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恭子温泉続き
(続きです)
車をスタートさせながらも、
(最低・・・最低・・・)
無理矢理さわられたときの『茶髪』の手のひらの感触・・・
まだそのまま残っているかのような感覚があります。
(二度と、こんなところ来ない)
ミラー越しに遠ざかっていく駐車場をみつめながら、自己嫌悪でいっぱいでした。
(はやく帰りたい)
早く帰って、きちんとお風呂に入りなおしたい・・・
嫌悪感に苛まされて、いらだちが収まりません。
すべてを洗い流したい気分でした。
もういちど、きちんとお風呂に入りたくて仕方ありません。
国道へと向って山道を走らせながら、アクセルを踏み込みかけて・・・
でも、すぐに急停止していました。
寂れているとはいえ、いちおう温泉旅館が立ち並んでいる一角です。
いま通り過ぎた旅館・・・
たしか『日帰り入浴』の看板が出ていたような気がします。
車をバックさせました。
立ち寄りでの入浴が可能とあるのを見て、そのまま駐車場に入ります。
車から降りて、建物の中に入りました。
こじんまりした、小さな旅館です。
ちょうど、家族連れの一行がチェックアウトするところでした。
フロントの男性に日帰り入浴のことを尋ねます。
すると、
「午後は、○時からなんです」
すごく申し訳なさそうに言われてしまいました。
(ついてないときは、とことんついてない。。。)
でも、仕方ありません。
現実とは、いつもそんなものです。
なんだか、がっくり疲れてしまいました。
お食事処があったので昼食をとることにして、おそばを注文します。
食べ終わってからも、しばらく『ぼーっ』としていました。
出されたお茶をいただきながら、いろいろなことを考えます。
(あんな嫌な思いまでして)
こんなところまで来ておきながら、私はいったい何をやっているのでしょう。
私はこんな、みじめな人間じゃないはずです。
会社では、気づかないふりをしてるけど・・・
遠くからいつも私を見ている男性たちが何人もいることを、私は知っています。
(本当は臆病な私だけど。。。)
どんなときだって、この外見の容姿だけは常に私の味方をしてくれるはずでした。
(私が本気を出せば。。。)
心のどこかで、そんな驕りがまだ消えません。
旅館を出て、深呼吸しました。
午前よりもはるかに暖かくなって、いい陽射しになっています。
そう・・・
私は今、こんな山の中に来ています。
私のことを知る人が誰もいない、自分だけの世界にいるのです。
どう考えても、このまま帰るのはしゃくでした。
車に乗りこんでエンジンをかけます。
『二度と行かない』
そう思ったのは、ついさっきのことなのに・・・
あの露天温泉へと、また車を向けている自分がいました。
(今度こそ)
唯一心配なのは、『茶髪』たちの存在でした。
彼らがいなくなっていることを祈りながら、車を運転していきます。
左に寄ってくれた自転車3台を、一気に追い越しました。
駐車場が見えてきます。
(あ・・・よしっ)
彼らのオートバイは、もうありませんでした。
他の車も見当たりません。
急に、運が向いてきたような気がしました。
おそらく、あの露天温泉はいま無人のはずです。
すべてがリセットされたような気持ちになりました。
あの先には・・・また私だけの世界が待っています。
いちばん奥に車を駐めて、荷物を準備します。
ちょうどそのとき・・・
向こうから自転車が入ってきました。
制服姿の男の子たちです。
さっき私が追い抜いた3台でした。
(もしかして)
胸の中で、心臓がどきどきしてきます。
(あの温泉に?)
だとしたら、まさに信じられないようなタイミングでした。
駐めた車の中から様子をみます。
(間違いない)
彼らは、森の歩道のすぐ手前に自転車を停めていました。
(どうする?)
このタイミングなら、チャンスはじゅうぶんにあります。
とっさに、頭の中で計算していました。
相手は・・・あれはたぶん高校生・・・
しかも3人もいる・・・
小・中学生とは、わけが違います。
下手をすれば、また『茶髪』のときのようなことにもなりかねません。
トートを持って、車を降りました。
3人がいる森の小道の入り口へと歩いていきます。
彼らがどんな子たちなのか、見極めなければなりませんでした。
もし『茶髪』たちのような生意気タイプだったら、絶対にパスです。
近づいていくうちに、その心配がなくなっていくのを感じました。
(だいじょうぶ)
ぱっと見だけでも、すぐにわかります。
彼らは、明らかに『まじめ君』たちでした。
午前中のあの出来事の反動でしょうか。
本当は内気なはずの私なのに・・・
(今こそ頑張らなきゃいけない)
自ら必死にチャンスをつかみたい気持ちになっていました。
3人は自転車を停めたわきで、ペットボトルのジュースを飲んでいます。
勇気を出しました。
それでも、
「こ、こんにちは」
ついつい遠慮がちな感じになって声をかけます。
3人がいっせいに私を見ました。
そして、いきなり話しかけてきた私を怪訝そうにみつめます。
「あの・・・○○湯って、ここですか?」
一瞬、3人で顔を見合わせあってから、
「そうです」
真ん中の男の子が答えてくれました。
ここがそうなんだ・・・そんな表情で小道の先を眺めるふりをして、
「あ、あの・・・もしかして」
「みなさんも、○○湯ってとこに行くところですか?」
3人が頷きます。
(やるしかない)
決心していました。
この子たちなら大丈夫です。
きっと・・・絶対に・・・チャンスでした。
おどおどしそうになる自分を鼓舞します。
さらに勇気を振りしぼりました。
「あ・・・あの・・」
「じゃあ、一緒に連れていってもらっていいですか?」
「なんかひとりだと・・不安だし・・・」
男の子たちは、お互いに顔を見合わせますが・・・
でもすぐに、
「いいですよ」
最初の男の子がOKしてくれました。
その素直そうな表情に『裏表』は感じません。
(よかった)
やっぱりいい子たちです。
私は、演技を始めていました。
嬉しそうな笑顔をつくって、
「ほんと?ありがとう!」
3人にお礼を言います。
彼らについていくかたちで、森の歩道を歩いていきます。
心の内に燃えるものがありました。
午前中の嫌な出来事が現実なら、今のこの瞬間もまた現実です。
なんとか彼らと仲良くなろうと頑張っている自分がいました。
気まずさがあったのも、ほんの最初のうちだけです。
「何年生?」
「今日は、学校お休みじゃなかったの?」
私がにこにこと話しかけているうちに・・・
「どこから来たんですか?」
「○○○美に似てる!」
3人ともすぐに打ち解けてきてくれました。
どの子も、私がみつめると恥ずかしそうに目をそらします。
女性にぜんぜん免疫がない・・・いかにもそんな印象でした。
しゃべっているだけで、
(男子校?)
私に対してどきどき照れている、男の子たちの感じが伝わってきます。
彼らは高校2年生とのことでした。
GW中なのに、今日は午前中だけ部活があったそうです。
その帰りにみんなで温泉に寄って汗を流すことにしたと言っていました。
私が、
「学校帰りによく来るんだ?」
驚いたように尋ねると、
「うん、ときどき来ます」
中でもいちばん真面目そうな『まじめ君』が答えてくれます。
「いいなあ、うらやましい」
隣の男の子に『にっこり』してみせると、
「へへ」
あごの細い『ひょろり君』が、照れた顔で頷きました。
(かわいい)
なんだか自信が出てきました。
彼らとの距離をもっと縮めようと、作戦を考えます。
「そうだ、ちょっと待って」
私が立ち止まると、みんなが振り返りました。
トートの中からデジカメを取り出します。
「ごめん、シャッター押してくれる?」
私より背が低い『おかっぱ君』に、カメラを手渡しました。
カメラを持った彼の手を、
「ここ・・・ここに合わせて、ここ押すの」
操作を教えるふりをして、私の手のひらで包んでみせます。
内心、実は私のほうがどきどきしながらも・・・
彼の息づかいの中に、手と手を触れ合わせていることの緊張を感じます。
近くの木の横に立ちました。
被写体として立つ私を、3人がいっせいにみつめます。
彼らの視線を意識しながらカメラに『にっこり』微笑むと、
「ぴぴっ」
おかっぱ君がシャッターを押してくれました。
カメラを受け取りました。
後ろの画面部分で、撮った画像を彼といっしょに確認します。
まじめ君とひょろり君も寄ってきました。
4人で顔を寄せ合うようにして、小さな画面をみつめます。
「ばっちりだね、ありがとう」
おかっぱ君にお礼を言って、カメラをしまいました。
「○○○美に似てるって言われませんか?」
「それってお天気お姉さん?・・・前に言われたことある」
おしゃべりしながら、3人ともすごく楽しそうです。
気持ちの壁がなくなってきているのを感じていました。
ほんの数百メートル、いっしょに歩いて来ただけなのに・・・
本当にいい子たちです。
そして彼らひとりひとりが・・・
私のことを『きれいなお姉さん』として意識しているのが、手に取るようにわかります。
高校生を相手に自尊心をくすぐられている私がいました。
われながら単純だなぁと思いますが・・・
彼らの前で『キュートなお姉さん』を演じながら、胸がどきどきしてきます。
でも・・・
だからと言って、男の子たちに特別な情が移るわけでもありませんでした。
私はひどい女です。
自分のために、純粋な彼らを利用しようとしているのですから。
(嫌な思いをさせるわけじゃない)
(彼らだって、迷惑に思うわけじゃない)
一生懸命、自分の良心に言い訳します。
あの『朽ちた表示板』が見えてきました。
「あそこ?」
ひょろり君に聞くと、
「あの横から下りていくんだ」
得意げな顔で教えてくれます。
(もっとできる)
(わたしなら、できる)
「ねえ・・」
おかっぱ君に微笑みかけました。
「ここでも撮ってもらっていい?」
カメラを手渡して、表示板に並んで立ちます。
みんなが、にこにこ顔で私をみつめていました。
(恥ずかしい)
ちょっと照れながら、私にできる最高の微笑みでお澄まし顔をします。
この顔・・・そしてノーメイクの私・・・
実際の年齢よりも、3つも4つも若く見えているはずです。
「ぴぴっ」
おかっぱ君がシャッターを押してくれました。
計算通りです。
私が戻るのを待つまでもなく、3人だけでもう画像を確認しています。
カメラの後ろの小さな画面を前に、顔を寄せ合う男の子たち・・・
いちばんはじっこは、まじめ君でした。
彼の肩に手を置いて、
「見せて見せて」
私もぐっと顔を寄せます。
いっしょに画面を覗きこもうと・・・
偶然を装って、彼の横顔に自分の頬をくっつけていました。
まじめ君が、息をすくめたのが伝わってきます。
「OKだね、ちゃんと撮れてる」
カメラを受け取って、
「ありがとう」
トートにしまいます。
(恥ずかしい)
私自身が、かなりどきどきしていました。
(照れちゃう)
まじめ君は、このハプニングがよっぽど嬉しかったみたいです。
明らかに上気しているのがわかる彼を、
『ん・・・どうしたの?』
そんな、何事もないような顔でみつめてあげます。
まさに思春期の男の子たちの『瞳』です。
『茶髪』たちとは違って、本当にいい子たちでした。
もし、この子たちにお風呂を覗かれてしまったら・・・
私は恥ずかしさに耐えられるでしょうか。
(とても無理)
死んでしまうかもしれません。
「よし、行こ」
3人に続いて、いちばん後ろから階段道を下りていきました。
「うわ、けっこう急なんだね」
初めて来た人のように驚いてみせます。
目の前を行くひょろり君が、
「だいじょうぶ?」
気にして何度も振り返ってくれました。
いちばん下まで降りきりました。
「わあ着いた・・・」
「すごいなあ、ここ」
素直に感動しているふりをしてみせます。
カメラは、きっとあとで役に立つはず・・・
そんな計算がありました。
すぐさまトートからデジカメを取り出して、
「ぴぴっ・・ぴぴっ」
景色を撮ります。
そんなふうに、あらためて写真好き(?)のようにアピールしていました。
男湯スペースのはじっこに行って、川の流れを撮影するふりをします。
護岸の下を覗きこみながら、
「あのすだれが、もう女湯?」
川沿いの先を指して、ひょろり君に聞きました。
「そうだよ、ここ下でつながってるから」
3人とも『俺たち詳しいもん』という顔をしています。
(この子たち・・・知ってる)
心臓がどきどきしました。
まさか本当に『女湯覗き』は、したことないでしょうけど・・・
護岸の下を伝っていけば、すぐに女湯の下まで行けてしまうということを知ってはいるのです。
「わたし行くね。連れてきてくれてありがとう」
3人にお礼を言いました。
もう『これでお別れ』という感じで、にこやかな微笑みを最後に印象づけます。
そのまま奥の木戸へ向かっていきました。
女湯スペースへと入ります。
すでに興奮で胸がいっぱいでした。
さっきから、ずっと心臓がどきどきしっぱなしです。
(よくやった)
われながら、パーフェクトな展開です。
自分でもよく頑張ったと思いました。
服を脱いで岩の上に重ねていきます。
(あとは・・・)
あの子たち次第でした。
(本当に来る?)
あれだけしゃべった男の子たち・・・
もし彼らに覗かれたなら・・・わたし恥ずかしすぎます。
・・・はたして、その羞恥心に耐えられるでしょうか。
下着もとって、全裸になります。
湯だまりにからだを沈めました。
もし覗かれるとしたら、左側のあのすだれの裏からです。
束ねた竹茎(?)が、隙間だらけのあの『すだれ』・・・
昨年もやっていますから、私は知っていました。
向こうから覗こうとすれば、実は私のほうからもまるわかりです。
来るでしょうか・・・
(来て。。。)
あんなに頑張ったんだから・・・
(お願い、来て)
胸をどきどきさせながら、その瞬間を待ちます。
3分・・・5分・・・
まだ気配はありません。
(まじめそうなあの子たち)
本当に来てくれるでしょうか。
もし誰かが『女湯を覗こう』と言いだしたとしても、
『そんなことしちゃだめだ』
あのいちばんの『まじめ君』が、周りを止めようとするかもしれません。
(来て)
私、みんなのために頑張ったんだよ・・・
じっとしていることに我慢できなくなりました。
湯だまりから出て、石垣をまわりこみます。
木戸の隙間から男湯を覗いてみました。
ひょろり君が湯船につかっているのが見えました。
あとのふたりは・・・
(あ。。。)
はじっこのコンクリート部分から身を乗り出すようにして・・・
護岸の先を眺めています。
腰にタオルを巻いたあの子たち・・・
(やっぱり気にしてる)
行けば女湯が覗けるんじゃないかと、きっと逡巡しているのです。
ちょっと意外でした。
まじめ君が、いちばん率先している感じです。
心の中で、彼を応援していました。
(降りちゃえ)
時間は限られています。
こうしている間にも、誰かほかの人がやって来てしまうかもしれません。
(まじめ君、降りちゃえ)
どれくらいのあいだ、そうしていたでしょうか。
木戸の隙間からなりゆきを見守りながら、祈っていました。
しばらくして・・・
振り返ったまじめ君が、ふたりに何か言っているのが見えます。
そして、あっという間に・・・
彼は、護岸の下に降りていました。
(来る!)
あとのふたりは動く様子がありません。
そこまで見届けて・・・
私は、木戸から離れました。
「ざば」
急いで湯だまりに入ります。
(来る・・・来ちゃう!)
待ちに待った瞬間でした。
お湯の中に、肩まで沈めます。
(わたし、覗かれちゃう)
心臓のどきどきが、尋常ではありません。
どきどきどき・・・
どきどきどきどき・・・
(ああ。。。)
すだれの隙間に、はっきりとシルエットが透けて出ました。
護岸の下に潜んだまま、首だけ出して・・・
こっちを覗いている人間がすぐそこにいます。
(イヤあ、変態。。。)
もちろん、こっちからは何も見えていないふりをしていました。
何も気づいていないお姉さんを演じます。
覗いた彼も驚いたことでしょう。
もともと女湯スペースは広くありません。
お湯につかっている私との距離は、3mぐらいしかありませんでした。
どきどきどき・・・
彼と真正面に向き合ったまま、何も知らないふりをします。
どきどきどき・・・
自然な感じに空を見上げて、目をつぶりました。
まぶしい陽射しを、まっすぐ顔に受けて・・・
「んー」
気持ちよさそうに表情を崩します。
お湯の中で、ぐーっと伸びをしました。
(ほら、私のこんな恥ずかしい顔。。。)
(あなただけに見せてあげる)
お湯の心地よさに『うっとり』とした・・・
満足げな『にっこり顔』をしてみせます。
肩までお湯につかった私と、すだれの向こうの男の子・・・
顔の高さは、ほぼいっしょです。
まじめ君もどきどきしていることでしょう。
目の前でリラックスする『お姉さん』をみつめながら、
お願い、お湯から出て・・・
きっとそんなふうに、やきもきしているに違いありません。
お湯から出れば、確実にまる見えでした。
高校生の男の子に、自分のヌードをお披露目してしまうことになります。
(ああん、イヤ)
(やっぱり、わたし恥ずかしいよ)
でも、やるしかありません。
これこそ、私が望んだシチュエーションなのですから。
ぼそっと、
「あっちぃ」
ひとりで、つぶやいてみせました。
そして・・・
(ああん)
お湯の中から立ち上がります。
思いっきり、おっぱいまる出しでした。
(見ないで)
(見ないでぇ)
そのまま湯だまりのふちに腰かけます。
(イヤぁ、恥ずかしい)
見られているとわかっていながら、何も隠すことができません。
(だめぇ乳首。。。)
よりによって、これでもかというぐらいに固く膨らんでしまいました。
(恥ずかしい。。。)
(わたし恥ずかしいよぉ)
あふれだす泣きそうな感情を押し隠して・・・
考え事でもするかのように『ぼーっ』と佇んでみせます。
手でお湯をすくって、自分の肩にかけました。
軽くマッサージする感じで肩を揉んで、腕をさすり・・・
また手のひらにお湯をすくいます。
「ぱちゃ、ぱちゃ」
からだにお湯をかけました。
さして大きくもない胸ですが、一生懸命に揉みあげてみせます。
男の子の視線を意識しながら・・・
まるでボディクリームでも擦りこませるときのような手つきで・・・
何度も自分のおっぱいを摩りあげてみせました。
(もうだめ)
感情が爆発しそうでした。
本当に泣きだしてしまいそうです。
とてもではないですが、この恥ずかしさには耐えられません。
手を下ろして、また『ぽけーっ』としてみせました。
ちょっとのぼせている雰囲気で、うつむきます。
手持ちぶさたな感じで・・・
アンダーヘアをつまんでいました。
意味なく『ピーン』と引っ張って、手遊びしてみせます。
湯だまりのふちに腰かけている私の股は、ちょうど彼の目線と同じ高さでした。
(ああん)
見えているでしょうか。
お湯に湿ったヘアを、手先でなんとなく弄びながら・・・
その下に見えてしまっているかもしれない『あそこ』に、
(もうだめ)
自尊心を掻きむしられます。
さすがに耐えられなくなって、
「ざぶ」
私は、またお湯の中に逃げ込んでいました。
肩までお湯に沈めた私ですが・・・
とてもすだれのほうを正視できません。
あまりに恥ずかしくて、無表情を貫くのも限界です。
お湯の中で、反転するように後ろ向きになっていました。
湯だまりのふちに両腕を置いて、その上にあごを載せます。
自分の腕に顔を突っ伏しながら、
(恥ずかしい)
羞恥心に奥歯を噛みしめていました。
泣きそうになる自分を抑えながら、とにかく顔を隠します。
(だいじょうぶ)
必死に気持ちを落ち着かせていました。
(だいじょうぶだから)
私は、お風呂を覗かれてる『かわいそうな』被害者・・・
・・・表向きは、『何も知らないお姉さん』なんだから。
(いけないのは、女湯を覗いているあの子のほう)
(私は何も悪くない。。。)
何事もないような顔で、正面に向きなおります。
とにかく意識して自然体を装っていました。
数分ごとに腰かけたり、またお湯につかったりを繰り返します。
(ああん見られてる)
自虐的な気持ちでいっぱいでした。
覗きの被害者になりきって、堂々と全裸のままでいてみせます。
(よかったね、まじめくん。。。)
(お姉さんのはだか、見たかったんでしょ?)
背徳的な興奮に、胸のどきどきが止まりません。
もう何度目でしょうか。
冷えてきたからだを温めようと、お湯の中につかっていると、
(あ。。。)
すだれのシルエットが、ちらちら動いているのが見えました。
(どうしたの?)
(もう戻るの?)
そっぽを見ているように目線をはずしたまま・・・
視界のはじっこで様子を窺います。
(・・ん?)
すだれの隙間ごしに、ちらちらと向こうの動きが見えます。
(あ!)
人影が増えていることに気づきました。
(もうひとり来た)
すだれの裏側に、顔がふたつ仲良く並んでいるのがはっきりとわかります。
どきどきどき・・・
その瞬間、プレッシャーが加速していました。
(ひょろり君?)
(それとも、おかっぱ君なの?)
どっちなのかは、わかりません。
いま来たこの子も、いざ覗いてみて私との近さにびっくりしたに違いありません。
すだれに顔を押しつける勢いで、隙間から覗いてきています。
どきどきどき・・・
やはり、この距離感は普通じゃありません。
男の子がふたりに増えて、ものすごい重圧を感じていました。
でも、迷いはありません。
(私は何も知らないんだから)
かわいそうなお姉さんになりきるまでです。
「ざば」
お湯の中から立ち上がりました。
そのまま、湯だまりのふちに腰かけます。
どきどきどき・・・
まる出しの胸を露わにしたまま、何食わぬ顔をしてみせました。
高校生の男の子たちの目が、
どきどきどきどき・・・
私のおっぱいに釘付けになっているはずです。
どきどきどき・・・
(耐えられない)
もう心臓が破裂しそうでした。
どきどきどき・・・
(もう、どうにでもなれ)
この子たちのために・・・
もっと恥をかいてあげようという気持ちになります。
(見てて)
覚悟が固まった瞬間でした。
湯だまりのふちに腰かけたまま、
「んー」
ばんざいするように、腕を真上に伸ばします。
「んー・・んんん」
全身で『ぐーっ』と、伸びをしました。
そして、そのまま後ろに『ごろん』・・・
地べたに背中をつけてみせました。
仰向けのまま気持ちよさそうに、
「ふー」
まぶしい陽射しを、全身に浴びてみせます。
空が真っ青です。
(恥ずかしい)
白い雲が、形を変えながら『すーっ』と流れているのが見えました。
(恥ずかしいよ)
のけぞるような姿勢で、両脚だけをお湯の中に下ろしています。
開き気味になった私の股が・・・
ちょうど彼らの真正面を向いていました。
(あの子たち)
さぞかし興奮していることでしょう。
たての割れ目が『まる見え』のはずでした。
(恥ずかしいよぅ)
自虐的な興奮が、どんどん高揚感を煽ります。
そのつらい体勢から、
「ふー」
お湯の中の両脚を、空中に持ち上げました。
足の置き場を求めるように・・・
両脚を大きく左右に開きます。
ひざを立てて、湯だまりのふちに足を置きました。
(ああああん)
自分でやっておきながら、
(イヤぁ、泣いちゃう)
覗いている彼らの前で、思いっきりの大股開きです。
恥ずかしい部分が、開けっぴろげに露わでした。
(お願い見ないで)
割れ目・・・というか、穴まで開いている気がします。
陽射しのまぶしさに目を閉じました。
(見ないでぇ)
自尊心が、ぶるぶる震えます。
あくびするみたいに、
「うーん、んんん」
仰向けのまま、伸びをしました。
まさか見られているなんて夢にも思わない、きれいなお姉さん・・・
リラックスを演じながらも、もう半分気が狂いそうです。
(もういい)
もう・・・だめ・・・・
(見て)
お行儀悪く、まる見えになっている私のあそこ・・・
そのあられもない格好に、男の子たちも嬉々としていることでしょう。
(見たかったんでしょ?)
