にしかわからない心理などを聞かせてもらって、けっこう勉強(?)になったりします。

「じつはね、実際にお会いするまで・・・」
「どんな人かと思っていたんです」

Nさんが正直に話してくれました。

「よかった、とても落ち着いた方で」
「夢を見てるみたいで、まだ信じられないですよ」

リップサービスも多分にあるのかもしれません。
私の機嫌を損ねないようにと、気を使ってくれている部分もあるのでしょう。

(普通でいいのに)
(なんだか申し訳ないな)

事前に打ち合わせたことについて、ひとつひとつ綿密に確認をしました。
当初から、あなたが私のはだかを見たりできるわけではないとお伝えはしてあります。
私は、心の中では・・・
今もなお、ずっとこの人に対するテストを続けていました。
これまでのところ、不審感を抱かざるを得ないような言動は見受けられません。

(だいじょうぶ)

おしゃべりをする時間はたっぷりありました。
会ったばかりのときのような、過度な緊張はなくなってきています。
Nさんも同じのようでした。

(この人なら大丈夫)
(信用できる)

ずっと山道をのぼるように国道を走っていきます。
キャンプ場の前を通過しました。
その先のとある場所から、わきにそれるような道へとハンドルを切ります。

林道をすすんでいきました。
野天温泉へ行く前に、ちょっと『沢』のほうに立ち寄るのです。
分岐の先の先の、そのまたさらに先・・・
ついには森の中で行き止まりになるその場所まで、ゆっくりと車を走らせていきます。
ちょっと広くなっているようなところにたどり着いて、車をとめました。

「着きました」
「降りましょう」

いっしょに森の細道を歩いていきながら、いろいろと案内してあげます。

「すごい・・・」
「本当に、読んだのとまったく同じだ」

Nさんが喜んでくれています。
誰もいない森の中で、ふたりっきりですが・・・
(だいじょうぶ)
この人の立ち振る舞いに、不自然な変化はありません。

「もう少し先です」

特に、相手の『目』の動きに注目していました。
にこにことハイキング気分で歩いていますが、周りに人の気配はありません。
私は警戒心をゆるめませんでした。
でも、そういう怪しい『気配のかけら』は、まったくこの人から出ていません。

(合格だ)

水の流れの音が聞こえてきました。
細道が開けて、河原に出ます。
この場所が、過去にも何度か私の体験談に出てきた『沢』でした。

「初めて来た気がしないです」
「すごいな、なんか本当にすごい」

少し上流側に向かうほうへと歩いていきます。
周囲を確かめました。
私たち以外に、人の姿はまったくありません。

「じゃあ、いいですか?」

私のほうから切り出しました。
約束していたこととはいえ、かなりNさんが緊張しています。

私の前で、すべて服を脱いでもらいました。
すごく恥ずかしそうにしている、全裸のNさん・・・
心を鬼にして、適当な大きさの岩の上に登ってもらいます。
そして『あること』をしてもらいました。

「ごめんね」

「いえ、約束でしたから」

Nさんの顔も入るように、私はその様子を自分のスマホで撮ります。
何枚も何枚も、写真に撮って・・・
そして、その場でクラウドに保存しました。

おそらく屈辱感でいっぱいのはず・・・
再び服を身につけながら、Nさんがうっすら涙ぐんでいます。

「ちゃんと、あとで消しますから」

免許証の写真とも合わせて、これも私にとっての保険でした。
もし万一、Nさんが私を襲うようなことがあれば・・・
でも、そんなことはないだろうと私自身がすでに確信を得ています。

「じゃあ戻りましょう」
「はい」

車をとめたところまで、いっしょに歩いて戻ります。
相当に、プライドが傷ついているはずでした。
無理して明るく振る舞おうとしているNさんに、いちおう尋ねてみます。

「帰りたくなったんじゃないですか?」
「やめてもいいですよ」

すがるような目を向けられました。

「行きます」
「お手伝いさせてください」

まるで吹っ切れたかのように、やる気になってくれています。

車をスタートさせました。
林道を、野天温泉方面へと走っていきます。

やがて見えてくる温泉旅館・・・

「ここが、あの・・・」
「おそばを食べたという」

車をとめて、いっしょに『お食事処』に入りました。
昼食をとりながら、車中と同様に打ち解けた雰囲気でおしゃべりをします。
Nさんが、私に対する思いを語ってくれました。
その内容はここには書きませんが・・・
自分よりはるかに若い私なんかに、ずっと焦がれてくれていたというこの人の気持ちをあらためて思い知らされます。

(この人、本当に)
(私の投稿のファンなんだ。。。)

