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温泉
Nさんと別れた私は、もとの温泉地に向けて車を運転していました。
(Nさん、喜んでくれたかな)
山の中の国道をひた走りながら、
(真相を知ったらショックかなあ)
あの人に対して自分がやったことについて、それなりに罪悪感がないわけではありません。
いつも、他人を利用してばかりいる私・・・
(でも・・・)
(あの人も嬉しそうにしてた)
あの人は、私の『ファン』・・・
自分なんかにそんな存在がいること自体が不思議な感覚でした。
私なんて、本当に何の取り柄もないつまらない人間なのに。
二度とお会いすることはないですが、
(良い思い出になってくれてたらいいな)
車を運転しながらも、そんなふうに願ってやまない気持ちの『私』です。
林道に入りました。
以前から私の投稿を読んでくださっている方たちの中には・・・
私がお手軽にちょくちょくこの野天温泉を訪れているようにお思いの人もいるようですが、とんでもありません。
ここは○○県のはるか山の中です。
私の住んでいる関東からは、とてつもなく遠い田舎にありました。
そうそう気軽に来られるような場所ではありません。
でも・・・今夜は、ここの隣の県にある私の実家に帰ることにしてありました。
まだ、多少は時間があります。
このまま帰るのは、もったいないというものでした。
(それにしても腹が立つ)
迷惑な『A』のことが頭をよぎって、ちょっとだけイラっとしている自分がいます。
(相手選びに失敗しなかったら)
(愛媛でも、きっとうまくいったはずだったのに)
あのときはあのときで、自分なりに綿密なプランを組み立てていた私でした。
(まあ、しょうがない)
(もう忘れよう)
私には、今がある・・・
大好きな『あの場所』が、また近づいてきてる・・・
(お願い・・・誰かいて・・・)
(こっそり覗かせてあげるから)
さっきNさんとおそばを食べた、お食事処のある旅館・・・
そしてまた同じく1軒、2軒と小さな旅館の前を通過していきます。
野天風呂への入口につながる駐車場が見えてきました。
すでに車が1台とまっています。
ナンバープレートを見ると、このあたりのものではありませんでした。
(どうする?)
行ってみなければ何もはじまりません。
どことなく、すべて吹っ切れたような気持ちでした。
最低限の荷物だけをトートバッグに詰めて、車を降ります。
スマホとデジカメは・・・
ちょっと迷いましたが、持っていくのはやめておきました。
万一紛失でもしようものなら、さっきNさんに撮られた写真を他人に見られかねません。
車のキーも、いつものように『ある場所』に隠しました。
森林の中へと入っていきます。
なんだか不思議な感じでした。
ほんの数時間前には、Nさんといっしょに歩いたこの場所・・・
今の私は、もうひとりぼっちです。
(ごめんね、Nさん)
(わたし、ひとりのほうが何でもできるの)
森の歩道をすすんだ先の途中から、横の階段道を下りていきました。
崖に沿うような急こう配を曲がっていくと、男湯スペースが見えてきます。
(誰かいる)
男性が2人、岩風呂につかっているのが見えました。
たぶん、私と同世代ぐらいの人たちです。
私が階段道に現れると同時に、彼らも私の存在にすぐ気づいたようでした。
じっとこっちを見上げているのがわかります。
階段道を下りきりました。
男湯スペースの中を突っ切るように、ふたりに近づいていきます。
ずっと見られていました。
・・・そう、じろじろと不自然なぐらいに。
(どきどきどき)
現われた私のことを、この人たちは『観察』するような目で見ています。
はっきりと予感のようなものを覚えていました。
私はにこっと、
「こんにちは」
かたちだけの挨拶をします。
にこっと・・・と言うよりは、ニヤッと・・・
彼らも『こんにちは』と挨拶を返してきました。
ひとりが、無意識に護岸のコンクリートのほうにちらっと目をやっています。
(知ってるな)
もし私が、ここに初めて来た『普通』の女だったら・・・
何も気づくことはなかったでしょう。
でも、私にはお見通しでした。
(この人たちは)
(女湯を覗けることを知ってる)
そのコンクリート部分から下におりれば、護岸に沿って女湯のすだれ前まで行くことが可能です。
この男たちは、それを知っているということでした。
駐車場にとまっていた車は県外ナンバーでしたから、知っていてわざわざここに訪ねて来ている可能性も捨てきれません。
もしかしたら、この温泉での覗きの常習者なのかもしれない・・・
それ目的でここに来た奴らなのかもしれない・・・
経験上(?)、瞬時にそう感じていました。
ぱっと見、ちょっと目を引く容姿の私です。
もしそうなら、彼らにとっては願ってもないターゲットが訪ねて来た状況のはずでした。
(こんな美人じゃ)
(もう覗かずにいられないでしょ?)
無垢なふりをして、
「あの・・・」
その場に立ち止まります。
私は、まったく動じていませんでした。
「〇〇の湯って、ここですよね?」
わざとこちらから話しかけてみます。
もう片方の男性が、
「そうですよ」
近づいてきた私をまじまじと見ながら返事をしてくれました。
その細かい挙動のひとつひとつを、注意深く観察します。
目線の動き・・・
口もとのゆるみ・・・
「すみません、ありがとうございます」
私は、木戸に向かって歩きだしました。
ふたりとも、舐めるような目で私のことを見ています。
(間違いない)
(こいつら『覗き』だ)
大チャンスだと思いました。
まったく焦ることなく、
(だいじょうぶ)
完全に冷静さを保ったままの自分がいます。
(私が木戸を抜けると同時に・・・)
(あのふたりは、すぐさま護岸の下に降りようとするはず)
こんなの自慢できることではないですが、やはり私のほうが一枚上手でした。
この先の彼らの行動を、すっかり読むことができています。
「ガタッ」
木戸を開けて、中に入りました。
再びしっかり閉めた私は、その場にとどまります。
木戸の隙間から、そっとあのふたりの様子を窺いました。
案の定、
「ざばざばっ」
ふたりともお湯の中から立ち上がって、急いで腰にタオルを巻いています。
どう説明したらいいのかわかりませんが・・・
私は、『余裕』でした。
彼らの印象は、あまり良いとはいえません。
でも、女を襲ってくるほどの奴らという感じでもありませんでした。
(なんて馬鹿な男たち)
(バレバレだとも知らないで)
むしろ相手の男たちを手玉に取ってやっているような感覚で、ふたりの行動を観察します。
(こんなにいい女が現れちゃって)
(居ても立ってもいられないでしょ?)
注目していました。
彼らがスマホやカメラを手にするようなら、即座に見切りをつけて帰るまでです。
でも、
(よしっ)
手ぶらのまま、コンクリート部分から護岸の下に降りていく彼ら・・・
私は、石垣をまわりこんで女湯スペースに行きました。
(もし、Nさんがいるときに)
(彼らが来てたらどうなってたかな)
ふとそんなことを思いましたが、いまそれを考えたって意味はありません。
スニーカーを脱ぎながら、気持ちの昂ぶりを感じていました。
あのふたり、
(どきどきだろうな)
あれだけ私の顔をじろじろ見ていたのです。
内心では『絶好のカモが現れた』と、ニヤけていたに違いありませんでした。
手近な岩の上にトートを置いて、靴下を脱ぎます。
(来たっ)
パーカーを脱いでいるときに、すだれの隙間がかすかに明暗しました。
もともと女湯スペースを外の視線から遮るために立てかけられている『すだれ』です。
でも、古くて隙間だらけのものでした。
近づいて顔を寄せれば、中の女湯を覗き放題です。
何度もここを使っている私には、そこに人がいるのがはっきりわかりました。
(ああん、だめだめ)
(脱いじゃだめえ)
ジーンズを下ろしながら、わざと自虐的な気持ちを煽っていきます。
何も気づいていないふりをしていました。
(男たちがそこにいるよ)
(それなのに・・・)
何も知らない覗きの被害者になりきりながら、あたりまえのようにブラを外します。
胸を出して、
(ひいん、だめえ)
素知らぬ顔をしてみせる自分に興奮しました。
(イヤあん、見ないで)
(恥ずかしい)
おっぱいをまる見えにしたまま、もったいぶるように時間を稼ぎます。
トートバッグからタオルを取り出して、丁寧にたたみ直してから隣の岩に置きました。
(ああん、覗かれてる。。。)
見られているとわかっていて・・・
そのまま、
(だめえ、だめ)
パンツに手をかけます。
(これを脱いだら)
(脱いだら・・・)
するするっと下ろしました。
こんな『美人』が、あっという間に真っ裸です。
(ひいいいん)
責められるべきは、そこに隠れて覗いている彼らのほうでした。
アンダーヘアもまる出しに、
(いやん、いやあん)
奴らの目の前でかけ湯をするこの女・・・
私は、なにも悪くありません。
「じゃぼん」
湯だまりに入りました。
どっぷり肩までつかります。
(あああん、近いよ)
(恥ずかしい)
最高でした。
前回ここを訪ねて来たときの、鷲鼻さんとまゆげさん・・・
あのときとは全然ちがいます。
どう思われようとかまいませんでした。
今そこにいる彼らふたりに対して、特別な思い入れなどありません。
(気づかないふり)
(慎重に、慎重に・・・)
私の顔をじっくり眺めさせました。
お湯につかったまま、
「ふうーっ」
ほっとしたように息をつきます。
いま自分たちがどれほどキレイな女のお風呂を覗くことができているのか・・・
そこにいるふたりに幸運を噛みしめさせてやりました。
(見てる・・・見てるよう)
文句なしのシチュエーションです。
出来すぎなぐらいの気がしなくもありませんでした。
でも・・・
だめなときはダメでも、実際こういう『いいとき』もあるのです。
彼らのことなんて知ったことではありませんでした。
私は、自分がドキドキできさえすればいい・・・
「ふうーぅ」
懸命に葛藤の気持ちと闘います。
すだれとの距離は、3mぐらい・・・
お湯から出れば、全裸のまま隠れ場所はありません。
温泉を満喫しているかのように、景色にみとれているふりをしていました。
いざとなると、
(ああ、やめて)
どうしても勇気がでないのはいつものことです。
(ねえねえ)
(そんなに女のはだかが見たいの?)
恥ずかしくてたまりませんでした。
彼らはきっと、私がお湯から出るのを『いまかいまか』と待っているはずです。
(ねえねえ)
(『この子』のはだかが見たい?)