何もかもを投げ出したような陶酔感に、頭がぽわーんとしてきます。
(ああ。。。)
快感でした。
恥ずかしすぎて、恥ずかしすぎて・・・
それが狂おしいほどに快感です。
もう・・・むり・・
鼻の奥がきゅーんと熱くなりました。
いまにも涙があふれそうになってしまいます。
この屈辱的な気持ちに、もう耐えられませんでした。
もう、これ以上は無理です。
立てていたひざを下ろしました。
お湯の中に脚が入ります。
仰向けのからだを捩じるようにして、上半身を起こしました。
そのまま、
「どぼん」
お湯の中に、身を沈めてしまいます。
潮時でした。
まだはっきり見えている、ふたつの顔のシルエット・・・
意識的に、頭の中を空っぽにしていました。
わざと何も考えないようにします。
(もう、じゅうぶん)
お湯の中で目をつぶりました。
(帰ろう)
冷えたからだが、温まってくるのを待ちます。
「ざば」
お湯から出ました。
荷物を置いた岩のところまで歩いていきます。
これで最後というつもりで、今度は全裸の立ち姿を披露してみせていました。
トートの中からスポーツタオルを取り出して・・・
ゆっくりと全身を拭きます。
(あ、カメラ・・・)
小道具に使おうと思っていたデジカメの存在を、
(しまった)
ここまできてから思い出していました。
(もう、だめだ)
今さら自然体を装って演技を続ける自信はありません。
それよりも、このふたりが誰なのか確かめたい気持ちに駆られていました。
からだを拭き終えると同時に、手早く服を身に着けていきます。
荷物をまとめて、その場を後にしました。
「ガタンっ」
木戸を抜けて、男湯スペースへ出ていきます。
そこに残っていたのは、ひょろり君でした。
現れた『お姉さん』の視線に、恥ずかしそうに湯船で縮こまっています。
(ということは・・・)
あれは、まじめ君と、おかっぱ君・・・
私は、何食わぬ顔でひょろり君に声をかけました。
「あれ?・・・みんなは?」
答えに困った彼は、なんとも微妙な表情になって口ごもっています。
それはそうでしょう。
まさか『あなたのお風呂を覗きに行ったよ』なんて、言えるはずもありません。
「ここ、いい温泉だね」
唯一ここに残った、ひょろり君・・・
もしかしたら、この子がいちばん真面目なのかもしれません。
「じゃあね、ばいばい」
最後まで何も知らないお姉さんを装って、別れを告げました。
階段道を昇って、森の歩道を駐車場へと向かいます。
この数時間のあいだに、いったいどれだけのことがあったでしょう。
『茶髪』、『おデブ』とのイヤな体験・・・
『まじめ君』たち相手の、どきどき体験・・・
すべては『運とタイミング』のいたずらだったような気がします。
帰路の運転の道すがら、いろいろと思いを馳せていました。
(調子に乗ったらしっぺ返しにあう)
過去にも何度も思い知らされたことです。
(成長してないなぁ)
いい意味で悪い意味でも、私は私なんだな・・・
そんなふうに反省しながらハンドルを握っていました。
(PS)
ずっと続きを書こうと思っていて、今日やっと書くことができました。
長文にお付き合いくださって、ありがとうございました。
車をスタートさせながらも、
(最低・・・最低・・・)
無理矢理さわられたときの『茶髪』の手のひらの感触・・・
まだそのまま残っているかのような感覚があります。
(二度と、こんなところ来ない)
ミラー越しに遠ざかっていく駐車場をみつめながら、自己嫌悪でいっぱいでした。
(はやく帰りたい)
早く帰って、きちんとお風呂に入りなおしたい・・・
嫌悪感に苛まされて、いらだちが収まりません。
すべてを洗い流したい気分でした。
もういちど、きちんとお風呂に入りたくて仕方ありません。
国道へと向って山道を走らせながら、アクセルを踏み込みかけて・・・
でも、すぐに急停止していました。
寂れているとはいえ、いちおう温泉旅館が立ち並んでいる一角です。
いま通り過ぎた旅館・・・
たしか『日帰り入浴』の看板が出ていたような気がします。
車をバックさせました。
立ち寄りでの入浴が可能とあるのを見て、そのまま駐車場に入ります。
車から降りて、建物の中に入りました。
こじんまりした、小さな旅館です。
ちょうど、家族連れの一行がチェックアウトするところでした。
フロントの男性に日帰り入浴のことを尋ねます。
すると、
「午後は、○時からなんです」
すごく申し訳なさそうに言われてしまいました。
(ついてないときは、とことんついてない。。。)
でも、仕方ありません。
現実とは、いつもそんなものです。
なんだか、がっくり疲れてしまいました。
お食事処があったので昼食をとることにして、おそばを注文します。
食べ終わってからも、しばらく『ぼーっ』としていました。
出されたお茶をいただきながら、いろいろなことを考えます。
(あんな嫌な思いまでして)
こんなところまで来ておきながら、私はいったい何をやっているのでしょう。
私はこんな、みじめな人間じゃないはずです。
会社では、気づかないふりをしてるけど・・・
遠くからいつも私を見ている男性たちが何人もいることを、私は知っています。
(本当は臆病な私だけど。。。)
どんなときだって、この外見の容姿だけは常に私の味方をしてくれるはずでした。
(私が本気を出せば。。。)
心のどこかで、そんな驕りがまだ消えません。
旅館を出て、深呼吸しました。
午前よりもはるかに暖かくなって、いい陽射しになっています。
そう・・・
私は今、こんな山の中に来ています。
私のことを知る人が誰もいない、自分だけの世界にいるのです。
どう考えても、このまま帰るのはしゃくでした。
車に乗りこんでエンジンをかけます。
『二度と行かない』
そう思ったのは、ついさっきのことなのに・・・
あの露天温泉へと、また車を向けている自分がいました。
(今度こそ)
唯一心配なのは、『茶髪』たちの存在でした。
彼らがいなくなっていることを祈りながら、車を運転していきます。
左に寄ってくれた自転車3台を、一気に追い越しました。
駐車場が見えてきます。
(あ・・・よしっ)
彼らのオートバイは、もうありませんでした。
他の車も見当たりません。
急に、運が向いてきたような気がしました。
おそらく、あの露天温泉はいま無人のはずです。
すべてがリセットされたような気持ちになりました。
あの先には・・・また私だけの世界が待っています。
いちばん奥に車を駐めて、荷物を準備します。
ちょうどそのとき・・・
向こうから自転車が入ってきました。
制服姿の男の子たちです。
さっき私が追い抜いた3台でした。
(もしかして)
胸の中で、心臓がどきどきしてきます。
(あの温泉に?)
だとしたら、まさに信じられないようなタイミングでした。
駐めた車の中から様子をみます。
(間違いない)
彼らは、森の歩道のすぐ手前に自転車を停めていました。
(どうする?)
このタイミングなら、チャンスはじゅうぶんにあります。
とっさに、頭の中で計算していました。
相手は・・・あれはたぶん高校生・・・
しかも3人もいる・・・
小・中学生とは、わけが違います。
下手をすれば、また『茶髪』のときのようなことにもなりかねません。
トートを持って、車を降りました。
3人がいる森の小道の入り口へと歩いていきます。
彼らがどんな子たちなのか、見極めなければなりませんでした。
もし『茶髪』たちのような生意気タイプだったら、絶対にパスです。
近づいていくうちに、その心配がなくなっていくのを感じました。
(だいじょうぶ)
ぱっと見だけでも、すぐにわかります。
彼らは、明らかに『まじめ君』たちでした。
午前中のあの出来事の反動でしょうか。
本当は内気なはずの私なのに・・・
(今こそ頑張らなきゃいけない)
自ら必死にチャンスをつかみたい気持ちになっていました。
3人は自転車を停めたわきで、ペットボトルのジュースを飲んでいます。
勇気を出しました。
それでも、
「こ、こんにちは」
ついつい遠慮がちな感じになって声をかけます。
3人がいっせいに私を見ました。
そして、いきなり話しかけてきた私を怪訝そうにみつめます。
「あの・・・○○湯って、ここですか?」
一瞬、3人で顔を見合わせあってから、
「そうです」
真ん中の男の子が答えてくれました。
ここがそうなんだ・・・そんな表情で小道の先を眺めるふりをして、
「あ、あの・・・もしかして」
「みなさんも、○○湯ってとこに行くところですか?」
3人が頷きます。
(やるしかない)
決心していました。
この子たちなら大丈夫です。
きっと・・・絶対に・・・チャンスでした。
おどおどしそうになる自分を鼓舞します。
さらに勇気を振りしぼりました。
「あ・・・あの・・」
「じゃあ、一緒に連れていってもらっていいですか?」
「なんかひとりだと・・不安だし・・・」
男の子たちは、お互いに顔を見合わせますが・・・
でもすぐに、
「いいですよ」
最初の男の子がOKしてくれました。
その素直そうな表情に『裏表』は感じません。
(よかった)
やっぱりいい子たちです。
私は、演技を始めていました。
嬉しそうな笑顔をつくって、
「ほんと?ありがとう!」
3人にお礼を言います。
彼らについていくかたちで、森の歩道を歩いていきます。
心の内に燃えるものがありました。
午前中の嫌な出来事が現実なら、今のこの瞬間もまた現実です。
なんとか彼らと仲良くなろうと頑張っている自分がいました。
気まずさがあったのも、ほんの最初のうちだけです。
「何年生?」
「今日は、学校お休みじゃなかったの?」
私がにこにこと話しかけているうちに・・・
「どこから来たんですか?」
「○○○美に似てる!」
3人ともすぐに打ち解けてきてくれました。
どの子も、私がみつめると恥ずかしそうに目をそらします。
女性にぜんぜん免疫がない・・・いかにもそんな印象でした。
しゃべっているだけで、
(男子校?)
私に対してどきどき照れている、男の子たちの感じが伝わってきます。
彼らは高校2年生とのことでした。
GW中なのに、今日は午前中だけ部活があったそうです。
その帰りにみんなで温泉に寄って汗を流すことにしたと言っていました。
私が、
「学校帰りによく来るんだ?」
驚いたように尋ねると、
「うん、ときどき来ます」
中でもいちばん真面目そうな『まじめ君』が答えてくれます。
「いいなあ、うらやましい」
隣の男の子に『にっこり』してみせると、
「へへ」
あごの細い『ひょろり君』が、照れた顔で頷きました。
(かわいい)
なんだか自信が出てきました。
彼らとの距離をもっと縮めようと、作戦を考えます。
「そうだ、ちょっと待って」
私が立ち止まると、みんなが振り返りました。
トートの中からデジカメを取り出します。
「ごめん、シャッター押してくれる?」
私より背が低い『おかっぱ君』に、カメラを手渡しました。
カメラを持った彼の手を、
「ここ・・・ここに合わせて、ここ押すの」
操作を教えるふりをして、私の手のひらで包んでみせます。
内心、実は私のほうがどきどきしながらも・・・
彼の息づかいの中に、手と手を触れ合わせていることの緊張を感じます。
近くの木の横に立ちました。
被写体として立つ私を、3人がいっせいにみつめます。
彼らの視線を意識しながらカメラに『にっこり』微笑むと、
「ぴぴっ」
おかっぱ君がシャッターを押してくれました。
カメラを受け取りました。
後ろの画面部分で、撮った画像を彼といっしょに確認します。
まじめ君とひょろり君も寄ってきました。
4人で顔を寄せ合うようにして、小さな画面をみつめます。
「ばっちりだね、ありがとう」
おかっぱ君にお礼を言って、カメラをしまいました。
「○○○美に似てるって言われませんか?」
「それってお天気お姉さん?・・・前に言われたことある」
おしゃべりしながら、3人ともすごく楽しそうです。
気持ちの壁がなくなってきているのを感じていました。
ほんの数百メートル、いっしょに歩いて来ただけなのに・・・
本当にいい子たちです。
そして彼らひとりひとりが・・・
私のことを『きれいなお姉さん』として意識しているのが、手に取るようにわかります。
高校生を相手に自尊心をくすぐられている私がいました。
われながら単純だなぁと思いますが・・・
彼らの前で『キュートなお姉さん』を演じながら、胸がどきどきしてきます。
でも・・・
だからと言って、男の子たちに特別な情が移るわけでもありませんでした。
私はひどい女です。
自分のために、純粋な彼らを利用しようとしているのですから。
(嫌な思いをさせるわけじゃない)
(彼らだって、迷惑に思うわけじゃない)
一生懸命、自分の良心に言い訳します。
あの『朽ちた表示板』が見えてきました。
「あそこ?」
ひょろり君に聞くと、
「あの横から下りていくんだ」
得意げな顔で教えてくれます。
(もっとできる)
(わたしなら、できる)
「ねえ・・」
おかっぱ君に微笑みかけました。
「ここでも撮ってもらっていい?」
カメラを手渡して、表示板に並んで立ちます。
みんなが、にこにこ顔で私をみつめていました。
(恥ずかしい)
ちょっと照れながら、私にできる最高の微笑みでお澄まし顔をします。
この顔・・・そしてノーメイクの私・・・
実際の年齢よりも、3つも4つも若く見えているはずです。
「ぴぴっ」
おかっぱ君がシャッターを押してくれました。
計算通りです。
私が戻るのを待つまでもなく、3人だけでもう画像を確認しています。
カメラの後ろの小さな画面を前に、顔を寄せ合う男の子たち・・・
いちばんはじっこは、まじめ君でした。
彼の肩に手を置いて、
「見せて見せて」
私もぐっと顔を寄せます。
いっしょに画面を覗きこもうと・・・
偶然を装って、彼の横顔に自分の頬をくっつけていました。
まじめ君が、息をすくめたのが伝わってきます。
「OKだね、ちゃんと撮れてる」
カメラを受け取って、
「ありがとう」
トートにしまいます。
(恥ずかしい)
私自身が、かなりどきどきしていました。
(照れちゃう)
まじめ君は、このハプニングがよっぽど嬉しかったみたいです。
明らかに上気しているのがわかる彼を、
『ん・・・どうしたの?』
そんな、何事もないような顔でみつめてあげます。
まさに思春期の男の子たちの『瞳』です。
『茶髪』たちとは違って、本当にいい子たちでした。
もし、この子たちにお風呂を覗かれてしまったら・・・
私は恥ずかしさに耐えられるでしょうか。
(とても無理)
死んでしまうかもしれません。
「よし、行こ」
3人に続いて、いちばん後ろから階段道を下りていきました。
「うわ、けっこう急なんだね」
初めて来た人のように驚いてみせます。
目の前を行くひょろり君が、
「だいじょうぶ?」
気にして何度も振り返ってくれました。
いちばん下まで降りきりました。
「わあ着いた・・・」
「すごいなあ、ここ」
素直に感動しているふりをしてみせます。
カメラは、きっとあとで役に立つはず・・・
そんな計算がありました。
すぐさまトートからデジカメを取り出して、
「ぴぴっ・・ぴぴっ」
景色を撮ります。
そんなふうに、あらためて写真好き(?)のようにアピールしていました。
男湯スペースのはじっこに行って、川の流れを撮影するふりをします。
護岸の下を覗きこみながら、
「あのすだれが、もう女湯?」
川沿いの先を指して、ひょろり君に聞きました。
「そうだよ、ここ下でつながってるから」
3人とも『俺たち詳しいもん』という顔をしています。
(この子たち・・・知ってる)
心臓がどきどきしました。
まさか本当に『女湯覗き』は、したことないでしょうけど・・・
護岸の下を伝っていけば、すぐに女湯の下まで行けてしまうということを知ってはいるのです。
「わたし行くね。連れてきてくれてありがとう」
3人にお礼を言いました。
もう『これでお別れ』という感じで、にこやかな微笑みを最後に印象づけます。
そのまま奥の木戸へ向かっていきました。
女湯スペースへと入ります。
すでに興奮で胸がいっぱいでした。
さっきから、ずっと心臓がどきどきしっぱなしです。
(よくやった)
われながら、パーフェクトな展開です。
自分でもよく頑張ったと思いました。
服を脱いで岩の上に重ねていきます。
(あとは・・・)
あの子たち次第でした。
(本当に来る?)
あれだけしゃべった男の子たち・・・
もし彼らに覗かれたなら・・・わたし恥ずかしすぎます。
・・・はたして、その羞恥心に耐えられるでしょうか。
下着もとって、全裸になります。
湯だまりにからだを沈めました。
もし覗かれるとしたら、左側のあのすだれの裏からです。
束ねた竹茎(?)が、隙間だらけのあの『すだれ』・・・
昨年もやっていますから、私は知っていました。
向こうから覗こうとすれば、実は私のほうからもまるわかりです。
来るでしょうか・・・
(来て。。。)
あんなに頑張ったんだから・・・
(お願い、来て)
胸をどきどきさせながら、その瞬間を待ちます。
3分・・・5分・・・
まだ気配はありません。
(まじめそうなあの子たち)
本当に来てくれるでしょうか。
もし誰かが『女湯を覗こう』と言いだしたとしても、
『そんなことしちゃだめだ』
あのいちばんの『まじめ君』が、周りを止めようとするかもしれません。
(来て)
私、みんなのために頑張ったんだよ・・・
じっとしていることに我慢できなくなりました。
湯だまりから出て、石垣をまわりこみます。
木戸の隙間から男湯を覗いてみました。
ひょろり君が湯船につかっているのが見えました。
あとのふたりは・・・
(あ。。。)
はじっこのコンクリート部分から身を乗り出すようにして・・・
護岸の先を眺めています。
腰にタオルを巻いたあの子たち・・・
(やっぱり気にしてる)
行けば女湯が覗けるんじゃないかと、きっと逡巡しているのです。
ちょっと意外でした。
まじめ君が、いちばん率先している感じです。
心の中で、彼を応援していました。
(降りちゃえ)
時間は限られています。
こうしている間にも、誰かほかの人がやって来てしまうかもしれません。
(まじめ君、降りちゃえ)
どれくらいのあいだ、そうしていたでしょうか。
木戸の隙間からなりゆきを見守りながら、祈っていました。
しばらくして・・・
振り返ったまじめ君が、ふたりに何か言っているのが見えます。
そして、あっという間に・・・
彼は、護岸の下に降りていました。
(来る!)
あとのふたりは動く様子がありません。
そこまで見届けて・・・
私は、木戸から離れました。
「ざば」
急いで湯だまりに入ります。
(来る・・・来ちゃう!)
待ちに待った瞬間でした。
お湯の中に、肩まで沈めます。
(わたし、覗かれちゃう)
心臓のどきどきが、尋常ではありません。
どきどきどき・・・
どきどきどきどき・・・
(ああ。。。)
すだれの隙間に、はっきりとシルエットが透けて出ました。
護岸の下に潜んだまま、首だけ出して・・・
こっちを覗いている人間がすぐそこにいます。
(イヤあ、変態。。。)
もちろん、こっちからは何も見えていないふりをしていました。
何も気づいていないお姉さんを演じます。
覗いた彼も驚いたことでしょう。
もともと女湯スペースは広くありません。
お湯につかっている私との距離は、3mぐらいしかありませんでした。
どきどきどき・・・
彼と真正面に向き合ったまま、何も知らないふりをします。
どきどきどき・・・
自然な感じに空を見上げて、目をつぶりました。
まぶしい陽射しを、まっすぐ顔に受けて・・・
「んー」
気持ちよさそうに表情を崩します。
お湯の中で、ぐーっと伸びをしました。
(ほら、私のこんな恥ずかしい顔。。。)
(あなただけに見せてあげる)
お湯の心地よさに『うっとり』とした・・・
満足げな『にっこり顔』をしてみせます。
肩までお湯につかった私と、すだれの向こうの男の子・・・
顔の高さは、ほぼいっしょです。
まじめ君もどきどきしていることでしょう。
目の前でリラックスする『お姉さん』をみつめながら、
お願い、お湯から出て・・・
きっとそんなふうに、やきもきしているに違いありません。
お湯から出れば、確実にまる見えでした。
高校生の男の子に、自分のヌードをお披露目してしまうことになります。
(ああん、イヤ)
(やっぱり、わたし恥ずかしいよ)
でも、やるしかありません。
これこそ、私が望んだシチュエーションなのですから。
ぼそっと、
「あっちぃ」
ひとりで、つぶやいてみせました。
そして・・・
(ああん)
お湯の中から立ち上がります。
思いっきり、おっぱいまる出しでした。
(見ないで)
(見ないでぇ)
そのまま湯だまりのふちに腰かけます。
(イヤぁ、恥ずかしい)
見られているとわかっていながら、何も隠すことができません。
(だめぇ乳首。。。)
よりによって、これでもかというぐらいに固く膨らんでしまいました。
(恥ずかしい。。。)
(わたし恥ずかしいよぉ)
あふれだす泣きそうな感情を押し隠して・・・
考え事でもするかのように『ぼーっ』と佇んでみせます。
手でお湯をすくって、自分の肩にかけました。
軽くマッサージする感じで肩を揉んで、腕をさすり・・・
また手のひらにお湯をすくいます。
「ぱちゃ、ぱちゃ」
からだにお湯をかけました。
さして大きくもない胸ですが、一生懸命に揉みあげてみせます。
男の子の視線を意識しながら・・・
まるでボディクリームでも擦りこませるときのような手つきで・・・
何度も自分のおっぱいを摩りあげてみせました。
(もうだめ)
感情が爆発しそうでした。
本当に泣きだしてしまいそうです。
とてもではないですが、この恥ずかしさには耐えられません。
手を下ろして、また『ぽけーっ』としてみせました。
ちょっとのぼせている雰囲気で、うつむきます。
手持ちぶさたな感じで・・・
アンダーヘアをつまんでいました。
意味なく『ピーン』と引っ張って、手遊びしてみせます。
湯だまりのふちに腰かけている私の股は、ちょうど彼の目線と同じ高さでした。
(ああん)
見えているでしょうか。
お湯に湿ったヘアを、手先でなんとなく弄びながら・・・
その下に見えてしまっているかもしれない『あそこ』に、
(もうだめ)
自尊心を掻きむしられます。
さすがに耐えられなくなって、
「ざぶ」
私は、またお湯の中に逃げ込んでいました。
肩までお湯に沈めた私ですが・・・
とてもすだれのほうを正視できません。
あまりに恥ずかしくて、無表情を貫くのも限界です。
お湯の中で、反転するように後ろ向きになっていました。
湯だまりのふちに両腕を置いて、その上にあごを載せます。
自分の腕に顔を突っ伏しながら、
(恥ずかしい)
羞恥心に奥歯を噛みしめていました。
泣きそうになる自分を抑えながら、とにかく顔を隠します。
(だいじょうぶ)
必死に気持ちを落ち着かせていました。
(だいじょうぶだから)
私は、お風呂を覗かれてる『かわいそうな』被害者・・・
・・・表向きは、『何も知らないお姉さん』なんだから。
(いけないのは、女湯を覗いているあの子のほう)
(私は何も悪くない。。。)
何事もないような顔で、正面に向きなおります。
とにかく意識して自然体を装っていました。
数分ごとに腰かけたり、またお湯につかったりを繰り返します。
(ああん見られてる)
自虐的な気持ちでいっぱいでした。
覗きの被害者になりきって、堂々と全裸のままでいてみせます。
(よかったね、まじめくん。。。)
(お姉さんのはだか、見たかったんでしょ?)
背徳的な興奮に、胸のどきどきが止まりません。
もう何度目でしょうか。
冷えてきたからだを温めようと、お湯の中につかっていると、
(あ。。。)
すだれのシルエットが、ちらちら動いているのが見えました。
(どうしたの?)
(もう戻るの?)
そっぽを見ているように目線をはずしたまま・・・
視界のはじっこで様子を窺います。
(・・ん?)
すだれの隙間ごしに、ちらちらと向こうの動きが見えます。
(あ!)
人影が増えていることに気づきました。
(もうひとり来た)
すだれの裏側に、顔がふたつ仲良く並んでいるのがはっきりとわかります。
どきどきどき・・・
その瞬間、プレッシャーが加速していました。
(ひょろり君?)
(それとも、おかっぱ君なの?)