食べ終わって、
「行きますか」
私がNさんのことをリードしていました。

「行きましょう」

こんなに年上のおじさんなのに、目をキラキラさせてくれています。
手伝えること自体が嬉しくて仕方ない、そんな表情でした。

車で、野天温泉の駐車場に向かう私たち・・・

「あそこですよ、ほら」

まるで、観光案内をしてあげているような気分でした。
喜んでくれているのがわかるので、こっちまで楽しくなってしまいます。

駐車場のいちばん奥の場所に車をとめました。
荷物を持って、森の歩道へと入っていきます。

「ああ、ここが・・・」
「本当だ・・・本当だ・・・」

朽ちた木の表示板に従って、歩道のわきの階段道を下っていきました。
崖に沿うようにカーブしていくと、眼下にいきなり野天風呂の景色が広がります。

「すごい・・・すごい・・・」
「読んだのと同じだ・・・」

階段道を下りきって、男湯スペースに降り立ちました。
私たち以外には誰もいません。

私と会ったときと同じぐらいに、またもNさんが感激してくれていました。

「ここが・・・すごい・・・」
「本当にここだ・・・」

そんなNさんの様子を見ていると・・・
私も、連れてきてあげた甲斐があるというものです。

「誰もいないみたいだから」
「今のうちに女湯の中も見てみますか?」

「はい!ぜひ!!」

ふたりで木戸を通って石垣をまわりこみました。
無人の女湯スペースを、Nさんに見学(?)させてあげます。

「わあ、すだれ!」
「でも、こっちはこんなに狭いんだ」

コンクリート部分に乗り出して、
「本当だ、すごいすごい」
過去の体験談の現場(?)を実際に目にして、テンションが上がりまくっているNさん・・・

「じゃあ、そろそろ」

男湯に戻って、最終的な打ち合わせをします。
だいたい1時間粘って、チャンスがないようなら諦めることにしていました。
そのときは・・・
さっきの『沢』に戻って、ふたりで別のことを狙ってみる予定になっています。

「じゃあ、だいたい階段道のあのあたりに現れたら」
「そうです、判断はお任せします」

「わかりました」
「そのタイミングで、咳き込む真似をしてください」

お願いしてあったのは、タイミングを伝えてもらうことと・・・
そして、ちょっとした役回り・・・

「恭子さん、どきどきしてますか?」
「うまくいくといいですね」

応援されて、
「じゃあ、お願いしますね」
ウインクしてみせると・・・
Nさんの表情にも、それなりに緊張感が漂いはじめます。

私ひとりで女湯スペースに戻りました。
はだかになってお湯につかります。
普通に温泉として考えても、私はここのお風呂が大好きです。
お湯を楽しみながら、ゆっくり時間をつぶしました。

(嬉しそうだったな)

Nさんの喜びようを見ていると、自分まで幸せな気持ちになります。
今ごろきっと、
(わくわくしてるんだろうな)
あの人も男湯の岩風呂につかって、いまかいまかと誰かが現れるのを待っているはずに違いありませんでした。

でも・・・
そう簡単にチャンスが訪れることはありません。
いちどだけ、男湯に誰かが現れたようでした。
Nさんからの合図はありません。
それは、あの人なりに『無理だ』と判断してくれたということでした。

(ごめんね、Nさん)

そのまま1時間が経とうとしています。
けっきょくチャンスが巡ってこないまま、タイムアップを迎えようとしていました。

(そりゃそうだ)

だって、ぜんぶ嘘なのですから。

私がNさんにお願いしてあったのは、かなり難易度の高いシチュエーションを要することでした。
たった1時間のあいだにすべての条件が揃うはずがないのです。
私のターゲットは・・・
最初から『Nさん』ひとりでした。

もとどおりに服を着て荷物を持った私は、木戸を抜けて男湯スペースに戻ります。

Nさんが、寂しそうにお湯につかっていました。
見るからに、
「残念です」
とても悔しがってくれています。

「しょうがないですよ」
「沢に戻りましょう」

Nさんにも服を着てもらって、ふたりで野天風呂をあとにしました。
再び車に乗りこんで、ゆっくり発進します。

「残念だったなあ」
「あっちには誰かいるといいな」

Nさんのテンションは下がっていませんでした。
明るくおしゃべりをしながら、相変わらずいい雰囲気のままです。

数分後・・・
森の中に車をとめた私たちは、さっきの沢に向かって細道を歩いていました。

(ごめんね、Nさん)
(私、本当は・・・)

河原に出ましたが、やはり誰の姿もありません。
私にはわかっていたことでした。
真夏でもなければ、そもそも滅多に人なんか来るような場所ではないのです。

(私、最初から・・・)
(本当は、お手伝いしてくれる人なんか求めてなかったの)

『まただめか』という感じで、Nさんが焦燥感を募らせてくれていました。
散歩しながら、
「誰もいないですねえ」
いっしょに上流側へと歩いていきます。

(ごめんね)