焦らしてやりました。
お上品な顔つきで、
「ふうーう」
のんびりくつろいでみせます。
(イヤあん、そこにいる)
(恥ずかしくてお湯からあがれない)
自然体を意識しました。
さりげなく演技をはじめている『私』がいます。
肩までお湯につかったまま、小さく口を動かしました。
すっかりリラックスしているかのように、
「・・breaking・・、・・you・・・、・・stree・・」
鼻歌を口ずさみます。
(自然体で・・・)
気持ちよさそうに『ぼーっ』とした顔のまま・・・
声にもならないような微かな声で、メロディーを口にしてみせていました。
「・・it・・、・・ness・・me・、・・・・」
鼻歌を続けながら・・・
腕を湯面から持ち上げて、
「じゃばっ、じゃばっ」
なんとなく、なにかの振り付けをなぞっている感じを出します。
(どきどきどき)
私が頭に思い浮かべていたのは・・・
向こうで暮らしていたときに、ちょっとだけかじったジャズダンス・・・
(むりだ、むりだ・・・)
(思った以上に恥ずかしすぎる)
「ふーうっ」
ふと、急に『真顔』になってみせました。
ひょいと横のスペースを見ます。
思いたったかのように・・・
そのまま『ざばっ』と、お湯から出る私・・・
(ひいいい)
確かめることはできなくても、はっきりとすだれからの視線を感じていました。
すっぽんぽんのまま、
(ひいん、ひいいん)
彼らの前で『気をつけ』するように棒立ちになります。
(見ないでえ)
恥ずかしすぎて死ぬかと思いました。
いかにも『ダンス教室に通いはじめ』みたいな女になりきって・・・
両足を揃えたまま、
「one,・・two,・・three,・・」
かかとを上げ下げしてリズムを取ります。
(ああん、おっぱいイヤあ)
習いたての振り付けを確認しているかのように、上下左右に腕をふりかざしました。
そんな私の表情は、お上品そのものです。
思いだし思いだしという感じで・・・
たどたどしく、
「・・just・・・all・・・」
全裸のまま彼らの前で全身をくねらせてみせます。
(こんなの、)
(恥ずかしい。。。)
ものすごい興奮でした。
一部始終の行いを男に見られています。
貧弱な胸を弾ませて、
「らら、らら、らら」
おぼつかないながらも、下手くそなりに振り付けをたどっているふりをしました。
ときどき『間違えた』という感じでニコニコしてみせては・・・
ひとりで照れた表情を浮かべて、ぎこちなくステップを踏みなおします。
「two・・three・・」
目の前に広がる美しい景色と・・・
そんな場所に自分ひとりしかいないという開放感・・・
素っ裸のまま、男たちの前で赤っ恥をかき続けてやりました。
何度も脚をクロスさせて、
「・・just・・、・・cause・・・」
鼻歌まじりにターンを踏みます。
何も気づいていない女になりきって、楽しそうに振り付けを反復するふりをしていました。
「if・・・、soft・・」
そうかと思えば、きゅっと『お澄まし顔』をする私・・・
メロディをふんふん口ずさみながら、たどたどしく左右に腰をくねらせます。
(もうだめ。。。)
(死んじゃう。。。)
動きをとめて、大きく息をつきました。
鼻の下を伸ばしながら、ニヤニヤ見物しているに違いない男たち・・・
まさに特等席に陣取っている気分で、この女の振る舞いを眺めているはずです。
(覗かれてるなんて知ったら)
(この子、きっとショックで泣いちゃうよ?)
その彼らが見ている前で、堂々と仁王立ちになりました。
股の割れ目を手で隠すこともなく、
「うっうー・・・」
気持ちよさそうに、立ったまま全身でぐーっと『伸び』をします。
からだをぶるぶる震わせて・・・
「ふうう」
大きく息を吐きながら、脱力しました。
(見てよ、この無垢な顔。。。)
(ぜんぜんあなたたちのことに気づいてない)
すらりとその場に立ちつくしたまま・・・
火照ったからだを冷ますかのように、渓谷の風にあたってみせています。
ふと・・・
顔も知らない、あの『A』のことが脳裏をよぎりました。
(あんたなんか一生目にすることのない)
(この女のお風呂姿・・・)
自分で演じているこの『お上品』な女に、さらに追い打ちをかけてやります。
山のほうを眺める感じで、すだれに背を向けました。
そして・・・
立ち止まったまま、すとんと目線を足もとに落としてみせます。
(覗き男たちめ)
(おまえらなんか)
(これでも見て喜んでろ)
剥がれかけたペディキュアを気にする素振りをしました。
思いっきり前かがみになって・・・
(ひいいいん)
彼らの眼前で、この女の『肛門』をまる見えにしてやります。
(ほら、見ろよ)
(こんな美人の尻の穴だぞ)
たちまち自尊心が悲鳴をあげますが・・・
そんな様子は、おくびにも出しませんでした。
(あとでオナニーするんだろ?)
(私を思い出しながら)
『A』にあてつけてやるような気持ちで、覗き男たちに大サービスしてやります。
さりげなく、
(この子のあそこも見ていいよ)
左右の足幅を開いてみせました。
自然体のふりをして、『恥部』をまる見えにしてあげます。
(ほらほら、こんなにキレイな子の)
(ばっちり見られて嬉しいでしょ?)
前かがみのまま、のんびりとペディキュアの足指をなぞってみせていました。
悔しがる『A』を想像しながら、
(ひいいん。。。ひいいいい。。。)
背後に向けた恥ずかしすぎるこの格好・・・
あくまでも私は、何も気づいていない『楚々』とした女です。
(ひいん、もうだめ)
何食わぬ顔をして、
「じゃぼん」
もとのお湯の中に戻りました。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
興奮しすぎて、頭に血がのぼってしまっています。
(どきどきどき)
油断するわけにはいきませんでした。
とにかく、最後まで『何も知らない女』を貫き通さなければなりません。
(どきどきどき)
まだ、ふたりともそこにいました。
なかなか心臓のどきどきがおさまってくれません。
(顔を見ないで)
(恥ずかしすぎる)
何も気づいていないふりをして・・・
自然体を装っている私・・・
(見ないでってば)
(恥ずかしいよ)
そして・・・
最後にもういちど味わおうと思いました。
(めいっぱい自分の羞恥心を煽りながら)
(タオルで大胆にからだを拭こう)
そんなイメージを膨らませます。
Aさん・・・
(あなたじゃなくて残念だったね)
こんな『覗き男たち』でさえ、私のことを見放題なのに。
Nさんだって言ってくれてた・・・
『白くて細くて、おめめぱっちり』な、私・・・
(恥ずかしい)
(恥ずかしいよう。。。)
邪魔する者はどこにもいませんでした。
誰かに迷惑をかけているわけでもありません。
(Nさん、喜んでくれたかな)
山の中の国道をひた走りながら、
(真相を知ったらショックかなあ)
あの人に対して自分がやったことについて、それなりに罪悪感がないわけではありません。
いつも、他人を利用してばかりいる私・・・
(でも・・・)
(あの人も嬉しそうにしてた)
あの人は、私の『ファン』・・・
自分なんかにそんな存在がいること自体が不思議な感覚でした。
私なんて、本当に何の取り柄もないつまらない人間なのに。
二度とお会いすることはないですが、
(良い思い出になってくれてたらいいな)
車を運転しながらも、そんなふうに願ってやまない気持ちの『私』です。
林道に入りました。
以前から私の投稿を読んでくださっている方たちの中には・・・
私がお手軽にちょくちょくこの野天温泉を訪れているようにお思いの人もいるようですが、とんでもありません。
ここは○○県のはるか山の中です。
私の住んでいる関東からは、とてつもなく遠い田舎にありました。
そうそう気軽に来られるような場所ではありません。
でも・・・今夜は、ここの隣の県にある私の実家に帰ることにしてありました。
まだ、多少は時間があります。
このまま帰るのは、もったいないというものでした。
(それにしても腹が立つ)
迷惑な『A』のことが頭をよぎって、ちょっとだけイラっとしている自分がいます。
(相手選びに失敗しなかったら)
(愛媛でも、きっとうまくいったはずだったのに)
あのときはあのときで、自分なりに綿密なプランを組み立てていた私でした。
(まあ、しょうがない)
(もう忘れよう)
私には、今がある・・・
大好きな『あの場所』が、また近づいてきてる・・・
(お願い・・・誰かいて・・・)
(こっそり覗かせてあげるから)
さっきNさんとおそばを食べた、お食事処のある旅館・・・
そしてまた同じく1軒、2軒と小さな旅館の前を通過していきます。
野天風呂への入口につながる駐車場が見えてきました。
すでに車が1台とまっています。
ナンバープレートを見ると、このあたりのものではありませんでした。
(どうする?)
行ってみなければ何もはじまりません。
どことなく、すべて吹っ切れたような気持ちでした。
最低限の荷物だけをトートバッグに詰めて、車を降ります。
スマホとデジカメは・・・
ちょっと迷いましたが、持っていくのはやめておきました。
万一紛失でもしようものなら、さっきNさんに撮られた写真を他人に見られかねません。
車のキーも、いつものように『ある場所』に隠しました。
森林の中へと入っていきます。
なんだか不思議な感じでした。
ほんの数時間前には、Nさんといっしょに歩いたこの場所・・・
今の私は、もうひとりぼっちです。
(ごめんね、Nさん)
(わたし、ひとりのほうが何でもできるの)
森の歩道をすすんだ先の途中から、横の階段道を下りていきました。
崖に沿うような急こう配を曲がっていくと、男湯スペースが見えてきます。
(誰かいる)
男性が2人、岩風呂につかっているのが見えました。
たぶん、私と同世代ぐらいの人たちです。
私が階段道に現れると同時に、彼らも私の存在にすぐ気づいたようでした。
じっとこっちを見上げているのがわかります。
階段道を下りきりました。
男湯スペースの中を突っ切るように、ふたりに近づいていきます。
ずっと見られていました。
・・・そう、じろじろと不自然なぐらいに。
(どきどきどき)
現われた私のことを、この人たちは『観察』するような目で見ています。
はっきりと予感のようなものを覚えていました。
私はにこっと、
「こんにちは」
かたちだけの挨拶をします。
にこっと・・・と言うよりは、ニヤッと・・・
彼らも『こんにちは』と挨拶を返してきました。
ひとりが、無意識に護岸のコンクリートのほうにちらっと目をやっています。
(知ってるな)
もし私が、ここに初めて来た『普通』の女だったら・・・
何も気づくことはなかったでしょう。
でも、私にはお見通しでした。
(この人たちは)
(女湯を覗けることを知ってる)
そのコンクリート部分から下におりれば、護岸に沿って女湯のすだれ前まで行くことが可能です。
この男たちは、それを知っているということでした。
駐車場にとまっていた車は県外ナンバーでしたから、知っていてわざわざここに訪ねて来ている可能性も捨てきれません。
もしかしたら、この温泉での覗きの常習者なのかもしれない・・・
それ目的でここに来た奴らなのかもしれない・・・
経験上(?)、瞬時にそう感じていました。
ぱっと見、ちょっと目を引く容姿の私です。
もしそうなら、彼らにとっては願ってもないターゲットが訪ねて来た状況のはずでした。
(こんな美人じゃ)
(もう覗かずにいられないでしょ?)