どっちなのかは、わかりません。
いま来たこの子も、いざ覗いてみて私との近さにびっくりしたに違いありません。
すだれに顔を押しつける勢いで、隙間から覗いてきています。
どきどきどき・・・
やはり、この距離感は普通じゃありません。
男の子がふたりに増えて、ものすごい重圧を感じていました。
でも、迷いはありません。
(私は何も知らないんだから)
かわいそうなお姉さんになりきるまでです。
「ざば」
お湯の中から立ち上がりました。
そのまま、湯だまりのふちに腰かけます。
どきどきどき・・・
まる出しの胸を露わにしたまま、何食わぬ顔をしてみせました。
高校生の男の子たちの目が、
どきどきどきどき・・・
私のおっぱいに釘付けになっているはずです。
どきどきどき・・・
(耐えられない)
もう心臓が破裂しそうでした。
どきどきどき・・・
(もう、どうにでもなれ)
この子たちのために・・・
もっと恥をかいてあげようという気持ちになります。
(見てて)
覚悟が固まった瞬間でした。
湯だまりのふちに腰かけたまま、
「んー」
ばんざいするように、腕を真上に伸ばします。
「んー・・んんん」
全身で『ぐーっ』と、伸びをしました。
そして、そのまま後ろに『ごろん』・・・
地べたに背中をつけてみせました。
仰向けのまま気持ちよさそうに、
「ふー」
まぶしい陽射しを、全身に浴びてみせます。
空が真っ青です。
(恥ずかしい)
白い雲が、形を変えながら『すーっ』と流れているのが見えました。
(恥ずかしいよ)
のけぞるような姿勢で、両脚だけをお湯の中に下ろしています。
開き気味になった私の股が・・・
ちょうど彼らの真正面を向いていました。
(あの子たち)
さぞかし興奮していることでしょう。
たての割れ目が『まる見え』のはずでした。
(恥ずかしいよぅ)
自虐的な興奮が、どんどん高揚感を煽ります。
そのつらい体勢から、
「ふー」
お湯の中の両脚を、空中に持ち上げました。
足の置き場を求めるように・・・
両脚を大きく左右に開きます。
ひざを立てて、湯だまりのふちに足を置きました。
(ああああん)
自分でやっておきながら、
(イヤぁ、泣いちゃう)
覗いている彼らの前で、思いっきりの大股開きです。
恥ずかしい部分が、開けっぴろげに露わでした。
(お願い見ないで)
割れ目・・・というか、穴まで開いている気がします。
陽射しのまぶしさに目を閉じました。
(見ないでぇ)
自尊心が、ぶるぶる震えます。
あくびするみたいに、
「うーん、んんん」
仰向けのまま、伸びをしました。
まさか見られているなんて夢にも思わない、きれいなお姉さん・・・
リラックスを演じながらも、もう半分気が狂いそうです。
(もういい)
もう・・・だめ・・・・
(見て)
お行儀悪く、まる見えになっている私のあそこ・・・
そのあられもない格好に、男の子たちも嬉々としていることでしょう。
(見たかったんでしょ?)
何もかもを投げ出したような陶酔感に、頭がぽわーんとしてきます。
(ああ。。。)
快感でした。
恥ずかしすぎて、恥ずかしすぎて・・・
それが狂おしいほどに快感です。
もう・・・むり・・
鼻の奥がきゅーんと熱くなりました。
いまにも涙があふれそうになってしまいます。
この屈辱的な気持ちに、もう耐えられませんでした。
もう、これ以上は無理です。
立てていたひざを下ろしました。
お湯の中に脚が入ります。
仰向けのからだを捩じるようにして、上半身を起こしました。
そのまま、
「どぼん」
お湯の中に、身を沈めてしまいます。
潮時でした。
まだはっきり見えている、ふたつの顔のシルエット・・・
意識的に、頭の中を空っぽにしていました。
わざと何も考えないようにします。
(もう、じゅうぶん)
お湯の中で目をつぶりました。
(帰ろう)
冷えたからだが、温まってくるのを待ちます。
「ざば」
お湯から出ました。
荷物を置いた岩のところまで歩いていきます。
これで最後というつもりで、今度は全裸の立ち姿を披露してみせていました。
トートの中からスポーツタオルを取り出して・・・
ゆっくりと全身を拭きます。
(あ、カメラ・・・)
小道具に使おうと思っていたデジカメの存在を、
(しまった)
ここまできてから思い出していました。
(もう、だめだ)
今さら自然体を装って演技を続ける自信はありません。
それよりも、このふたりが誰なのか確かめたい気持ちに駆られていました。
からだを拭き終えると同時に、手早く服を身に着けていきます。
荷物をまとめて、その場を後にしました。
「ガタンっ」
木戸を抜けて、男湯スペースへ出ていきます。
そこに残っていたのは、ひょろり君でした。
現れた『お姉さん』の視線に、恥ずかしそうに湯船で縮こまっています。
(ということは・・・)
あれは、まじめ君と、おかっぱ君・・・
私は、何食わぬ顔でひょろり君に声をかけました。
「あれ?・・・みんなは?」
答えに困った彼は、なんとも微妙な表情になって口ごもっています。
それはそうでしょう。
まさか『あなたのお風呂を覗きに行ったよ』なんて、言えるはずもありません。
「ここ、いい温泉だね」
唯一ここに残った、ひょろり君・・・
もしかしたら、この子がいちばん真面目なのかもしれません。
「じゃあね、ばいばい」
最後まで何も知らないお姉さんを装って、別れを告げました。
階段道を昇って、森の歩道を駐車場へと向かいます。
この数時間のあいだに、いったいどれだけのことがあったでしょう。
『茶髪』、『おデブ』とのイヤな体験・・・
『まじめ君』たち相手の、どきどき体験・・・
すべては『運とタイミング』のいたずらだったような気がします。
帰路の運転の道すがら、いろいろと思いを馳せていました。
(調子に乗ったらしっぺ返しにあう)
過去にも何度も思い知らされたことです。
(成長してないなぁ)
いい意味で悪い意味でも、私は私なんだな・・・
そんなふうに反省しながらハンドルを握っていました。
(PS)
ずっと続きを書こうと思っていて、今日やっと書くことができました。
長文にお付き合いくださって、ありがとうございました。
恭子温泉で
GWの前半が4連休になったので、帰省してきました。
もちろん、実家で家族とのんびりすごすのが目的なのですが・・・
でも近頃では、帰省することにもうひとつの楽しみを見出してしまっている自分がいます。
私には、他人には言えない自分だけの秘密があります。
誰かに覗かれながら、人知れずに恥ずかしい感情に身を焦がす・・・
その快感に包まれるときの興奮の味を知っているのです。
私は、東京に住んでいます。
でも東京は、どこでも人が多すぎて・・・
なかなかそういうチャンスをみつけることができません。
ずるいけど・・・リスクを冒す勇気はないのです。
いつからか、そういうシチュエーションを探すことが実家に帰省するときの目的のひとつになりつつありました。
実家に戻ったその翌日には、もう『その場所』に行くつもりでいました。
ずっと心の中にあったのです。
昨年の夏に訪れた渓流沿いの露天温泉・・・
私はあのときの出来事をずっと忘れられずにいました。
1月にも帰省したのですが、そのときは雪道を運転していく自信がなくて、行くのを諦めてしまったのです。
ひととおり荷物を準備した私は、実家の車を借りて出発していました。
まだ午前中の早い時間です。
目的地は隣県ですし、遠いですからぐずぐずしていられません。
春のうららかな陽射しの中、穏やかな気分で運転していました。
天気も良くて、絶好の温泉日和です。
ドライブ自体が楽しい感じでした。
道も完璧に憶えています。
いちどコンビニに寄ったぐらいで、休憩をはさむこともなく運転を続けていました。
山道のカーブをくねくね走ります。
あるキャンプ場の近くを通過しました。
ようやく目的地が近づいてきます。
国道の途中から、目立たないわき道へと入っていきました。
車を走らせながら、懐かしさがよみがえってきます。
この辺りは、私にとっていろいろと思い出深い場所でした。
ハンドルを切って、目的地の温泉へと進んでいきます。
舗装されていない山道を走らせていくと、古びた温泉旅館が見えてきます。
1軒・・・2軒・・・
いくつかの旅館の前を通りすぎて、道路わきの駐車場に車を入れました。
(着いた。。。)
荷物をまとめました。
スポーツサンダルに履き替えます。
(なつかしい)
前回来たときから、まだ1年も経っていないのに・・・
なんだか大昔のことのように感じます。
GWだというのに、相変わらず人の気配のない鄙びた温泉地でした。
トートバッグを持って車から降り立ちます。
陽射しは暖かだけど、空気はまだ冷たい・・・
そんな陽気でした。
目指す公共(?)露天風呂へと続く歩道は、この駐車場の奥にあります。
すでに誰かの白い車が1台停まっていました。
それは、『たぶん先客がいる』ということを意味しています。
頭の中でイメージを思い浮かべていました。
私は、いわゆる変態さん(?)のように大っぴらに見せつけたいのではありません。
むしろ、相手にそういう女だと思われるのは絶対に嫌でした。
この顔・・・細身のこのスタイル・・・
外見の容姿にだけは、多少なりとも自信のある私です。
男の人にこっそりと覗かれる被害者のふりをして・・・
人知れず、心の中で恥ずかしさを味わいたいのです。
山の清々しい空気を思いっきり吸い込みました。
そして大きく口から吐きます。
緊張しそうになっている自分を奮い立たせました。
(よしっ)
期待に胸を膨らませながら、森の歩道へと足を向けたとき・・・
(あっ?)
ちょうどその歩道から、戻って来た人たちが現れました。
大学生ぐらいに見えるカップルです。
お互いになんとなく、
「こんにちは」
「こんにちは」
軽く挨拶を交わしてすれ違います。
私は振り返っていました。
すれ違ったふたりの背中に声をかけます。
「あの・・・○○湯って、こっちで合ってますか?」
初めてここに来たふうを装って、歩道を指さしました。
「そうですよ」
男の子のほうが、笑顔で答えてくれます。
仲のよさそうなカップルでした。
私が、
「混んでました?」
にこやかに聞くと、
「いや、僕たちだけでしたから・・・もう誰もいないと思いますよ」
親切に教えてくれます。
ふたりにお礼を言って、小道に入りました。
そしてすぐに立ち止まります。
その場で、耳を澄ませていました。
しばらくしてエンジン音が響いてきます。
車が走り去っていくのが聞こえました。
もういちど駐車場を確認します。
さっきの白い1台はいなくなっていました。
私の車だけが、ぽつんと取り残されています。
(やっぱり、あのカップルの車だったんだ)
ちょっとだけ複雑な心境でした。
いま露天風呂まで行っても私だけですから、望むようなチャンスはないということです。
でも、それもある程度は想定していたことでした。
もともと私も、それなりに長期戦(?)の覚悟は持って来ています。
そのために、早い時間から家を出発したのですから。
森の歩道を、ひとり歩いていきます。
片側は崖のように切り立っていました。
下を覗きこむと、木々のあいだに川の流れが見えています。
(なつかしいなぁ)
近づくにつれ、どんどんテンションがあがってくる自分を感じました。
そのうち、朽ちた表示板が見えてきます。
『○○湯→』
歩道の横から、下へと降りていく階段道が伸びていました。
崖をまわりこむように下っていく、急こう配の階段道です。
足元に注意しながら、一歩一歩足を進めていきます。
開けた視界の下に、男湯の岩風呂が見えてきました。
誰もいない無人の岩風呂を、上からひととおり見渡します。
そして、いちばん下まで降りきりました。
渓流沿いに設けられた、細長い露天温泉です。
女湯に行くためには、男湯のスペースの中を通っていくかたちになります。
いちばん奥の木戸が女湯の入り口でした。
男湯の中を突っ切るように、そちらへと歩いていきます。
「ガタッ」
木戸を開けて、石垣を折り返します。
懐かしい露天の女湯が、私を待ち受けていました。
(ああ。。。)
何もかもが以前と同じです。
無人の岩風呂を前にして、私はスカートを下ろしました。
乾いた小岩の上に、脱いだ服を次々に重ねていきます。
(いい気持ち)
大自然の中で一糸まとわぬ姿になることの開放感がありました。
全裸になった私は・・・
手おけでかけ湯をしてから、湯だまりに入りました。
(ふーっ)
熱いお湯が、何時間も運転してきた私のからだを癒してくれます。
(気持ちいい。。。)
こちら側の女湯のお風呂は、湯船というほどの立派なものではありません。
狭いスペースの真ん中に、小さな湯だまりがあるだけです。
それでも、私は格別な思いでした。
またここに戻ってきたのです。
この、恥ずかしい記憶でいっぱいの場所に。
お湯につかりながら、ひとりチャンスを待ちました。
けっこう熱いお湯なので、長湯はできません。
ときどき湯だまりから出ては、
左右に立てられた目隠しのすだれ・・・
露天スペースのはじっこの、コンクリート部分・・・
懐かしさ半分で、周りを眺めていました。
このはじっこのコンクリートの側面は、そのまま護岸(?)のようになっています。
高さは1m半ぐらいでしょうか。
身を乗り出して、下を見てみました。
護岸に沿って、川べりの土台(?)が男湯まで繋がっています。
(懐かしいな)
この『すだれ』の隙間から見知らぬおじさんに覗かれたときのことを、昨日のことのように思い出していました。
トートの中には、あのとき使ったデジカメも持ってきています。
同じようなシチュエーションで、またあの興奮をまた味わえれば最高でした。
今日も、上手くいくでしょうか。
期待に胸がふくらみます。
(誰にも迷惑かけるわけじゃない)
その思いが、私を穏やかな気持ちでいさせてくれました。
いけないことをしようと目論んでいるのに、罪悪感はありません。
むしろ、
(覗くことになる男の人は喜ぶんだろうな)
(はだかの私を目にできて、どきどきするんだろうな。。。)
まだ見も知らぬ相手の心情を想像して、わくわくしていました。
数分おきに入口の木戸から男湯の様子を窺ってみますが・・・
誰かが訪れてくる気配は一向にありません。
(ふうー)
それにしても、いい景色です。
目の前を流れている川の水は、透明に澄み切っています。
(冷たそう)
護岸の下に降りる気にはなれませんが、眺めているぶんには最高でした。
ときどき吹いてくるそよ風は、まだ幾分か冷気を含んでいますが・・・
のぼせたからだには、それも清々しいぐらいです。
(いいなぁ、ここの温泉は)
私のよこしまな気持ちは別にしても、ここは本当に秘湯という気がします。
こうしてお湯につかっていると、日頃の嫌なことなどすべて忘れてしまいそうでした。
お湯から出るたびに、木戸に近寄って男湯の様子を覗いてみます。
もう30分以上、そんなことを繰り返していました。
すでに11時をまわっているはずですが・・・
いくら待っていても、山奥のこの露天温泉を訪ねてくる人は誰もいません。
待ちぼうけの気分でいろいろ考えていました。
(時間が早すぎた?)
(さすがに、ここはマイナーすぎる?)
地元の人が来るとすれば、やはり午後でしょうか。
だんだんと緊張感を失っていました。
経験上、私にはわかっていることがあります。
こういうことの『タイミング』というのは、自分でどうにかできるものではありません。
いくら自分がその気になっても、『運』がなければそれまでなのです。
考えてみれば、こんなにいい温泉で『貸切』の状態でした。
(これほどの自然の中で、わたしひとりだけ)
しかも全裸でいるのです。
(期待してきたのとは違うけど)
ひとりで何をしようと、誰にも邪魔されることはありません。
一度そんなふうに思うと、もう魔法にかかったようなものでした。
いたずら心(?)が出てきます。
(だいじょうぶ)
(誰もいない)
こういうサイトに、こうやって体験談を投稿するぐらいですから・・・
私のことを蓮っ葉な女だと思っている方も多いかもしれません。
でも、私・・・普段は本当にまともな生活をしてるんです。
実際に私のことを知る人は・・・
私に対して、たぶん真面目で控えめなイメージしか持っていないことでしょう。
スポーツサンダルを履きました。
だいじょうぶ・・・
(誰もいないときぐらい。。。)
他人から思われている自分のイメージを裏切ってやりたくなります。
(私だって本当は。。。)
羽目をはずすことだってできるんだから・・・
もういちど、周りに誰もいないことを確認します。
岩場に手をかけました。
足場を確かめながら・・・
はだかのまま、ひょいひょいと2mぐらいよじ登ってみます。
そして振り返ってみました。
大した高さではないのに、見える景色が全然ちがうような感じがします。
足場に踏ん張った両脚が全開でした。
真っ裸のまま、右手を股のあいだに持っていきます。
(私だって)
大切な部分をなぞりました。
外見は、どこからどう見たって『おしとやか』なはずの私・・・
あそこを触りながら、恥じらいもなくお尻をくねらせてみせます。
(この私の、こんな姿・・・)
もし会社の男性たちが覗き見たなら、きっと衝撃を受けることでしょう。
(どう?・・・どう?・・わたしのこの格好・・・)
指先をクリにあてがいました。
彼らの顔を思い浮かべながら、オナニーの真似事をしてみせます。
見下ろせば、清流のせせらぎ・・・
ときどき森の木々が風にざわめいています。
(私ひとりしか、いない。。。)
理性という束縛から意識がかけ離れていく感覚を、爽快にすら感じていました。
頭のどこかでは、
(この感覚、あぶない)
そう理解していながらも、
(少しだけなら)
無意識に気持ちが大きくなっていきます。
(どうせ誰も見てない。。。)
もっと何か、大胆に振る舞ってみたくなりました。
怪我しないように気をつけながら、そっと岩場から降ります。
木戸のところに行きました。
男湯の様子を窺います。
・・・相変わらず、誰もいません。
「ガタッ」
戸を開けました。
男湯に足を踏み入れます。
どきどきどき・・・
その瞬間から、心臓が爆発しそうに鼓動していました。
身につけているのは、足に履いているサンダルだけ・・・
もうここは男湯のスペースです。
(誰か来たら・・・いま誰か来たら・・・)
どうせ来るわけないとわかっていても、重圧に息が苦しくなってきます。
まるで、モデルがランウェイウォークするみたいに・・・
気取った足取りで、ずんずん歩いていきます。
階段道の下まで歩き切った私は・・・
澄ました顔のまま、真っ裸でポーズしてみせました。
くるっとターンして、もと来たほうへと戻っていきます。
(だめ)
すごい緊張感でした。
振り返りながら、後ろの階段道を見上げます。
(もうだめ)
とても平常心を保てません。
いま、もしあそこから人が降りてきたら・・・
そう思うと、いてもたってもいられなくなります。
(もうだめ、もうだめ)
最後は駆け出していました。
木戸をくぐって、女湯に逃げ込みます。
どきどきどきどき・・・
思わずその場にしゃがみこみます。
「はあ、はあ、はあ、」
どきどきどきどき・・・
自分の胸を押さえていました。
鼻で呼吸ができなくなるほどの『はらはら感』に、興奮を抑えられません。
(もういちど)
鼓動が落ち着いてくるのを、じっと待ちます。
(もういちどだけ)
立ち上がりました。
木戸の隙間から、男湯の向こう・・・階段道に人の姿がないことを確かめます。
どうしてこんなことにわくわくしているのか、自分でもわかりませんでした。
この『はらはら感』への欲求を絶ち切ることができません。
さっきまでは、あれほど『早く誰か来ないかな』と待ち望んでいた私だったのに・・・
今度は、
(お願い、誰も来ないで)
そう願っている私がいます。
再び、男湯へと踏み入りました。
誰もいない男湯で、私だけのファッションショーです。
昔テレビで観たコレクションの様子を思い出しながら・・・
そのモデル気分になりきって、まっすぐに歩いていきます。
(私が着てるのは透明のドレス。。。)
世界中が注目しています。
誰もいない観客たちの前でポーズをとりました。
ありもしないフラッシュの嵐を想像しながら、全裸のままターンしてみせます。
こんな場所で、こんなことしてる私・・・
誰が見たって『馬鹿』そのものですが、それが楽しくてなりません。
プレッシャーに心臓が破裂しそうになりながらも、すっかり昂ぶっていました。
階段道を見上げますが、そこに人の姿はありません。
(いまのうち。。。)
今度は、あそこから颯爽と降りてくる自分を想像します。
(誰もいない今のうちに)
崖沿いの階段道を駆け上がっていました。
(自分がこんなにも大胆になれている)
そのこと自体に興奮してきます。
こんなの、本当の私じゃありません。
誰にも知られてはいけない馬鹿な私になれています。
異様に高揚しながら、
「はあ、はあ、はあ」
もう崖を半分近くまで上がってきていました。
見下ろせば、男湯スペースが一望できるところまで来ています。
(私いま、ここにいる!)
心の中で、叫びたい気分でした。
(こんな格好で、ここにいるよ!)
パンツもはかずに全裸でここまで来たことの興奮が、私を昂ぶらせます。
急こう配の階段道を、
「はあ、はあ、はあ」
さらに上がっていきます。
ここまで来たら・・・
「はあ、はあ、はあ」
森の歩道が見えるところまで行ってみるつもりでした。
あの朽ちた表示板の前で・・・
大胆にポージングしてみせる自分の姿を想像してしまいます。
「はあ、はあ、はあ」
(もうすぐだ)
あと少しで、森の歩道に出ることができる・・・
最後の数段を駆け上がろうとした、その瞬間・・・
「あれ看板か?」
「なんか、すげーな」
(うそ!!!)
耳に飛び込んできた男性の声に、心臓が飛び出しそうになりました。
頭の中が真っ白になりかけて・・・
(えっ?えっ?・・えっ?)
次の瞬間には、もと来た階段道を駆け下りていました。
(うそうそうそ)
人が来てる・・・それもひとりじゃありません。
(そんな・・・そんな・・・)
まさに鉢合わせする『寸前』のところでした。
必死に階段道を駆け下りますが、
(だめだ!・・・もうだめ)
どう考えたって、女湯まで間に合うはずがありません。
(みつかっちゃう)
パニックになりすぎて、足がもつれそうでした。
(間に合わない!)