ずっと騙していたことに、すごい後ろめたさがありました。
いわゆる良心の呵責というやつです。
でも・・・
そういう罪悪感に苛まされることになるかもしれないというのは、自分でも最初からある程度は想像のついていたことでした。
だからこそ、私はあらかじめ自身の良心に対する言い訳を用意しておいたのです。

(私は、嘘はついていない)
(ミスリードさせただけ)

私が協力者を募集するレスを入れたとき、それを読んだ人の多くは思ったことでしょう。
恭子が『誰かに露出するときのお手伝いを探している』って。
このNさんも、そう思ったはずにちがいありませんでした。

私は、そんなことひとことも書いていません。
『イメージしていることがあって、それを実行するときのお手伝いを探したい』とだけ書いたのです。

もちろん、そんなことは言葉のあやにすぎませんでした。
でも、張本人である私の心のうちにおいて・・・
相手に対する罪悪感を打ち消すためには、その些細な違いはとても大きなことなのです。

(私は、騙したわけじゃない)
(相手が誤解してくれただけ)

言うまでもありませんが・・・
はだかの私を見てくれる相手を募集しているのではないとミスリードさせる書き方をしたのには、リスクを軽減させるという点でも大きな意味がありました。
わずらわしそうな条件をつけたのも、協力者にメリットがないことを強調したのも・・・
あわよくば的な下心を持った人を少しでも排除して、より安全そうな相手を厳選しやすく計らったまでのことです。

(それぐらいはしょうがない)
(リスクを被るのはこっちなんだから)

ただ、誤算もありました。
余計なことをする誰かさんに、いつのまにかそのレス自体を削除されてしまっていたことです。
そのことによって私が負うリスクが格段に跳ね上がってしまったのは事実でした。
実際、それ以降に送られてきたメールの中には・・・
あらかじめ私が出した条件を本当に理解しているのか疑わしいと思われるものも増えてしまっていたのです。

(ふざけやがって)

なんとなく見当はついていました。
私は、木を見て森を見ることのできない人が苦手です。
そういう人に限って、自分の見解が唯一無二の正解であるかのように・・・

(頼んでもないことを勝手にしてくる)
(おかげでどれだけリスクが高まったと思ってるんだよ)

私のそのレスに削除依頼をかけたであろう人間を、仮に『A』とでもしておきます。

実は、このNさんは『2人目』の候補でした。
いまここで、つらつらと恨みごとを書くつもりはないですけど・・・
この前の週末には、旅行もかねて四国の地を踏んでいた『私』です。
そのときは、けっきょく待ち合わせの寸前になって・・・
『1人目』になるはずだった相手に、中止を宣告せざるを得ない状況になりました。
直前のメールのやりとりで、私が大前提としていたことが頭に入っていない男性だと直感したからです。

(危ない橋を渡らせやがって)
(せっかく愛媛まで行ったっていうのに)

それもこれも、すべては相手選びが難しくなってしまったことの結果でした。
私の中では『A』が余計なことをしてくれたせいに他なりません。

でも・・・いまNさんを目の前にしながら、私は完全に確信していました。

(この人なら大丈夫)
(決して私に手を出したりはしない)

イメージを実行に移せるだけのシチュエーションは完璧に整っています。

(『3人目』なんて、もういない)
(この人がラストチャンス・・・)

Nさんが懸命になってくれていました。
ターゲットになりそうな人が現れないかと、沢の周囲に何度も目を走らせてくれています。
その顔も、次第に諦めの表情に変わってきていました。
明らかに落胆の色が浮かんでいます。

(私のターゲットは、ね・・・)
(あなたなんだよ)

後ろめたい気持ちが消えることはありませんでした。
こんなにも卑怯な私のことを、このおじさんは信用しきってくれているのです。

(騙したようなものだけど)
(きっとこの人は喜んでくれる)

「Nさん、ごめんなさい」

「今日は、だめみたいです」
「1日付き合っていただいたのに、ごめんなさい」

Nさんが恐縮していました。
とんでもないという顔で、

「そんなそんな、すごく楽しかったです」

表面上はこんな結果になってしまっているのにもかかわらず・・・
私を落ち込ませまいと、にこにこしてくれています。

(私は・・・)
(自分のファンだと言ってくれる人の前で、いちどやってみたかったの)

向こうの岩のほうを指して、
「さっきNさん・・・」
わざと意地悪そうな顔で言ってみせました。

「あそこですごいことしてましたね」

思い出しているのか、
「え、ええ・・まあ」
一瞬にして、相手の目が泳いでいます。

(どきどきどき)

私は、あくまでも申し訳なさそうな表情をしてみせていました。
持ってきていたトートバッグに手を突っ込みます。
コンパクトデジカメを取り出して、
「お詫びです」
ぽん、と手渡しました。