無垢なふりをして、
「あの・・・」
その場に立ち止まります。
私は、まったく動じていませんでした。
「〇〇の湯って、ここですよね?」
わざとこちらから話しかけてみます。
もう片方の男性が、
「そうですよ」
近づいてきた私をまじまじと見ながら返事をしてくれました。
その細かい挙動のひとつひとつを、注意深く観察します。
目線の動き・・・
口もとのゆるみ・・・
「すみません、ありがとうございます」
私は、木戸に向かって歩きだしました。
ふたりとも、舐めるような目で私のことを見ています。
(間違いない)
(こいつら『覗き』だ)
大チャンスだと思いました。
まったく焦ることなく、
(だいじょうぶ)
完全に冷静さを保ったままの自分がいます。
(私が木戸を抜けると同時に・・・)
(あのふたりは、すぐさま護岸の下に降りようとするはず)
こんなの自慢できることではないですが、やはり私のほうが一枚上手でした。
この先の彼らの行動を、すっかり読むことができています。
「ガタッ」
木戸を開けて、中に入りました。
再びしっかり閉めた私は、その場にとどまります。
木戸の隙間から、そっとあのふたりの様子を窺いました。
案の定、
「ざばざばっ」
ふたりともお湯の中から立ち上がって、急いで腰にタオルを巻いています。
どう説明したらいいのかわかりませんが・・・
私は、『余裕』でした。
彼らの印象は、あまり良いとはいえません。
でも、女を襲ってくるほどの奴らという感じでもありませんでした。
(なんて馬鹿な男たち)
(バレバレだとも知らないで)
むしろ相手の男たちを手玉に取ってやっているような感覚で、ふたりの行動を観察します。
(こんなにいい女が現れちゃって)
(居ても立ってもいられないでしょ?)
注目していました。
彼らがスマホやカメラを手にするようなら、即座に見切りをつけて帰るまでです。
でも、
(よしっ)
手ぶらのまま、コンクリート部分から護岸の下に降りていく彼ら・・・
私は、石垣をまわりこんで女湯スペースに行きました。
(もし、Nさんがいるときに)
(彼らが来てたらどうなってたかな)
ふとそんなことを思いましたが、いまそれを考えたって意味はありません。
スニーカーを脱ぎながら、気持ちの昂ぶりを感じていました。
あのふたり、
(どきどきだろうな)
あれだけ私の顔をじろじろ見ていたのです。
内心では『絶好のカモが現れた』と、ニヤけていたに違いありませんでした。
手近な岩の上にトートを置いて、靴下を脱ぎます。
(来たっ)
パーカーを脱いでいるときに、すだれの隙間がかすかに明暗しました。
もともと女湯スペースを外の視線から遮るために立てかけられている『すだれ』です。
でも、古くて隙間だらけのものでした。
近づいて顔を寄せれば、中の女湯を覗き放題です。
何度もここを使っている私には、そこに人がいるのがはっきりわかりました。
(ああん、だめだめ)
(脱いじゃだめえ)
ジーンズを下ろしながら、わざと自虐的な気持ちを煽っていきます。
何も気づいていないふりをしていました。
(男たちがそこにいるよ)
(それなのに・・・)
何も知らない覗きの被害者になりきりながら、あたりまえのようにブラを外します。
胸を出して、
(ひいん、だめえ)
素知らぬ顔をしてみせる自分に興奮しました。
(イヤあん、見ないで)
(恥ずかしい)
おっぱいをまる見えにしたまま、もったいぶるように時間を稼ぎます。
トートバッグからタオルを取り出して、丁寧にたたみ直してから隣の岩に置きました。
(ああん、覗かれてる。。。)
見られているとわかっていて・・・
そのまま、
(だめえ、だめ)
パンツに手をかけます。
(これを脱いだら)
(脱いだら・・・)
するするっと下ろしました。
こんな『美人』が、あっという間に真っ裸です。
(ひいいいん)
責められるべきは、そこに隠れて覗いている彼らのほうでした。
アンダーヘアもまる出しに、
(いやん、いやあん)
奴らの目の前でかけ湯をするこの女・・・
私は、なにも悪くありません。
「じゃぼん」
湯だまりに入りました。
どっぷり肩までつかります。
(あああん、近いよ)
(恥ずかしい)
最高でした。
前回ここを訪ねて来たときの、鷲鼻さんとまゆげさん・・・
あのときとは全然ちがいます。
どう思われようとかまいませんでした。
今そこにいる彼らふたりに対して、特別な思い入れなどありません。
(気づかないふり)
(慎重に、慎重に・・・)
私の顔をじっくり眺めさせました。
お湯につかったまま、
「ふうーっ」
ほっとしたように息をつきます。
いま自分たちがどれほどキレイな女のお風呂を覗くことができているのか・・・
そこにいるふたりに幸運を噛みしめさせてやりました。
(見てる・・・見てるよう)
文句なしのシチュエーションです。
出来すぎなぐらいの気がしなくもありませんでした。
でも・・・
だめなときはダメでも、実際こういう『いいとき』もあるのです。
彼らのことなんて知ったことではありませんでした。
私は、自分がドキドキできさえすればいい・・・
「ふうーぅ」
懸命に葛藤の気持ちと闘います。
すだれとの距離は、3mぐらい・・・
お湯から出れば、全裸のまま隠れ場所はありません。
温泉を満喫しているかのように、景色にみとれているふりをしていました。
いざとなると、
(ああ、やめて)
どうしても勇気がでないのはいつものことです。
(ねえねえ)
(そんなに女のはだかが見たいの?)
恥ずかしくてたまりませんでした。
彼らはきっと、私がお湯から出るのを『いまかいまか』と待っているはずです。
(ねえねえ)
(『この子』のはだかが見たい?)
焦らしてやりました。
お上品な顔つきで、
「ふうーう」
のんびりくつろいでみせます。
(イヤあん、そこにいる)
(恥ずかしくてお湯からあがれない)
自然体を意識しました。
さりげなく演技をはじめている『私』がいます。
肩までお湯につかったまま、小さく口を動かしました。
すっかりリラックスしているかのように、
「・・breaking・・、・・you・・・、・・stree・・」
鼻歌を口ずさみます。
(自然体で・・・)
気持ちよさそうに『ぼーっ』とした顔のまま・・・
声にもならないような微かな声で、メロディーを口にしてみせていました。
「・・it・・、・・ness・・me・、・・・・」
鼻歌を続けながら・・・
腕を湯面から持ち上げて、
「じゃばっ、じゃばっ」
なんとなく、なにかの振り付けをなぞっている感じを出します。
(どきどきどき)
私が頭に思い浮かべていたのは・・・
向こうで暮らしていたときに、ちょっとだけかじったジャズダンス・・・
(むりだ、むりだ・・・)
(思った以上に恥ずかしすぎる)
「ふーうっ」
ふと、急に『真顔』になってみせました。
ひょいと横のスペースを見ます。
思いたったかのように・・・
そのまま『ざばっ』と、お湯から出る私・・・
(ひいいい)
確かめることはできなくても、はっきりとすだれからの視線を感じていました。
すっぽんぽんのまま、
(ひいん、ひいいん)
彼らの前で『気をつけ』するように棒立ちになります。
(見ないでえ)
恥ずかしすぎて死ぬかと思いました。
いかにも『ダンス教室に通いはじめ』みたいな女になりきって・・・
両足を揃えたまま、
「one,・・two,・・three,・・」
かかとを上げ下げしてリズムを取ります。
(ああん、おっぱいイヤあ)
習いたての振り付けを確認しているかのように、上下左右に腕をふりかざしました。
そんな私の表情は、お上品そのものです。
思いだし思いだしという感じで・・・
たどたどしく、
「・・just・・・all・・・」
全裸のまま彼らの前で全身をくねらせてみせます。
(こんなの、)
(恥ずかしい。。。)
ものすごい興奮でした。
一部始終の行いを男に見られています。
貧弱な胸を弾ませて、
「らら、らら、らら」
おぼつかないながらも、下手くそなりに振り付けをたどっているふりをしました。
ときどき『間違えた』という感じでニコニコしてみせては・・・
ひとりで照れた表情を浮かべて、ぎこちなくステップを踏みなおします。
「two・・three・・」
目の前に広がる美しい景色と・・・
そんな場所に自分ひとりしかいないという開放感・・・
素っ裸のまま、男たちの前で赤っ恥をかき続けてやりました。
何度も脚をクロスさせて、
「・・just・・、・・cause・・・」
鼻歌まじりにターンを踏みます。
何も気づいていない女になりきって、楽しそうに振り付けを反復するふりをしていました。
「if・・・、soft・・」
そうかと思えば、きゅっと『お澄まし顔』をする私・・・
メロディをふんふん口ずさみながら、たどたどしく左右に腰をくねらせます。
(もうだめ。。。)
(死んじゃう。。。)
動きをとめて、大きく息をつきました。
鼻の下を伸ばしながら、ニヤニヤ見物しているに違いない男たち・・・
まさに特等席に陣取っている気分で、この女の振る舞いを眺めているはずです。
(覗かれてるなんて知ったら)
(この子、きっとショックで泣いちゃうよ?)
その彼らが見ている前で、堂々と仁王立ちになりました。
股の割れ目を手で隠すこともなく、
「うっうー・・・」
気持ちよさそうに、立ったまま全身でぐーっと『伸び』をします。
からだをぶるぶる震わせて・・・
「ふうう」
大きく息を吐きながら、脱力しました。
(見てよ、この無垢な顔。。。)
(ぜんぜんあなたたちのことに気づいてない)
すらりとその場に立ちつくしたまま・・・
火照ったからだを冷ますかのように、渓谷の風にあたってみせています。
ふと・・・
顔も知らない、あの『A』のことが脳裏をよぎりました。
(あんたなんか一生目にすることのない)
(この女のお風呂姿・・・)
自分で演じているこの『お上品』な女に、さらに追い打ちをかけてやります。
山のほうを眺める感じで、すだれに背を向けました。
そして・・・
立ち止まったまま、すとんと目線を足もとに落としてみせます。
(覗き男たちめ)
(おまえらなんか)
(これでも見て喜んでろ)
剥がれかけたペディキュアを気にする素振りをしました。
思いっきり前かがみになって・・・
(ひいいいん)
彼らの眼前で、この女の『肛門』をまる見えにしてやります。
(ほら、見ろよ)
(こんな美人の尻の穴だぞ)
たちまち自尊心が悲鳴をあげますが・・・
そんな様子は、おくびにも出しませんでした。
(あとでオナニーするんだろ?)
(私を思い出しながら)
『A』にあてつけてやるような気持ちで、覗き男たちに大サービスしてやります。
さりげなく、
(この子のあそこも見ていいよ)
左右の足幅を開いてみせました。
自然体のふりをして、『恥部』をまる見えにしてあげます。
(ほらほら、こんなにキレイな子の)
(ばっちり見られて嬉しいでしょ?)