もう選択肢がありません。
とっさの判断でした。
崖沿いの階段道・・・
まわりこみながら下りる唯一の大岩・・・
その岩の陰にしゃがみこんでいました。
なるべくからだを小さくして、縮こまります。
「はあ、はあ、はあ」
あまりの出来事に、恐怖で背中が攣りそうでした。
もしあと10秒タイミングがずれていたら・・・
私は全裸であの人たちの前に飛び出していたに違いありません。
「はあ、はあ、は・・」
荒くなった呼吸を無理やり押し殺します。
「わー、すげーな」
「かしきりやんかー」
恐怖という以外の言葉がみつかりませんでした。
生きた心地がしないとは、このことです。
全裸の私がうずくまる岩のすぐ横を、男の人がひとり・・・
「はやく行こーぜ」
そしてもうひとり・・・
「景色いいわー」
それこそ手を伸ばせば届きそうな距離で、通り過ぎていきます。
本当に、『ひょい』とこっちの岩陰を覗きこまれればアウトな近さでした。
(お願い。。。お願い。。。)
あまりの恐怖に、腰ががくがく震えてきます。
(お願い。。。ほんとうにお願い。。。)
彼らは、眼下に開けた露天の景色に目を奪われているようでした。
うずくまっている私に気づくことなく、そのまま階段道を下りていきます。
私は、震えながら息をひそめていました。
本当に紙一重のところだったとしか表現のしようがありません。
下っていくふたりの後ろ姿を見送りながら・・・
もう、ほとんど腰が抜けたような状態です。
ここに本当のことを書こうかどうか迷いましたが、書きます。
私はしゃがみこんだまま、
「じょ・・・じょわっ・・・」
失禁していました。
本当に怖かったのです。
自分の意思とは関係なく、
「じゃー、じょわー」
おしっこを漏らしていました。
からだに力が入りません。
しばらくそのまま放心していました。
ふたりが男湯に降り立つ様子が見えています。
彼らは学生でしょうか。
20歳すぎぐらいの印象でした。
何を話しているのかまでは遠くて聞き取れませんが・・・
あっという間に服を脱いで、楽しそうにお湯につかっています。
(馬鹿だ)
涙がぼろぼろあふれてきます。
私はなんてことをしてしまったのか・・・
とりあえず、みつからなかったのは良かったものの、
(こんな格好で)
これではもう、身動きもとれません。
(馬鹿すぎる)
現実を突きつけられたまま、途方にくれていました。
どうすればいいのか自分でもわかりません。
生涯、これほどのピンチに陥ったことがあったでしょうか。
(もう二度としない)
(もう一生、羽目をはずしたりしないから)
だから助けて。
さっきまでの、浮かれていた自分が恨めしくてなりません。
とにかく、もしみつかったら取り返しがつきません。
このままここに隠れているしかありませんでした。
彼らが帰るまでじっと待って、やり過ごすほかありません。
岩場の陰にうずくまったまま・・・
男の子たちが温泉を満喫しているのを、じっと眺めていました。
自分で漏らしたおしっこのにおいが立ち込めています。
みじめでした。
からだも冷えて、だんだん震えてきます。
こうしているうちにも、
(もし他にも次々に人が来てしまったら・・・)
どんどんそんな不安が募ってきました。
(早く帰って)
いったいどのぐらいの時間、そうやっていたでしょうか。
不安と心細さに泣きそうになりながら、寒さに震えていました。
(早く、いなくなって)
(お願い、帰って)
それなのに・・・
湯船から出たひとりが、よたよたと奥のほうへと歩いていきます。
私は、はらはらしながらその様子を眺めていました。
悪い予感がしてきます。
『茶髪』のその男の子は、女湯への木戸に顔をくっつけていました。
向こう側を覗こうとしているのがわかります。
後ろを振り返って、
「・・〇△×・・・□×△・・」
もうひとりの『おデブ』な男の子に何か言っているようでした。
いま女湯には誰もいないのに・・・
彼らはそれを知りません。
『おデブ』も、木戸の周りに近づいていきます。
ふたりとも、なんとかして中を覗こうとしています。
私にはわかっていました。
木戸のすぐ向こう側には、石垣のような部分があります。
ですから、あの位置から覗いたところで中の女湯が見えるわけではありません。
心の中で、不安の黒い雲がどんどん広がっていきます。
さっきの悪い予感が的中しようとしているのを感じていました。
(ああ、やめて)
『茶髪』が、そっと木戸を開けています。
そして、ひとり女湯に忍びこんでいくのが見えました。
(まずい)
(まずいよ)
中には誰もいません。
彼らも、それがわかったのでしょう。
『茶髪』に招き寄せられたように・・・
『おデブ』も木戸の中へと入っていきます。
(だめ、だめ、)
(どうしよう)
上から眺めながら、もう死にそうに絶望的な気持ちでした。
私のトートバッグ・・・お財布、車のキー、脱いだ服・・・
ぜんぶあそこに置きっぱなしです。
もし、持っていかれてしまったら・・・
思わず岩陰から飛び出していました。
いまこの瞬間を逃せば・・・
(本当に取り返しがつかなくなる)
階段道を、死にもの狂いで駆け下ります。
(まだ・・・まだ出てこないで)
どきどきどき・・・
心臓が爆発しそうでした。
ふたりの姿は、まだ木戸の向こうに消えたままです。
(イヤぁお願い)
一気に階段道を下っていました。
(まだ出てこないで)
全裸のまま、男湯まで降り立ちます。
(お願い。。。お願い。。。)
そのまま横切るように突っ切りました。
どきどきどき・・・
はじっこのコンクリート部分に手をつきます。
からだを反転させながら、
(間に合った)
護岸の下に降りていました。
頭を低くして護岸の陰に隠れます。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
思わずしゃがみこんでいました。
完全に息が切れています。
なんとかみつからずに、ここまで来られました。
(なんとかなる)
光が見えてきた気がして、希望がわいてきます。
休んでいる暇はありませんでした。
荷物を漁られる前に、
(戻らないと)
護岸の下で頭を低くしたまま・・・
川べりの土台を、女湯へと這っていきます。
必死でした。
対岸は森です。
見ている人など、いるはずもありません。
そう自分に言い聞かせて、這いつくばるように川べりを伝っていきます。
(なんとかしないと)
言い訳を思い浮かべます。
どう振る舞えばいいのでしょう。
考えがまとまりません。
ついに、女湯のそばまで辿りつきました。
「はあ、はあ、は・・」
気配を殺して、耳を澄ませます。
「・・・やんか」
「おまえの・・□△○・・×・・」
彼らの声が聞こえてきています。
どきどきどき・・・
みつからないように、岩とすだれとの境目から・・・
そっと女湯の様子を窺いました。
(あっ。。。)
見たくない現実がそこにありました。
「・・・んやろか?」
「そんなはずねーじゃん」
『おデブ』が、私のトートの中を探っています。
(勝手にさわらないで!)
怒りたい気持ちをぐっとこらえます。
(あああ。。。)
『茶髪』の手には、私の下着がありました。
さっき脱いだ私のショーツを広げて、
(ばか!やめてよ)
内側をジロジロと眺めています。
やはり、ふたりとも大学生ぐらいの感じでした。
別に見たいわけではないですが・・・
ふたりの『おち○ちん』が、まる見えです。
(どうしよう)
信じがたい状況でした。
まさかの展開に、どんどん危機感を煽られます。
(どうしよう)
(どうしよう)
荷物だけあって、持ち主の姿がない・・・
彼らも、さすがに怪訝な顔をしていました。
きょろきょろと周りを見渡すその表情が、私を追い詰めます。
『茶髪』が、私のパンツを自分の『おち○ちん』にかぶせていました。
ぐるぐるなすりつけながら、おどけたように『おデブ』に見せつけています。
「はははは」
ふたりしてげらげら笑いながら・・・
『おデブ』は、私のストッキングを手に取っていました。
鼻に押し付けて、においを嗅いでいます。
(どうしよう。。。)
このまま荷物を持っていかれたら、もうおしまいです。
そう思うと、いてもたってもいられません。
(追い払うしかない)
とりあえず、私はもうここに戻ってきています。
あの子たちに、さっきまでの奇行(?)を知られたわけではありません。
覚悟を決めていました。
女湯にいま『忍び込んできている』のは、彼らのほうです。
私は、ちょっと涼みに護岸の下に降りていただけ・・・
そう考えれば、こっちに非はありません。
(だいじょうぶ)
(なんとかなる)
悪いのは向こうなんだから・・・
相手は私より年下です。
強気でいくしかないと思いました。
川べりの土台で身をかがめていた私は、
どきどきどき・・・
首だけを、そっと護岸の上まで出しました。
どきどきどき・・・
まだふたりとも私には気づいていません。
(やるしかない)
大きく息を吸って、
「ちょっとあんたたち!」
「人の荷物に何やってんのよ!」
いきなり怒鳴るように叱りつけました。
ふたりとも『びくっ』と固まって、こっちを向きました。
突然のことに仰天したようです。
呆然としたまま・・・
護岸の下から顔だけを出している私に、目を丸くしています。
「こっちは女湯でしょ!」
「なに入って来てんの!!」
私の剣幕に驚いた『おデブ』が、
「うわ」
慌てて木戸の向こうへと逃げていきます。
『茶髪』も、ばつの悪そうな表情を浮かべて・・・
何度も私のほうを振り返りながら、ようやく木戸の向こうへと帰っていきます。
「ガタタッ、ガタン」
戸を閉める音がしました。
岩場の向こう側から、ふたりの声が聞こえてきました。
「やっべぇ、あせったー」
「いるやんかー○△□・・・」
「あははは・・はは・・・は・・・・」
次第に声が遠ざかっていきます。
(よかった。。。)
その場にへたりこみそうになっている自分がいました。
(助かった)
ほっと胸をなでおろしながらも、もう立っているのがやっとです。
コンクリートに手をつきました。
冷え切ったからだが、もうガチガチです。
護岸のでっぱりに足を引っ掛けました。
勢いをつけて女湯に這い上がります。
「ざばっ」
そのまま、湯だまりに飛び込んでいました。
(熱い。。。)
お湯のぬくもりが全身にしみわたります。
(助かった)
なんとか戻って来られた今のこの状況が、まるで夢のようでした。
一時はどうなるものかと思いましたが、
(よかった。。。)
ほっとして、なんだか放心してしまいそうです。
(助かったんだ)
まさに、九死に一生を得たような気持ちでした。
もし途中でみつかりでもしたなら・・・
あのふたりの雰囲気からして、どうなっていたか想像もつきません。
そう思うと、安ど感を覚えずにいられませんでした。
同時に、
(馬鹿だった)
自己嫌悪の塊のようになっている私がいました。
『露出』だとか、『いけない自分にわくわく』だとか・・・
(くだらない)
そんなことに、うつつを抜かしていた私・・・
(もうしない)
(二度としない)
危ない橋を渡るのは、もう懲り懲りです。
お湯につかったまま、凍えたからだがほぐれてくるのを待ちました。
(本当によかった)
窮地を脱したという安心感と・・・
(危なかった)
いまだに抜けきらない絶望感の余韻・・・
相反する感情が半々で、くつろぐことなどできません。
(はやく帰りたい)
もう、その一心でした。
お湯の熱さに、おでこが汗ばんできました。
からだも温まっています。
(帰ろう)
もうここに来ることも、二度とないでしょう。
「ざば」
お湯からあがりました。
(はやく帰ろう)
トートの中からスポーツタオルを出します。
手早く全身を拭きました。
(ない・・・)
パンツとストッキングがありません。
さっき、あのまま彼らに持っていかれてしまったのです。
(もう、いい)
車に戻れば、念のため持ってきた予備の服がひととおりあります。
それに、あんなふうにいたずらされた下着なんて・・・
どうせ身につける気になんかなれません。
ブラをつけて、ニットを着ます。
下半身は・・・そのままスカートをはきました。
ひざ丈のフレアですが、
(だいじょうぶ)
とりあえず、中が見えることはありません。
早くこの場を去りたい・・・
それこそが最優先でした。
トートの中を確認します。
なくなったものもありません。
荷物は、ぜんぶ無事です。
多少のプレッシャーがありました。
帰るためには・・・
彼らがいる男湯スペースを通り抜けていかなければなりません。
「ふーっ」
深呼吸しました。
(だいじょうぶ)
私は悪くありません。
(悪くないんだから)
自分にそう言い聞かせて、
「ふーっ」
大きく息を吐きます。
「ガタッ」
木戸を開けました。
湯船につかっていたふたりが、同時に私のほうを見ました。
どちらとも目を合わせたくありません。
うつむいたまま男湯スペースに踏み出します。
ふたりが、何やら頷き合っているのが目に入ってしまいました。
その瞬間から嫌な予感しかしてきません。
『茶髪』が、湯船の中から立ち上がっています。
(関わりたくない)
(来ないで)
私は、もう帰りたいのです。
早足で男湯スペースを進みました。
こっちに近づいてきた『茶髪』が、
「あの・・・さっきは、すみませんでした」
殊勝な口ぶりで話しかけてきます。
私が無視しようとすると、
「ちゃんと謝らせてください」
行く手を阻むように、前に立ちふさがろうとしてきました。
「さっきは、本当にすみませんでした」
「もう、帰っちゃうんすか?」
神妙な顔つきで謝ってくる彼の『お○んちん』が、まる見えでした。
「ちょっと・・・」
私が困ったように目をそむけると・・・
湯船の中の『おデブ』が、向こうでニヤニヤしています。
無性に腹が立ちました。
要するに、私はからかわれているのです。
(こっちが女ひとりだからって)
人を馬鹿にしてると思いました。
(関わっちゃいけない)
「どいてください」
あくまでも無視しようとすると、
「そんな怒んないでくださいよぉ」
行こうとする前へ前へと『茶髪』が回りこんできて、
「怒った顔が、かわいすぎるんですけどぉ」
おちゃらけながら私を足留めさせようとします。
あからさまに『ムッ』としてみせる私に、
「待って待って」
「ごめん、パンツも返さなくっちゃあ」
まったく悪びれる様子がありません。
「てことはあれぇ?今は?」
その白々しい声のトーンに、内心『びくっ』としました。
ニヤニヤしながら、
「はいてないのぉ?」
このときの悔しさは、いまでも忘れることができません。
すべて一瞬のことでした。
『茶髪』の横をすり抜けようとしたときには・・・
(えっ)
もうスカートの裾をつかまれていました。
あっと思う間もなく、
「きゃ・・」
後ろから『バッ』とめくられてしまいます。
「きゃあっ!!」
慌てて前を押さえました。
必死にスカートを直そうとしますが、
「きゃっ」
どさくさな感じで、お尻を撫でまわされます。
「イヤっ、痴漢!」
「ふざけないでよっ!」
あまりのことに、なにがなんだかわかりませんでした。
焦って振り払おうにも、
(ちょっと!)
スカートをめくられたまま、離してくれません。
(イヤっ)
『茶髪』の手のひらが、私のあそこを鷲づかみにして、
「きゃあ!」
大切なところをぐにゅぐにゅ揉みまわしました。
「イヤあ!変態!!」
押しのけるように『茶髪』を突き飛ばします。
(最低・・・最低・・・)
こんなことってあるでしょうか。
トートバッグを抱きかかえて階段道を駆け上がります。
(なんでわたしが)
(こんなめに)
さすがに、『茶髪』も追いかけてまでは来ませんでした。
階段道の中ほどまで上がったところで息をつきます。
振り返ると・・・
はるか下から、ふたりがこっちを見上げています。
へらへらとせせら笑うような表情が見て取れました。
(なによ・・・最低!)
文句の一つも言ってやりたいところですが、ショックで口が開きません。
憤りをのみこんで、残りの階段道を駆け上がりました。
森の歩道を、駐車場へと戻っていきます。
痴漢されたという悔しさと、みじめな気持ちで胸がいっぱいです。
(私が何をしたっていうの)
もちろん・・・
あの子たちが来る前に私がしていたことは、咎められても仕方のないことかもしれません。
でも、それとこれとは話が別でした。
私の軽率なあの行動を、彼らに知られていたわけではないのですから。
(あの子たちにしてみれば)
自分たちを怒鳴りつけてきた女・・・
その相手にあんな悪ふざけしたのですから、さぞや胸が『すっ』としたことでしょう。
(きっといまごろ。。。)
得意げになっているだろう『茶髪』の顔が、目に浮かんできます。
ふざけないでよ・・・
(運が悪かった)
そう思うしかありません。
いえ・・・
あの程度で済んだのですから、むしろ運が良かったのかもしれません。
悔しさもみじめさも、私自身で噛みしめるしかありませんでした。
駐車場には大型のオートバイが2台停まっていました。
きっと彼らのものでしょう。
自分の車に乗り込みました。
念のため持ってきていた着替え用のショーツを、バッグから出します。
運転席に腰かけたまま、はきました。
ストッキングの予備はありません。
車をスタートさせながらも、
(最低・・・最低・・・)
無理矢理さわられたときの『茶髪』の手のひらの感触・・・
まだそのまま残っているかのような感覚があります。
(二度と、こんなところ来ない)
ミラー越しに遠ざかっていく駐車場をみつめながら、自己嫌悪でいっぱいでした。
(PS)
長くなりましたので、一度ここで切ります。
時間ができれば、このあとの続きも書くつもりでいますが・・・
忙しくなってしまうので、それがいつになるかはわかりません。
そのときは、この同じレスの中に入れるつもりです。
長文にお付き合いくださって、ありがとうございました。
もちろん、実家で家族とのんびりすごすのが目的なのですが・・・
でも近頃では、帰省することにもうひとつの楽しみを見出してしまっている自分がいます。
私には、他人には言えない自分だけの秘密があります。
誰かに覗かれながら、人知れずに恥ずかしい感情に身を焦がす・・・
その快感に包まれるときの興奮の味を知っているのです。
私は、東京に住んでいます。
でも東京は、どこでも人が多すぎて・・・
なかなかそういうチャンスをみつけることができません。
ずるいけど・・・リスクを冒す勇気はないのです。
いつからか、そういうシチュエーションを探すことが実家に帰省するときの目的のひとつになりつつありました。
実家に戻ったその翌日には、もう『その場所』に行くつもりでいました。
ずっと心の中にあったのです。
昨年の夏に訪れた渓流沿いの露天温泉・・・
私はあのときの出来事をずっと忘れられずにいました。
1月にも帰省したのですが、そのときは雪道を運転していく自信がなくて、行くのを諦めてしまったのです。
ひととおり荷物を準備した私は、実家の車を借りて出発していました。
まだ午前中の早い時間です。
目的地は隣県ですし、遠いですからぐずぐずしていられません。
春のうららかな陽射しの中、穏やかな気分で運転していました。
天気も良くて、絶好の温泉日和です。
ドライブ自体が楽しい感じでした。
道も完璧に憶えています。
いちどコンビニに寄ったぐらいで、休憩をはさむこともなく運転を続けていました。
山道のカーブをくねくね走ります。
あるキャンプ場の近くを通過しました。
ようやく目的地が近づいてきます。
国道の途中から、目立たないわき道へと入っていきました。
車を走らせながら、懐かしさがよみがえってきます。
この辺りは、私にとっていろいろと思い出深い場所でした。
ハンドルを切って、目的地の温泉へと進んでいきます。
舗装されていない山道を走らせていくと、古びた温泉旅館が見えてきます。
1軒・・・2軒・・・
いくつかの旅館の前を通りすぎて、道路わきの駐車場に車を入れました。
(着いた。。。)
荷物をまとめました。
スポーツサンダルに履き替えます。
(なつかしい)
前回来たときから、まだ1年も経っていないのに・・・
なんだか大昔のことのように感じます。
GWだというのに、相変わらず人の気配のない鄙びた温泉地でした。
トートバッグを持って車から降り立ちます。
陽射しは暖かだけど、空気はまだ冷たい・・・
そんな陽気でした。
目指す公共(?)露天風呂へと続く歩道は、この駐車場の奥にあります。
すでに誰かの白い車が1台停まっていました。
それは、『たぶん先客がいる』ということを意味しています。
頭の中でイメージを思い浮かべていました。
私は、いわゆる変態さん(?)のように大っぴらに見せつけたいのではありません。
むしろ、相手にそういう女だと思われるのは絶対に嫌でした。
この顔・・・細身のこのスタイル・・・
外見の容姿にだけは、多少なりとも自信のある私です。
男の人にこっそりと覗かれる被害者のふりをして・・・
人知れず、心の中で恥ずかしさを味わいたいのです。
山の清々しい空気を思いっきり吸い込みました。
そして大きく口から吐きます。
緊張しそうになっている自分を奮い立たせました。
(よしっ)
期待に胸を膨らませながら、森の歩道へと足を向けたとき・・・
(あっ?)
ちょうどその歩道から、戻って来た人たちが現れました。
大学生ぐらいに見えるカップルです。
お互いになんとなく、
「こんにちは」
「こんにちは」
軽く挨拶を交わしてすれ違います。
私は振り返っていました。
すれ違ったふたりの背中に声をかけます。
「あの・・・○○湯って、こっちで合ってますか?」
初めてここに来たふうを装って、歩道を指さしました。
「そうですよ」
男の子のほうが、笑顔で答えてくれます。
仲のよさそうなカップルでした。
私が、
「混んでました?」
にこやかに聞くと、
「いや、僕たちだけでしたから・・・もう誰もいないと思いますよ」
親切に教えてくれます。
ふたりにお礼を言って、小道に入りました。
そしてすぐに立ち止まります。
その場で、耳を澄ませていました。
しばらくしてエンジン音が響いてきます。
車が走り去っていくのが聞こえました。
もういちど駐車場を確認します。
さっきの白い1台はいなくなっていました。
私の車だけが、ぽつんと取り残されています。
(やっぱり、あのカップルの車だったんだ)
ちょっとだけ複雑な心境でした。
いま露天風呂まで行っても私だけですから、望むようなチャンスはないということです。
でも、それもある程度は想定していたことでした。
もともと私も、それなりに長期戦(?)の覚悟は持って来ています。
そのために、早い時間から家を出発したのですから。
森の歩道を、ひとり歩いていきます。
片側は崖のように切り立っていました。
下を覗きこむと、木々のあいだに川の流れが見えています。
(なつかしいなぁ)
近づくにつれ、どんどんテンションがあがってくる自分を感じました。
そのうち、朽ちた表示板が見えてきます。
『○○湯→』
歩道の横から、下へと降りていく階段道が伸びていました。
崖をまわりこむように下っていく、急こう配の階段道です。
足元に注意しながら、一歩一歩足を進めていきます。
開けた視界の下に、男湯の岩風呂が見えてきました。
誰もいない無人の岩風呂を、上からひととおり見渡します。
そして、いちばん下まで降りきりました。
渓流沿いに設けられた、細長い露天温泉です。
女湯に行くためには、男湯のスペースの中を通っていくかたちになります。
いちばん奥の木戸が女湯の入り口でした。
男湯の中を突っ切るように、そちらへと歩いていきます。
「ガタッ」
木戸を開けて、石垣を折り返します。
懐かしい露天の女湯が、私を待ち受けていました。
(ああ。。。)
何もかもが以前と同じです。
無人の岩風呂を前にして、私はスカートを下ろしました。
乾いた小岩の上に、脱いだ服を次々に重ねていきます。
(いい気持ち)
大自然の中で一糸まとわぬ姿になることの開放感がありました。
全裸になった私は・・・
手おけでかけ湯をしてから、湯だまりに入りました。
(ふーっ)
熱いお湯が、何時間も運転してきた私のからだを癒してくれます。
(気持ちいい。。。)
こちら側の女湯のお風呂は、湯船というほどの立派なものではありません。
狭いスペースの真ん中に、小さな湯だまりがあるだけです。
それでも、私は格別な思いでした。
またここに戻ってきたのです。
この、恥ずかしい記憶でいっぱいの場所に。
お湯につかりながら、ひとりチャンスを待ちました。
けっこう熱いお湯なので、長湯はできません。
ときどき湯だまりから出ては、
左右に立てられた目隠しのすだれ・・・
露天スペースのはじっこの、コンクリート部分・・・
懐かしさ半分で、周りを眺めていました。
このはじっこのコンクリートの側面は、そのまま護岸(?)のようになっています。
高さは1m半ぐらいでしょうか。
身を乗り出して、下を見てみました。
護岸に沿って、川べりの土台(?)が男湯まで繋がっています。
(懐かしいな)
この『すだれ』の隙間から見知らぬおじさんに覗かれたときのことを、昨日のことのように思い出していました。
トートの中には、あのとき使ったデジカメも持ってきています。
同じようなシチュエーションで、またあの興奮をまた味わえれば最高でした。
今日も、上手くいくでしょうか。
期待に胸がふくらみます。
(誰にも迷惑かけるわけじゃない)
その思いが、私を穏やかな気持ちでいさせてくれました。
いけないことをしようと目論んでいるのに、罪悪感はありません。
むしろ、
(覗くことになる男の人は喜ぶんだろうな)
(はだかの私を目にできて、どきどきするんだろうな。。。)
まだ見も知らぬ相手の心情を想像して、わくわくしていました。
数分おきに入口の木戸から男湯の様子を窺ってみますが・・・
誰かが訪れてくる気配は一向にありません。
(ふうー)
それにしても、いい景色です。
目の前を流れている川の水は、透明に澄み切っています。
(冷たそう)
護岸の下に降りる気にはなれませんが、眺めているぶんには最高でした。
ときどき吹いてくるそよ風は、まだ幾分か冷気を含んでいますが・・・
のぼせたからだには、それも清々しいぐらいです。
(いいなぁ、ここの温泉は)
私のよこしまな気持ちは別にしても、ここは本当に秘湯という気がします。
こうしてお湯につかっていると、日頃の嫌なことなどすべて忘れてしまいそうでした。
お湯から出るたびに、木戸に近寄って男湯の様子を覗いてみます。
もう30分以上、そんなことを繰り返していました。
すでに11時をまわっているはずですが・・・
いくら待っていても、山奥のこの露天温泉を訪ねてくる人は誰もいません。
待ちぼうけの気分でいろいろ考えていました。
(時間が早すぎた?)