「え?」

Nさんが、意味がわからず『きょとん』としています。

「顔の写ってないやつだけ」
「あとで、メールで送ってあげますから」

呆気にとられている相手の前で、着ていたパーカーを捲り上げました。

「えっ!?・・・えっ!?」

恥ずかしそうにもじもじしながら、
「撮ってもいいですよ」
ジーンズもするっと下ろしてみせます。

「きょう1日、」
「無駄にさせてしまったお詫びです」

(どきどきどき)

靴下とスニーカーを脱いで、ブラとパンツだけの下着姿になりました。

「そのかわり」
「絶対に、さわったりしたらだめですよ」

うんうんと頷きながらも、Nさんがロボットのように固まってしまっています。
私のブラに目をやったまま、
「本当に?本当に?」
信じられないという顔を向けてくれていました。

この人は、私なんかに『ファン』だと言ってくれてる人・・・
ずっと私を応援してくれてた人・・・

その男性の目の前で、ブラを外します。
おっぱいを出して、
(ああん)
パンツにも手をかけました。
もういちど周囲に目をやって、誰もいないことを確かめます。

申し訳なさそうに、
「恥ずかしい。。。」
最後の1枚をするするっと脱ぎ捨てました。

決して大袈裟に書いているつもりはありません。
死ぬほど緊張しました。
男性の前で、私は一糸まとわぬ姿です。

(どきどきどき)

Nさんが生唾をのんでいるのがわかりました。
それこそ、固まってしまったような顔で・・・じっと私のからだを眺めています。

(どきどきどき)

本当はいろいろ考えてきていたのに、私は動けませんでした。
かろうじて、恥じらうようにニコッとしてみせるのがやっとです。

(ひいん、恥ずかしい)
(隠したいよ)

前から後ろから、
「ピッ、カシャッ」
何枚も写真を撮られていました。
足がすくんだまま、ただ突っ立っていることしかできない私・・・

「恥ずかしいよ」

いい歳したNさんが、
「すごい・・・すごい・・・」
シャッターを切りながら感極まった顔をしてくれています。

ひざが震えそうでした。
勇気を出して、思い描いていたシナリオを頭の中に反芻します。

「実際に会ってみて・・・」
「Nさん、私のことどう思いました?」

「失礼ですけど、お会いする前は・・・」
「本当にこんなにキレイな人だとは思ってなかったですよ」

私と目を合わせたまま鼻の穴を膨らませてくれていました。
そんなNさんの前で、
「じゃあ・・・」
「これで許してくださいね」
おもむろに素足をスニーカーに突っ込みます。

(どきどきどき)

裸のまま、すぐ近くの大きな岩の上に這い登ろうとしました。
そのことに気づいたNさんが、
「えっ、えっ、えっ」
呆気にとられた表情になっています。
躊躇いを振り払いながら、岩肌に両手をついていました。

(どきどきどき)

足の置き場を確かめながら慎重によじ登ります。
男の人にお尻を向けたまま、恥部がまる見えの状態でした。

(ひいいいん)

こんな私みたいな女でも、この人にとっては・・・
きっと、特別な『あの恭子さん』なのです。
真後ろから、かぶりつくように見られていました。
泣きそうに声を震わせてみせます。

「恥ずかしいよ」

やっとこ岩の上に立ちあがって、相手のほうを振り向きました。
目線を下に向けると・・・
自分の足もとぐらいの高さにNさんの顔があります。
すごい『圧』を感じて、

(無理・・・)

瞬時に『できない』と悟っていました。
それでも・・・
「ぼとっ、ぼとっ」
はいていたスニーカーを、下に脱ぎ落します。

(ああ・・・)

生まれたままの姿で、岩のてっぺんに立っている私がいます。
自分の胸を鷲づかみにしてみせました。
大自然の中、
(ああ、私・・・)
すっぽんぽんで、ここに立っている私・・・
脚幅をやや開き気味にして、仁王立ちになります。
少し乱暴におっぱいを揉みしだきました。
なんとも心地よい気分です。

「ピッ、カシャッ」

写真を撮られまくっていました。
あらかじめ考えてきていたとおりに、立ったままオナニーをはじめてみせます。
でも・・・
指先でいくら乳首を弄ろうと、快感の入口を誘うことができませんでした。

(やっぱり、だめだ)
(本当にはできないや)

シチュエーションに理性がついていけず、気持ちが委縮してしまっています。
かたちだけ、
「あっ・・ああ・・・」
喘ぎそうな吐息を漏らしていました。
自分の足もとには、Nさんの顔・・・
下から仰ぎ見るような感じで、オナニーしている私の股間をみつめています。

(ひいいん)

見上げてくる男の視線に、自尊心を炙られていました。
ぷっくり膨らんだ大切な割れ目を、ものすごい真顔で男性に凝視されています。

「イヤぁ」
「・・・恥ずかしいよう」

演技ではなく・・・
いつしか涙がぼろぼろ流れて、本当に泣きだしてしまっている『私』がいます。
そんな自分自身に、自虐的な興奮が燃え上がっていました。

「ごめんなさい」
「わたし、もう無理」

消え入りそうな声で、
「は、は・・恥ずかしいよ・・・」
羞恥でいっぱいになった表情を向けてみせます。

そこにあるのは、オールヌードの私を見上げているNさんの興奮顔・・・

耐えられなくなったふりをしました。
もう降りようとしてみせて、再び後ろ向きになります。
腰を落として両手を岩肌につけました。
片脚を下に伸ばしながら、足の置き場を探ります。

「ピッ、カシャッ」

(ああん)
(いまどこ撮ってるの?)