前かがみのまま、のんびりとペディキュアの足指をなぞってみせていました。
悔しがる『A』を想像しながら、
(ひいいん。。。ひいいいい。。。)
背後に向けた恥ずかしすぎるこの格好・・・
あくまでも私は、何も気づいていない『楚々』とした女です。
(ひいん、もうだめ)
何食わぬ顔をして、
「じゃぼん」
もとのお湯の中に戻りました。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
興奮しすぎて、頭に血がのぼってしまっています。
(どきどきどき)
油断するわけにはいきませんでした。
とにかく、最後まで『何も知らない女』を貫き通さなければなりません。
(どきどきどき)
まだ、ふたりともそこにいました。
なかなか心臓のどきどきがおさまってくれません。
(顔を見ないで)
(恥ずかしすぎる)
何も気づいていないふりをして・・・
自然体を装っている私・・・
(見ないでってば)
(恥ずかしいよ)
そして・・・
最後にもういちど味わおうと思いました。
(めいっぱい自分の羞恥心を煽りながら)
(タオルで大胆にからだを拭こう)
そんなイメージを膨らませます。
Aさん・・・
(あなたじゃなくて残念だったね)
こんな『覗き男たち』でさえ、私のことを見放題なのに。
Nさんだって言ってくれてた・・・
『白くて細くて、おめめぱっちり』な、私・・・
(恥ずかしい)
(恥ずかしいよう。。。)
邪魔する者はどこにもいませんでした。
誰かに迷惑をかけているわけでもありません。
Nさん
新幹線を降りて、レンタカーに乗り換えました。
行き先は、例の野天温泉です。
今朝は日の出前から起きて、始発電車に乗ってきた私・・・
いつにも増して緊張していました。
今回ばかりは、これまでと勝手が違うからです。
自分で運転するレンタカーで温泉地へと向かう途中、○○県の〇〇市でNさんと待ち合わせをしていました。
その待ち合わせ場所が近づいてきています。
Nさんは、以前に私がここで協力者を求めたときにメールをくださった方です。
道すがら途中で合流するのにあたって、ちょうどいい地域にお住いの男性でした。
打ち合わせのメールを何度もやり取りしていく中で、いろいろと私の考える条件を満たしているように思えた人です。
でも、まだこの時点で完全に信用していたわけではありませんでした。
メールでのやりとりなんて、いくらでもうわべを取り繕うことができます。
それだけで人柄まで完全に見極めることは不可能でした。
待ち合わせ場所は、Nさんの住所からほど近い『道の駅』の駐車場です。
私は用意周到に安全策をとっていました。
あらかじめメールで写真も受け取っていましたので、私のほうは相手の顔を知っています。
そして、個人情報に関するようなこともある程度まで伝えてもらっていました。
一方、Nさんは・・・
メールアドレス以外には、私のことを何も知りません。
ナビによると、まもなくその『道の駅』に到着するはずでした。
待ち合わせ時間まで、まだ40分近く余裕があります。
(あれか)
駐車場に車を入れました。
とりあえず、コーヒーでも飲みながら待つことにしようと決めます。
建物の中に入ると、
(あ・・・)
そこにはもうNさんが来ていました。
待合所で、見るからに緊張した面持ちをしています。
(まだこんなに早いのに)
(もう来ちゃってるんだ)
雰囲気としては、ごくごく普通の男性でした。
教えてもらっていたとおりなら、年齢は57歳・・・
こうして見ているぶんには、すごく真面目そうな印象の人です。
(よかった)
(まずは、大丈夫そう)
どきどきしながら、そっと近づいていきました。
顔をあげたNさん・・・
「こんにちは、恭子です」
「Nさんですか?」
私のほうから、声をかけました。
目を丸くして、
「恭子さん、ですか?」
まるで幽霊でも見るみたいに、唖然と私をみつめています。
「初めまして」
こちらがびっくりするぐらいに感激してくれていました。
ずっと年上の男性なのに、
「本当に、こうしてご本人に会えるなんて」
こんなにも感動してもらって、不思議な感覚を味わっている自分がいます。
(私なんか)
(べつにたいした者じゃないのに)
挨拶もそこそこに、とりあえず車に移りました。
私が運転席、Nさんが助手席です。
エンジンをかける前に、やることをやっておかねばなりませんでした。
「早速ですが、免許いいですか?」
事前の打ち合わせの段階から、あらかじめいくつか約束してもらっていたことがあります。
すべて承知していただいたうえで、今日のお手伝いを引き受けてもらっていました。
Nさんの運転免許証を、私のスマホで写真に撮らせてもらいます。
私のことを100%信頼してもらっていることの証でした。
同時に、私にとっては保険のようなものです。
さらに、これはわざと『抜き打ち』のかたちにして・・・
「あと、ごめんなさい」
「念のため、いいですか?」
Nさんのスマホを預からせてもらいました。
私の知らないうちに撮られたり録音されたりということがないようにするためです。
同時に、突然の指示に対して相手がどう反応するのかを試させてもらっていました。
「はい、わかりました」
嫌な顔ひとつせず、ちゃんと私の言うことに従ってくれます。
「すみません」
「最後にお返ししますので」
お互いにまだ緊張した感じのまま、車をスタートさせました。
Nさんに対する印象は、決して悪くありません。
おしゃべりをしていくうちに、少しずつ打ち解けていくことができました。
ずっと私の大ファンだったとおっしゃってくださるNさんは・・・
私といっしょにドライブしながら、
「本物の恭子さんだ」
とにかくしきりに感激してくれています。
「本当にこんなに素敵な方だとは思ってなかったです」
「白くて細くて、おめめぱっちりで・・・」
「そうですか?・・・ありがとうございます」
わりといい雰囲気でした。
目的地までは、けっこう長いドライブです。
Nさんが私を信頼してくれているのはわかりますが、それでも私はまだ完全に心を許しているわけではありませんでした。
なにせ、さっき会ったばかりの人です。
私が、日常とは違う『もうひとりの自分』を持っているのと同じように・・・
表裏のない人間なんているはずがないからです。
ドライブしながら、話のタネは尽きませんでした。
過去に投稿した体験談の裏話など、Nさんは興味津々で耳を傾けてくれます。
私もいろいろなことに関する率直な感想を尋ねていました。
男性にしかわからない心理などを聞かせてもらって、けっこう勉強(?)になったりします。
「じつはね、実際にお会いするまで・・・」
「どんな人かと思っていたんです」
Nさんが正直に話してくれました。
「よかった、とても落ち着いた方で」
「夢を見てるみたいで、まだ信じられないですよ」
リップサービスも多分にあるのかもしれません。
私の機嫌を損ねないようにと、気を使ってくれている部分もあるのでしょう。
(普通でいいのに)
(なんだか申し訳ないな)
事前に打ち合わせたことについて、ひとつひとつ綿密に確認をしました。
当初から、あなたが私のはだかを見たりできるわけではないとお伝えはしてあります。
私は、心の中では・・・
今もなお、ずっとこの人に対するテストを続けていました。
これまでのところ、不審感を抱かざるを得ないような言動は見受けられません。
(だいじょうぶ)
おしゃべりをする時間はたっぷりありました。
会ったばかりのときのような、過度な緊張はなくなってきています。
Nさんも同じのようでした。
(この人なら大丈夫)
(信用できる)
ずっと山道をのぼるように国道を走っていきます。
キャンプ場の前を通過しました。
その先のとある場所から、わきにそれるような道へとハンドルを切ります。
林道をすすんでいきました。
野天温泉へ行く前に、ちょっと『沢』のほうに立ち寄るのです。
分岐の先の先の、そのまたさらに先・・・
ついには森の中で行き止まりになるその場所まで、ゆっくりと車を走らせていきます。
ちょっと広くなっているようなところにたどり着いて、車をとめました。
「着きました」
「降りましょう」
いっしょに森の細道を歩いていきながら、いろいろと案内してあげます。
「すごい・・・」
「本当に、読んだのとまったく同じだ」
Nさんが喜んでくれています。
誰もいない森の中で、ふたりっきりですが・・・
(だいじょうぶ)
この人の立ち振る舞いに、不自然な変化はありません。
「もう少し先です」
特に、相手の『目』の動きに注目していました。
にこにことハイキング気分で歩いていますが、周りに人の気配はありません。
私は警戒心をゆるめませんでした。
でも、そういう怪しい『気配のかけら』は、まったくこの人から出ていません。
(合格だ)
水の流れの音が聞こえてきました。
細道が開けて、河原に出ます。
この場所が、過去にも何度か私の体験談に出てきた『沢』でした。
「初めて来た気がしないです」
「すごいな、なんか本当にすごい」
少し上流側に向かうほうへと歩いていきます。
周囲を確かめました。
私たち以外に、人の姿はまったくありません。
「じゃあ、いいですか?」
私のほうから切り出しました。
約束していたこととはいえ、かなりNさんが緊張しています。
私の前で、すべて服を脱いでもらいました。
すごく恥ずかしそうにしている、全裸のNさん・・・
心を鬼にして、適当な大きさの岩の上に登ってもらいます。
そして『あること』をしてもらいました。
「ごめんね」
「いえ、約束でしたから」
Nさんの顔も入るように、私はその様子を自分のスマホで撮ります。
何枚も何枚も、写真に撮って・・・
そして、その場でクラウドに保存しました。
おそらく屈辱感でいっぱいのはず・・・
再び服を身につけながら、Nさんがうっすら涙ぐんでいます。
「ちゃんと、あとで消しますから」
免許証の写真とも合わせて、これも私にとっての保険でした。
もし万一、Nさんが私を襲うようなことがあれば・・・
でも、そんなことはないだろうと私自身がすでに確信を得ています。
「じゃあ戻りましょう」
「はい」
車をとめたところまで、いっしょに歩いて戻ります。
相当に、プライドが傷ついているはずでした。
無理して明るく振る舞おうとしているNさんに、いちおう尋ねてみます。
「帰りたくなったんじゃないですか?」
「やめてもいいですよ」
すがるような目を向けられました。
「行きます」
「お手伝いさせてください」
まるで吹っ切れたかのように、やる気になってくれています。
車をスタートさせました。
林道を、野天温泉方面へと走っていきます。
やがて見えてくる温泉旅館・・・
「ここが、あの・・・」
「おそばを食べたという」
車をとめて、いっしょに『お食事処』に入りました。
昼食をとりながら、車中と同様に打ち解けた雰囲気でおしゃべりをします。
Nさんが、私に対する思いを語ってくれました。
その内容はここには書きませんが・・・
自分よりはるかに若い私なんかに、ずっと焦がれてくれていたというこの人の気持ちをあらためて思い知らされます。
(この人、本当に)
(私の投稿のファンなんだ。。。)
食べ終わって、
「行きますか」
私がNさんのことをリードしていました。
「行きましょう」
こんなに年上のおじさんなのに、目をキラキラさせてくれています。
手伝えること自体が嬉しくて仕方ない、そんな表情でした。
車で、野天温泉の駐車場に向かう私たち・・・
「あそこですよ、ほら」
まるで、観光案内をしてあげているような気分でした。
喜んでくれているのがわかるので、こっちまで楽しくなってしまいます。
駐車場のいちばん奥の場所に車をとめました。
荷物を持って、森の歩道へと入っていきます。
「ああ、ここが・・・」
「本当だ・・・本当だ・・・」
朽ちた木の表示板に従って、歩道のわきの階段道を下っていきました。
崖に沿うようにカーブしていくと、眼下にいきなり野天風呂の景色が広がります。
「すごい・・・すごい・・・」
「読んだのと同じだ・・・」
階段道を下りきって、男湯スペースに降り立ちました。
私たち以外には誰もいません。
私と会ったときと同じぐらいに、またもNさんが感激してくれていました。
「ここが・・・すごい・・・」
「本当にここだ・・・」
そんなNさんの様子を見ていると・・・
私も、連れてきてあげた甲斐があるというものです。
「誰もいないみたいだから」
「今のうちに女湯の中も見てみますか?」
「はい!ぜひ!!」
ふたりで木戸を通って石垣をまわりこみました。
無人の女湯スペースを、Nさんに見学(?)させてあげます。
「わあ、すだれ!」
「でも、こっちはこんなに狭いんだ」
コンクリート部分に乗り出して、
「本当だ、すごいすごい」
過去の体験談の現場(?)を実際に目にして、テンションが上がりまくっているNさん・・・
「じゃあ、そろそろ」
男湯に戻って、最終的な打ち合わせをします。
だいたい1時間粘って、チャンスがないようなら諦めることにしていました。
そのときは・・・
さっきの『沢』に戻って、ふたりで別のことを狙ってみる予定になっています。
「じゃあ、だいたい階段道のあのあたりに現れたら」