(さすがに、ここはマイナーすぎる?)
地元の人が来るとすれば、やはり午後でしょうか。
だんだんと緊張感を失っていました。
経験上、私にはわかっていることがあります。
こういうことの『タイミング』というのは、自分でどうにかできるものではありません。
いくら自分がその気になっても、『運』がなければそれまでなのです。
考えてみれば、こんなにいい温泉で『貸切』の状態でした。
(これほどの自然の中で、わたしひとりだけ)
しかも全裸でいるのです。
(期待してきたのとは違うけど)
ひとりで何をしようと、誰にも邪魔されることはありません。
一度そんなふうに思うと、もう魔法にかかったようなものでした。
いたずら心(?)が出てきます。
(だいじょうぶ)
(誰もいない)
こういうサイトに、こうやって体験談を投稿するぐらいですから・・・
私のことを蓮っ葉な女だと思っている方も多いかもしれません。
でも、私・・・普段は本当にまともな生活をしてるんです。
実際に私のことを知る人は・・・
私に対して、たぶん真面目で控えめなイメージしか持っていないことでしょう。
スポーツサンダルを履きました。
だいじょうぶ・・・
(誰もいないときぐらい。。。)
他人から思われている自分のイメージを裏切ってやりたくなります。
(私だって本当は。。。)
羽目をはずすことだってできるんだから・・・
もういちど、周りに誰もいないことを確認します。
岩場に手をかけました。
足場を確かめながら・・・
はだかのまま、ひょいひょいと2mぐらいよじ登ってみます。
そして振り返ってみました。
大した高さではないのに、見える景色が全然ちがうような感じがします。
足場に踏ん張った両脚が全開でした。
真っ裸のまま、右手を股のあいだに持っていきます。
(私だって)
大切な部分をなぞりました。
外見は、どこからどう見たって『おしとやか』なはずの私・・・
あそこを触りながら、恥じらいもなくお尻をくねらせてみせます。
(この私の、こんな姿・・・)
もし会社の男性たちが覗き見たなら、きっと衝撃を受けることでしょう。
(どう?・・・どう?・・わたしのこの格好・・・)
指先をクリにあてがいました。
彼らの顔を思い浮かべながら、オナニーの真似事をしてみせます。
見下ろせば、清流のせせらぎ・・・
ときどき森の木々が風にざわめいています。
(私ひとりしか、いない。。。)
理性という束縛から意識がかけ離れていく感覚を、爽快にすら感じていました。
頭のどこかでは、
(この感覚、あぶない)
そう理解していながらも、
(少しだけなら)
無意識に気持ちが大きくなっていきます。
(どうせ誰も見てない。。。)
もっと何か、大胆に振る舞ってみたくなりました。
怪我しないように気をつけながら、そっと岩場から降ります。
木戸のところに行きました。
男湯の様子を窺います。
・・・相変わらず、誰もいません。
「ガタッ」
戸を開けました。
男湯に足を踏み入れます。
どきどきどき・・・
その瞬間から、心臓が爆発しそうに鼓動していました。
身につけているのは、足に履いているサンダルだけ・・・
もうここは男湯のスペースです。
(誰か来たら・・・いま誰か来たら・・・)
どうせ来るわけないとわかっていても、重圧に息が苦しくなってきます。
まるで、モデルがランウェイウォークするみたいに・・・
気取った足取りで、ずんずん歩いていきます。
階段道の下まで歩き切った私は・・・
澄ました顔のまま、真っ裸でポーズしてみせました。
くるっとターンして、もと来たほうへと戻っていきます。
(だめ)
すごい緊張感でした。
振り返りながら、後ろの階段道を見上げます。
(もうだめ)
とても平常心を保てません。
いま、もしあそこから人が降りてきたら・・・
そう思うと、いてもたってもいられなくなります。
(もうだめ、もうだめ)
最後は駆け出していました。
木戸をくぐって、女湯に逃げ込みます。
どきどきどきどき・・・
思わずその場にしゃがみこみます。
「はあ、はあ、はあ、」
どきどきどきどき・・・
自分の胸を押さえていました。
鼻で呼吸ができなくなるほどの『はらはら感』に、興奮を抑えられません。
(もういちど)
鼓動が落ち着いてくるのを、じっと待ちます。
(もういちどだけ)
立ち上がりました。
木戸の隙間から、男湯の向こう・・・階段道に人の姿がないことを確かめます。
どうしてこんなことにわくわくしているのか、自分でもわかりませんでした。
この『はらはら感』への欲求を絶ち切ることができません。
さっきまでは、あれほど『早く誰か来ないかな』と待ち望んでいた私だったのに・・・
今度は、
(お願い、誰も来ないで)
そう願っている私がいます。
再び、男湯へと踏み入りました。
誰もいない男湯で、私だけのファッションショーです。
昔テレビで観たコレクションの様子を思い出しながら・・・
そのモデル気分になりきって、まっすぐに歩いていきます。
(私が着てるのは透明のドレス。。。)
世界中が注目しています。
誰もいない観客たちの前でポーズをとりました。
ありもしないフラッシュの嵐を想像しながら、全裸のままターンしてみせます。
こんな場所で、こんなことしてる私・・・
誰が見たって『馬鹿』そのものですが、それが楽しくてなりません。
プレッシャーに心臓が破裂しそうになりながらも、すっかり昂ぶっていました。
階段道を見上げますが、そこに人の姿はありません。
(いまのうち。。。)
今度は、あそこから颯爽と降りてくる自分を想像します。
(誰もいない今のうちに)
崖沿いの階段道を駆け上がっていました。
(自分がこんなにも大胆になれている)
そのこと自体に興奮してきます。
こんなの、本当の私じゃありません。
誰にも知られてはいけない馬鹿な私になれています。
異様に高揚しながら、
「はあ、はあ、はあ」
もう崖を半分近くまで上がってきていました。
見下ろせば、男湯スペースが一望できるところまで来ています。
(私いま、ここにいる!)
心の中で、叫びたい気分でした。
(こんな格好で、ここにいるよ!)
パンツもはかずに全裸でここまで来たことの興奮が、私を昂ぶらせます。
急こう配の階段道を、
「はあ、はあ、はあ」
さらに上がっていきます。
ここまで来たら・・・
「はあ、はあ、はあ」
森の歩道が見えるところまで行ってみるつもりでした。
あの朽ちた表示板の前で・・・
大胆にポージングしてみせる自分の姿を想像してしまいます。
「はあ、はあ、はあ」
(もうすぐだ)
あと少しで、森の歩道に出ることができる・・・
最後の数段を駆け上がろうとした、その瞬間・・・
「あれ看板か?」
「なんか、すげーな」
(うそ!!!)
耳に飛び込んできた男性の声に、心臓が飛び出しそうになりました。
頭の中が真っ白になりかけて・・・
(えっ?えっ?・・えっ?)
次の瞬間には、もと来た階段道を駆け下りていました。
(うそうそうそ)
人が来てる・・・それもひとりじゃありません。
(そんな・・・そんな・・・)
まさに鉢合わせする『寸前』のところでした。
必死に階段道を駆け下りますが、
(だめだ!・・・もうだめ)
どう考えたって、女湯まで間に合うはずがありません。
(みつかっちゃう)
パニックになりすぎて、足がもつれそうでした。
(間に合わない!)
もう選択肢がありません。
とっさの判断でした。
崖沿いの階段道・・・
まわりこみながら下りる唯一の大岩・・・
その岩の陰にしゃがみこんでいました。
なるべくからだを小さくして、縮こまります。
「はあ、はあ、はあ」
あまりの出来事に、恐怖で背中が攣りそうでした。
もしあと10秒タイミングがずれていたら・・・
私は全裸であの人たちの前に飛び出していたに違いありません。
「はあ、はあ、は・・」
荒くなった呼吸を無理やり押し殺します。
「わー、すげーな」
「かしきりやんかー」
恐怖という以外の言葉がみつかりませんでした。
生きた心地がしないとは、このことです。
全裸の私がうずくまる岩のすぐ横を、男の人がひとり・・・
「はやく行こーぜ」
そしてもうひとり・・・
「景色いいわー」
それこそ手を伸ばせば届きそうな距離で、通り過ぎていきます。
本当に、『ひょい』とこっちの岩陰を覗きこまれればアウトな近さでした。
(お願い。。。お願い。。。)
あまりの恐怖に、腰ががくがく震えてきます。
(お願い。。。ほんとうにお願い。。。)
彼らは、眼下に開けた露天の景色に目を奪われているようでした。
うずくまっている私に気づくことなく、そのまま階段道を下りていきます。
私は、震えながら息をひそめていました。
本当に紙一重のところだったとしか表現のしようがありません。
下っていくふたりの後ろ姿を見送りながら・・・
もう、ほとんど腰が抜けたような状態です。
ここに本当のことを書こうかどうか迷いましたが、書きます。
私はしゃがみこんだまま、
「じょ・・・じょわっ・・・」
失禁していました。
本当に怖かったのです。
自分の意思とは関係なく、
「じゃー、じょわー」
おしっこを漏らしていました。
からだに力が入りません。
しばらくそのまま放心していました。
ふたりが男湯に降り立つ様子が見えています。
彼らは学生でしょうか。
20歳すぎぐらいの印象でした。
何を話しているのかまでは遠くて聞き取れませんが・・・
あっという間に服を脱いで、楽しそうにお湯につかっています。
(馬鹿だ)
涙がぼろぼろあふれてきます。
私はなんてことをしてしまったのか・・・
とりあえず、みつからなかったのは良かったものの、
(こんな格好で)
これではもう、身動きもとれません。
(馬鹿すぎる)
現実を突きつけられたまま、途方にくれていました。
どうすればいいのか自分でもわかりません。
生涯、これほどのピンチに陥ったことがあったでしょうか。
(もう二度としない)
(もう一生、羽目をはずしたりしないから)
だから助けて。
さっきまでの、浮かれていた自分が恨めしくてなりません。
とにかく、もしみつかったら取り返しがつきません。
このままここに隠れているしかありませんでした。
彼らが帰るまでじっと待って、やり過ごすほかありません。
岩場の陰にうずくまったまま・・・
男の子たちが温泉を満喫しているのを、じっと眺めていました。
自分で漏らしたおしっこのにおいが立ち込めています。
みじめでした。
からだも冷えて、だんだん震えてきます。
こうしているうちにも、
(もし他にも次々に人が来てしまったら・・・)
どんどんそんな不安が募ってきました。
(早く帰って)
いったいどのぐらいの時間、そうやっていたでしょうか。
不安と心細さに泣きそうになりながら、寒さに震えていました。
(早く、いなくなって)
(お願い、帰って)
それなのに・・・
湯船から出たひとりが、よたよたと奥のほうへと歩いていきます。
私は、はらはらしながらその様子を眺めていました。
悪い予感がしてきます。
『茶髪』のその男の子は、女湯への木戸に顔をくっつけていました。
向こう側を覗こうとしているのがわかります。
後ろを振り返って、
「・・〇△×・・・□×△・・」
もうひとりの『おデブ』な男の子に何か言っているようでした。
いま女湯には誰もいないのに・・・
彼らはそれを知りません。
『おデブ』も、木戸の周りに近づいていきます。
ふたりとも、なんとかして中を覗こうとしています。
私にはわかっていました。
木戸のすぐ向こう側には、石垣のような部分があります。
ですから、あの位置から覗いたところで中の女湯が見えるわけではありません。
心の中で、不安の黒い雲がどんどん広がっていきます。
さっきの悪い予感が的中しようとしているのを感じていました。
(ああ、やめて)
『茶髪』が、そっと木戸を開けています。
そして、ひとり女湯に忍びこんでいくのが見えました。
(まずい)
(まずいよ)
中には誰もいません。
彼らも、それがわかったのでしょう。
『茶髪』に招き寄せられたように・・・
『おデブ』も木戸の中へと入っていきます。
(だめ、だめ、)
(どうしよう)
上から眺めながら、もう死にそうに絶望的な気持ちでした。
私のトートバッグ・・・お財布、車のキー、脱いだ服・・・
ぜんぶあそこに置きっぱなしです。
もし、持っていかれてしまったら・・・
思わず岩陰から飛び出していました。
いまこの瞬間を逃せば・・・
(本当に取り返しがつかなくなる)
階段道を、死にもの狂いで駆け下ります。
(まだ・・・まだ出てこないで)
どきどきどき・・・
心臓が爆発しそうでした。
ふたりの姿は、まだ木戸の向こうに消えたままです。
(イヤぁお願い)
一気に階段道を下っていました。
(まだ出てこないで)
全裸のまま、男湯まで降り立ちます。
(お願い。。。お願い。。。)
そのまま横切るように突っ切りました。
どきどきどき・・・
はじっこのコンクリート部分に手をつきます。
からだを反転させながら、
(間に合った)
護岸の下に降りていました。
頭を低くして護岸の陰に隠れます。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
思わずしゃがみこんでいました。
完全に息が切れています。
なんとかみつからずに、ここまで来られました。
(なんとかなる)
光が見えてきた気がして、希望がわいてきます。
休んでいる暇はありませんでした。
荷物を漁られる前に、
(戻らないと)
護岸の下で頭を低くしたまま・・・
川べりの土台を、女湯へと這っていきます。
必死でした。
対岸は森です。
見ている人など、いるはずもありません。
そう自分に言い聞かせて、這いつくばるように川べりを伝っていきます。
(なんとかしないと)
言い訳を思い浮かべます。
どう振る舞えばいいのでしょう。
考えがまとまりません。
ついに、女湯のそばまで辿りつきました。
「はあ、はあ、は・・」
気配を殺して、耳を澄ませます。
「・・・やんか」
「おまえの・・□△○・・×・・」
彼らの声が聞こえてきています。
どきどきどき・・・
みつからないように、岩とすだれとの境目から・・・
そっと女湯の様子を窺いました。
(あっ。。。)
見たくない現実がそこにありました。
「・・・んやろか?」
「そんなはずねーじゃん」
『おデブ』が、私のトートの中を探っています。
(勝手にさわらないで!)
怒りたい気持ちをぐっとこらえます。
(あああ。。。)
『茶髪』の手には、私の下着がありました。
さっき脱いだ私のショーツを広げて、
(ばか!やめてよ)
内側をジロジロと眺めています。
やはり、ふたりとも大学生ぐらいの感じでした。
別に見たいわけではないですが・・・
ふたりの『おち○ちん』が、まる見えです。
(どうしよう)
信じがたい状況でした。
まさかの展開に、どんどん危機感を煽られます。
(どうしよう)
(どうしよう)
荷物だけあって、持ち主の姿がない・・・
彼らも、さすがに怪訝な顔をしていました。
きょろきょろと周りを見渡すその表情が、私を追い詰めます。
『茶髪』が、私のパンツを自分の『おち○ちん』にかぶせていました。
ぐるぐるなすりつけながら、おどけたように『おデブ』に見せつけています。
「はははは」
ふたりしてげらげら笑いながら・・・
『おデブ』は、私のストッキングを手に取っていました。
鼻に押し付けて、においを嗅いでいます。
(どうしよう。。。)
このまま荷物を持っていかれたら、もうおしまいです。
そう思うと、いてもたってもいられません。
(追い払うしかない)
とりあえず、私はもうここに戻ってきています。
あの子たちに、さっきまでの奇行(?)を知られたわけではありません。
覚悟を決めていました。
女湯にいま『忍び込んできている』のは、彼らのほうです。
私は、ちょっと涼みに護岸の下に降りていただけ・・・
そう考えれば、こっちに非はありません。
(だいじょうぶ)
(なんとかなる)
悪いのは向こうなんだから・・・
相手は私より年下です。
強気でいくしかないと思いました。
川べりの土台で身をかがめていた私は、
どきどきどき・・・
首だけを、そっと護岸の上まで出しました。
どきどきどき・・・
まだふたりとも私には気づいていません。
(やるしかない)
大きく息を吸って、
「ちょっとあんたたち!」
「人の荷物に何やってんのよ!」
いきなり怒鳴るように叱りつけました。
ふたりとも『びくっ』と固まって、こっちを向きました。
突然のことに仰天したようです。
呆然としたまま・・・
護岸の下から顔だけを出している私に、目を丸くしています。
「こっちは女湯でしょ!」
「なに入って来てんの!!」
私の剣幕に驚いた『おデブ』が、
「うわ」
慌てて木戸の向こうへと逃げていきます。
『茶髪』も、ばつの悪そうな表情を浮かべて・・・
何度も私のほうを振り返りながら、ようやく木戸の向こうへと帰っていきます。
「ガタタッ、ガタン」
戸を閉める音がしました。
岩場の向こう側から、ふたりの声が聞こえてきました。
「やっべぇ、あせったー」
「いるやんかー○△□・・・」
「あははは・・はは・・・は・・・・」
次第に声が遠ざかっていきます。
(よかった。。。)
その場にへたりこみそうになっている自分がいました。
(助かった)
ほっと胸をなでおろしながらも、もう立っているのがやっとです。
コンクリートに手をつきました。
冷え切ったからだが、もうガチガチです。
護岸のでっぱりに足を引っ掛けました。
勢いをつけて女湯に這い上がります。
「ざばっ」
そのまま、湯だまりに飛び込んでいました。
(熱い。。。)
お湯のぬくもりが全身にしみわたります。
(助かった)
なんとか戻って来られた今のこの状況が、まるで夢のようでした。
一時はどうなるものかと思いましたが、
(よかった。。。)
ほっとして、なんだか放心してしまいそうです。
(助かったんだ)
まさに、九死に一生を得たような気持ちでした。
もし途中でみつかりでもしたなら・・・
あのふたりの雰囲気からして、どうなっていたか想像もつきません。
そう思うと、安ど感を覚えずにいられませんでした。
同時に、
(馬鹿だった)
自己嫌悪の塊のようになっている私がいました。
『露出』だとか、『いけない自分にわくわく』だとか・・・
(くだらない)
そんなことに、うつつを抜かしていた私・・・
(もうしない)
(二度としない)
危ない橋を渡るのは、もう懲り懲りです。
お湯につかったまま、凍えたからだがほぐれてくるのを待ちました。
(本当によかった)
窮地を脱したという安心感と・・・
(危なかった)
いまだに抜けきらない絶望感の余韻・・・
相反する感情が半々で、くつろぐことなどできません。
(はやく帰りたい)
もう、その一心でした。
お湯の熱さに、おでこが汗ばんできました。
からだも温まっています。
(帰ろう)
もうここに来ることも、二度とないでしょう。
「ざば」
お湯からあがりました。
(はやく帰ろう)
トートの中からスポーツタオルを出します。
手早く全身を拭きました。
(ない・・・)
パンツとストッキングがありません。
さっき、あのまま彼らに持っていかれてしまったのです。
(もう、いい)
車に戻れば、念のため持ってきた予備の服がひととおりあります。
それに、あんなふうにいたずらされた下着なんて・・・
どうせ身につける気になんかなれません。
ブラをつけて、ニットを着ます。
下半身は・・・そのままスカートをはきました。
ひざ丈のフレアですが、
(だいじょうぶ)
とりあえず、中が見えることはありません。
早くこの場を去りたい・・・
それこそが最優先でした。
トートの中を確認します。
なくなったものもありません。
荷物は、ぜんぶ無事です。
多少のプレッシャーがありました。
帰るためには・・・
彼らがいる男湯スペースを通り抜けていかなければなりません。
「ふーっ」
深呼吸しました。
(だいじょうぶ)
私は悪くありません。
(悪くないんだから)
自分にそう言い聞かせて、
「ふーっ」
大きく息を吐きます。
「ガタッ」
木戸を開けました。
湯船につかっていたふたりが、同時に私のほうを見ました。
どちらとも目を合わせたくありません。
うつむいたまま男湯スペースに踏み出します。
ふたりが、何やら頷き合っているのが目に入ってしまいました。
その瞬間から嫌な予感しかしてきません。
『茶髪』が、湯船の中から立ち上がっています。
(関わりたくない)
(来ないで)
私は、もう帰りたいのです。
早足で男湯スペースを進みました。
こっちに近づいてきた『茶髪』が、
「あの・・・さっきは、すみませんでした」
殊勝な口ぶりで話しかけてきます。
私が無視しようとすると、
「ちゃんと謝らせてください」
行く手を阻むように、前に立ちふさがろうとしてきました。
「さっきは、本当にすみませんでした」
「もう、帰っちゃうんすか?」
神妙な顔つきで謝ってくる彼の『お○んちん』が、まる見えでした。
「ちょっと・・・」
私が困ったように目をそむけると・・・
湯船の中の『おデブ』が、向こうでニヤニヤしています。
無性に腹が立ちました。
要するに、私はからかわれているのです。
(こっちが女ひとりだからって)
人を馬鹿にしてると思いました。
(関わっちゃいけない)
「どいてください」
あくまでも無視しようとすると、
「そんな怒んないでくださいよぉ」
行こうとする前へ前へと『茶髪』が回りこんできて、
「怒った顔が、かわいすぎるんですけどぉ」
おちゃらけながら私を足留めさせようとします。
あからさまに『ムッ』としてみせる私に、
「待って待って」
「ごめん、パンツも返さなくっちゃあ」
まったく悪びれる様子がありません。
「てことはあれぇ?今は?」
その白々しい声のトーンに、内心『びくっ』としました。
ニヤニヤしながら、
「はいてないのぉ?」
このときの悔しさは、いまでも忘れることができません。
すべて一瞬のことでした。
『茶髪』の横をすり抜けようとしたときには・・・
(えっ)
もうスカートの裾をつかまれていました。
あっと思う間もなく、
「きゃ・・」
後ろから『バッ』とめくられてしまいます。
「きゃあっ!!」
慌てて前を押さえました。
必死にスカートを直そうとしますが、
「きゃっ」
どさくさな感じで、お尻を撫でまわされます。
「イヤっ、痴漢!」
「ふざけないでよっ!」
あまりのことに、なにがなんだかわかりませんでした。
焦って振り払おうにも、
(ちょっと!)
スカートをめくられたまま、離してくれません。
(イヤっ)
『茶髪』の手のひらが、私のあそこを鷲づかみにして、
「きゃあ!」
大切なところをぐにゅぐにゅ揉みまわしました。
「イヤあ!変態!!」
押しのけるように『茶髪』を突き飛ばします。
(最低・・・最低・・・)
こんなことってあるでしょうか。
トートバッグを抱きかかえて階段道を駆け上がります。
(なんでわたしが)
(こんなめに)
さすがに、『茶髪』も追いかけてまでは来ませんでした。
階段道の中ほどまで上がったところで息をつきます。
振り返ると・・・
はるか下から、ふたりがこっちを見上げています。
へらへらとせせら笑うような表情が見て取れました。
(なによ・・・最低!)