「ピッ、カシャッ」

喜ばせてあげたいという思いだけでした。
途中で後ろを振り向きます。
泣きべそをかきました。

「うっうっ、もうイヤ」
「もうおろして」

子どものようにNさんに両腕を伸ばして・・・
抱きかかえてもらうみたいにして、岩から下ろしてもらいます。

(ひいいん)
(おっぱいが当たってる)

地面に足がつきました。
なおも『ぎゅっ』としがみついたまま離れない私・・・
棒立ちの相手の首もとに顔をうずめて、
「ひっく・・・ひっく・・・」
べそをかくように本気で泣きじゃくってみせます。

おそらくは、全裸の私に抱きつかれたまま夢見心地になっているおじさん・・・

(よかったね)
(思い出になったでしょ?)

そして、
「す、す・・・すみません」
急にはっと我にかえったかのように、Nさんから離れました。

(どうだった?)
(私が、本物の『恭子』だよ)

耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかります。
真顔になって恥じらう姿を、まじまじと見てもらいました。
焦っているふりをしながら、
「本当に、ごめんなさい」
あたふたした感じでパンツをはきます。

それが、Nさんとのすべてでした。

帰りは、約束してあったとおりに・・・
そこから最寄りの、〇〇線〇〇駅までNさんを送りました。
車で30分ぐらいでしょうか。
そんなに遠くはありません。

その駅までのドライブ中も、Nさんは最後まで紳士的に振る舞ってくれていました。
おしゃべりが弾むように、すごく気を使ってくれているのがわかります。

途中で尋ねられました。
今日のことも、体験談にして投稿するんですか?・・・と。
そのつもりはありませんでした。
いわゆる、いつものパターンとはちょっと違ったからです。

「けっきょく空振りでしたから」
「書きようがないですよ」

あくまでも・・・
私は、野天風呂でのことが目的だったかのように演技を貫いていました。

でもNさんは、
『失敗談として、ぜひ書いてみてください』
『恭子さんの体験談に、もしお手伝いの自分が出てきたらわくわくです』
そう言って、目を輝かせてくれています。

「実際に読んだら、幻滅するかもしれないですよ」

何度もそのように念を押しました。
それでも、ぜひぜひと熱望されます。

2つ条件を出しました。
その体験談を投稿した際には、Nさん自身は絶対にレスを入れてこないこと。
さっき撮った写真は、あとで顔の入ってないものだけ送ってあげるけど・・・
顔がないとはいえ、決してどこにも誰にも公開しないこと。

駅に着いて、Nさんを降ろしました。
名残惜しそうに、何度も手を振ってくれています。

最後まで、自分がターゲットになっていたとも知らず・・・
そして、私の本当の名前すら知ることなく・・・

そのNさんに見送られながら、すぐに発進しました。
余韻がないわけではありません。
清々しい気持ちで、
(さようなら)
もと来た渓谷方面へと車を向ける私でした。

試着室

偶然みつけてしまいました。
実家から県庁所在地のある〇〇市へ向かう途中の国道沿いです。

2階建ての商業施設の中に、そのお店はありました。
大きな建物ですが、ショッピングモールと呼ぶほどのオシャレ感はありません。
1Fにはスーパーが入っているようなところです。

平日の昼過ぎの時間帯・・・
人の姿もまばらな感じでした。

2Fのカフェで休憩をしていた私です。
さっき、ぷらっと中を通り抜けてきた同じフロアの洋服屋さんのことが気になってしかたありませんでした。

(あのお店・・・)

経験上わかっていました。
たまたま、条件がすべて整っているのです。

心の中で『いけない気持ち』がもやもやしていました。
いろいろ考えごとをしなければならないのに、まったく集中することができません。

(ああ、どうしよう)

まもなく海外で新生活を迎える予定の私なのですが・・・
日々そのための準備に忙殺される中、最近その『もやもや』の頻度が異常に高くなっているような気がしていました。

(どうしよう)

人生の節目を迎えるにあたって、大きな幸せを感じているのは確かです。
自分でもよくわからないけど・・・
潜在的に、己の生活の変化に対する恐れのような気持ちでもあるのでしょうか。
ある意味では、一種の現実逃避なのかもしれません。

(いいじゃない、日本にいるうちは)
(誰にもバレさえしなければ)