「そうです、判断はお任せします」
「わかりました」
「そのタイミングで、咳き込む真似をしてください」
お願いしてあったのは、タイミングを伝えてもらうことと・・・
そして、ちょっとした役回り・・・
「恭子さん、どきどきしてますか?」
「うまくいくといいですね」
応援されて、
「じゃあ、お願いしますね」
ウインクしてみせると・・・
Nさんの表情にも、それなりに緊張感が漂いはじめます。
私ひとりで女湯スペースに戻りました。
はだかになってお湯につかります。
普通に温泉として考えても、私はここのお風呂が大好きです。
お湯を楽しみながら、ゆっくり時間をつぶしました。
(嬉しそうだったな)
Nさんの喜びようを見ていると、自分まで幸せな気持ちになります。
今ごろきっと、
(わくわくしてるんだろうな)
あの人も男湯の岩風呂につかって、いまかいまかと誰かが現れるのを待っているはずに違いありませんでした。
でも・・・
そう簡単にチャンスが訪れることはありません。
いちどだけ、男湯に誰かが現れたようでした。
Nさんからの合図はありません。
それは、あの人なりに『無理だ』と判断してくれたということでした。
(ごめんね、Nさん)
そのまま1時間が経とうとしています。
けっきょくチャンスが巡ってこないまま、タイムアップを迎えようとしていました。
(そりゃそうだ)
だって、ぜんぶ嘘なのですから。
私がNさんにお願いしてあったのは、かなり難易度の高いシチュエーションを要することでした。
たった1時間のあいだにすべての条件が揃うはずがないのです。
私のターゲットは・・・
最初から『Nさん』ひとりでした。
もとどおりに服を着て荷物を持った私は、木戸を抜けて男湯スペースに戻ります。
Nさんが、寂しそうにお湯につかっていました。
見るからに、
「残念です」
とても悔しがってくれています。
「しょうがないですよ」
「沢に戻りましょう」
Nさんにも服を着てもらって、ふたりで野天風呂をあとにしました。
再び車に乗りこんで、ゆっくり発進します。
「残念だったなあ」
「あっちには誰かいるといいな」
Nさんのテンションは下がっていませんでした。
明るくおしゃべりをしながら、相変わらずいい雰囲気のままです。
数分後・・・
森の中に車をとめた私たちは、さっきの沢に向かって細道を歩いていました。
(ごめんね、Nさん)
(私、本当は・・・)
河原に出ましたが、やはり誰の姿もありません。
私にはわかっていたことでした。
真夏でもなければ、そもそも滅多に人なんか来るような場所ではないのです。
(私、最初から・・・)
(本当は、お手伝いしてくれる人なんか求めてなかったの)
『まただめか』という感じで、Nさんが焦燥感を募らせてくれていました。
散歩しながら、
「誰もいないですねえ」
いっしょに上流側へと歩いていきます。
(ごめんね)
ずっと騙していたことに、すごい後ろめたさがありました。
いわゆる良心の呵責というやつです。
でも・・・
そういう罪悪感に苛まされることになるかもしれないというのは、自分でも最初からある程度は想像のついていたことでした。
だからこそ、私はあらかじめ自身の良心に対する言い訳を用意しておいたのです。
(私は、嘘はついていない)
(ミスリードさせただけ)
私が協力者を募集するレスを入れたとき、それを読んだ人の多くは思ったことでしょう。
恭子が『誰かに露出するときのお手伝いを探している』って。
このNさんも、そう思ったはずにちがいありませんでした。
私は、そんなことひとことも書いていません。
『イメージしていることがあって、それを実行するときのお手伝いを探したい』とだけ書いたのです。
もちろん、そんなことは言葉のあやにすぎませんでした。
でも、張本人である私の心のうちにおいて・・・
相手に対する罪悪感を打ち消すためには、その些細な違いはとても大きなことなのです。
(私は、騙したわけじゃない)
(相手が誤解してくれただけ)
言うまでもありませんが・・・
はだかの私を見てくれる相手を募集しているのではないとミスリードさせる書き方をしたのには、リスクを軽減させるという点でも大きな意味がありました。
わずらわしそうな条件をつけたのも、協力者にメリットがないことを強調したのも・・・
あわよくば的な下心を持った人を少しでも排除して、より安全そうな相手を厳選しやすく計らったまでのことです。
(それぐらいはしょうがない)
(リスクを被るのはこっちなんだから)
ただ、誤算もありました。
余計なことをする誰かさんに、いつのまにかそのレス自体を削除されてしまっていたことです。
そのことによって私が負うリスクが格段に跳ね上がってしまったのは事実でした。
実際、それ以降に送られてきたメールの中には・・・
あらかじめ私が出した条件を本当に理解しているのか疑わしいと思われるものも増えてしまっていたのです。
(ふざけやがって)
なんとなく見当はついていました。
私は、木を見て森を見ることのできない人が苦手です。
そういう人に限って、自分の見解が唯一無二の正解であるかのように・・・
(頼んでもないことを勝手にしてくる)
(おかげでどれだけリスクが高まったと思ってるんだよ)
私のそのレスに削除依頼をかけたであろう人間を、仮に『A』とでもしておきます。
実は、このNさんは『2人目』の候補でした。
いまここで、つらつらと恨みごとを書くつもりはないですけど・・・
この前の週末には、旅行もかねて四国の地を踏んでいた『私』です。
そのときは、けっきょく待ち合わせの寸前になって・・・
『1人目』になるはずだった相手に、中止を宣告せざるを得ない状況になりました。
直前のメールのやりとりで、私が大前提としていたことが頭に入っていない男性だと直感したからです。
(危ない橋を渡らせやがって)
(せっかく愛媛まで行ったっていうのに)
それもこれも、すべては相手選びが難しくなってしまったことの結果でした。
私の中では『A』が余計なことをしてくれたせいに他なりません。
でも・・・いまNさんを目の前にしながら、私は完全に確信していました。
(この人なら大丈夫)
(決して私に手を出したりはしない)
イメージを実行に移せるだけのシチュエーションは完璧に整っています。
(『3人目』なんて、もういない)
(この人がラストチャンス・・・)
Nさんが懸命になってくれていました。
ターゲットになりそうな人が現れないかと、沢の周囲に何度も目を走らせてくれています。
その顔も、次第に諦めの表情に変わってきていました。
明らかに落胆の色が浮かんでいます。
(私のターゲットは、ね・・・)
(あなたなんだよ)
後ろめたい気持ちが消えることはありませんでした。
こんなにも卑怯な私のことを、このおじさんは信用しきってくれているのです。
(騙したようなものだけど)
(きっとこの人は喜んでくれる)
「Nさん、ごめんなさい」
「今日は、だめみたいです」
「1日付き合っていただいたのに、ごめんなさい」
Nさんが恐縮していました。
とんでもないという顔で、
「そんなそんな、すごく楽しかったです」
表面上はこんな結果になってしまっているのにもかかわらず・・・
私を落ち込ませまいと、にこにこしてくれています。
(私は・・・)
(自分のファンだと言ってくれる人の前で、いちどやってみたかったの)
向こうの岩のほうを指して、
「さっきNさん・・・」
わざと意地悪そうな顔で言ってみせました。
「あそこですごいことしてましたね」
思い出しているのか、
「え、ええ・・まあ」
一瞬にして、相手の目が泳いでいます。
(どきどきどき)
私は、あくまでも申し訳なさそうな表情をしてみせていました。
持ってきていたトートバッグに手を突っ込みます。
コンパクトデジカメを取り出して、
「お詫びです」
ぽん、と手渡しました。
「え?」
Nさんが、意味がわからず『きょとん』としています。
「顔の写ってないやつだけ」
「あとで、メールで送ってあげますから」
呆気にとられている相手の前で、着ていたパーカーを捲り上げました。
「えっ!?・・・えっ!?」
恥ずかしそうにもじもじしながら、
「撮ってもいいですよ」
ジーンズもするっと下ろしてみせます。
「きょう1日、」
「無駄にさせてしまったお詫びです」
(どきどきどき)
靴下とスニーカーを脱いで、ブラとパンツだけの下着姿になりました。
「そのかわり」
「絶対に、さわったりしたらだめですよ」
うんうんと頷きながらも、Nさんがロボットのように固まってしまっています。
私のブラに目をやったまま、
「本当に?本当に?」
信じられないという顔を向けてくれていました。
この人は、私なんかに『ファン』だと言ってくれてる人・・・
ずっと私を応援してくれてた人・・・
その男性の目の前で、ブラを外します。
おっぱいを出して、
(ああん)
パンツにも手をかけました。
もういちど周囲に目をやって、誰もいないことを確かめます。
申し訳なさそうに、
「恥ずかしい。。。」
最後の1枚をするするっと脱ぎ捨てました。
決して大袈裟に書いているつもりはありません。
死ぬほど緊張しました。
男性の前で、私は一糸まとわぬ姿です。
(どきどきどき)
Nさんが生唾をのんでいるのがわかりました。
それこそ、固まってしまったような顔で・・・じっと私のからだを眺めています。
(どきどきどき)
本当はいろいろ考えてきていたのに、私は動けませんでした。
かろうじて、恥じらうようにニコッとしてみせるのがやっとです。
(ひいん、恥ずかしい)
(隠したいよ)
前から後ろから、
「ピッ、カシャッ」
何枚も写真を撮られていました。
足がすくんだまま、ただ突っ立っていることしかできない私・・・
「恥ずかしいよ」
いい歳したNさんが、
「すごい・・・すごい・・・」
シャッターを切りながら感極まった顔をしてくれています。
ひざが震えそうでした。
勇気を出して、思い描いていたシナリオを頭の中に反芻します。
「実際に会ってみて・・・」
「Nさん、私のことどう思いました?」
「失礼ですけど、お会いする前は・・・」
「本当にこんなにキレイな人だとは思ってなかったですよ」
私と目を合わせたまま鼻の穴を膨らませてくれていました。
そんなNさんの前で、
「じゃあ・・・」
「これで許してくださいね」
おもむろに素足をスニーカーに突っ込みます。
(どきどきどき)
裸のまま、すぐ近くの大きな岩の上に這い登ろうとしました。
そのことに気づいたNさんが、
「えっ、えっ、えっ」
呆気にとられた表情になっています。
躊躇いを振り払いながら、岩肌に両手をついていました。
(どきどきどき)
足の置き場を確かめながら慎重によじ登ります。
男の人にお尻を向けたまま、恥部がまる見えの状態でした。
(ひいいいん)
こんな私みたいな女でも、この人にとっては・・・
きっと、特別な『あの恭子さん』なのです。
真後ろから、かぶりつくように見られていました。
泣きそうに声を震わせてみせます。
「恥ずかしいよ」
やっとこ岩の上に立ちあがって、相手のほうを振り向きました。
目線を下に向けると・・・
自分の足もとぐらいの高さにNさんの顔があります。
すごい『圧』を感じて、
(無理・・・)
瞬時に『できない』と悟っていました。
それでも・・・
「ぼとっ、ぼとっ」
はいていたスニーカーを、下に脱ぎ落します。
(ああ・・・)
生まれたままの姿で、岩のてっぺんに立っている私がいます。
自分の胸を鷲づかみにしてみせました。
大自然の中、
(ああ、私・・・)
すっぽんぽんで、ここに立っている私・・・
脚幅をやや開き気味にして、仁王立ちになります。
少し乱暴におっぱいを揉みしだきました。
なんとも心地よい気分です。
「ピッ、カシャッ」
写真を撮られまくっていました。
あらかじめ考えてきていたとおりに、立ったままオナニーをはじめてみせます。
でも・・・
指先でいくら乳首を弄ろうと、快感の入口を誘うことができませんでした。
(やっぱり、だめだ)
(本当にはできないや)
シチュエーションに理性がついていけず、気持ちが委縮してしまっています。
かたちだけ、
「あっ・・ああ・・・」
喘ぎそうな吐息を漏らしていました。
自分の足もとには、Nさんの顔・・・
下から仰ぎ見るような感じで、オナニーしている私の股間をみつめています。
(ひいいん)
見上げてくる男の視線に、自尊心を炙られていました。
ぷっくり膨らんだ大切な割れ目を、ものすごい真顔で男性に凝視されています。
「イヤぁ」
「・・・恥ずかしいよう」
演技ではなく・・・
いつしか涙がぼろぼろ流れて、本当に泣きだしてしまっている『私』がいます。
そんな自分自身に、自虐的な興奮が燃え上がっていました。
「ごめんなさい」
「わたし、もう無理」
消え入りそうな声で、
「は、は・・恥ずかしいよ・・・」
羞恥でいっぱいになった表情を向けてみせます。
そこにあるのは、オールヌードの私を見上げているNさんの興奮顔・・・
耐えられなくなったふりをしました。
もう降りようとしてみせて、再び後ろ向きになります。
腰を落として両手を岩肌につけました。
片脚を下に伸ばしながら、足の置き場を探ります。
「ピッ、カシャッ」
(ああん)
(いまどこ撮ってるの?)