文句の一つも言ってやりたいところですが、ショックで口が開きません。
憤りをのみこんで、残りの階段道を駆け上がりました。
森の歩道を、駐車場へと戻っていきます。
痴漢されたという悔しさと、みじめな気持ちで胸がいっぱいです。
(私が何をしたっていうの)
もちろん・・・
あの子たちが来る前に私がしていたことは、咎められても仕方のないことかもしれません。
でも、それとこれとは話が別でした。
私の軽率なあの行動を、彼らに知られていたわけではないのですから。
(あの子たちにしてみれば)
自分たちを怒鳴りつけてきた女・・・
その相手にあんな悪ふざけしたのですから、さぞや胸が『すっ』としたことでしょう。
(きっといまごろ。。。)
得意げになっているだろう『茶髪』の顔が、目に浮かんできます。
ふざけないでよ・・・
(運が悪かった)
そう思うしかありません。
いえ・・・
あの程度で済んだのですから、むしろ運が良かったのかもしれません。
悔しさもみじめさも、私自身で噛みしめるしかありませんでした。
駐車場には大型のオートバイが2台停まっていました。
きっと彼らのものでしょう。
自分の車に乗り込みました。
念のため持ってきていた着替え用のショーツを、バッグから出します。
運転席に腰かけたまま、はきました。
ストッキングの予備はありません。
車をスタートさせながらも、
(最低・・・最低・・・)
無理矢理さわられたときの『茶髪』の手のひらの感触・・・
まだそのまま残っているかのような感覚があります。
(二度と、こんなところ来ない)
ミラー越しに遠ざかっていく駐車場をみつめながら、自己嫌悪でいっぱいでした。
(PS)
長くなりましたので、一度ここで切ります。
時間ができれば、このあとの続きも書くつもりでいますが・・・
忙しくなってしまうので、それがいつになるかはわかりません。
そのときは、この同じレスの中に入れるつもりです。
長文にお付き合いくださって、ありがとうございました。
恭子 銭湯
親戚の法事の関係で、週末に帰省してきました。
遊びではありませんので、土日で1泊してきただけです。
久しぶりに会った親戚の人たちと、たくさん話をしました。
自分でも憶えていない子供時代のことを聞かされたりして、懐かしいひとときです。
親といっしょに実家に帰ってきたのは夕方でした。
明日の午後には東京に戻って、また月曜の出勤に備えなければなりません。
夕食をすませて自分の部屋に入りました。
最近では、年に数回のペースで実家に戻ってきていますが・・・
なんだか・・・
戻ってくるたびに・・・
私は普段、東京で一人暮らしをしています。
自分で言うのもなんですが、日々まじめに過ごしているつもりです。
でも・・・そんな私にも、人には言えない秘密があります。
いつも自分を抑えて生活している反動なのでしょうか・・・
心の奥底に、無性に刺激を求めるもうひとりの自分が潜んでいるのです。
(誰にも知られずにどきどきしたい)
(あの興奮を味わいたい)
ここ1年ばかり、帰省するたびにそんな気持ちになってしまう私がいます。
この日も例外ではありませんでした。
山奥の渓流での恥ずかしい体験・・・
野天風呂での思い出・・・
記憶をよみがえらせながら、気持ちがうずうずしてきます。
ひとたびこうなると、もう我慢できませんでした。
行きたくて行きたくて、仕方なくなります。
こうして帰省してきたときぐらいにしか、訪ねることのできないあの特別な場所・・・
でも、今回は時間がありません。
明日の午前中のうちには、帰りの新幹線に乗ってしまうつもりでした。
(したい。。。)
東京に戻れば、また変わり映えのしない日々が待っているだけです。
衝動に駆られました。
(また、ああいうことをしたい)
むかし何度か行った市営プール?
・・・でも、この時間からでは遅すぎます。
(そうだ)
ふと、頭をよぎったことがありました。
(いつかの銭湯・・・)
(あそこなら)
スマホで調べてみます。
1月に訪ねた、隣町の銭湯・・・
(そうだった)
偶然に居合わせた小学生の男の子に、
(たしかS太くんといったっけ)
どきどきしながら、はだかを見られたあの銭湯・・・
土曜ですから、きっと今日だって営業しているはずです。
もちろん、わかっていました。
あんな都合のいいシチュエーション・・・
そうたびたび巡り合えるものとは思っていません。
頭の中で計算していました。
(銭湯といえば)
はるか昔の記憶がよみがえります。
(閉店後の従業員さん。。。)
まだ地方都市で勤めていたころの羞恥体験が、頭をよぎっていました。
時間を見計らって家を出ました。
営業時間が『終わったころ』にタイミングを合わせます。
夜道を、ゆっくり車を走らせていました。
隣町ですから、そう遠くはありません。
もう雪は降り止んでいましたが、景色は一面真っ白でした。
前回来たときも雪景色だったことを思い出します。
しばらく運転していると、その『銭湯』が見えてきました。
駐車場に車を入れます。
トートバッグを抱えて車から降りました。
建物の入口まで行くと、もうノレンは出ていません。
・・・が、中に明かりはついています。
まだ鍵はかかっていませんでした。
おそるおそる入口の戸を開けます。
質素なロビー(?)は無人でした。
正面のフロントにも、もう人の姿はありません。
下駄箱に靴を入れました。
ここまではイメージどおりです。
下手にコソコソした態度だと、かえって不自然に思われかねない・・・
そのまま堂々とロビーにあがってしまいます。
奥の『女湯』側の、戸を開けてみました。
戸の隙間から中を覗きます。
照明はついていますが、無人でした。
(どうしよう)
ちょっと迷って、今度は『男湯』側の戸をそっと開けてみます。
(いる!)
中の脱衣所に、掃除中(?)のおじさんがいるのが見えました。
一気に感情が高ぶります。
(どきどきどき・・・)
まるでスイッチでも入ったかのように、
(ど・・・どうしよう)
気持ちが舞い上がるのを感じました。
(どきどきどき・・・)
(どきどきどき・・・)
見ているだけで、なかなか行動に移せません。
目の前の実際の光景に、まだ覚悟が追いついてきていない感覚です。
そこから一歩を踏み出すのには、かなりの勇気が必要でした。
(どうするの?)
もうあそこには、現実に男性がいるのです。
決断を迫られていました。
いまなら引き返すこともできます。
でも・・・悶々とするこの気持ち・・・
(やろう)
自分の演技力にかけようと思いました。
(だめなら、だめでしょうがない)
無理だと思えば、その時点で諦めればいいだけのことです。
(どきどきどき・・・)
遠慮がちな口調で、
「あ、あの・・・すみません」
ついに、そのおじさんに声をかけていました。
私に気づいたその男性が、『おやっ』という顔でこっちを見ました。
(ああ、この人)
見覚えがあります。
お正月に来たときに、フロントにいたおじさんに間違いありませんでした。
あのときは、ずいぶん不愛想な印象でしたが・・・
「はい、はい」
どうしました?という顔で、近づいて来てくれます。
「あの・・もう終わりですか?」
恐縮して聞いてみせる私に、
「いちおう○時までなんですよ」
もう営業時間が終わったことを教えてくれます。
客商売ですから当然といえば当然のことですが・・・
このおじさん、愛想はちっとも悪くなんかありません。
「そうですか・・・もう終わり・・・」
がっかりした顔をしてみせると、
「まあ、でも」
おじさんは、ちょっと考えるような表情を浮かべてくれました。
あ・・・
(チャンス。。。)
すぐに気づきました。
(見られてる)
瞬きなく私をじろじろみつめるおじさんの目・・・
私は、男の人のこの『目』の意味を知っています。
それを察した瞬間から、心の中で密かに手応えを感じていました。
大丈夫・・・
きっと引き留められるはず・・・
あえて帰りかけるふりをしようとする私に、
「せっかく来てくださったんだから」
「まあ、いいですよ」
(やっぱり来たっ!)
「よかったら入っていってください」
『えっ?』と驚いた顔をしてみせて、
「いいんですか?」
半信半疑の面持ちを向けてみせました。
(よしっ!よしっ。。。)
本当は、迷惑なんじゃ・・・
表面上そんな戸惑い顔をつくって、おじさんの表情を確かめるふりをします。
「はいはい、どうぞ」
・・・本当にいいのかな?
そんな遠慮がちな仕草で、ちょっとおどおどするふりをしつつも、
「ありがとうございます」
嬉しそうに、お礼を言いました。
日頃鍛えた業務スマイルで、『にこにこっ』としてみせます。
私ももう、そんなに若いわけじゃありませんが・・・
この田舎のおじさんから見れば、まだまだ今どきの『若い女の子』です。
(・・・この人)
この目の動き・・・
(・・・絶対そう)
私は、しっかり見抜いていました。
このおじさんは、女の子に弱い・・・というか、完全に甘いのです。
はにかみながら、
「じゃあ・・・すみません」
私が『にっこり』微笑んでみせると、
「いえいえ、いいんですよ」
ますます愛想のいい顔になっていました。
(きっと、うまくいく)
演技を続けました。
「あ・・じゃ、お金」
私がトートから財布を出そうとすると、
「あまりお見かけしないけど・・・」
「このあたりの方?」
しゃべりながら、フロントのほうへと促されます。
「いえ、東京からちょっと用事で」
適当に言葉を濁しながら、千円札を渡しました。
「どうりで見ない顔だと思った」
「いっつも、ばあさんしか来ないもん」
返答に困ったように首をすくめてみせると、
「はい、おつり」
楽しそうに小銭を返してくれます。
こうしてしゃべってみると、何も特別なことはありません。
そう・・・よくいるタイプの中年おじさんでした。
若い女の子を相手にするのが嬉しくてしょうがないという感じです。
そして・・
「途中で片づけに入らせてもらうかもしれませんけど」
「ごゆっくりどうぞ」
さりげなく付け加えられたその一言に、
(来たっ)
心の中で電気が走っていました。
自分でも怖いぐらいに、『思いどおり』な展開です。
無垢な女の子になりきっていました。
最後まで遠慮がちな感じで、
「それじゃあ・・・すみません」
「ありがとうございます」
精一杯のはにかみ顔をつくってみせます。
背中におじさんの視線を感じながら、女湯側の戸を開けます。
中に入って、静かに戸を閉めました。
(どきどきどき・・・)
胸の鼓動が収まりません。
(やった)
ここまでは完璧でした。
自分でも信じられないぐらいに、狙いどおりの展開です。
とんとん拍子すぎて、かえって現実感がないぐらいでした。
(あのおじさん。。。)
途中で入ってくるかもしれない・・・
あのせりふは、たぶん布石です。
間違いなく来るはずだという確信がありました。
(どきどきどき・・・)
今日に限っては、運頼みなんかじゃありません。
自分の力でつかみとったチャンスです。
そう思うだけで、異様なほどの高揚感がありました。
貴重品をミニロッカーにしまいます。
誰もいない脱衣所に、私ひとりだけでした。
服を脱ぎます。
『かもしれない』なんかじゃない・・・
(きっと来る)
私の勘がそう言っています。
脱いだ服を畳んで、手近な脱衣カゴの中に入れました。
下着も脱いで全裸になります。
「ふーっ」
息を吐いて、気持ちを落ち着かせました。
(だいじょうぶ)
ここは銭湯です。
(裸でいるのは、あたりまえのこと)
これでも、外見の容姿にだけは多少自信がある私です。
姿見の鏡の前に立ちました。
ほっそりした色白な女・・・
(どこからどう見たって)
そこに映っているのは、いかにも『奥ゆかしげ』な女の子です。
(相手は銭湯の人なんだから)
(堂々としてればいい)
わかっていても、
「ふーう」
久々の緊張感に、ついつい何度も深呼吸してしまいます。
(役に立つかも)
そんな気がして、トートバッグからヘアピンのケースを取り出しました。
ポーチの中に移します。
ポーチとタオルを持って、奥のガラス戸を引きました。
お風呂場へと入ります。
洗い場のイスに腰かけて、手早く髪を洗いました。
(親切そうな、あのおじさん)
50代の後半ぐらいでしょうか。
歳のわりには、禿げ上がった頭がつるつるでした。
『いい人』なのは間違いありません。
でもやっぱり、
(さっきの、あの目・・・)
ちょっとはにかんでみせただけで、
(簡単に鼻の下を伸ばしちゃって)
良くも悪くも、人のいい『田舎のおじさん』という感じでした。
流した髪を後ろで結わえました。
続けて、からだも洗ってしまいます。
(あのおじさん。。。)
きっと女湯に入って来ます。
仕事がら、たぶん女の裸なんて見慣れているに違いありません。
あの人には、日常の光景かもしれないけど・・・
(それでも、かまわない)
私にとっては、じゅうぶん恥ずかしすぎるシチュエーションです。
シャワーで、からだを流しました。
ポーチは、洗い場に置いたままにしておきます。
タオルだけ持って、立ち上がりました。
大きな湯船に入ります。
「ふーっ」
からだをお湯に沈めて、大きく息を吐きました。
もう後には戻れません。
頭の中でイメージしていました。
(おじさんが脱衣所に入って来たら)
そのタイミングで、私もお風呂からあがるのです。
(あの人だったら)
きっと、また・・・
掃除をしながら気さくに話しかけてくることでしょう。
少し恥ずかしげに、タオルで胸を押さえながらも・・・
下着もつけずに、おじさんと談笑する私・・・
「ふうー」
想像するだけで、なかなかのプレッシャーです。
10分ぐらい・・・?
だんだんのぼせながらも、ずっとどきどきしていました。
(だいじょうぶ)
(自然体でいればいい)
私は何も悪くない・・・
(ただ銭湯に来ているだけ)
しばらくして、
(あ・・・)
そのときは、唐突にやってきました。
(来た!)
ガラス戸の向こう・・・
脱衣所に、あのおじさんが入ってきています。
(どきどきどき)
女湯を一望する感じで、おじさんがこっちを見ました。
ガラス越しに目が合います。
お湯につかったまま、軽く会釈してみせました。
おじさんも、ガラス戸の向こうで『にこっ』としてくれます。
(どきどきどき・・・)
自分の心拍数が急上昇しているのを感じていました。
(どきどきどきどき・・・)
おじさんが、向こうで脱衣カゴを重ねています。
お風呂からあがるなら、
(いましかない)
あの人が脱衣所にいる今こそが絶好のチャンスでした。
(行かなきゃ、行かなきゃ)
タイミングを逸したら、もうそれまでです。
(あっちは客商売)
絶対に安全な相手・・・
(私は、ただの入浴客)
後ろめたいところなどありません。
(どきどきどき)
自分の心のタイミングを計りました。
「ざば」
自然な感じで、お湯の中から立ち上がります。
目線を上げると、脱衣所のおじさんが目に入りました。
顔はにこっとしたままで、
(あ・・あ・・あ・・・)
『じっ』と、こっちを見ています。
一糸まとわぬ真っ裸でした。
おっぱいも、アンダーヘアも、まる出しです。
(どきどきどき)
私は、あたりまえの『何食わぬ顔』をしていました。
そのまま、髪を結わえ直します。
「ざば、ざば」
お湯の中を大股に歩いて、
「ざば」
湯船のふちに置いていたタオルを取りました。
(やぁん、見られてる)
そのまま跨いで、湯船の外に出ます。
15mぐらい向こう・・・
ガラス戸の向こうから、ずっと視線を感じていました。
(恥ずかしい)
顔が『かーっ』と熱くなってきます。
でも、そんな感情はおくびにも出しません。
平然とした顔で、控えめにタオルを胸にあてました。
からだの前に垂らしたまま、『なんとなく』おじさんのほうを見ます。
また目が合いました。
警戒心のない表情で、ちょっと微笑んでみせます。
内心、ものすごく興奮していました。
(気持ちいい)
真っ裸でいながら、無垢な女の子を演じる自分が快感です。
非日常の興奮にどきどきしていました。
(あそこに男の人がいるのに)
私はこんな格好でいるのです。
表情こそ、いやらしさは感じさせなくても・・・
あのおじさんは、間違いなく『じっ』とこっちを見ています。
(もっと)
脳を溶かすような陶酔感が、私を後押ししていました。
(もっと近くで)
自然に演技に入っている自分がいます。
洗い場に置いたポーチを取りに向かっていました。
そして、どうして突然そんなことを思いついたのか・・・
自分でもわかりません。
(ああ、どうする?)
頭にイメージが浮かんでいました。
(できる)
(やっちゃえ)
自分が使った洗い場の前まで来て・・・
いきなり、ふらふらとよろけてみせます。
立ち止まって、顔をしかめていました。
おじさんが・・・またこっちを見ています。
(今だ)
突然、からだを『くにゃっ』と折り曲げます。
その場に、へたりこんでみせました。
お風呂の床に、お尻をぺたんとつけてしまいます。
そのまま、『がっくり』うつむいてみせました。
「ガガっ」
ガラス戸の開く音がしました。
脱衣所にいたおじさんが、慌てて近寄ってきます。
「大丈夫ですか!?」
さすがに驚いた感じの口調でした。
つらそうにゆがめた顔を『ぼーっ』と上げて、
「すみません・・・」
「ちょっと、貧血が・・・」
かすれた声をしぼりだします。
タオルで胸を押さえて、かろうじて前だけは隠していました。
「だいじょうぶ?」
おじさんが、寄り添うようにしゃがみこんでくれます。
(イヤぁ、近い)
目の前におじさんの顔がありました。
私は、つらそうに顔をしかめたまま、
「気持ち・・わるい・・・」
それどころではないふりをします。
ただの『貧血』とわかって・・・
とりあえず、おじさんも安心したのでしょう。
「向こうにベンチがありますよ」
やさしく声をかけてくれます。
・・・が、
「ここだと冷えるから」
銭湯の人といえども、相手はやはり中年の男性でした。
その目線だけは『正直』です。
(イヤぁ)
からだに当てた細いタオルだけがよりどころの私・・・
すべてを隠しきれているわけではありませんでした。
(恥ずかしい)
羞恥心に火がつきます。
「向こうまで行ける?」
おじさんが、脱衣所のほうを指しています。
「立てる?」
泣きそうな声で、
「はい・・・」
返事をしていました。
のっそり、立ち上がろうとする私・・・
補助するように、おじさんが私の両腕を取ってくれます。
そして・・・
(あっ、あ・・ああ)
その腕を引かれていました。
押さえていたタオルが離れて、
(あ、ああ。。。)
からだが露わになってしまいます。
(いじわる)
絶対に、わざとでした。
おじさんの眼前で、私のおっぱいがまる見えです。
「だいじょうぶ?」
立たせてもらった私は、
「・・はい・・・すみません」
それとなくタオルで胸を隠します。
弱々しくうつむきながも、
(泣いちゃう)
内心では興奮に打ち震えてしました。
そのまま、よろよろと脱衣所へ向かいます。
胸にあてがったタオルを垂らして、前を隠していました。
心配そうに、付き添ってくれるおじさん・・・
(もうだめ)
バスタオルは、脱衣所のカゴの中です。
弱々しく歩いてみせながら、
(ひいい)
(恥ずかしい)
まる出しなお尻に、ひざが震えそうでした。
「ガガっ」
おじさんが脱衣所へのガラス戸を開けてくれます。
(恥ずかしいよ)
じろじろ見られているのを感じていました。
伏し目がちに、
「すみま・・せん」
つらそうな顔を向けてみせるのがやっとのふりをします。
「あそこにベンチがありますから」
「・・はい」
脱衣カゴから、自分のバスタオルを取りました。
よろよろ歩きながら、からだに『しっかり』巻きます。
そして、ぐったりと・・・その長ベンチに腰かけました。
「だいじょうぶ?」
おじさんが心配そうに、私の顔をのぞきこんできます。
もう完全に、この人の『本心』が垣間見えていました。
「水でも持ってきましょうか?」
(このおじさん。。。)
あくまでも紳士的ですが、それは表面上のことです。
さりげなく顔を近づけてきて、
「休んだほうがいい」
バスタオルの胸もとに目線を走らせるこの男の人・・・
(恥ずかしい)
たぶん本人は、私に気づかれていないと思っているのです。
「顔が真っ白ですよ」
生気のない顔を『ぼーっ』と上げてみせます。
そこに立つおじさんの顔をみつめながら・・・
「気持ちわるい・・・」
すがるような眼差しを浮かべてみせました。
「気持ちわるい・・です」
「横になったほうがいいですよ」
やさしい声でした。
「無理しないほうがいい」
泣きそうな顔で、
「・・・はい」
かすれ声をしぼりだします。
そして、そっと・・・
その長ベンチの上で、からだを横向きにしました。
胸から腰まで、きっちりとバスタオルを巻いてあります。
でも、その長さは、本当に腰ギリギリでした。
仰向けになるには『すそ』が短すぎます。
涙ぐんだまま、ベンチの上で両脚を伸ばす私・・・
(見えちゃう)
余裕のないこの子には、そんなことを考えるゆとりがありません。
(恥ずかしいよ)
そのまま仰向けに寝そべっていました。
天井の照明が目に飛び込んできます。
やけにまぶしく感じました。
つらそうに顔をしかめて、目をつぶってしまいます。
むき出しの太ももを露わに伸ばしたまま、
(ああん)
ぐったりと全身を脱力させました。
もう確かめるまでもありません。
寝そべったバスタオルのすそは、完全に寸足らずでした。
揃えていた両ひざも、外向きに開いてしまいます。
ちょっと内側を覗きこめば、
(イヤぁ、おじさん)
恥ずかしいところが露わでした。
自分では、ちゃんとわかっていないふりをします。
立っていたおじさんが、
「ガガッ」
そのあたりにあった丸イスを引き寄せたのがわかります。
(あ。。。ああ。。。)
「カツッ」
すぐ横に腰かけている気配がしました。
(ヤぁあん)
目をつぶったままでも感じます。
(見ないでぇ)
何もわからないふりをして、
「すみま・・せん」
つらそうにつぶやいてみせる私・・・
(だめ)
(泣きそう。。。泣きそう。。。)
「だいじょうぶですよ」
「休んでれば、落ち着きますからね」
そのやさしい声色に、
(ヤあん)
かえって羞恥心を煽られます。
(見てるくせに)
まんまと『いい位置』に陣取ったおじさん・・・
この人にしてみれば、まさに役得といったところでしょう。
目の前の私の股を、のぞき放題の特等席です。
(ああん)
頭の中で拒否しながらも、最高に興奮していました。
「のぼせちゃいましたかねえ」
「すみま・・せん・・・」
顔をしかめたまま、つらそうに返事してみせます。
(泣いちゃう)
ちゃんと、からだにタオルを巻いてはあります。
でも、肝心なところは完全に披露してしまっているのです。
(いくら貧血だからって)
(かわいそう)
自ら演じる真面目なこの子が、自分でも不憫でした。
そんな自分が恥ずかしくて・・・
気持ちよくて・・・
親切ぶっているこの男性の、心の裏側を想像してしまいます。
(おじさん、しっかり見て)
(こんなキレイな子だよ)
目をつぶったまま、身悶えたいほどの快感でした。
何の罪もないこの女の子・・・
(この子のわれめが、見えてるよ)
泣きそうにこみあげる興奮を奥歯で噛みしめて、
「すみま・・せん」
朦朧としているふりをします。
縁もゆかりもないこの中年おじさんに、
(ちゃんと見なきゃ損だよ)
私の『縦の割れ目』を覗かせてあげました。
たぶん・・・3分ぐらい、そんな状態を続けることができたでしょうか。
おじさんも、さすがに怪しまれることを恐れたのだと思います。
「なにかあったら、声をかけなさいね」
そのうち向こうのほうへと離れていきました。
「ガタ・・ガタ・・・」
いろいろと片付けもの(?)をする音が聞こえてきます。
満足感でいっぱいでした。
もうそろそろ、このあたりが潮時です。
(こんなにどきどきできたなんて)
しかも、完璧にハプニングを装うことができたのです。
(最高。。。)
幸せな気持ちでした。
(来てよかった)
この興奮こそが、誰にも言えない私の『秘密』の喜びなのです。
(勇気を出してよかった)
つぶっていた目を、そっと薄目にします。
(帰ろう)
(帰って早くオナニーしたい)
急に元気になるわけにはいきません。
起き上がるには、まだ少し早すぎます。
「ガタン・・ガサッガサッガサッ・・・」
作業を続けるおじさんは、何度も私のベンチの横を通っていました。
まだ寝そべったままですが、薄目にした私には見えています。
3度目か4度目ぐらいのときでした。
横を通りがかったおじさんが、心配するふりをして私の顔をのぞきこんできます。
(どきどきどき)
緊張しました。
なんとなく予感があったのです。
わざと何の反応も示さない私・・・
薄目のまま、眠ったように息をしてみせていました。
『すっ』と姿勢を低くしたおじさんが、
(ひいい)
私の股のあいだをのぞきこんでいます。
(イヤあ、だめ)
いくらなんでもという至近距離で、あそこを見られていました。
脚を閉じたくなる自分に必死で耐えます。
そして、また・・・
『さっ』と立ち去っていきました。
(どきどきどき)
私にまったく気づかれていないと思い込んでいるのです。
(どきどきどき)
あからさまに本性を見せられてしまった・・・
その事実に、私はショックを受けていました。
いまさら、きれいごとを言うつもりはありません。
頭ではわかっていたことでした。
でも・・・
(表向きは、あんなに親切ぶっていたくせに)
しばらくして、
「ガタン・・バタ、バタ、バタ・・」
おじさんが脱衣所から出ていく気配を感じました。
私はからだを起こしました。
とにかく最後まで演技は通さなければなりません。
(あのおじさん)
(すっかり油断しちゃって)
内心、まだ動揺は残っていましたが・・・
(そんなに見たかったの?)