強烈な欲求でした。
だって・・・
やろうと思えば、やれるのですから。

(やっちゃうか)

レジを済ませてカフェを出ました。
まずトイレに行って、念のためメイクを確認します。

(完璧。。。)

直すところなんてありませんでした。
どこからどう見ても『美人』な女が、鏡の中で微笑んでいます。

(だいじょうぶ)
(私には、誰にも負けない武器がある)

気持ちを昂ぶらせました。
鏡の自分をみつめながら、内面から自信がわいてくるのを待ちます。

トイレを出て、まっすぐそのお店に歩いていきました。

カジュアルウェアの洋服屋です。
男性用が6、女性用の服が4ぐらいの割合のお店でした。

さっきと同じく、店内のお客さんはゼロ・・・
店員は、20代後半ぐらいの男性が1人いるだけです。
そして、
(どきどきどき)
あそこの棚にかかっているのは、まぎれもなく水着・・・
そして向こうに見える、入口が『カーテン式』の試着室・・・

(ぜったいできる)

それとなく、近くに並んでいるカットソーを広げてみたりしました。
すぐに、店員くんが近寄ってきます。

「どういったものをお探しですか?」

いかにもマニュアルどおりの声かけをしてきました。

「え・・ああ・・・」
「夏の旅行とかに持っていけるものないかと思って」

にっこりしてあげると、すぐさま説明トークがはじまります。

「そちらの〇〇は、△△ですので」
「ひとつカバンに入れておくと重宝しますよ」

「ふーん」

洗濯方法について尋ねると、
「コットン100ですから・・・」
素材の特性を交えながら丁寧に教えてくれました。

相手の目をみつめながら、真剣に説明を聞くふりをします。
すぐに感じ取っていました。

私を見る、店員くんの微妙な目の動き・・・
話しているときの些細な表情の変化・・・

自意識過剰と非難されるかもしれませんが、私には『感覚的』にわかるのです。
この男の人が、私の容貌に惹かれているということが。

(かかった)

もちろん表面的には、彼は普通に客対応をしているだけです。
不自然な行動は、一切ありません。

「ご旅行は、どちらのご予定ですか?」

彼の販売トークに乗せられたふうに、
「来月、〇〇〇に行くんです」
「行ったことありますか?」
目を輝かせながら『嘘の話』をしている自分がいました。

「いえー、僕はないです」
「いつか行ってみたいですねえー」

今度は別のカットソーを広げてみせます。

「飛行機の中って」
「けっこうエアコンが効きすぎたりしてて」

「あ、それ聞いたことあります」

迷っているふりをしている私の顔を・・・
横から店員くんが眺めているという感じでした。

(いい流れだ)

ふと・・・
一瞬くらっと、よろける演技をしてみせます。

「あ」

商品棚に手を置いて、きゅっと目を閉じました。
そのまま、5秒・・・10秒・・・
そして目を開けます。
戸惑いを浮かべた彼の顔が、そこにありました。
私は、すぐに元どおりになってみせます。

「今朝からちょっと貧血ぎみで」
「ごめんなさい、もうなんでもないです」

「大丈夫ですか?」

すみませんという感じで、にこっと微笑みを返しました。

(よしっ、うまくいった)

何事もなかったかのように・・・
手もとのカットソーを持って、姿見の鏡の前に行きます。

店員くんは、もとの『販売モード』に戻っていました。
カットソーを肩にあてがう私に、
「ご試着もできますよ」
明るい口ぶりで試着室の利用を勧めてきてくれます。

「うーん」

まだちょっと迷ってみせる私・・・
試着室のほうにチラッと目をやって、その手前にある水着に気づいたふりをします。

「あ・・かわいい」

すーっと歩いていって、セパレートのビキニを手に取りました。
けっこう気に入った感じで、
「かわいい・・・」
楽しそうにつぶやいてみせます。

「それ□□なんですよ、かわいいですよね」

店員くんの言葉にうなずいてみせました。
鏡の前に持っていって、服の上からあててみせます。

「〇〇〇に行かれるんでしたら、すごくいいと思いますよ」

自然と顔が火照ってきているのを感じていました。
トップの部分をシャツにあてて、恥ずかしそうにつぶやきます。

「私、あんまり胸がないから」
「そういう体型でビキニとか、どう思います?」

照れたふりをする自分自身に興奮していました。
たぶん、本当に顔が真っ赤になっていたはずです。

「お客様でしたら、お似合いだと思いますよ」

赤の他人に、
「私の胸だと、カップが浮いたりして」
「見えそうになるのが怖くって」
自分の口から、何度もコンプレックスを告白している私・・・

(相手は男なのに)

相談しながら耳まで熱くなっていました。
恥ずかしそうにしている私の表情に、
「サイズさえ合っていれば大丈夫ですよ」
明らかに目尻が下がっている、店員くんのスマイル・・・

(いやらしい)