「ピッ、カシャッ」
喜ばせてあげたいという思いだけでした。
途中で後ろを振り向きます。
泣きべそをかきました。
「うっうっ、もうイヤ」
「もうおろして」
子どものようにNさんに両腕を伸ばして・・・
抱きかかえてもらうみたいにして、岩から下ろしてもらいます。
(ひいいん)
(おっぱいが当たってる)
地面に足がつきました。
なおも『ぎゅっ』としがみついたまま離れない私・・・
棒立ちの相手の首もとに顔をうずめて、
「ひっく・・・ひっく・・・」
べそをかくように本気で泣きじゃくってみせます。
おそらくは、全裸の私に抱きつかれたまま夢見心地になっているおじさん・・・
(よかったね)
(思い出になったでしょ?)
そして、
「す、す・・・すみません」
急にはっと我にかえったかのように、Nさんから離れました。
(どうだった?)
(私が、本物の『恭子』だよ)
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかります。
真顔になって恥じらう姿を、まじまじと見てもらいました。
焦っているふりをしながら、
「本当に、ごめんなさい」
あたふたした感じでパンツをはきます。
それが、Nさんとのすべてでした。
帰りは、約束してあったとおりに・・・
そこから最寄りの、〇〇線〇〇駅までNさんを送りました。
車で30分ぐらいでしょうか。
そんなに遠くはありません。
その駅までのドライブ中も、Nさんは最後まで紳士的に振る舞ってくれていました。
おしゃべりが弾むように、すごく気を使ってくれているのがわかります。
途中で尋ねられました。
今日のことも、体験談にして投稿するんですか?・・・と。
そのつもりはありませんでした。
いわゆる、いつものパターンとはちょっと違ったからです。
「けっきょく空振りでしたから」
「書きようがないですよ」
あくまでも・・・
私は、野天風呂でのことが目的だったかのように演技を貫いていました。
でもNさんは、
『失敗談として、ぜひ書いてみてください』
『恭子さんの体験談に、もしお手伝いの自分が出てきたらわくわくです』
そう言って、目を輝かせてくれています。
「実際に読んだら、幻滅するかもしれないですよ」
何度もそのように念を押しました。
それでも、ぜひぜひと熱望されます。
2つ条件を出しました。
その体験談を投稿した際には、Nさん自身は絶対にレスを入れてこないこと。
さっき撮った写真は、あとで顔の入ってないものだけ送ってあげるけど・・・
顔がないとはいえ、決してどこにも誰にも公開しないこと。
駅に着いて、Nさんを降ろしました。
名残惜しそうに、何度も手を振ってくれています。
最後まで、自分がターゲットになっていたとも知らず・・・
そして、私の本当の名前すら知ることなく・・・
そのNさんに見送られながら、すぐに発進しました。
余韻がないわけではありません。
清々しい気持ちで、
(さようなら)
もと来た渓谷方面へと車を向ける私でした。
行き先は、例の野天温泉です。
今朝は日の出前から起きて、始発電車に乗ってきた私・・・
いつにも増して緊張していました。
今回ばかりは、これまでと勝手が違うからです。
自分で運転するレンタカーで温泉地へと向かう途中、○○県の〇〇市でNさんと待ち合わせをしていました。
その待ち合わせ場所が近づいてきています。
Nさんは、以前に私がここで協力者を求めたときにメールをくださった方です。
道すがら途中で合流するのにあたって、ちょうどいい地域にお住いの男性でした。
打ち合わせのメールを何度もやり取りしていく中で、いろいろと私の考える条件を満たしているように思えた人です。
でも、まだこの時点で完全に信用していたわけではありませんでした。
メールでのやりとりなんて、いくらでもうわべを取り繕うことができます。
それだけで人柄まで完全に見極めることは不可能でした。
待ち合わせ場所は、Nさんの住所からほど近い『道の駅』の駐車場です。
私は用意周到に安全策をとっていました。
あらかじめメールで写真も受け取っていましたので、私のほうは相手の顔を知っています。
そして、個人情報に関するようなこともある程度まで伝えてもらっていました。
一方、Nさんは・・・
メールアドレス以外には、私のことを何も知りません。
ナビによると、まもなくその『道の駅』に到着するはずでした。
待ち合わせ時間まで、まだ40分近く余裕があります。
(あれか)
駐車場に車を入れました。
とりあえず、コーヒーでも飲みながら待つことにしようと決めます。
建物の中に入ると、
(あ・・・)
そこにはもうNさんが来ていました。
待合所で、見るからに緊張した面持ちをしています。
(まだこんなに早いのに)
(もう来ちゃってるんだ)
雰囲気としては、ごくごく普通の男性でした。
教えてもらっていたとおりなら、年齢は57歳・・・
こうして見ているぶんには、すごく真面目そうな印象の人です。
(よかった)
(まずは、大丈夫そう)
どきどきしながら、そっと近づいていきました。
顔をあげたNさん・・・
「こんにちは、恭子です」
「Nさんですか?」
私のほうから、声をかけました。
目を丸くして、
「恭子さん、ですか?」
まるで幽霊でも見るみたいに、唖然と私をみつめています。
「初めまして」
こちらがびっくりするぐらいに感激してくれていました。
ずっと年上の男性なのに、
「本当に、こうしてご本人に会えるなんて」
こんなにも感動してもらって、不思議な感覚を味わっている自分がいます。
(私なんか)
(べつにたいした者じゃないのに)
挨拶もそこそこに、とりあえず車に移りました。
私が運転席、Nさんが助手席です。
エンジンをかける前に、やることをやっておかねばなりませんでした。
「早速ですが、免許いいですか?」
事前の打ち合わせの段階から、あらかじめいくつか約束してもらっていたことがあります。
すべて承知していただいたうえで、今日のお手伝いを引き受けてもらっていました。
Nさんの運転免許証を、私のスマホで写真に撮らせてもらいます。
私のことを100%信頼してもらっていることの証でした。
同時に、私にとっては保険のようなものです。
さらに、これはわざと『抜き打ち』のかたちにして・・・
「あと、ごめんなさい」
「念のため、いいですか?」
Nさんのスマホを預からせてもらいました。
私の知らないうちに撮られたり録音されたりということがないようにするためです。
同時に、突然の指示に対して相手がどう反応するのかを試させてもらっていました。
「はい、わかりました」
嫌な顔ひとつせず、ちゃんと私の言うことに従ってくれます。
「すみません」
「最後にお返ししますので」
お互いにまだ緊張した感じのまま、車をスタートさせました。
Nさんに対する印象は、決して悪くありません。
おしゃべりをしていくうちに、少しずつ打ち解けていくことができました。
ずっと私の大ファンだったとおっしゃってくださるNさんは・・・
私といっしょにドライブしながら、
「本物の恭子さんだ」
とにかくしきりに感激してくれています。
「本当にこんなに素敵な方だとは思ってなかったです」
「白くて細くて、おめめぱっちりで・・・」
「そうですか?・・・ありがとうございます」
わりといい雰囲気でした。
目的地までは、けっこう長いドライブです。
Nさんが私を信頼してくれているのはわかりますが、それでも私はまだ完全に心を許しているわけではありませんでした。
なにせ、さっき会ったばかりの人です。
私が、日常とは違う『もうひとりの自分』を持っているのと同じように・・・
表裏のない人間なんているはずがないからです。
ドライブしながら、話のタネは尽きませんでした。
過去に投稿した体験談の裏話など、Nさんは興味津々で耳を傾けてくれます。
私もいろいろなことに関する率直な感想を尋ねていました。
男性にしかわからない心理などを聞かせてもらって、けっこう勉強(?)になったりします。
「じつはね、実際にお会いするまで・・・」
「どんな人かと思っていたんです」
Nさんが正直に話してくれました。
「よかった、とても落ち着いた方で」
「夢を見てるみたいで、まだ信じられないですよ」
リップサービスも多分にあるのかもしれません。
私の機嫌を損ねないようにと、気を使ってくれている部分もあるのでしょう。
(普通でいいのに)
(なんだか申し訳ないな)
事前に打ち合わせたことについて、ひとつひとつ綿密に確認をしました。
当初から、あなたが私のはだかを見たりできるわけではないとお伝えはしてあります。
私は、心の中では・・・
今もなお、ずっとこの人に対するテストを続けていました。
これまでのところ、不審感を抱かざるを得ないような言動は見受けられません。
(だいじょうぶ)
おしゃべりをする時間はたっぷりありました。
会ったばかりのときのような、過度な緊張はなくなってきています。
Nさんも同じのようでした。
(この人なら大丈夫)
(信用できる)
ずっと山道をのぼるように国道を走っていきます。
キャンプ場の前を通過しました。
その先のとある場所から、わきにそれるような道へとハンドルを切ります。
林道をすすんでいきました。
野天温泉へ行く前に、ちょっと『沢』のほうに立ち寄るのです。
分岐の先の先の、そのまたさらに先・・・
ついには森の中で行き止まりになるその場所まで、ゆっくりと車を走らせていきます。
ちょっと広くなっているようなところにたどり着いて、車をとめました。
「着きました」
「降りましょう」
いっしょに森の細道を歩いていきながら、いろいろと案内してあげます。
「すごい・・・」
「本当に、読んだのとまったく同じだ」
Nさんが喜んでくれています。
誰もいない森の中で、ふたりっきりですが・・・
(だいじょうぶ)
この人の立ち振る舞いに、不自然な変化はありません。
「もう少し先です」
特に、相手の『目』の動きに注目していました。
にこにことハイキング気分で歩いていますが、周りに人の気配はありません。
私は警戒心をゆるめませんでした。
でも、そういう怪しい『気配のかけら』は、まったくこの人から出ていません。
(合格だ)
水の流れの音が聞こえてきました。
細道が開けて、河原に出ます。