一方では、自尊心をくすぐられます。
あのおじさんを喜ばせたい・・・
そんな気持ちがわきあがってくるのです。
(どんなに恥ずかしくたって)
どうせ、相手は赤の他人でした。
二度と会わなければ、この場かぎりのことなのです。
バスタオルを、きちんと巻き直しました。
長ベンチに、普通に腰かけます。
(戻ってくるまで待っててあげる)
なんとなく、あの人の思考はつかめているつもりです。
まずは少しだけ、話し相手になってあげれば・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
たいして待つまでもなく、入口の戸が開きました。
ロビーからおじさんが戻ってきます。
ベンチに座っている私を目にして、『おっ』という表情になっていました。
「少しは、よくなりました?」
まっすぐに近づいてきます。
(どきどきどき)
「はい、だいぶ」
静かにおじさんの顔を見上げました。
(どきどきどき)
いかにも申し訳なさそうに、
「すっかりこんな・・」
「ご迷惑をおかけしてしまって」
しゅんとしてみせます。
(どきどきどき)
本当は、もう・・・
こうして顔を合わせていること自体が、恥ずかしくてなりません。
「いいんですよ」
「気にしないでください」
さすがは大人です。
このおじさんも、見事なポーカーフェイスでした。
あたりまえですが、いやらしさなど微塵も感じさせません。
どう見たって、人のいい親切なおじさんです。
「無理しないでくださいね」
どこまでもやさしい笑顔を向けてくれますが、
(わかってるんだから)
こっちはすべてお見通しでした。
(私の恥ずかしいとこ・・・)
(思いっきり、のぞきこんでたくせに)
心の中でそう思いつつも、華奢な女の子を演じます。
「よかったですね、たいしたことなさそうで」
すぐそこの丸イスに腰かけたおじさんに、
「すみませんでした」
まだ弱々しい感じの表情で、微笑みを浮かべてみせます。
「貧血なんて、子供のとき以来です」
「25にもなって、恥ずかしい」
どうせわかるはずもありませんから、嘘に嘘を重ねます。
「お疲れだったんでしょう」
「のぼせたのかもしれませんね」
そこから、なんとなく世間話になりました。
「時間が終わっていたなんて知らなくて」
「わたし、こどもの頃から銭湯ってあまり来たことなかったから」
「入らせてもらえて、すごくうれしかったです」
微笑みを絶やさずに目を合わせてみつめてあげると、
(やっぱり。。。ほら。。。)
だんだんと、おじさんの表情が不自然にゆるんできます。
(よかったね、おじさん)
(この子に、すっかり信用されちゃったね)
相手の反応を確かめながら、目線の駆け引きを続けました。
「ひとりで、こんなに大きなお風呂」
「まるで貸切みたいでした」
「私、すごいラッキーですね」
「いえいえ、それはよかった」
思ったとおりに、おじさんの鼻の下が伸びてきます。
(単純だなあ)
(本当に、女の子に弱いんだね)
すっかり気を許しているふりをする私・・・
「壁に富士山の絵とか、描いてあるわけじゃないんですね」
「うちは○年に改装しましたから」
このときには、もう思い出していました。
(お風呂場にポーチを置きっぱなし)
私の心の中で、むくむくと黒い雲が膨らんできます。
「うちのマンションはユニットバスだから、脚を伸ばせないんです」
「いつも仕事の後とかに来られたら、最高なのに」
(職業のことを聞かれる)
(田舎のおじさんに受けそうな職業は・・・)
「どんなお仕事をなさってるんですか?」
「え・・・あ・・CAです」
一瞬わからないという顔をされて、
「はい?」
聞き返されます。
「あ・・キャビンアテン・・・」
とっさについた嘘だったのですが・・・
「ああー、スチュワーデスさんね!」
CAさんというのが、このおじさんのツボにはまったみたいでした。
(本当は嘘なのに)
私を見守るおじさんの眼差しが、明らかに興奮の色を帯びてきています。
「そうですかあ」
「スチュワーデスさんなんですねえ」
(恥ずかしい)
あらためて、顔をじろじろ見られていました。
なんだかすごくいやらしさを感じます。
(恥ずかしいよ)
(おじさん)
・・・いまどんな気持ち?
・・・CAのはだかを見れたと思って、優越感でいっぱいなの?
最高のタイミングでした。
(今、このバスタオルを取ったら)
(恥ずかしすぎて死んじゃう)
私は変わらず、無垢な女を演じ続けます。
ようやく体調が戻ってきたという感じで、
「ふ・・う」
ゆっくりベンチから立ちました。
「うちの近くにも、こういう銭湯があればいいのに」
ごく普通に会話を続けながら、
(どきどきどき)
自分の脱衣カゴの前へと歩いていきます。
丸イスに腰かけているおじさんとは、4~5m離れたでしょうか。
からだに巻いていたバスタオルを取りました。
「そうしたら、毎日来ちゃうのになぁ」
にこにこした顔で、おじさんのほうを振り返ります。
(ひいい)
(恥ずかしい)
「都会は、銭湯が減ってるって聞きますからねえ」
動いているのは口だけでした。
おじさんの目線が、あからさまに泳いでいます。
あ、あ、あ・・・
(隠したい)
恥ずかしい・・・
(見ないで)
私は、まったく気にする素振りをみせません。
『銭湯の人だから』と割り切っているふりをしていました。
もう生乾きになっている髪を、あらためてバスタオルで拭いてみせます。
「うちも、来るのは常連ばかりだからねえ」
「そうなんですか?」
返事をしながら・・・
おじさんの正面を向きました。
内心では、
(せめて胸だけ)
おねがい・・・
(股だけでも)
隠させて・・・
「じゃあ、私なんか本当によそ者ですね」
『にこにこっ』と向けるこの笑顔は、警戒心のなさの現れでした。
一糸まとわぬ立ち姿で、
(ひいいいい)
真正面からおじさんの視線を浴びてみせます。
髪をもしゃもしゃ拭きながら、
(ああんだめ)
オールヌードの私をさらけ出していました。
そして唐突に、
「あ・・・」
動きを止めます。
いま初めて置き忘れに気づいたかのように、
「そうだ・・・」
お風呂のほうに顔を向けてみせました。
もういちど、バスタオルをからだに巻きます。
イメージは浮かんでいました。
「ガガッ」
ガラス戸を開けて、洗い場に入っていきます。
(ああ、おじさん)
待っててね・・・
(もっとニヤニヤさせてあげるから)
すべて計算ずくでした。
適当に巻いたバスタオルは、わざと後ろでお尻を出してあります。
置きっぱなしになっていたポーチを拾い上げました。
ボックス型のチャックが開いたままです。
あえて閉じずにそのまま持ちました。
戻ろうと振り返ると、ガラス越しに目が合います。
私のことをずっと目で追っているおじさん・・・
もうあの人にとって、私は完全にCAです。
自分で書くのもなんですが・・・
こんなに笑顔の綺麗な『スチュワーデス』さんでした。
(待ってて。。。)
わざと水びたしなところを通って、足の裏を濡らします。
私が演じる、『可憐』なこの女の子に・・・
(恥かかせてあげる)
自虐的な気持ちを押さえられません。
ポーチの中でヘアピンケースを開けて、
(ああ、早く)
そのまま逆さまにひっくり返しておきます。
「ガガッ」
ガラス戸を開けて脱衣所にあがりました。
手に持ったポーチを掲げて、
「忘れちゃうとこでした」
いたずらっぽく照れてみせる私・・・
そのままわざと床に足を滑らせかけて、
「きゃっ!!」
転びかけるふりをします。
実際には転ばずに、持ちこたえますが・・・
とっさに手から放してみせたポーチは、
「ガシャ!」
真っ逆さまに落ちて、床にひっくり返っていました。
クレンジングやシャンプーのミニボトルが、床を滑っていきます。
狙いどおりに、
(よしっ!)
けっこうな数のヘアピンも床に散らばりました。
「・・・・」
一瞬、絶句してみせた私・・・
思わず、おじさんとお互いに顔を見合わせてしまいます。
自分でも信じられないというように、
「すみません」
呆然と、つぶやいてみせました。
慌てて足もとの化粧水パックを拾い上げると、
(来たっ)
つられたように、おじさんが丸イスから腰をあげています。
「すみません、ほんとうに」
シャンプーボトルを拾ってくれたおじさんに、
「ありがとうございます」
「わたし、今日・・ドジばっかり」
恥じらうように、はにかんでみせました。
「いえいえ」
手渡してくれるおじさんの鼻の下が伸びています。
本当に嬉しそうな顔・・・
まだヘアピンが、あちこちに散らばっています。
いちど、ポーチを床に置きました。
「仕事だったら、ぜったいミスしないのに」
おじさんも、拾うのを手伝おうとしてくれています。
私の斜め後ろにしゃがみこんだのを、横目に見届けました。
足もとのヘアピンに気をとられたふりをして・・・
そのおじさんに、さりげなく背を向けます。
「スチュワーデスさんのお仕事って、大変なんでしょう?」
私はしゃがみませんでした。
「そうですねえ」
バスタオルが落ちないように、片手で胸を押さえます。
立ったまま、床のヘアピンに手を伸ばしていました。
「意外と動いている時間が長くて」
「わりと体力勝負なんです」
腰をかがめてピンを拾いながら、
(ヤああん)
まる出しのお尻を、後ろに突き出していました。
われながら、完全に確信犯でした。
(ああん、見て)
すぐ真後ろにしゃがむおじさんに、
(ひいいい)
ちょうど、お尻の穴がまる見えです。
「横柄なお客さんとかもいるんでしょ?」
「ムッとすることも多いんじゃない?」
平らな床に落ちた細いヘアピンは、なかなか指でつまめません。
爪先に引っかからないピンに苦労しているふりをします。
「いますけど・・・」
「いつも笑顔で乗り切ってます」
健気に答えてみせるこの女の子・・・
おじさんに、この『スチュワーデス』さんの肛門を、目の当たりに見てもらいます。
最後の1本を拾い終えて振り向きました。
おじさんが、自分で拾った分を差し出してくれます。
「ありがとうございます」
(ああだめ)
さすがに、もう限界でした。
おずおずと脱衣カゴの前に戻ります。
ポーチをトートバッグの中に突っ込みました。
「どこの飛行機のスチュワーデスさん?」
尋ねてくるおじさんの『目』の奥に、興奮がにじんでいます。
「・・・○○○です」
適当に話を合わせながら、バスタオルを外しました。
ひざが震えそうになるのをこらえながら、
(もうだめ)
(恥ずかしい)
ようやく下着を身につけます。
私も必死でした。
最後まで笑顔の女の子を貫きます。
「本当にすみませんでした」
「いろいろ迷惑をおかけしてしまって」
「どういたしまして」
何事もなかったかのように平然と服を着ながら、
「またこっちに来ることがあったら・・・」
「そのときは、また寄りますね」
唇をしぼって口角を上げました。
本物のCAになりきったつもりで、
(さようなら)
おじさんに、最高の笑顔をプレゼントします。
逃げるような気持ちで、建物をあとにしていました。
(二度と来れない)
(来られるわけない)
こみあげてくる屈辱感に、『ぶわっ』と視界が曇ります。
本気で泣きそうになりながら・・・
かろうじて涙をこらえました。
(早く・・・うちに・・)
オナニーしたくて全身がうずうずしています。
必死に我慢して、車に乗りこみました。
事故をおこさないように、慎重に、慎重に、雪道のハンドルを握ります。
自分の部屋のベッドまで・・・
その瞬間を迎えるまでが、はてしなく長く遠く感じました。
(PS)
おじさんの言葉は、あえて標準語に直して書きました。
実際の言葉づかいはまったく違うのですが、私なりにいろいろ考えてのことです。
それから・・・
あのおじさんは、ぜんぜん悪い人じゃありません。
本当に親切で、すごくいい人でした。
私の書き方のせいで、ひどい人のようになってしまっていますが・・・
そうではありません。
私のほうが、自分の都合で他人の気持ちを利用したのです。
それだけは書き添えておきたいと思います。
皆さん、良いクリスマスを。
最後までお付き合いいただいて、ありがとうございました。
遊びではありませんので、土日で1泊してきただけです。
久しぶりに会った親戚の人たちと、たくさん話をしました。
自分でも憶えていない子供時代のことを聞かされたりして、懐かしいひとときです。
親といっしょに実家に帰ってきたのは夕方でした。
明日の午後には東京に戻って、また月曜の出勤に備えなければなりません。
夕食をすませて自分の部屋に入りました。
最近では、年に数回のペースで実家に戻ってきていますが・・・
なんだか・・・
戻ってくるたびに・・・
私は普段、東京で一人暮らしをしています。
自分で言うのもなんですが、日々まじめに過ごしているつもりです。
でも・・・そんな私にも、人には言えない秘密があります。
いつも自分を抑えて生活している反動なのでしょうか・・・
心の奥底に、無性に刺激を求めるもうひとりの自分が潜んでいるのです。
(誰にも知られずにどきどきしたい)
(あの興奮を味わいたい)
ここ1年ばかり、帰省するたびにそんな気持ちになってしまう私がいます。
この日も例外ではありませんでした。
山奥の渓流での恥ずかしい体験・・・
野天風呂での思い出・・・
記憶をよみがえらせながら、気持ちがうずうずしてきます。
ひとたびこうなると、もう我慢できませんでした。
行きたくて行きたくて、仕方なくなります。
こうして帰省してきたときぐらいにしか、訪ねることのできないあの特別な場所・・・
でも、今回は時間がありません。
明日の午前中のうちには、帰りの新幹線に乗ってしまうつもりでした。
(したい。。。)
東京に戻れば、また変わり映えのしない日々が待っているだけです。
衝動に駆られました。
(また、ああいうことをしたい)
むかし何度か行った市営プール?
・・・でも、この時間からでは遅すぎます。
(そうだ)
ふと、頭をよぎったことがありました。
(いつかの銭湯・・・)
(あそこなら)
スマホで調べてみます。
1月に訪ねた、隣町の銭湯・・・
(そうだった)
偶然に居合わせた小学生の男の子に、
(たしかS太くんといったっけ)
どきどきしながら、はだかを見られたあの銭湯・・・
土曜ですから、きっと今日だって営業しているはずです。
もちろん、わかっていました。
あんな都合のいいシチュエーション・・・
そうたびたび巡り合えるものとは思っていません。
頭の中で計算していました。
(銭湯といえば)
はるか昔の記憶がよみがえります。
(閉店後の従業員さん。。。)
まだ地方都市で勤めていたころの羞恥体験が、頭をよぎっていました。
時間を見計らって家を出ました。
営業時間が『終わったころ』にタイミングを合わせます。
夜道を、ゆっくり車を走らせていました。
隣町ですから、そう遠くはありません。
もう雪は降り止んでいましたが、景色は一面真っ白でした。
前回来たときも雪景色だったことを思い出します。
しばらく運転していると、その『銭湯』が見えてきました。
駐車場に車を入れます。
トートバッグを抱えて車から降りました。
建物の入口まで行くと、もうノレンは出ていません。
・・・が、中に明かりはついています。
まだ鍵はかかっていませんでした。
おそるおそる入口の戸を開けます。
質素なロビー(?)は無人でした。
正面のフロントにも、もう人の姿はありません。
下駄箱に靴を入れました。
ここまではイメージどおりです。
下手にコソコソした態度だと、かえって不自然に思われかねない・・・
そのまま堂々とロビーにあがってしまいます。
奥の『女湯』側の、戸を開けてみました。
戸の隙間から中を覗きます。
照明はついていますが、無人でした。
(どうしよう)
ちょっと迷って、今度は『男湯』側の戸をそっと開けてみます。
(いる!)
中の脱衣所に、掃除中(?)のおじさんがいるのが見えました。
一気に感情が高ぶります。
(どきどきどき・・・)
まるでスイッチでも入ったかのように、
(ど・・・どうしよう)
気持ちが舞い上がるのを感じました。
(どきどきどき・・・)
(どきどきどき・・・)
見ているだけで、なかなか行動に移せません。
目の前の実際の光景に、まだ覚悟が追いついてきていない感覚です。
そこから一歩を踏み出すのには、かなりの勇気が必要でした。
(どうするの?)
もうあそこには、現実に男性がいるのです。
決断を迫られていました。
いまなら引き返すこともできます。
でも・・・悶々とするこの気持ち・・・
(やろう)
自分の演技力にかけようと思いました。
(だめなら、だめでしょうがない)
無理だと思えば、その時点で諦めればいいだけのことです。
(どきどきどき・・・)
遠慮がちな口調で、
「あ、あの・・・すみません」
ついに、そのおじさんに声をかけていました。
私に気づいたその男性が、『おやっ』という顔でこっちを見ました。
(ああ、この人)
見覚えがあります。
お正月に来たときに、フロントにいたおじさんに間違いありませんでした。
あのときは、ずいぶん不愛想な印象でしたが・・・
「はい、はい」
どうしました?という顔で、近づいて来てくれます。
「あの・・もう終わりですか?」
恐縮して聞いてみせる私に、
「いちおう○時までなんですよ」
もう営業時間が終わったことを教えてくれます。
客商売ですから当然といえば当然のことですが・・・
このおじさん、愛想はちっとも悪くなんかありません。
「そうですか・・・もう終わり・・・」
がっかりした顔をしてみせると、
「まあ、でも」
おじさんは、ちょっと考えるような表情を浮かべてくれました。
あ・・・
(チャンス。。。)
すぐに気づきました。
(見られてる)
瞬きなく私をじろじろみつめるおじさんの目・・・
私は、男の人のこの『目』の意味を知っています。
それを察した瞬間から、心の中で密かに手応えを感じていました。
大丈夫・・・
きっと引き留められるはず・・・
あえて帰りかけるふりをしようとする私に、
「せっかく来てくださったんだから」
「まあ、いいですよ」
(やっぱり来たっ!)
「よかったら入っていってください」
『えっ?』と驚いた顔をしてみせて、
「いいんですか?」
半信半疑の面持ちを向けてみせました。
(よしっ!よしっ。。。)
本当は、迷惑なんじゃ・・・
表面上そんな戸惑い顔をつくって、おじさんの表情を確かめるふりをします。
「はいはい、どうぞ」
・・・本当にいいのかな?
そんな遠慮がちな仕草で、ちょっとおどおどするふりをしつつも、
「ありがとうございます」
嬉しそうに、お礼を言いました。
日頃鍛えた業務スマイルで、『にこにこっ』としてみせます。
私ももう、そんなに若いわけじゃありませんが・・・
この田舎のおじさんから見れば、まだまだ今どきの『若い女の子』です。
(・・・この人)
この目の動き・・・
(・・・絶対そう)
私は、しっかり見抜いていました。
このおじさんは、女の子に弱い・・・というか、完全に甘いのです。
はにかみながら、
「じゃあ・・・すみません」
私が『にっこり』微笑んでみせると、
「いえいえ、いいんですよ」
ますます愛想のいい顔になっていました。
(きっと、うまくいく)
演技を続けました。
「あ・・じゃ、お金」
私がトートから財布を出そうとすると、
「あまりお見かけしないけど・・・」
「このあたりの方?」
しゃべりながら、フロントのほうへと促されます。
「いえ、東京からちょっと用事で」
適当に言葉を濁しながら、千円札を渡しました。
「どうりで見ない顔だと思った」
「いっつも、ばあさんしか来ないもん」
返答に困ったように首をすくめてみせると、
「はい、おつり」
楽しそうに小銭を返してくれます。
こうしてしゃべってみると、何も特別なことはありません。
そう・・・よくいるタイプの中年おじさんでした。
若い女の子を相手にするのが嬉しくてしょうがないという感じです。
そして・・
「途中で片づけに入らせてもらうかもしれませんけど」
「ごゆっくりどうぞ」
さりげなく付け加えられたその一言に、
(来たっ)
心の中で電気が走っていました。
自分でも怖いぐらいに、『思いどおり』な展開です。
無垢な女の子になりきっていました。
最後まで遠慮がちな感じで、
「それじゃあ・・・すみません」
「ありがとうございます」
精一杯のはにかみ顔をつくってみせます。
背中におじさんの視線を感じながら、女湯側の戸を開けます。
中に入って、静かに戸を閉めました。
(どきどきどき・・・)
胸の鼓動が収まりません。
(やった)
ここまでは完璧でした。
自分でも信じられないぐらいに、狙いどおりの展開です。
とんとん拍子すぎて、かえって現実感がないぐらいでした。
(あのおじさん。。。)
途中で入ってくるかもしれない・・・
あのせりふは、たぶん布石です。
間違いなく来るはずだという確信がありました。
(どきどきどき・・・)
今日に限っては、運頼みなんかじゃありません。
自分の力でつかみとったチャンスです。
そう思うだけで、異様なほどの高揚感がありました。
貴重品をミニロッカーにしまいます。
誰もいない脱衣所に、私ひとりだけでした。
服を脱ぎます。
『かもしれない』なんかじゃない・・・
(きっと来る)
私の勘がそう言っています。
脱いだ服を畳んで、手近な脱衣カゴの中に入れました。
下着も脱いで全裸になります。
「ふーっ」
息を吐いて、気持ちを落ち着かせました。
(だいじょうぶ)
ここは銭湯です。
(裸でいるのは、あたりまえのこと)
これでも、外見の容姿にだけは多少自信がある私です。
姿見の鏡の前に立ちました。
ほっそりした色白な女・・・
(どこからどう見たって)
そこに映っているのは、いかにも『奥ゆかしげ』な女の子です。
(相手は銭湯の人なんだから)
(堂々としてればいい)
わかっていても、
「ふーう」
久々の緊張感に、ついつい何度も深呼吸してしまいます。
(役に立つかも)
そんな気がして、トートバッグからヘアピンのケースを取り出しました。
ポーチの中に移します。
ポーチとタオルを持って、奥のガラス戸を引きました。
お風呂場へと入ります。
洗い場のイスに腰かけて、手早く髪を洗いました。
(親切そうな、あのおじさん)
50代の後半ぐらいでしょうか。
歳のわりには、禿げ上がった頭がつるつるでした。
『いい人』なのは間違いありません。
でもやっぱり、
(さっきの、あの目・・・)
ちょっとはにかんでみせただけで、
(簡単に鼻の下を伸ばしちゃって)
良くも悪くも、人のいい『田舎のおじさん』という感じでした。
流した髪を後ろで結わえました。
続けて、からだも洗ってしまいます。
(あのおじさん。。。)
きっと女湯に入って来ます。
仕事がら、たぶん女の裸なんて見慣れているに違いありません。
あの人には、日常の光景かもしれないけど・・・
(それでも、かまわない)
私にとっては、じゅうぶん恥ずかしすぎるシチュエーションです。
シャワーで、からだを流しました。
ポーチは、洗い場に置いたままにしておきます。
タオルだけ持って、立ち上がりました。
大きな湯船に入ります。
「ふーっ」
からだをお湯に沈めて、大きく息を吐きました。
もう後には戻れません。
頭の中でイメージしていました。
(おじさんが脱衣所に入って来たら)
そのタイミングで、私もお風呂からあがるのです。
(あの人だったら)
きっと、また・・・
掃除をしながら気さくに話しかけてくることでしょう。
少し恥ずかしげに、タオルで胸を押さえながらも・・・
下着もつけずに、おじさんと談笑する私・・・
「ふうー」
想像するだけで、なかなかのプレッシャーです。
10分ぐらい・・・?
だんだんのぼせながらも、ずっとどきどきしていました。
(だいじょうぶ)
(自然体でいればいい)
私は何も悪くない・・・
(ただ銭湯に来ているだけ)
しばらくして、
(あ・・・)
そのときは、唐突にやってきました。
(来た!)