遠慮がちに、
「水着も試着できるんですか?」
顔を真っ赤にしたまま、彼に尋ねます。

「はい、・・・ぜひぜひ」

店内にいる客は、私一人でした。
完全にマンツーマン状態になっています。

彼が、引き出しのようなところを開けていました。
試着時につける、使い捨ての『紙のショーツ』を手渡してくれます。
あくまでも店員として・・・
でも、瞳がけっこう嬉しそうでした。
目の前の『美人』が、水着を試着したいと望んでいるのです。

パンプスを脱いで試着室に入りました。
店員くんが、きちんとカーテンを閉めてくれます。

「シャッ」

荷物置き代わりの、小さなイスがありました。
その上にバッグを置いて、着ている服を全部脱ぎます。
持ち込んだこの水着が、私には大きすぎるサイズなのは最初からわかっていました。
いちど全裸になってから紙ショーツをつけます。
その上に、ビキニのパンツをはきました。

ビキニのトップもつけますが、明らかにカパカパです。
彼との直前のやりとりが効いていました。
胸の小ささを気にしてみせたことで、
(ああ、恥ずかしいよ)
あの店員くんに対して、私はすでに羞恥の気持ちでいっぱいです。

カーテンを少しだけ開けました。
首だけを外に伸ばす感じで、
「すみません」
ちょっと離れたところに控えていた彼に、声をかけます。

「これのもうひとつ小さいサイズの」
「・・・持ってきていただけますか?」

店員くんが、
「はい、お待ちください」
在庫を調べに(?)、さっと奥へと走ってくれました。
その隙に・・・
バッグの中に入れたまま、
「ぴこん」
スマホのムービー録画をスタートさせます。

(どきどきどき)

罪悪感がありました。
でも、もう自分でもやめることができません。

彼が、サイズ違いの水着のハンガーを持って来てくれました。

「ありがとうございます」

手を伸ばして受け取りながら、一瞬ちらっと相手に水着姿を見られます。
またカーテンを閉めて・・・
(どきどきどき)
すでに、私の緊張はマックスになっていました。

(やばい)
(ひざが震えてる・・・)

受け取った水着は、そのまま床に置きます。

はいていたビキニのパンツを脱ぎました。
録画動作中のスマホを取り出して、バッグの横ポケットに差し込みます。
角度を計算しながら、向きを調整しました。

カーテンのすぐ内側のところで、床に直接ぺたんと座りこみます。
背中を壁にもたれました。
紙ショーツの後ろをずり下ろして、いわゆる半けつ状態(?)にします。

(あんなにしゃべった相手なのに)
(ずっと顔を突き合わせてたのに)

この店員さんの前でなんて、あまりにも背徳的な気持ちでした。
そして、そんな自分に内心の興奮を抑えることができません。

(たぶん、これが)
(本当の最後・・・)

ワンチャンスと決めていました。

「ばん!」

左足で正面の壁を蹴ります。
同時に、
「どん!」
後ろの壁に自分の背中をぶつけました。

派手に音をたてておきながら・・・
そのまま沈黙してみせます。

右足を横に伸ばしました。
カーテンの下から、だらんと足首を外にはみ出させます。

(どきどきどき)

ものの数秒で、
「お客様!?」
店員くんが駆け寄ってくる気配がありました。

カーテンの下から飛び出させた足首を引っ込めます。
そして、なおも無言でいる私・・・

「どうされました?」
「だいじょうぶですか?」

演技しながら、罪悪感に胸が痛みます。

(ごめんなさい、ごめんなさい)
(仮病なの・・・貧血のふりなの)

「う・・・う」

それとなく苦しそうな声を漏らしてみせました。

「お客様?」
「開けさせていただいてよろしいですか?」

困惑が伝わってくる問いかけに、
「あ・・あ・・・は、い・・・」
あえて拒否をせず、相手がカーテンを開けてしまうように促します。

「失礼します」

真横にあるカーテンが、半分ほど開かれて・・・
彼の目に映ったのは、試着室の中でへたりこんでいる私・・・

店員くんが、瞬間的に固まってしまっていました。

「すみ・・ま、せん」
「また、ひんけつ・・が・・・」

ゆらゆらと手を差し出してみせると・・・
慌てた感じで、
「大丈夫ですか?」
ひざをつくようにして寄り添ってきてくれます。

「はあ、はあ、はあ・・・」

彼の腕をぎゅっとつかんで、
「ごめん、なさい」
「すぐ、なおる・・から・・・」
じっとしたまま、つらそうに唇をかみしめる私・・・
大きすぎるビキニのトップが、せつなく胸から浮いていました。
その内側は、完全にすかすかです。

「はあ、はあ、はあ・・・」

店員くんは、すぐに気づいたようでした。
ちょっと覗きこむだけで、
(ああん)
目の前には、この女の貧弱なおっぱい・・・
その小ささが仇となって、かわいそうに乳首まで見えてしまっています。