この場所が、過去にも何度か私の体験談に出てきた『沢』でした。
「初めて来た気がしないです」
「すごいな、なんか本当にすごい」
少し上流側に向かうほうへと歩いていきます。
周囲を確かめました。
私たち以外に、人の姿はまったくありません。
「じゃあ、いいですか?」
私のほうから切り出しました。
約束していたこととはいえ、かなりNさんが緊張しています。
私の前で、すべて服を脱いでもらいました。
すごく恥ずかしそうにしている、全裸のNさん・・・
心を鬼にして、適当な大きさの岩の上に登ってもらいます。
そして『あること』をしてもらいました。
「ごめんね」
「いえ、約束でしたから」
Nさんの顔も入るように、私はその様子を自分のスマホで撮ります。
何枚も何枚も、写真に撮って・・・
そして、その場でクラウドに保存しました。
おそらく屈辱感でいっぱいのはず・・・
再び服を身につけながら、Nさんがうっすら涙ぐんでいます。
「ちゃんと、あとで消しますから」
免許証の写真とも合わせて、これも私にとっての保険でした。
もし万一、Nさんが私を襲うようなことがあれば・・・
でも、そんなことはないだろうと私自身がすでに確信を得ています。
「じゃあ戻りましょう」
「はい」
車をとめたところまで、いっしょに歩いて戻ります。
相当に、プライドが傷ついているはずでした。
無理して明るく振る舞おうとしているNさんに、いちおう尋ねてみます。
「帰りたくなったんじゃないですか?」
「やめてもいいですよ」
すがるような目を向けられました。
「行きます」
「お手伝いさせてください」
まるで吹っ切れたかのように、やる気になってくれています。
車をスタートさせました。
林道を、野天温泉方面へと走っていきます。
やがて見えてくる温泉旅館・・・
「ここが、あの・・・」
「おそばを食べたという」
車をとめて、いっしょに『お食事処』に入りました。
昼食をとりながら、車中と同様に打ち解けた雰囲気でおしゃべりをします。
Nさんが、私に対する思いを語ってくれました。
その内容はここには書きませんが・・・
自分よりはるかに若い私なんかに、ずっと焦がれてくれていたというこの人の気持ちをあらためて思い知らされます。
(この人、本当に)
(私の投稿のファンなんだ。。。)
食べ終わって、
「行きますか」
私がNさんのことをリードしていました。
「行きましょう」
こんなに年上のおじさんなのに、目をキラキラさせてくれています。
手伝えること自体が嬉しくて仕方ない、そんな表情でした。
車で、野天温泉の駐車場に向かう私たち・・・
「あそこですよ、ほら」
まるで、観光案内をしてあげているような気分でした。
喜んでくれているのがわかるので、こっちまで楽しくなってしまいます。
駐車場のいちばん奥の場所に車をとめました。
荷物を持って、森の歩道へと入っていきます。
「ああ、ここが・・・」
「本当だ・・・本当だ・・・」
朽ちた木の表示板に従って、歩道のわきの階段道を下っていきました。
崖に沿うようにカーブしていくと、眼下にいきなり野天風呂の景色が広がります。
「すごい・・・すごい・・・」
「読んだのと同じだ・・・」
階段道を下りきって、男湯スペースに降り立ちました。
私たち以外には誰もいません。
私と会ったときと同じぐらいに、またもNさんが感激してくれていました。
「ここが・・・すごい・・・」
「本当にここだ・・・」
そんなNさんの様子を見ていると・・・
私も、連れてきてあげた甲斐があるというものです。
「誰もいないみたいだから」
「今のうちに女湯の中も見てみますか?」
「はい!ぜひ!!」
ふたりで木戸を通って石垣をまわりこみました。
無人の女湯スペースを、Nさんに見学(?)させてあげます。
「わあ、すだれ!」
「でも、こっちはこんなに狭いんだ」
コンクリート部分に乗り出して、
「本当だ、すごいすごい」
過去の体験談の現場(?)を実際に目にして、テンションが上がりまくっているNさん・・・
「じゃあ、そろそろ」
男湯に戻って、最終的な打ち合わせをします。
だいたい1時間粘って、チャンスがないようなら諦めることにしていました。
そのときは・・・
さっきの『沢』に戻って、ふたりで別のことを狙ってみる予定になっています。
「じゃあ、だいたい階段道のあのあたりに現れたら」
「そうです、判断はお任せします」
「わかりました」
「そのタイミングで、咳き込む真似をしてください」
お願いしてあったのは、タイミングを伝えてもらうことと・・・
そして、ちょっとした役回り・・・
「恭子さん、どきどきしてますか?」
「うまくいくといいですね」
応援されて、
「じゃあ、お願いしますね」
ウインクしてみせると・・・
Nさんの表情にも、それなりに緊張感が漂いはじめます。
私ひとりで女湯スペースに戻りました。
はだかになってお湯につかります。
普通に温泉として考えても、私はここのお風呂が大好きです。
お湯を楽しみながら、ゆっくり時間をつぶしました。
(嬉しそうだったな)
Nさんの喜びようを見ていると、自分まで幸せな気持ちになります。
今ごろきっと、
(わくわくしてるんだろうな)
あの人も男湯の岩風呂につかって、いまかいまかと誰かが現れるのを待っているはずに違いありませんでした。
でも・・・
そう簡単にチャンスが訪れることはありません。
いちどだけ、男湯に誰かが現れたようでした。
Nさんからの合図はありません。
それは、あの人なりに『無理だ』と判断してくれたということでした。
(ごめんね、Nさん)
そのまま1時間が経とうとしています。
けっきょくチャンスが巡ってこないまま、タイムアップを迎えようとしていました。
(そりゃそうだ)
だって、ぜんぶ嘘なのですから。
私がNさんにお願いしてあったのは、かなり難易度の高いシチュエーションを要することでした。
たった1時間のあいだにすべての条件が揃うはずがないのです。
私のターゲットは・・・
最初から『Nさん』ひとりでした。
もとどおりに服を着て荷物を持った私は、木戸を抜けて男湯スペースに戻ります。
Nさんが、寂しそうにお湯につかっていました。
見るからに、
「残念です」
とても悔しがってくれています。
「しょうがないですよ」
「沢に戻りましょう」
Nさんにも服を着てもらって、ふたりで野天風呂をあとにしました。
再び車に乗りこんで、ゆっくり発進します。
「残念だったなあ」
「あっちには誰かいるといいな」
Nさんのテンションは下がっていませんでした。
明るくおしゃべりをしながら、相変わらずいい雰囲気のままです。
数分後・・・
森の中に車をとめた私たちは、さっきの沢に向かって細道を歩いていました。
(ごめんね、Nさん)
(私、本当は・・・)
河原に出ましたが、やはり誰の姿もありません。
私にはわかっていたことでした。
真夏でもなければ、そもそも滅多に人なんか来るような場所ではないのです。
(私、最初から・・・)
(本当は、お手伝いしてくれる人なんか求めてなかったの)
『まただめか』という感じで、Nさんが焦燥感を募らせてくれていました。
散歩しながら、
「誰もいないですねえ」
いっしょに上流側へと歩いていきます。
(ごめんね)
ずっと騙していたことに、すごい後ろめたさがありました。
いわゆる良心の呵責というやつです。
でも・・・
そういう罪悪感に苛まされることになるかもしれないというのは、自分でも最初からある程度は想像のついていたことでした。
だからこそ、私はあらかじめ自身の良心に対する言い訳を用意しておいたのです。
(私は、嘘はついていない)
(ミスリードさせただけ)
私が協力者を募集するレスを入れたとき、それを読んだ人の多くは思ったことでしょう。
恭子が『誰かに露出するときのお手伝いを探している』って。
このNさんも、そう思ったはずにちがいありませんでした。
私は、そんなことひとことも書いていません。
『イメージしていることがあって、それを実行するときのお手伝いを探したい』とだけ書いたのです。
もちろん、そんなことは言葉のあやにすぎませんでした。
でも、張本人である私の心のうちにおいて・・・
相手に対する罪悪感を打ち消すためには、その些細な違いはとても大きなことなのです。
(私は、騙したわけじゃない)
(相手が誤解してくれただけ)
言うまでもありませんが・・・
はだかの私を見てくれる相手を募集しているのではないとミスリードさせる書き方をしたのには、リスクを軽減させるという点でも大きな意味がありました。
わずらわしそうな条件をつけたのも、協力者にメリットがないことを強調したのも・・・
あわよくば的な下心を持った人を少しでも排除して、より安全そうな相手を厳選しやすく計らったまでのことです。
(それぐらいはしょうがない)
(リスクを被るのはこっちなんだから)
ただ、誤算もありました。
余計なことをする誰かさんに、いつのまにかそのレス自体を削除されてしまっていたことです。
そのことによって私が負うリスクが格段に跳ね上がってしまったのは事実でした。
実際、それ以降に送られてきたメールの中には・・・
あらかじめ私が出した条件を本当に理解しているのか疑わしいと思われるものも増えてしまっていたのです。
(ふざけやがって)
なんとなく見当はついていました。
私は、木を見て森を見ることのできない人が苦手です。
そういう人に限って、自分の見解が唯一無二の正解であるかのように・・・
(頼んでもないことを勝手にしてくる)
(おかげでどれだけリスクが高まったと思ってるんだよ)
私のそのレスに削除依頼をかけたであろう人間を、仮に『A』とでもしておきます。
実は、このNさんは『2人目』の候補でした。
いまここで、つらつらと恨みごとを書くつもりはないですけど・・・
この前の週末には、旅行もかねて四国の地を踏んでいた『私』です。
そのときは、けっきょく待ち合わせの寸前になって・・・
『1人目』になるはずだった相手に、中止を宣告せざるを得ない状況になりました。
直前のメールのやりとりで、私が大前提としていたことが頭に入っていない男性だと直感したからです。
(危ない橋を渡らせやがって)
(せっかく愛媛まで行ったっていうのに)
それもこれも、すべては相手選びが難しくなってしまったことの結果でした。