ガラス戸の向こう・・・
脱衣所に、あのおじさんが入ってきています。
(どきどきどき)
女湯を一望する感じで、おじさんがこっちを見ました。
ガラス越しに目が合います。
お湯につかったまま、軽く会釈してみせました。
おじさんも、ガラス戸の向こうで『にこっ』としてくれます。
(どきどきどき・・・)
自分の心拍数が急上昇しているのを感じていました。
(どきどきどきどき・・・)
おじさんが、向こうで脱衣カゴを重ねています。
お風呂からあがるなら、
(いましかない)
あの人が脱衣所にいる今こそが絶好のチャンスでした。
(行かなきゃ、行かなきゃ)
タイミングを逸したら、もうそれまでです。
(あっちは客商売)
絶対に安全な相手・・・
(私は、ただの入浴客)
後ろめたいところなどありません。
(どきどきどき)
自分の心のタイミングを計りました。
「ざば」
自然な感じで、お湯の中から立ち上がります。
目線を上げると、脱衣所のおじさんが目に入りました。
顔はにこっとしたままで、
(あ・・あ・・あ・・・)
『じっ』と、こっちを見ています。
一糸まとわぬ真っ裸でした。
おっぱいも、アンダーヘアも、まる出しです。
(どきどきどき)
私は、あたりまえの『何食わぬ顔』をしていました。
そのまま、髪を結わえ直します。
「ざば、ざば」
お湯の中を大股に歩いて、
「ざば」
湯船のふちに置いていたタオルを取りました。
(やぁん、見られてる)
そのまま跨いで、湯船の外に出ます。
15mぐらい向こう・・・
ガラス戸の向こうから、ずっと視線を感じていました。
(恥ずかしい)
顔が『かーっ』と熱くなってきます。
でも、そんな感情はおくびにも出しません。
平然とした顔で、控えめにタオルを胸にあてました。
からだの前に垂らしたまま、『なんとなく』おじさんのほうを見ます。
また目が合いました。
警戒心のない表情で、ちょっと微笑んでみせます。
内心、ものすごく興奮していました。
(気持ちいい)
真っ裸でいながら、無垢な女の子を演じる自分が快感です。
非日常の興奮にどきどきしていました。
(あそこに男の人がいるのに)
私はこんな格好でいるのです。
表情こそ、いやらしさは感じさせなくても・・・
あのおじさんは、間違いなく『じっ』とこっちを見ています。
(もっと)
脳を溶かすような陶酔感が、私を後押ししていました。
(もっと近くで)
自然に演技に入っている自分がいます。
洗い場に置いたポーチを取りに向かっていました。
そして、どうして突然そんなことを思いついたのか・・・
自分でもわかりません。
(ああ、どうする?)
頭にイメージが浮かんでいました。
(できる)
(やっちゃえ)
自分が使った洗い場の前まで来て・・・
いきなり、ふらふらとよろけてみせます。
立ち止まって、顔をしかめていました。
おじさんが・・・またこっちを見ています。
(今だ)
突然、からだを『くにゃっ』と折り曲げます。
その場に、へたりこんでみせました。
お風呂の床に、お尻をぺたんとつけてしまいます。
そのまま、『がっくり』うつむいてみせました。
「ガガっ」
ガラス戸の開く音がしました。
脱衣所にいたおじさんが、慌てて近寄ってきます。
「大丈夫ですか!?」
さすがに驚いた感じの口調でした。
つらそうにゆがめた顔を『ぼーっ』と上げて、
「すみません・・・」
「ちょっと、貧血が・・・」
かすれた声をしぼりだします。
タオルで胸を押さえて、かろうじて前だけは隠していました。
「だいじょうぶ?」
おじさんが、寄り添うようにしゃがみこんでくれます。
(イヤぁ、近い)
目の前におじさんの顔がありました。
私は、つらそうに顔をしかめたまま、
「気持ち・・わるい・・・」
それどころではないふりをします。
ただの『貧血』とわかって・・・
とりあえず、おじさんも安心したのでしょう。
「向こうにベンチがありますよ」
やさしく声をかけてくれます。
・・・が、
「ここだと冷えるから」
銭湯の人といえども、相手はやはり中年の男性でした。
その目線だけは『正直』です。
(イヤぁ)
からだに当てた細いタオルだけがよりどころの私・・・
すべてを隠しきれているわけではありませんでした。
(恥ずかしい)
羞恥心に火がつきます。
「向こうまで行ける?」
おじさんが、脱衣所のほうを指しています。
「立てる?」
泣きそうな声で、
「はい・・・」
返事をしていました。
のっそり、立ち上がろうとする私・・・
補助するように、おじさんが私の両腕を取ってくれます。
そして・・・
(あっ、あ・・ああ)
その腕を引かれていました。
押さえていたタオルが離れて、
(あ、ああ。。。)
からだが露わになってしまいます。
(いじわる)
絶対に、わざとでした。
おじさんの眼前で、私のおっぱいがまる見えです。
「だいじょうぶ?」
立たせてもらった私は、
「・・はい・・・すみません」
それとなくタオルで胸を隠します。
弱々しくうつむきながも、
(泣いちゃう)
内心では興奮に打ち震えてしました。
そのまま、よろよろと脱衣所へ向かいます。
胸にあてがったタオルを垂らして、前を隠していました。
心配そうに、付き添ってくれるおじさん・・・
(もうだめ)
バスタオルは、脱衣所のカゴの中です。
弱々しく歩いてみせながら、
(ひいい)
(恥ずかしい)
まる出しなお尻に、ひざが震えそうでした。
「ガガっ」
おじさんが脱衣所へのガラス戸を開けてくれます。
(恥ずかしいよ)
じろじろ見られているのを感じていました。
伏し目がちに、
「すみま・・せん」
つらそうな顔を向けてみせるのがやっとのふりをします。
「あそこにベンチがありますから」
「・・はい」
脱衣カゴから、自分のバスタオルを取りました。
よろよろ歩きながら、からだに『しっかり』巻きます。
そして、ぐったりと・・・その長ベンチに腰かけました。
「だいじょうぶ?」
おじさんが心配そうに、私の顔をのぞきこんできます。
もう完全に、この人の『本心』が垣間見えていました。
「水でも持ってきましょうか?」
(このおじさん。。。)
あくまでも紳士的ですが、それは表面上のことです。
さりげなく顔を近づけてきて、
「休んだほうがいい」
バスタオルの胸もとに目線を走らせるこの男の人・・・
(恥ずかしい)
たぶん本人は、私に気づかれていないと思っているのです。
「顔が真っ白ですよ」
生気のない顔を『ぼーっ』と上げてみせます。
そこに立つおじさんの顔をみつめながら・・・
「気持ちわるい・・・」
すがるような眼差しを浮かべてみせました。
「気持ちわるい・・です」
「横になったほうがいいですよ」
やさしい声でした。
「無理しないほうがいい」
泣きそうな顔で、
「・・・はい」
かすれ声をしぼりだします。
そして、そっと・・・
その長ベンチの上で、からだを横向きにしました。
胸から腰まで、きっちりとバスタオルを巻いてあります。
でも、その長さは、本当に腰ギリギリでした。
仰向けになるには『すそ』が短すぎます。
涙ぐんだまま、ベンチの上で両脚を伸ばす私・・・
(見えちゃう)
余裕のないこの子には、そんなことを考えるゆとりがありません。
(恥ずかしいよ)
そのまま仰向けに寝そべっていました。
天井の照明が目に飛び込んできます。
やけにまぶしく感じました。
つらそうに顔をしかめて、目をつぶってしまいます。
むき出しの太ももを露わに伸ばしたまま、
(ああん)
ぐったりと全身を脱力させました。
もう確かめるまでもありません。
寝そべったバスタオルのすそは、完全に寸足らずでした。
揃えていた両ひざも、外向きに開いてしまいます。
ちょっと内側を覗きこめば、
(イヤぁ、おじさん)
恥ずかしいところが露わでした。
自分では、ちゃんとわかっていないふりをします。
立っていたおじさんが、
「ガガッ」
そのあたりにあった丸イスを引き寄せたのがわかります。
(あ。。。ああ。。。)
「カツッ」
すぐ横に腰かけている気配がしました。
(ヤぁあん)
目をつぶったままでも感じます。
(見ないでぇ)
何もわからないふりをして、
「すみま・・せん」
つらそうにつぶやいてみせる私・・・
(だめ)
(泣きそう。。。泣きそう。。。)
「だいじょうぶですよ」
「休んでれば、落ち着きますからね」
そのやさしい声色に、
(ヤあん)
かえって羞恥心を煽られます。
(見てるくせに)
まんまと『いい位置』に陣取ったおじさん・・・
この人にしてみれば、まさに役得といったところでしょう。
目の前の私の股を、のぞき放題の特等席です。
(ああん)
頭の中で拒否しながらも、最高に興奮していました。
「のぼせちゃいましたかねえ」
「すみま・・せん・・・」
顔をしかめたまま、つらそうに返事してみせます。
(泣いちゃう)
ちゃんと、からだにタオルを巻いてはあります。
でも、肝心なところは完全に披露してしまっているのです。
(いくら貧血だからって)
(かわいそう)
自ら演じる真面目なこの子が、自分でも不憫でした。
そんな自分が恥ずかしくて・・・
気持ちよくて・・・
親切ぶっているこの男性の、心の裏側を想像してしまいます。
(おじさん、しっかり見て)
(こんなキレイな子だよ)
目をつぶったまま、身悶えたいほどの快感でした。
何の罪もないこの女の子・・・
(この子のわれめが、見えてるよ)
泣きそうにこみあげる興奮を奥歯で噛みしめて、
「すみま・・せん」
朦朧としているふりをします。
縁もゆかりもないこの中年おじさんに、
(ちゃんと見なきゃ損だよ)
私の『縦の割れ目』を覗かせてあげました。
たぶん・・・3分ぐらい、そんな状態を続けることができたでしょうか。
おじさんも、さすがに怪しまれることを恐れたのだと思います。
「なにかあったら、声をかけなさいね」
そのうち向こうのほうへと離れていきました。
「ガタ・・ガタ・・・」
いろいろと片付けもの(?)をする音が聞こえてきます。
満足感でいっぱいでした。
もうそろそろ、このあたりが潮時です。
(こんなにどきどきできたなんて)
しかも、完璧にハプニングを装うことができたのです。
(最高。。。)
幸せな気持ちでした。
(来てよかった)
この興奮こそが、誰にも言えない私の『秘密』の喜びなのです。
(勇気を出してよかった)
つぶっていた目を、そっと薄目にします。
(帰ろう)
(帰って早くオナニーしたい)
急に元気になるわけにはいきません。
起き上がるには、まだ少し早すぎます。
「ガタン・・ガサッガサッガサッ・・・」
作業を続けるおじさんは、何度も私のベンチの横を通っていました。
まだ寝そべったままですが、薄目にした私には見えています。
3度目か4度目ぐらいのときでした。
横を通りがかったおじさんが、心配するふりをして私の顔をのぞきこんできます。
(どきどきどき)
緊張しました。
なんとなく予感があったのです。
わざと何の反応も示さない私・・・
薄目のまま、眠ったように息をしてみせていました。
『すっ』と姿勢を低くしたおじさんが、
(ひいい)
私の股のあいだをのぞきこんでいます。
(イヤあ、だめ)
いくらなんでもという至近距離で、あそこを見られていました。
脚を閉じたくなる自分に必死で耐えます。
そして、また・・・
『さっ』と立ち去っていきました。
(どきどきどき)
私にまったく気づかれていないと思い込んでいるのです。
(どきどきどき)
あからさまに本性を見せられてしまった・・・
その事実に、私はショックを受けていました。
いまさら、きれいごとを言うつもりはありません。
頭ではわかっていたことでした。
でも・・・
(表向きは、あんなに親切ぶっていたくせに)
しばらくして、
「ガタン・・バタ、バタ、バタ・・」
おじさんが脱衣所から出ていく気配を感じました。
私はからだを起こしました。
とにかく最後まで演技は通さなければなりません。
(あのおじさん)
(すっかり油断しちゃって)
内心、まだ動揺は残っていましたが・・・
(そんなに見たかったの?)
一方では、自尊心をくすぐられます。
あのおじさんを喜ばせたい・・・
そんな気持ちがわきあがってくるのです。
(どんなに恥ずかしくたって)
どうせ、相手は赤の他人でした。
二度と会わなければ、この場かぎりのことなのです。
バスタオルを、きちんと巻き直しました。
長ベンチに、普通に腰かけます。
(戻ってくるまで待っててあげる)
なんとなく、あの人の思考はつかめているつもりです。
まずは少しだけ、話し相手になってあげれば・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
たいして待つまでもなく、入口の戸が開きました。
ロビーからおじさんが戻ってきます。
ベンチに座っている私を目にして、『おっ』という表情になっていました。
「少しは、よくなりました?」
まっすぐに近づいてきます。
(どきどきどき)
「はい、だいぶ」
静かにおじさんの顔を見上げました。
(どきどきどき)
いかにも申し訳なさそうに、
「すっかりこんな・・」
「ご迷惑をおかけしてしまって」
しゅんとしてみせます。
(どきどきどき)
本当は、もう・・・
こうして顔を合わせていること自体が、恥ずかしくてなりません。
「いいんですよ」
「気にしないでください」
さすがは大人です。
このおじさんも、見事なポーカーフェイスでした。
あたりまえですが、いやらしさなど微塵も感じさせません。
どう見たって、人のいい親切なおじさんです。
「無理しないでくださいね」
どこまでもやさしい笑顔を向けてくれますが、
(わかってるんだから)
こっちはすべてお見通しでした。
(私の恥ずかしいとこ・・・)
(思いっきり、のぞきこんでたくせに)
心の中でそう思いつつも、華奢な女の子を演じます。
「よかったですね、たいしたことなさそうで」
すぐそこの丸イスに腰かけたおじさんに、
「すみませんでした」
まだ弱々しい感じの表情で、微笑みを浮かべてみせます。
「貧血なんて、子供のとき以来です」
「25にもなって、恥ずかしい」
どうせわかるはずもありませんから、嘘に嘘を重ねます。
「お疲れだったんでしょう」
「のぼせたのかもしれませんね」
そこから、なんとなく世間話になりました。
「時間が終わっていたなんて知らなくて」
「わたし、こどもの頃から銭湯ってあまり来たことなかったから」
「入らせてもらえて、すごくうれしかったです」
微笑みを絶やさずに目を合わせてみつめてあげると、
(やっぱり。。。ほら。。。)
だんだんと、おじさんの表情が不自然にゆるんできます。
(よかったね、おじさん)
(この子に、すっかり信用されちゃったね)
相手の反応を確かめながら、目線の駆け引きを続けました。
「ひとりで、こんなに大きなお風呂」
「まるで貸切みたいでした」
「私、すごいラッキーですね」
「いえいえ、それはよかった」
思ったとおりに、おじさんの鼻の下が伸びてきます。
(単純だなあ)
(本当に、女の子に弱いんだね)
すっかり気を許しているふりをする私・・・
「壁に富士山の絵とか、描いてあるわけじゃないんですね」
「うちは○年に改装しましたから」
このときには、もう思い出していました。
(お風呂場にポーチを置きっぱなし)
私の心の中で、むくむくと黒い雲が膨らんできます。
「うちのマンションはユニットバスだから、脚を伸ばせないんです」
「いつも仕事の後とかに来られたら、最高なのに」
(職業のことを聞かれる)
(田舎のおじさんに受けそうな職業は・・・)
「どんなお仕事をなさってるんですか?」
「え・・・あ・・CAです」
一瞬わからないという顔をされて、
「はい?」
聞き返されます。
「あ・・キャビンアテン・・・」
とっさについた嘘だったのですが・・・
「ああー、スチュワーデスさんね!」
CAさんというのが、このおじさんのツボにはまったみたいでした。
(本当は嘘なのに)
私を見守るおじさんの眼差しが、明らかに興奮の色を帯びてきています。
「そうですかあ」
「スチュワーデスさんなんですねえ」
(恥ずかしい)
あらためて、顔をじろじろ見られていました。
なんだかすごくいやらしさを感じます。
(恥ずかしいよ)
(おじさん)
・・・いまどんな気持ち?
・・・CAのはだかを見れたと思って、優越感でいっぱいなの?
最高のタイミングでした。
(今、このバスタオルを取ったら)
(恥ずかしすぎて死んじゃう)
私は変わらず、無垢な女を演じ続けます。
ようやく体調が戻ってきたという感じで、
「ふ・・う」
ゆっくりベンチから立ちました。
「うちの近くにも、こういう銭湯があればいいのに」
ごく普通に会話を続けながら、
(どきどきどき)
自分の脱衣カゴの前へと歩いていきます。
丸イスに腰かけているおじさんとは、4~5m離れたでしょうか。
からだに巻いていたバスタオルを取りました。
「そうしたら、毎日来ちゃうのになぁ」
にこにこした顔で、おじさんのほうを振り返ります。
(ひいい)
(恥ずかしい)
「都会は、銭湯が減ってるって聞きますからねえ」
動いているのは口だけでした。
おじさんの目線が、あからさまに泳いでいます。
あ、あ、あ・・・
(隠したい)
恥ずかしい・・・
(見ないで)
私は、まったく気にする素振りをみせません。
『銭湯の人だから』と割り切っているふりをしていました。
もう生乾きになっている髪を、あらためてバスタオルで拭いてみせます。
「うちも、来るのは常連ばかりだからねえ」
「そうなんですか?」
返事をしながら・・・
おじさんの正面を向きました。
内心では、
(せめて胸だけ)
おねがい・・・
(股だけでも)
隠させて・・・
「じゃあ、私なんか本当によそ者ですね」
『にこにこっ』と向けるこの笑顔は、警戒心のなさの現れでした。
一糸まとわぬ立ち姿で、
(ひいいいい)
真正面からおじさんの視線を浴びてみせます。
髪をもしゃもしゃ拭きながら、
(ああんだめ)
オールヌードの私をさらけ出していました。
そして唐突に、
「あ・・・」
動きを止めます。
いま初めて置き忘れに気づいたかのように、
「そうだ・・・」
お風呂のほうに顔を向けてみせました。
もういちど、バスタオルをからだに巻きます。
イメージは浮かんでいました。
「ガガッ」
ガラス戸を開けて、洗い場に入っていきます。
(ああ、おじさん)
待っててね・・・
(もっとニヤニヤさせてあげるから)
すべて計算ずくでした。
適当に巻いたバスタオルは、わざと後ろでお尻を出してあります。
置きっぱなしになっていたポーチを拾い上げました。
ボックス型のチャックが開いたままです。
あえて閉じずにそのまま持ちました。
戻ろうと振り返ると、ガラス越しに目が合います。
私のことをずっと目で追っているおじさん・・・
もうあの人にとって、私は完全にCAです。
自分で書くのもなんですが・・・
こんなに笑顔の綺麗な『スチュワーデス』さんでした。
(待ってて。。。)
わざと水びたしなところを通って、足の裏を濡らします。
私が演じる、『可憐』なこの女の子に・・・
(恥かかせてあげる)
自虐的な気持ちを押さえられません。
ポーチの中でヘアピンケースを開けて、
(ああ、早く)
そのまま逆さまにひっくり返しておきます。
「ガガッ」
ガラス戸を開けて脱衣所にあがりました。
手に持ったポーチを掲げて、
「忘れちゃうとこでした」
いたずらっぽく照れてみせる私・・・
そのままわざと床に足を滑らせかけて、
「きゃっ!!」
転びかけるふりをします。
実際には転ばずに、持ちこたえますが・・・
とっさに手から放してみせたポーチは、
「ガシャ!」
真っ逆さまに落ちて、床にひっくり返っていました。
クレンジングやシャンプーのミニボトルが、床を滑っていきます。
狙いどおりに、
(よしっ!)
けっこうな数のヘアピンも床に散らばりました。
「・・・・」
一瞬、絶句してみせた私・・・
思わず、おじさんとお互いに顔を見合わせてしまいます。
自分でも信じられないというように、
「すみません」
呆然と、つぶやいてみせました。
慌てて足もとの化粧水パックを拾い上げると、
(来たっ)
つられたように、おじさんが丸イスから腰をあげています。
「すみません、ほんとうに」
シャンプーボトルを拾ってくれたおじさんに、
「ありがとうございます」
「わたし、今日・・ドジばっかり」
恥じらうように、はにかんでみせました。
「いえいえ」
手渡してくれるおじさんの鼻の下が伸びています。
本当に嬉しそうな顔・・・
まだヘアピンが、あちこちに散らばっています。
いちど、ポーチを床に置きました。
「仕事だったら、ぜったいミスしないのに」
おじさんも、拾うのを手伝おうとしてくれています。
私の斜め後ろにしゃがみこんだのを、横目に見届けました。
足もとのヘアピンに気をとられたふりをして・・・
そのおじさんに、さりげなく背を向けます。
「スチュワーデスさんのお仕事って、大変なんでしょう?」
私はしゃがみませんでした。
「そうですねえ」
バスタオルが落ちないように、片手で胸を押さえます。
立ったまま、床のヘアピンに手を伸ばしていました。
「意外と動いている時間が長くて」
「わりと体力勝負なんです」
腰をかがめてピンを拾いながら、
(ヤああん)
まる出しのお尻を、後ろに突き出していました。
われながら、完全に確信犯でした。
(ああん、見て)
すぐ真後ろにしゃがむおじさんに、
(ひいいい)
ちょうど、お尻の穴がまる見えです。
「横柄なお客さんとかもいるんでしょ?」
「ムッとすることも多いんじゃない?」
平らな床に落ちた細いヘアピンは、なかなか指でつまめません。
爪先に引っかからないピンに苦労しているふりをします。
「いますけど・・・」
「いつも笑顔で乗り切ってます」
健気に答えてみせるこの女の子・・・
おじさんに、この『スチュワーデス』さんの肛門を、目の当たりに見てもらいます。
最後の1本を拾い終えて振り向きました。
おじさんが、自分で拾った分を差し出してくれます。
「ありがとうございます」
(ああだめ)
さすがに、もう限界でした。
おずおずと脱衣カゴの前に戻ります。
ポーチをトートバッグの中に突っ込みました。
「どこの飛行機のスチュワーデスさん?」
尋ねてくるおじさんの『目』の奥に、興奮がにじんでいます。
「・・・○○○です」
適当に話を合わせながら、バスタオルを外しました。
ひざが震えそうになるのをこらえながら、
(もうだめ)
(恥ずかしい)
ようやく下着を身につけます。
私も必死でした。
最後まで笑顔の女の子を貫きます。
「本当にすみませんでした」
「いろいろ迷惑をおかけしてしまって」
「どういたしまして」
何事もなかったかのように平然と服を着ながら、
「またこっちに来ることがあったら・・・」
「そのときは、また寄りますね」
唇をしぼって口角を上げました。
本物のCAになりきったつもりで、
(さようなら)
おじさんに、最高の笑顔をプレゼントします。
逃げるような気持ちで、建物をあとにしていました。
(二度と来れない)
(来られるわけない)
こみあげてくる屈辱感に、『ぶわっ』と視界が曇ります。
本気で泣きそうになりながら・・・
かろうじて涙をこらえました。
(早く・・・うちに・・)
オナニーしたくて全身がうずうずしています。
必死に我慢して、車に乗りこみました。
事故をおこさないように、慎重に、慎重に、雪道のハンドルを握ります。
自分の部屋のベッドまで・・・
その瞬間を迎えるまでが、はてしなく長く遠く感じました。
(PS)
おじさんの言葉は、あえて標準語に直して書きました。
実際の言葉づかいはまったく違うのですが、私なりにいろいろ考えてのことです。
それから・・・
あのおじさんは、ぜんぜん悪い人じゃありません。
本当に親切で、すごくいい人でした。
私の書き方のせいで、ひどい人のようになってしまっていますが・・・
そうではありません。
私のほうが、自分の都合で他人の気持ちを利用したのです。
それだけは書き添えておきたいと思います。
皆さん、良いクリスマスを。
最後までお付き合いいただいて、ありがとうございました。