(あああ、見てる)

私に腕をつかませてくれたまま、
「無理しないでください」
「大丈夫ですから」
やさしく声をかけてくれている店員くん・・・

(恥ずかしいよう、見ないでえ)

ものすごく興奮しました。
さりげなく首を伸ばすようにして、私の胸もとを覗きこんでいるのがわかります。
これほどの『美人』が、
(だめ、だめえ)
下半身には、ちゃちな紙ショーツひとつ・・・

かわいそうな女になりきりました。
涙を浮かべて、
「はあ・・・はあ・・・」
つらそうに口で息をしています。
彼の腕を放して、両手を床につきました。
苦しげな顔のまま上体をゆらゆらさせてみせます。
床にへたりこんだまま、われながら迫真の演技でした。

このまま横たわってしまいたい・・・
でも、そんなことできない・・・

いかにもそんな感じで、必死につらさに耐えているふりをします。
そして、
「ご、め・・・」
「ごめんな・・さい」
少しでも楽な姿勢ができるようにと・・・
奥のほうへ這おうとするみたいに、からだをよじらせました。
でも、
「はあ、はあ、はあ・・・」
ほとんど動けずに、そのまま小さくからだを丸めてしまう『この女』・・・
あわれにも、紙ショーツが腰からずりさがっています。

(あああん)

興奮の頂点でした。
真後ろには、男性の店員くん・・・

(いやん、いやん)

床にうずくまったまま、
「はあ・・・はあ・・・」
私は、生身のお尻をぺろんと出してしまっています。

(恥ずかしい。。。)

見えてしまっているはずでした。
お尻の真ん中のその下に・・・
この女の、デリケートな『割れ目』の部分が。

「はああ・・・はああ・・・」

羞恥心に、胸を掻きむしられます。
朦朧としたふりを装って、
「うぅぅ」
そのまま自分の『あそこ』を見させていました。
アンモラルな快感に、脳がとろけていく私・・・

(恥ずかしいよう)

後ろからは、
「大丈夫ですか?」
ちゃんと彼の声が耳に届いてきています。

誰にも気づかれることなく・・・
背後から、いくらでも見放題の店員くん・・・

(お尻の穴が・・恥ずかしいよ・・・)

肛門もまる見え状態のまま、1分ぐらい・・・?
身動きもせずに、
「はあ・・はあ・・はあ・・・」
そうやって朦朧としたふりを続けました。

(あああ・・・だめえ・・・)

自尊心を掻きむしられながら、
(どきどきどきどき)
この屈辱のひとときに、非日常の興奮を味わいます。

(だめえ、耐えられない)
(もうイヤぁ・・・)

ゆるゆると上半身を起こしました。
店員くんが『さっ』と立って、離れているのがわかります。

(どきどきどき)

泣くのをこらえるのに必死でした。

「少し・・・」
「落ち着いて・・きました・・」

涙目の顔を向けて、
「ごめん・・なさい・・・」
本当に申し訳なさそうに謝ってみせます。

(こんなに)
(キレイな顔した女だよ)

「いえいえ」
「よかったあ、大丈夫ですか?」

(見てたくせに)

すっとぼけている彼に、
(ばか・・ばか・・・)
けなげにも、素直にうなずいてみせる『この女』・・・

(イヤあん、もうだめ)

カーテンを閉めて、服を着ました。
恥ずかしすぎて、
(あああ・・・あああ・・・)
本当に、いまにも気が狂ってしまいそうです。

荷物をまとめました。
試着室から出てパンプスをはきます。

「大丈夫そうですか?」

心配そうに声をかけてくれる店員くんに、水着を返しました。

「ごめんなさい」
「今日は、やめておきます」

まともに相手の顔を見ることができません。
それでも、
「本当にごめんなさい」
「ちょっと疲れがたまってるのかな」
勇気を振り絞って、会話を交わしてみせる私・・・
儚げに微笑みを浮かべた『いい人』のまま、お店をあとにしました。

(どきどきどき)

限界です。
抑えていた感情があふれかえってきました。
エスカレーターですれ違いになるおじさんが・・・
涙をぼろぼろ流している私に気づいて、驚いた顔をしています。

駐車場に戻って、自分の車に乗りこみました。
そのまま運転席で泣き崩れます。

(恥ずかしいよ)

強烈な刺激と、羞恥心と・・・猛烈な屈辱感と・・・
思いっきり泣くことで、いつまでも興奮の余韻を噛みしめていました。

(よかった)
(・・・無事で)

ようやく気持ちが落ちついてきます。

バッグからスマホを取り出しました。
ムービーを再生してみます。
そこに映っている、
(いやんいやん、変態)
あの店員くんの『本当の顔』・・・

(やめて、やめて)

背筋をぞくぞくさせながら、小さな画面に見入ってしまう私でした。

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