私の中では『A』が余計なことをしてくれたせいに他なりません。
でも・・・いまNさんを目の前にしながら、私は完全に確信していました。
(この人なら大丈夫)
(決して私に手を出したりはしない)
イメージを実行に移せるだけのシチュエーションは完璧に整っています。
(『3人目』なんて、もういない)
(この人がラストチャンス・・・)
Nさんが懸命になってくれていました。
ターゲットになりそうな人が現れないかと、沢の周囲に何度も目を走らせてくれています。
その顔も、次第に諦めの表情に変わってきていました。
明らかに落胆の色が浮かんでいます。
(私のターゲットは、ね・・・)
(あなたなんだよ)
後ろめたい気持ちが消えることはありませんでした。
こんなにも卑怯な私のことを、このおじさんは信用しきってくれているのです。
(騙したようなものだけど)
(きっとこの人は喜んでくれる)
「Nさん、ごめんなさい」
「今日は、だめみたいです」
「1日付き合っていただいたのに、ごめんなさい」
Nさんが恐縮していました。
とんでもないという顔で、
「そんなそんな、すごく楽しかったです」
表面上はこんな結果になってしまっているのにもかかわらず・・・
私を落ち込ませまいと、にこにこしてくれています。
(私は・・・)
(自分のファンだと言ってくれる人の前で、いちどやってみたかったの)
向こうの岩のほうを指して、
「さっきNさん・・・」
わざと意地悪そうな顔で言ってみせました。
「あそこですごいことしてましたね」
思い出しているのか、
「え、ええ・・まあ」
一瞬にして、相手の目が泳いでいます。
(どきどきどき)
私は、あくまでも申し訳なさそうな表情をしてみせていました。
持ってきていたトートバッグに手を突っ込みます。
コンパクトデジカメを取り出して、
「お詫びです」
ぽん、と手渡しました。
「え?」
Nさんが、意味がわからず『きょとん』としています。
「顔の写ってないやつだけ」
「あとで、メールで送ってあげますから」
呆気にとられている相手の前で、着ていたパーカーを捲り上げました。
「えっ!?・・・えっ!?」
恥ずかしそうにもじもじしながら、
「撮ってもいいですよ」
ジーンズもするっと下ろしてみせます。
「きょう1日、」
「無駄にさせてしまったお詫びです」
(どきどきどき)
靴下とスニーカーを脱いで、ブラとパンツだけの下着姿になりました。
「そのかわり」
「絶対に、さわったりしたらだめですよ」
うんうんと頷きながらも、Nさんがロボットのように固まってしまっています。
私のブラに目をやったまま、
「本当に?本当に?」
信じられないという顔を向けてくれていました。
この人は、私なんかに『ファン』だと言ってくれてる人・・・
ずっと私を応援してくれてた人・・・
その男性の目の前で、ブラを外します。
おっぱいを出して、
(ああん)
パンツにも手をかけました。
もういちど周囲に目をやって、誰もいないことを確かめます。
申し訳なさそうに、
「恥ずかしい。。。」
最後の1枚をするするっと脱ぎ捨てました。
決して大袈裟に書いているつもりはありません。
死ぬほど緊張しました。
男性の前で、私は一糸まとわぬ姿です。
(どきどきどき)
Nさんが生唾をのんでいるのがわかりました。
それこそ、固まってしまったような顔で・・・じっと私のからだを眺めています。
(どきどきどき)
本当はいろいろ考えてきていたのに、私は動けませんでした。
かろうじて、恥じらうようにニコッとしてみせるのがやっとです。
(ひいん、恥ずかしい)
(隠したいよ)
前から後ろから、
「ピッ、カシャッ」
何枚も写真を撮られていました。
足がすくんだまま、ただ突っ立っていることしかできない私・・・
「恥ずかしいよ」
いい歳したNさんが、
「すごい・・・すごい・・・」
シャッターを切りながら感極まった顔をしてくれています。
ひざが震えそうでした。
勇気を出して、思い描いていたシナリオを頭の中に反芻します。
「実際に会ってみて・・・」
「Nさん、私のことどう思いました?」
「失礼ですけど、お会いする前は・・・」
「本当にこんなにキレイな人だとは思ってなかったですよ」
私と目を合わせたまま鼻の穴を膨らませてくれていました。
そんなNさんの前で、
「じゃあ・・・」
「これで許してくださいね」
おもむろに素足をスニーカーに突っ込みます。
(どきどきどき)
裸のまま、すぐ近くの大きな岩の上に這い登ろうとしました。
そのことに気づいたNさんが、
「えっ、えっ、えっ」
呆気にとられた表情になっています。
躊躇いを振り払いながら、岩肌に両手をついていました。
(どきどきどき)
足の置き場を確かめながら慎重によじ登ります。
男の人にお尻を向けたまま、恥部がまる見えの状態でした。
(ひいいいん)
こんな私みたいな女でも、この人にとっては・・・
きっと、特別な『あの恭子さん』なのです。
真後ろから、かぶりつくように見られていました。
泣きそうに声を震わせてみせます。
「恥ずかしいよ」
やっとこ岩の上に立ちあがって、相手のほうを振り向きました。
目線を下に向けると・・・
自分の足もとぐらいの高さにNさんの顔があります。
すごい『圧』を感じて、
(無理・・・)
瞬時に『できない』と悟っていました。
それでも・・・
「ぼとっ、ぼとっ」
はいていたスニーカーを、下に脱ぎ落します。
(ああ・・・)
生まれたままの姿で、岩のてっぺんに立っている私がいます。
自分の胸を鷲づかみにしてみせました。
大自然の中、
(ああ、私・・・)
すっぽんぽんで、ここに立っている私・・・
脚幅をやや開き気味にして、仁王立ちになります。
少し乱暴におっぱいを揉みしだきました。
なんとも心地よい気分です。
「ピッ、カシャッ」
写真を撮られまくっていました。
あらかじめ考えてきていたとおりに、立ったままオナニーをはじめてみせます。
でも・・・
指先でいくら乳首を弄ろうと、快感の入口を誘うことができませんでした。
(やっぱり、だめだ)
(本当にはできないや)
シチュエーションに理性がついていけず、気持ちが委縮してしまっています。
かたちだけ、
「あっ・・ああ・・・」
喘ぎそうな吐息を漏らしていました。
自分の足もとには、Nさんの顔・・・
下から仰ぎ見るような感じで、オナニーしている私の股間をみつめています。
(ひいいん)
見上げてくる男の視線に、自尊心を炙られていました。
ぷっくり膨らんだ大切な割れ目を、ものすごい真顔で男性に凝視されています。
「イヤぁ」
「・・・恥ずかしいよう」
演技ではなく・・・
いつしか涙がぼろぼろ流れて、本当に泣きだしてしまっている『私』がいます。
そんな自分自身に、自虐的な興奮が燃え上がっていました。
「ごめんなさい」
「わたし、もう無理」
消え入りそうな声で、
「は、は・・恥ずかしいよ・・・」
羞恥でいっぱいになった表情を向けてみせます。
そこにあるのは、オールヌードの私を見上げているNさんの興奮顔・・・
耐えられなくなったふりをしました。
もう降りようとしてみせて、再び後ろ向きになります。
腰を落として両手を岩肌につけました。
片脚を下に伸ばしながら、足の置き場を探ります。
「ピッ、カシャッ」
(ああん)
(いまどこ撮ってるの?)
「ピッ、カシャッ」
喜ばせてあげたいという思いだけでした。
途中で後ろを振り向きます。
泣きべそをかきました。
「うっうっ、もうイヤ」
「もうおろして」
子どものようにNさんに両腕を伸ばして・・・
抱きかかえてもらうみたいにして、岩から下ろしてもらいます。
(ひいいん)
(おっぱいが当たってる)
地面に足がつきました。
なおも『ぎゅっ』としがみついたまま離れない私・・・
棒立ちの相手の首もとに顔をうずめて、
「ひっく・・・ひっく・・・」
べそをかくように本気で泣きじゃくってみせます。
おそらくは、全裸の私に抱きつかれたまま夢見心地になっているおじさん・・・
(よかったね)
(思い出になったでしょ?)
そして、
「す、す・・・すみません」
急にはっと我にかえったかのように、Nさんから離れました。
(どうだった?)
(私が、本物の『恭子』だよ)
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかります。
真顔になって恥じらう姿を、まじまじと見てもらいました。
焦っているふりをしながら、
「本当に、ごめんなさい」
あたふたした感じでパンツをはきます。
それが、Nさんとのすべてでした。
帰りは、約束してあったとおりに・・・
そこから最寄りの、〇〇線〇〇駅までNさんを送りました。
車で30分ぐらいでしょうか。
そんなに遠くはありません。
その駅までのドライブ中も、Nさんは最後まで紳士的に振る舞ってくれていました。
おしゃべりが弾むように、すごく気を使ってくれているのがわかります。
途中で尋ねられました。
今日のことも、体験談にして投稿するんですか?・・・と。
そのつもりはありませんでした。
いわゆる、いつものパターンとはちょっと違ったからです。
「けっきょく空振りでしたから」
「書きようがないですよ」
あくまでも・・・
私は、野天風呂でのことが目的だったかのように演技を貫いていました。
でもNさんは、
『失敗談として、ぜひ書いてみてください』
『恭子さんの体験談に、もしお手伝いの自分が出てきたらわくわくです』
そう言って、目を輝かせてくれています。
「実際に読んだら、幻滅するかもしれないですよ」
何度もそのように念を押しました。
それでも、ぜひぜひと熱望されます。
2つ条件を出しました。
その体験談を投稿した際には、Nさん自身は絶対にレスを入れてこないこと。
さっき撮った写真は、あとで顔の入ってないものだけ送ってあげるけど・・・
顔がないとはいえ、決してどこにも誰にも公開しないこと。
駅に着いて、Nさんを降ろしました。
名残惜しそうに、何度も手を振ってくれています。
最後まで、自分がターゲットになっていたとも知らず・・・
そして、私の本当の名前すら知ることなく・・・
そのNさんに見送られながら、すぐに発進しました。
余韻がないわけではありません。
清々しい気持ちで、
(さようなら)
もと来た渓谷方面へと車を向ける私でした。